第11話:国有ダンジョンを壊してはいけない -その③-
「よりによって……」
細身の男が、その場にしゃがみ込んだ。
大柄な男も、両手で頭を抱える。
「俺たちが、ワングルとニャマゾンのお嬢様を国有ダンジョンへ連れ込んだことになるのか?」
「連れ込まれてない。ボクたちが勝手についてきた」
「誰が信じるんだよ!」
「私たちが説明するよ?」
「お嬢様方に説明されたら、もっと怪しまれる!」
先ほどまでの態度が一変した。
男たちは採取道具を片づけ始め、ヨモギとフローラを作業場所から遠ざけようとする。
「もう採取は終わりだ。お嬢様方は、あそこに座っていてください」
「まだ三時間あるぞ」
「何もしなくて結構です!」
「道具を貸せ。すぐに終わらせる」
「駄目です!」
「私も手伝えるよ」
「フローラ様も、手伝わなくて結構です!」
大柄な男は二人の前へ立ち、両手を広げた。
「俺たちがやってるのは犯罪だぞ」
「知っている」
ヨモギは即答した。
「だったら手伝うな!」
「でも、今の採り方では効率が悪すぎる」
フローラも、悪びれることなく続ける。
「二人の取り分を増やして、ワングルとニャマゾンで使える素材も確保すれば、みんな得するよ」
「国の資源を勝手に分けるな!」
男の叫びが、広い空間いっぱいに響いた。
その間にも、ヨモギは鞄から工具を取り出している。
「採取器具を貸せ」
「駄目です!」
大柄な男が、持っていた道具を背中へ隠した。
ヨモギは岩壁に立てかけられていた、刃の欠けた古い採取器具を指さす。
「なら、あれを使う」
「それは壊れてる」
「直せば使える」
ヨモギは男の横をすり抜け、採取器具を手に取ると、岩の上へ置いた。
細身の男が慌てて追いかける。
「ヨモギ様、待ってください。勝手に触らないでください」
「どうせ部品取りに残してるんだろ」
「そうだけどな!」
「なら、直しても問題ない」
「そういう話じゃない!」
ヨモギは制止も聞かず、持ち手の外装を取り外した。
変色した魔導線を工具箱から取り出した予備のものと交換し、先端の駆動部を締め直す。
最後に刃の固定具を緩め、角度をわずかに変えた。
「出力が安定しないのは魔導線の劣化。鉱石ごと割ってるのは刃が立ちすぎてるからだ」
「交換部品が高いんだよ」
「そのせいで採取に失敗して、もっと損をしてる」
細身の男が黙り込む。
修理を終えたヨモギは、岩壁の前へ立った。
片手を岩壁へ当て、中級の土魔法を発動する。
(《鉱物探知》)
岩盤を砕かないよう、掌から細かな振動だけを送り込む。
壁の奥で枝分かれする鉱脈から、幾重にも重なる反応が返ってきた。
「右に三本ある。中央が一番太い」
「でも、一番魔力が強いのは、下の細い方だよ」
ヨモギは隣へ目を向けた。
フローラは岩壁の前にしゃがみ、手をかざしている。
「分かるのか?」
「うん。ヨモギちゃんの魔力が奥まで届いてるから、それに重ねれば分かるよ」
フローラは指先から伸びる魔力を、細い糸のように絞った。
桃色と金色の光が、土魔法の振動をなぞるように岩壁の奥へ伸びていく。
ヨモギには鉱脈の位置と形が、フローラには鉱石に宿る魔力の濃淡が伝わっていた。
「中央は途中で弱くなってる。下のは、奥までずっと強いよ」
「なら、そっちだ」
ヨモギは鉱物反応をさらに絞り込む。
「中心は右に十二センチ。そこから斜め下へ伸びてる」
「一番強いのは、ここ」
フローラの指先が、岩壁の一点を示した。
「本当にあるのか?」
細身の男が、示された場所を覗き込む。
「掘れば分かる」
ヨモギはその場所へ採取器具を当てた。
土魔法の振動を鉱石の周囲へ集中させ、母岩との境目だけを緩めていく。
器具を起動すると、刃先が低い音を立てながら、岩の隙間へ入っていった。
「もう少し下。そこから先は弱くなるよ」
フローラの声に合わせ、ヨモギが器具の角度を変える。
細かな破片が、足元へ落ちた。
