7 お前もか?!
アレンが去って早5ヶ月、年が明けて俺は5才になった。
魔力もけっこう増えたようで、初級魔法なら20発くらいはイケそうな気がする。
魔力枯渇は爺様のお仕置きが嫌なんで、そこまで試してはないけど。
ただ、身長はそんなに伸びてない。ツラい。
勉強とか鍛練、時々爺様のお仕置きなんかあって、割と変わり映えなく日々が過ぎた。
そんなある寒い日。
雪が降り出したので、その日は屋内の鍛練施設でレックスと柔軟体操をしていた。
新兵だけじゃなく、本部隊の騎士も居るので熱気があった。
そんな中でも俺の視線はフトモモ様のむっちりなおみ足に向かう。筋肉で締まっていてなおムチムチと──ち、レックスに視界を塞がれた。
「───だーかーらー」
「うん、家に帰るか?」
「………うっ、くそっ」
最近は、フトモモ様件へのレックスの苦言は全てこれで凌いでいる。
哀れだなレックス。同情はしないが。
「家がどうかしましたか、テリュース様?──家といえばレックス、たまには家に帰って来い。ケイウスも心配している」
「俺、修練が忙しいから無理」
「休息日はあるよね」
「ちょっ、テリュース様は黙ってろよ」
「レックス!口の利き方を気を付けなさい」
「──くそっ、すみませんでした!」
ああ、フトモモ様が神々しい。無自覚に追い打ちかける姿もいいです。
新兵への指導に去るフトモモ様の、ケツからのラインにハアハアしてたらまたレックスが立ち塞がる。
「そうか、そんなに帰りたいか」
「うぐぐっ──」
レックス、お前Mだろ?
◇◇◇
「──魔法の行使において、熟練度は発動の短縮を可能にする。目に見えはしないが習熟すれば、己の意識で無詠唱を可能にする。ただ、親和性が低い属性は習熟における経験値を多く必要とする為に難しく、逆に親和性の高い己の主属性の魔法は習熟も早い」
「──つまり、僕の場合は銀の魔法が早いと」
「そういう事だ。一般的には、己自身に備わっていない属性は行使できない事も覚えておきなさい」
今日の魔法の講義で、ようやく無詠唱の謎が解けた。つまり、毎日使いまくってないと魔力がムダになるって感じ?!
4才の魔力と時間を、無駄に垂れ流した事実に愕然とする俺が居た。
もっと早く教えろよ!
「これを教えると、毎日のように魔力枯渇まで魔力を使おうとする様が目に見えるようで、教えたくは無かったが──身を守る魔法は早い習熟が好ましいのでな」
あ、読まれてました。てへ。
「レックスも聴いて居たな?お前の主属性──黒の魔法は、索敵や傍聴など警戒においても早い習熟が好ましい」
「はい、励みます。ご隠居様!」
俺の後ろに控えて立って居たレックスが、慌てて姿勢を正した。
髪の色から想像は付いてたけど、レックスの主属性はやっぱり黒か。
て、あれ?
レックスまだ6才になってないよね。
「ああ、それと。テリュースよ、魔力枯渇が続けば身体の成長が遅くなる事も念頭に置くように」
な ん だ と───?!
俺がちびなのは、それもあるのか!
なんという罠が?!
それこそ、早く言えよ!くそジジイ!
俺はあまりの衝撃に、内心荒ぶりながらその日の講義は終わりを告げた。
「あ───そういえば、レックス。お前もう選別の儀やったの?まだ6才になってないよね」
自分の部屋に向かいながら、後ろに続くレックスを振り返った。
「あー、選別の儀はまだ。ご隠居様が魔導具で選別してくれたから。──だから春に6才になっても、もう教会の儀式には行かなくていいんだってさ」
「ふむ、なるほど──あ、じゃあ文字の出るやつは見た?」
「うん、見たけど。──結果はご隠居様の指示で俺は言えないから。──まぁ、なんか下の方の赤いのはよく分からなかったんだけど」
「え?」
──俺の時には、爺様はこう言ってた。
このような事例は初めてだな、何か意味がありそうだ
まさか、レックスも── 転生者なのか?!
「───て、あれ?よく分からなかった?」
「うん、意味が分からないって感じで。ご隠居様は驚いてたけど──あ、これも言っちゃ駄目なやつか」
「あー、言わない方がいい、かな?」
意味が分からないって事は、日本語が読めたけど───って事なのか?!
どうなんだ、レックス!
