6 またね
「ふむ、今夜の花火が見たいと───」
「はい、テリュースと二人でいいですか?もちろん、お祖父さまも一緒に!」
「そうか、そうだな。──良い思い出になるかもしれぬな、楽しむといい」
「ありがとうございます、お祖父さま!」
「ありがとうございますー」
食堂で、勇者アレンを前に押し出し、魔王の爺様を攻略させた。
しかし、思ったよりあっさり許可が出た。
魔王の覇気が弱かったのは気のせいかな?
◇◇◇
そして、夕刻。
王都方面にある監視塔に、俺とアレン、爺様と護衛二人が上がった。
最上部はせいぜい六畳間ほどの広さしかない。
階段脇に護衛二人が立ち、階段を照らす足元のランタンの傍で止まった。
俺とアレンは、最上部をぐるりと囲う手すりに寄り掛かって、王都方面の空を確認した。
花火が上がる時間はまだ先のようだ。
最上階には普段は無い丸テーブルが持ち込まれており、飲み物が用意されている。
爺様は丸テーブル横の椅子に腰掛け、懐から懐中時計を取り出し時間を見た。
夏の夕空が群青色に染まり始めた時。
ピ───────ッ
と、甲高い笛の音が響いた。
「『守護結界』」
音と共に爺様が魔法を発動させ、護衛二人が慌てて足元のランタンの火を消す。
さっきの笛は騎士団の警報か?
そして、辺りが暗くなる瞬間。
キンッ キンッ
という音と共に、俺とアレンを狙ったらしい矢が爺様の対物理魔法障壁で弾かれた。
「クソがっ!またソレかぁ!!!!」
同時に、どこかで聞いた事のある怒声が、遠方の暗闇から響いてきた。
キンキンキンキンッ!
更にやけくそ気味な矢が弾かれて飛び散る。
あいつ、バカなの?学習能力ないの?
俺とアレンは状況に唖然とした。
そして、暗くなり始めた砦の外から賑やかな騒ぎが起きる。
「ふざけんなっ!このっ!」
「ちょっ、そんな大声出したら……」
「──居たぞ、そこだ!」
「あ、逃げたぞ!」
「逃がすな!追え!」
「げ!何で井戸にフタしてんだよ───っ!?!!」
「やはり井戸に来たか!」
「何で待ち伏せされたの?!」
「今だ、魔力封じの網を投げろ!」
「だ──ぁ!なめんなオラっ!!」
ザクザクッ
「『銀の、其れは導行く手を照らし新たな路を繋ぐ魔の軌跡──転移方陣』!」
「転移で逃げました!」
「追跡魔法、急げ!」
「魔力痕跡、確認!出ました!」
「転移先はファンリンの街です!」
「転移可能な者は急ぎ向かえ!」
シ────────ン。
「も、申し訳ありません、ご隠居様!ファンリンの街の井戸に飛び込まれました!追跡不能です。取り逃がしてしまい面目次第も御座いません!」
静かになった暗闇から、騎士の報告が叫ばれた。
それを聞いて爺様は眉間にちょっとシワを寄せる。
「まあ、良い。ちょうど時間だな」
爺様が王都方面に顔を向けた時、王都の空に盛大な花火が上がり始めた。
「そういえばお祖父さま、今日は隕石落とさなかったんですね。ちょっと残念です」
手摺りに寄りかかり花火を見上げる、アレンと俺の頭を爺様の大きな手が撫でる。
花火に瞳を輝かせながら、アレンは爺様を仰ぎ見た。
「──砦に落とされては後が困ると、団長に泣いて止められたのでな。アレンがそういうなら、見せてやれば良かったな」
「そうだったんですか、また今度楽しみにしてます!」
確かに、敵味方双方にとっても迷惑な魔法だろう。
穴だらけにされてはたまらんな。
「それで、敵が来ると予想されてたんですね」
「いや、来ても良いよう備えただけだ。諦めたとは思えなかったのでな」
「そうなんですか?」
「───だが、もう大丈夫だろう。アレンよ、明日にはマリオンが迎えに来る」
「父上が?え、僕は夏の終わりまで居ても良かったんですよね?……狙われているからですか?」
