第1話:パーティー会場は爆発した -その③-
「ぎゃああああああ!」
三人のインサイダーが吹き飛ばされ、それぞれ別のテーブルへ落ちる。
皿が割れ、料理が飛び散り、正装した参加者たちへソースと飲み物が降り注いだ。
「今度は何だ!」
「出力が高すぎる!」
「フローラが上限以上にしたんだ!」
「綺麗にそろえようとしただけだよ!」
「お前たち、何をしたんだ!」
警備ロボットの口元へ、再び光が集まる。
「来るぞ!」
何人ものインサイダーが、重ねるように障壁を張った。
桃色の光線が正面からぶつかる。
一枚目の障壁が砕けた。
二枚目を突き抜け、三枚目へ食い込む。
押さえていた者たちの靴が、床の上を後方へ滑っていく。
「上へ逸らせ!」
障壁が傾いた。
光線は天井へ弾かれ、シャンデリアの横を貫く。
爆音とともに装飾の一部が吹き飛んだ。
緊急消火装置が作動する。
天井から、大量の水と白い泡が噴き出した。
「冷たっ!」
「目を開けるな!」
「出口はどっちだ!」
水浸しになった床を、参加者たちが滑りながら逃げ回る。
転びかけた女性を支えようとした男性も足を滑らせ、二人そろってチョコレートファウンテンへ突っ込んだ。
台が大きく傾く。
茶色い液体が溢れ出し、絨毯の上を広がっていった。
「誰か、あれを止めろ!」
「さっきから止めようとしている!」
「ロボットとチョコレート、どっちだ!」
「両方だ!」
警備ロボットが再び床を蹴った。
だが、濡れた床で前脚が滑る。
機体はそのまま横向きに回転し、後脚で料理台を薙ぎ払った。
ローストビーフ。
色鮮やかなサラダ。
小さなタルト。
残っていた料理がまとめて宙を舞い、逃げる参加者たちの頭上へ降り注いだ。
会場の防護障壁が、壁際に集まった子どもたちを包み込む。
インサイダーたちは、その前へ立って警備ロボットの攻撃を防ぎ続けていた。
しかし、機体の速度も出力も、すでに模擬戦用の範囲を完全に超えている。
障壁が砕かれるたびに、新しい障壁が重ねられた。
それでも、警備ロボットの動きは止まらない。
その真ん中を、ヨモギが機体へ向かって走った。
「そのまま押さえろ! ボクが脚を止める!」
「子どもが前に出るな!」
「改造したのはボクだ! 止め方を知ってるのもボクだ!」
警備ロボットの前脚が、ヨモギへ振り下ろされる。
「右に避けて!」
フローラの声が飛んだ。
ヨモギが横へ身体を投げ出す。
直後、前脚が先ほどまでヨモギのいた場所を薙いだ。
「押さえろ!」
インサイダーたちが再び魔法を集中させる。
障壁で機体を左右から挟み込み、光の鎖を四本の脚へ巻きつけた。
警備ロボットが激しく暴れる。
床が砕け、機体を押さえている者たちの足が少しずつ後方へ滑っていく。
「まだか!」
「今、潜る!」
ヨモギは床に手をつき、勢いを殺さないまま機体の腹部へ滑り込んだ。
「外装を開ける! 光を逸らせ!」
「分かった!」
警備ロボットの口元へ桃色の光が集まる。
フローラが両手を広げ、その正面へ薄い水の膜を作った。
放たれた光線は水面を通った瞬間に軌道を変え、誰もいない天井へ突き刺さる。
二度目の爆音。
天井の一部が崩れ落ち、消火装置から降り注ぐ水の量がさらに増えた。
「全然、低出力じゃないじゃん!」
「誰のせいだと思ってる!」
「ヨモギちゃんが速くしたからでしょ!」
「お前が出力を上げたからだろ!」
言い合いながらも、二人の動きは止まらない。
ヨモギが腹部の留め具を外す。
フローラが次の光線を、光の壁で上方へ逸らした。
外装が開く。
むき出しになった内部から熱気が噴き出し、何本ものケーブルが赤い火花を散らしていた。
ヨモギが手を伸ばしかけ、すぐに引っ込める。
「左から三本目を冷やせ!」
「青いの?」
「その隣!」
「分かった!」
フローラが指先を向ける。
(《氷結弾》)
細い冷気がケーブルへ走り、熱を帯びた被膜を白い霜が覆った。
火花が止まる。
ヨモギは工具でケーブルを挟み、一気に引き抜いた。
警備ロボットの右脚が止まる。
残る三本の脚で暴れようとする機体を、インサイダーたちが総出で押さえ込んだ。
「今だ! 早くしろ!」
「分かってる!」
警備ロボットが大きく傾く。
ヨモギは腹部の下から転がり出ると、倒れかけた機体を足場にして背へ飛び乗った。
首元へしがみついたまま、制御盤の蓋を工具でこじ開ける。
「よし、開いた! 次、魔力電池を凍らせろ!」
「壊れない?」
「壊すんだよ!」
「そっか!」
ヨモギが制御ケーブルを引き抜いた。
同時に、フローラの両手から冷気があふれ出す。
白い霜が機体の内部へ広がり、赤く明滅していた魔力電池を包み込んだ。
警備ロボットの動きが止まる。
赤い目から光が消え、会場に響いていた駆動音も途絶えた。
インサイダーたちは、機体を押さえていた姿勢のまま動かない。
水と白い泡が降り注ぐ。
荒れ果てた会場には、割れた皿と料理が散乱していた。
チョコレートとクリームで全身を汚した参加者たちが、遠巻きに機体を見つめている。
「……止まった?」
フローラが顔を上げた。
誰かが、長く息を吐く。
そのとき、凍りついた魔力電池の奥で、小さな光が瞬いた。
一度。
二度。
消えるはずの桃色の光が、次第に強くなっていく。
「まだ魔力が残っているぞ!」
機体のそばにいたインサイダーたちが、再び動いた。
一人が内部の魔力を外へ逃がそうとする。
別の者が制御盤へ手を伸ばした。
「駄目だ! 外部からの命令を受けつけない!」
「主制御が切断されている!」
ヨモギの頬が引きつる。
「……それ、ボクが抜いた」
「魔力経路も凍りついているぞ!」
フローラが凍りついた電池を見る。
「それは私が凍らせたよ」
その場にいたインサイダーたちが、一斉に二人を振り返った。
「お前たち――!」
凍結した魔力電池に亀裂が走った。