ヨモギがそのまま器具を傾けると、青い鉱石が形を崩すことなく岩壁から外れた。
細身の男が、慌てて両手で受け止める。
鉱石の表面には、刃の傷がほとんどついていなかった。
「割れてない……」
ヨモギは鉱石へ分析装置を向けた。
「純度九十四・七パーセント。欠損率も三パーセント以下だ」
「ヨモギちゃんが鉱脈を見つけて、私が魔力の強いところを選んだの」
「分担しただけだ」
「この状態なら、傷がついたものよりずっと高く売れるね」
「どれくらいだ?」
細身の男が尋ねる。
「二倍以上にはなると思うよ」
「二倍……」
細身の男の顔つきが変わった。
大柄な男が、すぐにその肩をつかむ。
「乗せられるな。俺たちは、この二人を外へ帰すんだぞ」
「分かってる。ただ、今の採り方を確かめるだけだ」
細身の男が、ヨモギへ手を差し出した。
「一度だけ、俺に使わせてくれ」
「おい!」
「採るのは一つでいい」
ヨモギは採取器具を渡し、再び岩壁へ手を当てた。
「フローラ、次を探せ」
「うん!」
桃色と金色の光が、土魔法と重なって岩壁の奥へ流れ込む。
「左上。さっきより少し弱いけど、奥まで途切れてないよ」
「鉱脈は横へ伸びてる。刃を寝かせろ」
細身の男が器具を岩壁へ当てた。
手元に伝わる振動を確かめながら刃先を進めると、先ほどより大きな鉱石が岩壁から外れた。
「本当に採れた……」
「次は、その上だ」
「今度の方が強いよ」
「一つだけじゃなかったのか!?」
大柄な男が叫ぶ。
そこから四人の役割が決まるまで、時間はかからなかった。
ヨモギが《鉱物探知》で鉱脈の位置と境目を割り出し、フローラが魔力の強い箇所を選ぶ。
細身の男が道具と経験を生かして鉱石を外し、大柄な男がそれを傷つけないよう布で包んでいった。
「次は右上。そこ、さっきより強いよ」
「幅が狭い。刃を立てるな」
「俺は手伝ってないからな!」
「ずっと包んでるよ?」
フローラは、床に並べられた鉱石へ目を向けた。
「割れたら、ここまでやった意味がなくなるだろ!」
「それを手伝ってるって言うんだ」
「違う!」
大柄な男が否定しているあいだにも、また一つ鉱石が岩壁から外れた。
当初は一袋だけで切り上げる予定だったが、短い時間で二つ目の袋まで満杯になっていた。
細身の男が、膨らんだ袋を見下ろす。
「これだけあれば……」
「大儲けだな!」
大柄な男が声を上げる。
「じゃあ、もっとたくさん採ろう!」
フローラも嬉しそうに拳を上げた。
「まだ時間はある。袋はボクも持ってる」
ヨモギは次の鉱脈を探そうと、再び岩壁へ手を当てる。
男たちは、そんなヨモギとフローラを見つめた。
「……いや、ありがたいんだが」
大柄な男が頭を掻く。
「俺たちが言うのも何だけど、お嬢様方はそれでいいのか?」
「何が?」
「国有ダンジョンでコソ泥と一緒に、大儲けしようとしてるんだぞ」
「二人が儲かったら、よかったねって思うよ?」
「そういうところを心配してるんです!」
細身の男も、不安そうにヨモギを見る。
「ヨモギ様、フローラ様を止めてください。このままだと、本当に全部採る気ですよ」
「全部は無理だ。出口が開くまでに採れる量には限界がある」
「ヨモギ様も同じだった!」
フローラは楽しそうに、ヨモギの隣へ並んだ。
ヨモギも迷わず岩壁へ向き直る。
二人にとって、採取はすっかり宝探しに変わっていた。
ヨモギが《鉱物探知》の範囲を広げると、フローラも指先から伸ばした光を重ねる。
鉱石に宿る魔力を探っていたフローラが、下へ続く細い通路へ顔を向けた。
「ヨモギちゃん、待って」
「どうした?」
「あっち。今までのより、ずっと強い魔力があるよ」
ヨモギが、その方向へ土魔法の振動を伸ばす。
通路の奥から、これまでとは性質も広がりも異なる鉱物反応が返ってきた。
「鉱脈もある」
「高く売れる?」
「たぶんな」
通路の入口には、赤い塗料で一本の線が引かれていた。
二人の男の表情が、同時に強張った。