◇◇◇
それから…………。
レックス転生者疑惑で、紙に日本語書いて魔導書に挟んで目に触れるようにしたり──したけど反応はなかった。
『太腿』『巨乳』『貧乳』『尻』
男なら、どれかに反応するはず!
まさか、前世が女とか?
『筋肉』『イケメン』『薔薇』『竿』
何で何も反応しない?!
「──テリュース様、俺の魔導書に変な落書き挟むの止めろっ!邪魔!」
「くそっ!レックスなんかもう帰れ!」
「うぐぐっ」
前世の記憶はないのか?!隠してるのか?!
◇◇◇
そんなこんなで。
もうすぐ春ですねって感じのある日。
マリオン公爵から爺様に書簡が届いた。
新たな孫が産まれたそうだ。今度は女の子だって。
爺様はとても嬉しそうに、出産祝いの品を抱えて公爵家に転移して行った。
日数を考えたら、アレンが養子に行く前には既に仕込まれてたんだろうな。頑張ったな伯父さん!
そんな訳で、今日と明日は講義がお休みだ。
爺様は公爵家で一泊するらしい。
俺は魔法の習熟度を上げに、爺様が居ない間にちょっと出かけようと思った。
身長の事を思うと、余り無理したくなくて魔法の使用は控えめにしていたけど、だからといってそれで身長が伸びるかというと──さほど変化がある訳でもなかった。
それに、俺が全属性の魔法を使う事ができるのは秘密にしたいから、駐屯地にある魔法修練場では使う属性を制限してる。
なので習熟度は全く上がってない属性がある。
さっそく朝の鍛練の後、昼飯を食ってから砦を抜け出した。
まぁ、監視のレックスは付いて来ちゃうけど、口止めはできるだろうと俺は考えている。
「テリュース様よ、出かける事はご隠居様に言ってないだろ?つーか砦の誰も知らないよな?」
「当然だろ、この鍛練がバレたら意味がない」
「──俺は、ご隠居様に言うぞ」
「いや、レックスは報告しない、したくない──」
「いやいや、俺はご隠居様と契約してるから………」
「───黒以外の魔法も使いたいだろ?」
「…………は?」
「知っているぞ、レックス。──砦では、黒しか使えない事にしてる。けど、本当は黒以外も全部使える、よな?」
「──なんで……知って」
ビンゴ!やっぱ転生特典は、全属性だな?!
前世の記憶とかはどうも無いっぽいが、たぶん間違いないよな?
「だから、内緒で他の魔法も一緒に修練しような」
「──ご隠居様から聞いたんだろ?」
「聞いてないけど?俺のカンだよ」
「──マジか」
レックスを陥落した俺は、ファンリンの街すぐ近くにある山を登った。
そう、半年ほど前に誘拐騒動で掴まってたあの山だ。
そこは、元は使われなくなった炭焼き小屋と寝泊まり用の建物が建っていたらしいが、賊の魔法で建物が半壊した後、爺様が隕石を落として建物はおろかその一帯を粉砕し穴だらけになったまま放置されている。
「──ここら穴だらけだな、魔物でも出たのか?」
「魔王の仕業なんだ」
「は?」
「夕闇の中、魔王がコツーンコツーンと足音を響かせながら、銀の特級魔法をぶっ放ちやがった。意味が分からなかった」
「すまん、何のおとぎ話だ?」
陥没が特に激しい場所で、その惨状を眺めながら遠い目になる俺だった。
まぁ、いい。
この辺りなら魔法を色々使っても、爺様にバレはしないだろう。
「──穴の中に地下通路があるな」
ああ、地下室もあったなと、レックスが覗き込んでいる深そうな裂け目を見た。
けど、そこに見えるのは石畳に石壁の細い地下通路だった。
俺とアレンが捕まってた地下室じゃないな。
「何だろうな、使われてた感じでもないけど」
「ふむ、ちょっと降りてみるか」
「おい、大丈夫なのか?ちょっと深いぞ、後で上がれないだろコレは」
「通路の途中みたいだし、出口はあるだろ」
ぐだぐだ言うレックスは置いて、俺は土の斜面を滑って地下通路に飛び降りた。
思いがけない冒険っぽさにちょっとワクワク感があった。
そして、石畳の床に足を付けた途端、それまで薄暗かった地下通路が仄かに明るくなった。
床も天井も発光してる感じだ。
「おお──?!」
「うわっ、何だ?魔法か?」
俺の後に滑り降りてきたレックスも、びっくり仰天で辺りを見回した。
「なんだろ、人間に反応してるのかな?」
「そんな魔法あるのか?」
「まぁ、いいか。奥に扉っぽいの見えるし、行ってみよう」
「大丈夫かよ……」
扉っぽいモノが見える所まで行って、押してみたりしたけど動きそうにない。
そこの横壁に視線を向ければ、何か四角い色の無い板がはめ込まれている。スマホぐらいの大きさだ。
「開かないみたいだな?」
「レックスちょっとそれ、触ってみて」
「これか?──え、魔力が勝手に?!」
スイッチぽいなと思ってたけど、レックスが触れた瞬間。黒の魔法陣が描かれた。
《確認しました。──黒の有資格者》
声が辺りに響いて、扉が音もなく開いた。
「え?!──それって識別板の赤い文字の……」
「え?」
「あ、えと無し!今の無しで!ご隠居様には内容は秘密にしろって言われてるし!」
慌てて腕を振るレックスだが、ちょっと待て。
レックスの赤い文字は、──レックスが読めたという事は、俺のみたいに日本語じゃなかったって事なのか?
