第1話:パーティー会場は爆発した -その②-
「安全制御を重ねすぎてるんだ。こっちの処理も無駄。敵を認識するたびに、同じ照合を三回やってる」
「一回でいいのにね」
「一回だと、誤認した時に危ない。二回で十分だ」
「じゃあ、二回目を魔力波形の照合と一緒にすれば?」
ヨモギは画面へ目を戻した。
数秒考えたあと、コードの一部を書き換えた。
処理時間を示す数字が、大きく縮まる。
「……できるな」
「でしょ?」
フローラは嬉しそうに笑った。
ヨモギは何も答えず、再び端末を操作する。
けれど、もう「あっちへ行け」とは言わなかった。
二人の間から、言葉が減っていった。
ヨモギが駆動制限を調整すれば、フローラが魔力回路の位相を合わせる。
フローラが指を差すより先に、ヨモギが次の配線を開く。
初めて会ったばかりなのに、相手が何を見ているのか分かった。
気づけば、ヨモギは端末の画面をフローラの方へ向けていた。
「これで反応速度は四倍。余計な制御を消しても、必要な安全装置は残ってる」
「すごい。ヨモギちゃん、機械いじるの上手なんだね」
「ちゃん付けするな」
「でも、魔力の流れがあんまり綺麗じゃないね」
「動けばいいだろ」
フローラは小さく首を振り、青白い魔力回路の一部を指さした。
そこだけ、光が濁っている。
「ここで三つの流れがぶつかってるから、少しずつ力が逃げてるの。もっと綺麗にそろえた方が、効率もいいよ」
そう言って、フローラは餅菓子の小皿を床へ置いた。
淡い光の膜で包んでから、魔力電池へ手を伸ばす。
「待て。先に供給を落とす」
「大丈夫。これくらいなら、そのままでできるよ」
フローラの指先から、淡い光が流れ込んだ。
濁っていた青白い光が、透明感のある桃色へ変わっていく。
そこへ金色が混じり、細かな粒子が回路の上を走った。
「ほら。きらきらして、こっちの方がかわいい」
「別に、かわいくする必要ないだろ」
「猫だったら、もっとかわいいのに」
「犬の方がいいだろ」
「じゃあ、耳だけ猫にする?」
「するな」
フローラは笑いながら、さらに魔力を流し込んだ。
画面の端で、出力値が跳ね上がる。
同時に、魔力波形と統合した第二照合系統に、赤い警告が表示された。
《第二照合系統――応答なし》
ヨモギの表情が変わった。
「ちょっと待て。もういい」
「あと少しで全部そろうよ」
「ダメだって! いったん止めろ!」
「大丈夫。もうちょっとだけ!」
「もう上限超えてる!」
桃色だった光が、赤へ変わった。
フローラが目を瞬く。
「……あれ?」
「手を離せ!」
ヨモギは端末の画面へ指を走らせ、魔力供給の遮断命令を送った。
だが、その命令が届くよりも早く、書き換えられた高速処理プログラムは次の判断を終えていた。
駆動制限を外したヨモギ。
魔力電池の出力を、限界以上に引き上げたフローラ。
二人の改造が組み合わさった瞬間、警備ロボットの赤い目が開いた。
腹部の外装が自動で閉じ、接続していた端末のケーブルが弾き出された。
『緊急警備モードへ移行します』
「……何で?」
「お前が入れすぎたからだろ!」
「でも、止められたんじゃないの?」
「ボクが止める前に、お前が入れたんだろ!」
『高出力魔力反応を検知。敵性対象と判断します』
機体が立ち上がった。
その正面には、魔力を放ったばかりのフローラがいる。
「フローラ、頭下げろ!」
ヨモギがフローラの肩をつかみ、強く引いた。
直後、警備ロボットの口元から桃色の光線が放たれる。
二人の頭上を通り抜け、展示区画の壁を吹き飛ばした。
爆風とともに、砕けた壁材がパーティー会場へ降り注ぐ。
舞い上がる粉塵の中、警備ロボットはフローラを追って、崩れた壁の向こうへ踏み込んだ。
歓談の声が途切れる。
会場にいた者たちは、何が起きたのか分からないまま、一斉に崩れた壁の方を振り返った。
「何だ?」
「警備ロボット……?」
「どうして、こんなところに?」
土煙の向こうで、警備ロボットが四本の脚で床を踏みしめた。
押し倒されたテーブルから、皿とグラスが次々と床へ滑り落ちた。
「止まれ!」
ヨモギが叫ぶ。
『敵性対象、複数』
警備ロボットは止まらない。
会場には、魔力を持つインサイダーが何人もいる。
赤い目が左右へ動き、近くにいる者たちを順番に捉えていった。
「おい、こっちを狙ってないか?」
「全員、ロボットから離れろ!」
警備ロボットの肩の外装が開き、模擬戦用の魔導砲が現れる。
そこで初めて、会場のいたるところから悲鳴が上がった。
親たちは子どもの腕を引き、壁際へ走る。
本来なら、障壁へ色をつける程度の低出力しか出ない。
けれど、今の魔力電池は本来の上限を大きく超えていた。
砲口へ桃色の光が集まる。
「伏せろ!」
近くにいたインサイダーが、とっさに障壁を展開した。
直後、光線が正面から突き刺さる。
障壁が大きく歪み、展開した本人ごと後方へ押し流した。
「うおおおおおっ!」
その背中が、料理の並んだテーブルへ突っ込む。
白いクロスが跳ね上がり、皿もグラスも料理も、まとめて宙を舞った。
「きゃあああああ!」
「熱っ! スープが!」
「子どもを先に逃がせ!」
「皆さん、壁際へ移動してください!」
参加者たちが一斉に走り出す。
その前を、床へ落ちた丸焼きの肉が勢いよく転がっていった。
警備ロボットが四本の脚で床を蹴る。
一瞬で別のインサイダーへ迫り、前脚を振り下ろした。
相手は横へ跳んでかわしたが、前脚はそのままデザート用のテーブルを叩き割る。
大きなケーキが宙を飛んだ。
逃げていた男性の頭へ、真上から落ちる。
「前が見えん!」
「そのまま走るな!」
男性は顔をクリームで覆われたまま別のテーブルへ突っ込み、積み上げられていたグラスをすべて倒した。
「速すぎるぞ!」
「ヨモギちゃんが四倍にしたからだよ!」
「今、それを言うな!」
警備ロボットが身体の向きを変える。
二人が書き換えた高速処理によって、攻撃を受けるよりも早く、次の相手を捉えていた。
「脚を押さえろ!」
三人のインサイダーが同時に魔法を放つ。
光の鎖が四方から伸び、警備ロボットの脚と胴体へ巻きついた。
機体の動きが止まる。
「今だ!」
別のインサイダーが駆け込み、魔力電池を収めた腹部の外装へ手を伸ばした。
その瞬間、警備ロボットの全身から桃色の光が噴き出す。
光の鎖が、まとめて弾け飛んだ。




