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ヤバイ家  作者: 森好子


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第四話:見覚えの無い買い物

 日曜日の朝、森家は父の運転する車で郊外のスーパーに向かっていた。

 田んぼの向こうに、白い箱みたいな建物がひとつだけぽつんと立っている。

 最近できたその店は、田舎にはめずらしく衣料品から家電までそろった今でいう「イオン」で、

 近所の人たちはなぜか「デパート」と呼んでいた。


 広い駐車場に車を止めると、父はさっさと運転席から降りて、腕時計をちらりと見る。


「ほな、三十分な。精肉と魚は安いとこだけちゃんと見えよ」


 そう言ったきり、父は食品売り場には寄らず、まっすぐフードコートへ歩いていった。

 セルフサービスの紙コップコーヒーをすました顔で飲み始める。


「もう。荷物持ちくらいしてくれたらええのに」


 母がため息まじりに言いながら、カートを押し始める。

 ヨシコはその横を歩きながら、かごに次々と食品を入れていった。卵、牛乳、鶏肉。


「ヨシコ、もやし二袋取ってきて」


 母に言われるままに野菜売り場を走り、豆腐を追加し、パンの棚で少しだけ悩む。

 十八歳にもなると、カートに何を入れるかで、だいたい一週間の献立が頭に浮かぶようになっていた。


レジでの違和感

 レジのベルトコンベアに、かごの中身を順番に並べていく。

 母が財布を用意している横で、ヨシコは無意識に品物を流し終わったかごの底を覗き込んだ。


 そのときだった。


「あれ……?」


 見おぼえのない小さな箱が、レジ台の上を滑っていった。

 ガチャガチャのカプセルくらいの大きさの、手のひらサイズの箱。

 表には、外国の子ども向けみたいな絵柄で、小さな人形の写真が印刷されている。

 青い制服を着た警察官のレゴ人形。横には、小さく「食玩」と書かれていた。


「ちょっと。あんた、なんでこんなん入れたん?」


 レジ打ちの店員さんが、慣れた手つきで商品を籠につめなおす中、母の声が飛んでくる。


「え? 知らんで」


「また勝手に……。十八にもなって、こういうの欲しがるかねぇ」


 ヨシコは、あわてて首を振った。


「ほんまに知らんって。見たことないし」


「知らんでカートに入るわけないやろ」


 母は小声で怒りながらも、周りの目を気にして、それ以上は言わない。

 レジのモニターに流れていく合計金額の中に、「玩具菓子」の文字が一瞬だけ光った。


 店員がレシートを差し出す。母は慣れた手つきで受け取り、財布を閉じる。

 外に出てから、駐車場を歩きながらレシートをじっと見つめた。


「ほら、ちゃんと取られとる。〇〇〇円」


「うわっ結構高いな。返す?」


 ヨシコがそう言うと、母は少しだけ考えるふりをしてから、首を横に振った。


「もうレジ通しとるしね。袋も開けてしもうたって言われたら面倒やし。こんなん、あんたの小遣いからひいとくけんね」


 そう言いながらも、母は袋からちょっとはみ出している箱を、ぐいと押し込んだ。

 ヨシコは、なんとなくその箱から目をそらした。


 いくらなんでも、十八歳の自分が欲しがるような代物ではない。

 けれど、誰かが入れない限り、カートの中には現れないはずだ。


 家に戻ると、冷蔵庫に食品を詰め込み、野菜をシンクに並べ、母はすぐに夕飯の下ごしらえに取りかかった。


「そのなんとかってお菓子、あんたが片づけとき」


「うん……」


 言われるままに、ヨシコはスーパーの袋から問題の箱を取り出した。

 手に取ると、意外に重みがある。箱の隅には、小さな穴があいていて、中で固いものがころんと転がる感触がした。


 どうせなら、どんなものか見てみたい。

 そう思ったときには、もう指が勝手に箱のテープをはがしていた。


 中から出てきたのは、ラムネ菓子の小袋と、小さなビニールに包まれたレゴ人形だった。

 青い制服を着た警察官。胸には小さなバッジのようなマークが印刷されている。


「警察官て……」


 ヨシコは、思わず苦笑した。

 頭と胴体と足が別々になっていて、自分で組み立てるようになっている。

 ぱちん、と頭を差し込み、足をはめると、7-8センチほどの小さな人間が、そこに立ち上がった。


「まあ、返品はできんよね。開けてしもうたし」


 ひとりごとのようにそうつぶやきながら、ヨシコはラムネ菓子をキッチンの棚に置き、人形だけを二階の自室に持って上がった。


 部屋の片隅には、全身が映る姿見が立てかけてある。

 その前の床に、古い化粧台代わりの小さな棚があり、その端っこにスペースを見つけて、レゴの警察官をちょこんと置いた。


「見張り番みたいやね」


 軽口をたたいてみるが、胸の奥には、得体の知れないもやもやが残っていた。

 どうして、あの箱はカートに入っていたのか。

 誰が、いつ。ヨシコでも、母でもないのなら。

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