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第十一話:ヤバイ家の周辺
ヨシコが本当にこの家を出たのは、祈祷師が「選ばれていない」と
言い切ってから、もう1年半あとのことだった。
実家を出てしまうと、不思議なもので、あの家で起きる出来事は「たまに帰ったときに聞く話」になっていった。
電話越しに聞く訃報は、最初のうちは一年に一度あるかないかだった。
「向かいのおじさん、頭の病気で手術してな」「角の奥さんも、よう似たような病気やったみたいや」
それが、10年、15年とたつあいだに、ゆっくりと増えていった。
ヨシコの頭の中にある団地の見取り図には、そのたびに小さな×印が増えていく。
南側の棟の真ん中の部屋、向かいの端の部屋、階段を挟んだ斜め上。
どの家も、40代から50代くらいで、よく似た病名で、よく似た手術を受けて、よく似た経過で亡くなっていった。
実家に戻るたび、ヨシコは、窓から見える同じ棟の明かりを数えた。
夜になると灯るはずの窓が、いつのまにかひとつ、またひとつと暗くなっている。
祈祷師の言った「この家は、そうは思っていない」という言葉は、そのたびに、少しずつ別の形をとってよみがえった。
家そのものよりも先に、この団地のほうが、ヨシコを外側に押し出していたのかもしれない、と。




