第1話:パーティー会場は爆発した -その④-
「全員、伏せろ!」
幾つもの障壁が、警備ロボットを囲むように展開される。
一枚。
二枚。
三枚。
さらに外側へ、参加者たちを守る障壁が重なった。
桃色の光が内側から膨れ上がる。
一枚目の障壁に亀裂が走った。
「押さえ込め!」
インサイダーたちが一斉に魔力を注ぎ込む。
二枚目が歪む。
三枚目も、膨れ上がる光に押し広げられていく。
「駄目だ、抑えきれない!」
「逃げろおおおおおお!」
ヨモギが機体から飛び降り、フローラへ飛びついた。
二人が床へ倒れ込む。
次の瞬間。
魔力電池が弾けた。
それまでとは比べものにならない爆音が、ホテル全体を揺らした。
障壁が次々と砕け、桃色の光と爆風がパーティー会場を呑み込む。
水も、泡も、料理も、床に広がっていたチョコレートも、すべてがまとめて宙を舞った。
黒い煙の中で、壊れかけた消火装置だけが水を降らせていた。
何人ものインサイダーが障壁を張ったおかげで、大きな怪我をした者はいない。
ただし、会場にいた者たちは全員、頭の先から足元までびしょ濡れだった。
顔も服も真っ黒な煤に覆われ、綺麗に整えられていた髪は、熱気でちりちりになっている。
頭にケーキを載せた者。
全身をチョコレートで染めた者。
肩からローストビーフをぶら下げた者。
誰もが、その場に座り込んでいた。
ヨモギも床へ座り、自分の曲がった毛先を見つめている。
隣では、フローラが真っ黒になった髪を両手で持ち上げた。
「ヨモギちゃん」
「……何だ」
「みんな、おそろいの髪型になったね」
ヨモギは会場を見回した。
「……そうだな。これで、みんな仲良しだ」
煤まみれのインサイダーたちが、ゆっくりと二人を振り返った。
ヨモギとフローラは、同時に口を閉じた。
その惨状の中、淡い光の膜に包まれた小皿だけが、何事もなかったように床へ残っていた。
しばらくして、両社の大人たちが一人、また一人と立ち上がった。
床に座ったままのヨモギとフローラを、その周囲から取り囲む。
誰も、すぐには何も言わなかった。
壊れかけた消火装置から、水の滴る音だけが落ちている。
やがて、セラフィナが低い声で尋ねた。
「……これは、誰がやったのですか?」
ヨモギとフローラは、一秒も迷わなかった。
「二人でやった」
二人の声が、ぴたりと重なった。
フローラは、壊れた警備ロボットへ目を向ける。
「でも、猫の耳をつける前に動いちゃったの」
「つけるなら犬の耳だろ!」
セラフィナが二人の言い争いを遮った。
「問題は、耳ではありません!」
大人たちは揃って頭を抱えた。
結局、二人は並んで座らされ、揃って説教を受けることになった。
レオルが二人を見た。
「今回、何が悪かったか分かっているか?」
ヨモギは少し考えた。
「先に試験場へ運ばなかったこと」
「場所の問題ではない! 勝手に改造したことだ!」
隣で、フローラがヨモギの袖を引く。
「じゃあ、次は試験場でやろうね」
「それなら、四倍より速くできる」
「私も、もっと魔力を入れられるよ」
「次はありません!」
両家の親たちの声が重なった。
説教は、そこからさらに長くなった。
二人がようやく解放された頃には、パーティーの中止が決まり、招待客のほとんどが会場をあとにしていた。
ヨモギも煤だらけになった服を着替え、両親とともにホテルの玄関へ向かう。
すでに夜も遅い。
髪には、まだ煤の匂いが残っていた。
後ろから、ぱたぱたと足音が近づいてくる。
「ヨモギちゃーん!」
聞こえなかったことにして、そのまま歩き続ける。
すぐにフローラが横へ並んだ。
先ほどまで一緒に怒られていたとは思えないほど、明るい顔をしている。
「連絡先、教えて!」
「……何で?」
「また一緒に作ろうよ」
「もうやらない」
「じゃあ、今度は遊ぼう」
「遊ばない」
「ヨモギちゃんの家に行ってもいい?」
「来るな」
「でも、連絡先を知らないと、いつ行けばいいか分からないよ?」
「だったら教えない」
ヨモギがそのまま歩き出すと、フローラは袖をつかんだまま、ぴったりとついてきた。
歩調を速めても、その手は離れない。
とうとう足を止めて横を見ると、フローラはにこにこと笑っている。
ヨモギは大きなため息をつき、端末を取り出した。
「……教えるだけだからな」
「うん!」
二人の端末を近づけ、連絡先を交換する。
フローラは表示された名前を確認すると、満足そうに手を振った。
「またね、ヨモギちゃん!」
「もう会わない」
フローラは笑ったまま、両親のもとへ走っていった。
その背中を見送り、ヨモギは端末へ目を落とす。
登録された名前は、消そうと思えばすぐに消せた。
けれど、ヨモギは何もせずに画面を閉じた。
◇
その夜。
自室のベッドで端末を触っていたヨモギの元へ、一通のメッセージが届いた。
【フローラ】:今日は楽しかったね! 今度、ヨモギちゃんの家に遊びに行くね!
ヨモギは画面を見つめた。
今日のどこに、楽しいと思える要素があったのか。
そう考えたはずなのに、機体の内部を覗き込んでいたフローラの楽しそうな横顔が浮かんだ。
大人たちが聞こうとしなかった技術の話を、初めて同じ年頃の相手と続けられた。
ヨモギはしばらく画面を見つめたあと、短く返信する。
【ヨモギ】:来るな
すぐに返事が届いた。
【フローラ】:分かった! 明日行くね!
「分かってないだろ……」
ヨモギは端末を伏せ、布団へ顔を埋めた。




