9 鑑定
「第三王子様、僕はヴァレリウスのテリュース・ウィルクスと申します。先日、伯父のマリオン公爵からお裾分け頂いた品に調味料がありました。聞けば、これらは殿下の発案による品々だとか。大変興味深かったです。ところで不躾ではありますが、其方では『焼酎』のお取扱いはありますでしょうか?『米』か麦のものだと嬉しく思います。───と、こんなものか5才だしな」
「しょうちゅ……ってなんだ?」
「分かる人には分かる」
「あ、そう」
書いた手紙を音読してレックスに聞かせた。
分かる人には分かるよな、第三王子さんよ!
爺様が中を見たら面倒なので、きっちり封筒の封をした。検閲は先方がするだろうしさ!
中を確認されないように、爺様へは下書きとして焼酎云々の部分を省いたものを一緒に見せる予定だ。
ところで、そういえばレックスのレベルはどれくらいなのかと、興味が湧いた。
「『黒の、其の真理を解き示さん──鑑定』」
詠唱と共に黒の魔法陣が描かれ、脳裏に緑色が広がった。
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レックス・バーンズ 5才11ヶ月 ♂ Lv 3
主属性・黒 Skill
HP 680/ 680 短剣技能・小
MP 276/ 320
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おおぉ!人間に使うとこんな感じなのか。
コレって自分自身にも使えるのかな?
「ちょっ、テリュース様!何勝手に見てんだよ!」
「悪い悪い、お前も見ていいから。コレって自分にも使えるの?」
「──使える。俺は自分の見て習熟度上げてるし」
「ほう、マジか。どれどれ『黒の、其の真理を解き示さん──鑑定』」
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テリュース・ウィルクス 5才 3ヶ月 ♂ Lv 4
主属性・銀 Skill
HP 390/ 390 魔力回復上昇・高
MP 942/ 1020
習熟度
火 ● ○
水 ● ○
地 ◑
風 ● ○
黒 ◑
金 ◯
銀 ● ◑
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マジか─────────?!
「えー!自分の習熟度って分かるものだったのか?!」
「いや、魔導書に書いてあるし………己に用いれば成長を示す、って。他人のは見えないけど」
「──とりあえず攻撃魔法を増やす為に、端から呪文だけ斜め読み全開だったからな………」
「なんか力抜けるな。まぁ、俺も見てやろ『黒の、其の真理を解き示さん──鑑定』」
「ていうか、俺の体力低くないか?」
「げっ?!黄色って──なんだこの魔力量?!」
「え?俺がレックス見た時は緑だったけど」
「テリュース様からだと普通って事だよ………うわ、キツいな。レベルも負けてるとか」
「でも、俺体力低いんだけど……」
「そりゃテリュース様は魔力枯渇が多いからだろ?───あ、もしかして魔力を使い切れば魔力が増え易いのか?」
「そうなのか?」
「いや、そうかなって──」
「ああ、だとしたら爺様がわざと教えなかったのかもな………俺チビだからな」
なんかちょっと凹む。
◇◇◇
またまた翌日。
鍛練時間は柔軟と走り込みをして、その傍らフトモモ様バーンズ隊長に鑑定を使ってみたら、速攻で本人にバレた。
レックスのバカにした様な視線にイラッとする。
「──テリュース様、鑑定を他者に使用する場合は、まず本人に確認を取る様にしましょう。相手に拠りますが、非礼に当たる事があります。聖王国サーラは、国自体。各国王族や高位貴族相手では軽犯罪に問われる事もあります」
「はい、分かりました」
「まあ、敵や魔物に使う場合は問題ありませんけどね」
笑顔でフトモモ様に叱られたが、さすがは隊長クラス。警戒レベル赤で解析不能だったわ。
そして、やっぱり。
「テリュースよ、バーンズから報告を受けたが。──他者に鑑定を使う場合、相手に確認をする事は最低限の礼儀だと覚えて置きなさい。そして相手との魔力量の差が大きい場合は、確実に気が付かれる。隠れて覗く場合も同様だ」
「はい、浅はかでした。申し訳ありません」
「これは、先に事項を教えておかなかった私の責でもあるのだろう。今後は気を付ける様に」
おおぉ?!お仕置きはなかった?!
「それとは別に、レックスの報告を確認したい」
「はい?」
「『鑑定』」
爺様が俺に向けて魔法を唱えた。
え?お叱り案件ですか?!