「そうでもある──詳しくは明日マリオンに聞きなさい」
「───はい、お祖父さま」
アレンは大好きな爺様と、もっと一緒に居たかったんだろうな。
ちょっと残念そうに空の花火を見上げた後、俺に視線を向けた。
「テリュースと、もう少し一緒に色んなことやりたかったなぁ」
「俺?」
「そう、君と。だってテリュースが居たから、僕は魔法が使えたんだ。──あの時、僕は君から勇気を貰ったんだよ!」
笑顔で放ったアレンの言葉で、俺達の頭を撫でてた爺様の手が、一瞬止まった。
「そっか」
「うん、また来年も来るよ!」
王都の空の花火を見上げて、キラキラ瞳を輝かせるアレンを──見下ろす爺様は、ちょっと淋しそうに見えた。
◇◇◇
翌日の昼前。
爺様が言ってた通り、公爵が砦にやって来た。
その為、今日の魔法の講義はお休み。
アレンを交えて、公爵と爺様が話をするらしい。
俺は自分の部屋で、初級魔導書を開いて覚えてない魔法を勉強する事にした。
中級はまだ早いって、爺様が本くれないんだよな。
ていうか、もう文字を読むのも困らなくなった。
テリュースの脳味噌スゴいのかも。
しばらくして、魔導書が気になるのか、部屋に控えて居たレックスがチラチラ視線を寄こしてくるのに気が付いた。
「何、読みたいの?」
「──え?あ、その。テリュース様ってまだ4才だよな?」
「うん、残念なことにね」
「え?いや、残念て……確かに色ボケは残念だけど──4才で魔法が使えるのは凄いかなと思う」
「お前ケンカ売ってるよね?」
「ええぇ、テリュース様が自分で言ったんじゃないか」
「うるさい、家に帰らすぞ」
「…………申し訳ありませんでした」
やはりキーワードは家に帰る、帰れ、帰らすか。
レックスはよほど実家が嫌らしいとみた。
まぁ、だからといって、家庭の事情に首を突っ込む義理もないが。
フトモモ様を慕っててマザコン気味なんだから、原因はその他なんだろうな。
黒髪はともかく、瞳の色はフトモモ様と同じ紫だよな──コイツも将来は俺の敵イケメン予備軍かよ。
と、レックスの様子を覗ってたら、爺様が呼んでいると侍女のニーナが伝えに来た。
「お祖父さま、テリュースです」
「入りなさい」
公爵との話は終わったらしいが、何故俺が呼ばれたのか分からないまま爺様の部屋に入った。
中にはマリオン公爵とアレンも一緒にソファーに座って居たけど、アレンは項垂れて沈んでいるように見えた。
「テリュース、初めましてだね。私はアレンの父親でマリオン・ウィルクスだ。この夏場はアレンと仲良くしてくれて感謝しているよ。短い期間だったが、アレンの事を忘れないでいてくれると嬉しく思う」
マリオン公爵も銀髪で爺様やアレンと同じ水色の目だった。
その隣でアレンがビクリと震えた。
まるで、もう会えないようだな?
「どういう意味ですか?」
「アレンは王家に養子に入る事になったんだ。だから、もう会える機会はほとんどないと思う。さあ、アレン。テリュースにお別れしなさい」
促されてアレンが顔を上げた。
既に泣き腫らしたような瞳に、堪えきれない涙を滲ませて。
「テリュース……来年はもう駄目みたいだけど……いつか、きっとまた、──会おうね」
「うん、またね。──アレン」
アレンと握手して、別れの挨拶を交わした。
なるほど、そういう事か。
「では、行くかアレン」
「──はい、お祖父さま」
マリオン公爵とアレンを連れて、爺様は転移した。
おそらく行き先は王城だろう。
昨夜の爺様の──
もう大丈夫だろうは、そういう事だと思うから。
誰もいない爺様の部屋で溜め息が出た。
まあ、今生の別れという訳でもないし───
たぶん、会えるよ。またね、アレン。