というか、有資格者って何?
「まぁ、いいか。中に入ってみよう」
「お、おう」
中は半円形の十畳間ほどの、何も無い部屋だった。
天井は円い。ここも、壁や床が薄く発光してる。
ただ、部屋の中央には台座のような物がある。
「──なんだ、何も無いな?」
「うん、──あ、ここに扉と同じのある」
中央の台座の上部に、扉を開けたのと同じモノが埋まっている。
俺がそれに触れると、魔力が勝手に流れて──銀の魔法陣が浮かんだ。
そして、地図が台座の前面の空間に投影された。
部屋の高さギリギリの大きな地図だ。
この大陸の地図だろう、座学で見たことある。
各7国に、7色の光点がある。
赤は火山を有す鍛冶の国 グラントハイト
緑は魔導具の都 マキューリア
黄茶は農業が盛んな オルトラン
金は教会を束ねる 聖王国サーラ
黒・青は属国の公国を含む 帝国クロウラー
そして銀は、ヴァレリウス──この国だ。
それは国毎の属性色なんだけど、けど光点の位置が妙だ。
首都と云うわけじゃなく、ヴァレリウスの銀は王都から北──たぶんあのデカい湖の位置にある。
それ以外に各国にある7つの紫の点はなんだろう。
ヴァレリウスの紫の点は、クロウラーとの国境付近にある。────もしかして、ここの位置か。
各国の、この施設の場所?
後はあちこちにオレンジ色の点だ。
国毎に数はバラバラで2~4個。
ヴァレリウスには3個。南側に2ヵ所、北に1ヵ所。これは何を示すのか?
それで、銀の光点の湖の位置には、何があるんだろう。
「──地図だよな?これだけの場所なのか?扉の所の声の奴も居なさそうだし………」
「そんな感じだね、何の為の地図かは分からないけど。明日は書くものを持ってきて、この光点の位置とか書いておこうかな」
「え?何で?」
「気になるし」
有資格者が、何を意味するのかそれ自体はちょっと分からないけど──
コレで扉が開いて、中の土台も反応したとすれば、何かこの世界に関係する事ではないかと、思うんだけど。
そして、レックスと俺はその部屋を出て、扉とは反対の通路を進んだ。
通路の先は山の中腹辺りで、周りは草木が繁っていてちょっと分かり難くなっていた。
その場所を確認してから、反対側の隕石落下地点に戻った。
魔法の習熟度を上げる為だ。
しかし、この山が放置されているのは、もしかしてこの施設があるからだろうか?
とか、ちょっと考えたけど。
とりあえず、俺は地の初級・地隆を連発して習熟度を上げた。
その傍らレックスは火の初級・炎弾を唱えていたが、俺は銀の初級・静寂で何度か邪魔してやった。
ただ、俺の習熟度が低いのもあってか、成功率が半々な上に成功してもすぐ解除された。解せぬ。
レックスは怒っていたが、俺の苦しみはそんなもんじゃなかった!と返しておいた。
その日は夕飯時には間に合うように帰途についた。
翌日も、昼飯の後に筆記用具を持って例の施設に行って、光点や他の点をメモした。
爺様の帰宅時間が分からないので、バレないように早めに戻ることにして砦にレックスと帰った。
だが、爺様が転移で戻ったのは夕飯時よりだいぶ後で、ちょっと悔しかった。
遅くなるなら先に言ってくれよ!