「…………なるほど。選別板で確認した時よりも随分と魔力が増えている。5才児とは思えない量だ──ともかく、テリュースは魔力を温存しなさい。体力を付けるべきだ────『静寂』」
「──────?!(ええぇ?!)」
「使うなと言っても使うだろうからな、今日は夕飯まで静かに過ごす様に」
「────────?!(マジかぁぁ?!)」
やはり、こうなるオチらしい。
◇◇◇
10日ほど後。
俺宛に、オルトラン第三王子から荷物が届いた。
大きい木箱の中にはなんと、焼酎の瓶が5本と、小さい樽に梅干し。俵で米が一俵!
おおぉ?!マジか────?!
自分の部屋に運ばれた木箱の中を見て、思わず踊ってしまったぜ。
そして、手紙も添えられていた。
一枚目には、極々普通に時候の挨拶やら、荷物の詳細。調理法が綴られていて、最後には次回からは検閲なく直接手紙が届くように手配してあるとあって署名で終わっていた。
どうやら、二枚目が本題だったようだ。
それは全文が日本語だった。
《初めまして、テリュース君。おそらく君にはこれが読めるんじゃないかと思う。
調べてみたけど、君はまだ子供のようだね。
保護者に手紙の事を聞かれたら、一枚目だけ見せればいいと思うよ。
それで、子供の体でどれくらい呑めるのか分からないから、焼酎の数は控えめにしたけど。
要望の麦焼酎です。湯割り梅干し入りでもいいし、米も送るからおにぎりで梅干し入りにでもして食べてよ。
また欲しかったら声かけて、次は有料だけどね!
それじゃまた。第三王子 ギルバート・オルトランより》
この人、ギルバートさん絶対呑兵衛だろ!
梅干しチョイスがいい!
しかも細かい気遣いがさすが転生者。
とりあえず梅干しを一つ摘まんで口に入れてみた。
酸っぱーい、だがいい!
「テリュース様、なんかすごい顔して食ってるけど」
「うん、酸っぱいから!」
「何なのそれ?『黒の其の真理を解き示さん──鑑定』………塩漬けにして干した梅?保存食か?」
「レックスも食っていいよ」
「いや、さっきの顔見てるからいらない」
「──つまんない奴、帰れば?」
「………ぐふっ」
とりあえず、レックスに荷物を厨房に運ばせて、料理人ドニには夕飯に米を炊いておにぎりの指示を出す。爺様の晩酌用の湯割り梅干し入りも伝える。
ついでに、実際に湯割り梅干し入りを味見もした。
うむ、焼酎だ!けど、お子様の体では量は呑めなさそうだった。少しなのに、フラつく。
その後、夕飯時に食堂で爺様へギルバートさんの手紙一枚目だけを見せた。
「随分──お気遣い頂いたものだな。確か第三王子殿下は現在19才程だったと記憶しているが。ふむ、テリュースよ返礼の際には私からも謝礼を出そう」
「へぇー、ギルバート殿下は19才なんですか。あ、お酒の感想とか喜ばれそうですね!」
「──次はご注文賜るとある、金額を確認せねばなるまい。なかなか、商売上手な王子殿下のようだ」
うんうん、ギルバートさんは俺のだいぶ先輩だしな。転生者の。
爺様の手元には、ジョッキに湯割り梅干し入り焼酎が出されている。俺には、おにぎり梅干し入りが夕飯に添えられている。
「お祖父さま、それ気に入りました?」
「ニホン酒よりクセがあるが悪くはない。少し薄いか」
「お湯の量を変えればいいかと、あと中の梅干しをフォークでちょっと潰して呑むと梅がいい味出ます。好みが分かれる所ですが」
「ほう?──なるほど、塩けと酸味がこれも悪くないが……」
「味が慣れないなら、レモンの櫛切りを入れてサッパリと頂くのもアリです」
「──テリュース、何故そんなに詳しい?」
「あれ?書いてませんでした?」
「……レモンなども合うとは書かれているが、そんな詳細はないが?」
「えっと厨房で、先にちょっと頂いたので……」
「──あまり呑み過ぎない様にな」
爺様にはポン酒の方が良さげかな?
俺はおにぎり梅干し入りを堪能した!久々の米だ!
そんなこんなで、ギルバートさんとの文通&商取引きが始まる事になった。
ギルバートさんに色々聞いてみたい事はあるけど、探るような感じあるし迂闊な事は書けないかなと、ちょっと警戒もしながら。




