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別の世界で新たな生を望みますか?と、問われた俺の物語  作者:


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4 隕石落とし

◆◆◆  side 爺様/エルンスト・ウィルクス



 ヴァレリウス王国、先代の王弟エルンスト・ウィルクス。先代が王位に付いた後、臣籍降下にて公爵の位を賜る。

 先代とは歳が離れていた事もあり、兄弟仲は良好でよく兄王を助けた。

 そして戦場で名を馳せた彼を、人はこう呼ぶ。

 《隕石落としのエルンスト》と。

 愛妻エイダを病で亡くした後は、後妻を娶る事なく独り身である。

 現在は、公爵位を息子のマリオンに譲り、隠居生活の傍ら、娘フィーネより託された孫テリュースの面倒をみている。



◇◇◇



 発端は、エルンストの息子──現公爵家当主マリオンからの書簡だった。

 そこにはヴァレリウス現国王から、マリオンの息子アレンを養子に迎えたいと打診された旨が記されていた。

 現国王には、子が未だ王子一人のみ。

 血統的にも問題ないアレンを、王はスペアにしたいと考えているのだろう。

 そうエルンストは思う。


 だが、王家直系にしか現れない筈の、全属性を持つ銀の──王の幼い頃によく似た顔を持つ子供が、ここに存在している事実を、おそらく王は知らない。

 エルンストの娘フィーネは、父親が誰であるかは明かさぬまま、テリュースをエルンストに託したのだ。


 そして書簡には、更にアレンの魔法が発動できない現状が綴られ──どちらにせよ、悩ましいとエルンストは思う。

 歳を重ねれば精神面は落ち着き、魔法の行使も自ずと出来よう。

 だが、急ぎアレンに魔法を発動させれば、すぐにでも王家に行かねばならなくなるだろう。

 5年前の戦争の直ぐ後に先王が崩御。

 そして、先王の遺児二人の内一人が死亡している。

 現在、王族の数が少な過ぎる為、養子の件に拒否権はないのだ。


 それから、アレンが避暑にやってきた。

 マリオンからの、また頭の痛くなる書簡を携えて。


《父上、例の件が王妃側に漏れたようです。ご留意下さい》


 王妃は5年前の戦後、和平協定を踏まえた帝国クロウラーとの政略で嫁いできた。帝国の元第一皇女だ。

 そして現在、国王との仲は冷え切っているようで、王妃の子はもう望めないのでは?というのが多数の意見だ。

 その為、第一王子の邪魔になりそうな者は──

 当然、王妃派は排除に動くだろう。

 警戒が必要だ。


 エルンストは、アレンの魔法発動を積極的に促す気が余り無かった。

 可愛い孫の一人だが、王家に取られれば会う機会さえなくなってしまうのが、とても残念でならないから。

 しかし、もう一人の孫が訴える。

 やんちゃだが、可愛いバカ者だと思っていた孫が、4才児とは思えない利発さで──その物言いに我が娘フィーネを彷彿させて。

 エルンストとしては複雑だが、孫二人が喜ぶならと出かける準備を整える。

 念の為、御守りも用意した。


 だが、アレンは知らぬのだ。

 己が魔法を発動した時、王家に養子に迎えられるという事実を。



◇◇◇



 遊覧船の進水式、当日。

 主催貴族は反王妃派、招待客も事前に確認済み。

 船が岸から離れれば、さほど危険はないかとエルンストは考えていた。

 そして──孫二人から離れて、主催貴族に挨拶に向かった。


 隠居したとはいえ、社交界に全く姿を見せない異名持ちの英雄の登場だ。

 年代の近い者ほど、エルンストへの挨拶に群がって来る。

 切りがないので、主催貴族のフロアから振り切って移動を始めた。

 すると、そんなエルンストに早足で近づく者がいる。

 誰かと思えば、マリオンの腹心の部下だ。

 これは、何かあったなと気付いてそちらに足を向けた。

 人目を避けて差し出された書簡を、エルンストは素早く上着の内に収めてその場を離れる。

 そしてトイレに向かい、書簡を開いた。


《養子縁組の辞退を迫る旨の、警告文の巻かれた矢が屋敷に撃ち込まれました。──父上、どうぞ更なる警戒をお願いします。おそらく敵は、既に事は決定事項であり辞退が叶わない事を知らぬのでしょう。──目下、賊徒を雇い入れたであろう王妃派の貴族を探っております。使用された矢に、特徴のある矢羽が付いておりました。帝国クロウラーの賊徒で間違いないかと思っております。》


 読み終えたエルンストは、紙を裂いてトイレに捨てた。

 急ぎ孫二人の元へ向かおうと思った──

 その刹那、比較的大きな魔力の流れを感じ取った。

 そして、激しい水音にアレンの名を叫ぶ声が響く。

 焦燥に駆られたエルンストが、甲板に駆け付けた時には──アレンのみならず、テリュースの姿もなかった。

 ずぶ濡れの護衛騎士が、船縁から船上に上がってきた所で詳細を尋ねた。

 魔力を帯びた投網で絡め取られた孫二人が、水中に引きずり込まれる状況で、迷わず護衛二人も水中に飛び込んだが、──手が届く前に、網の二人ごと賊は転移で逃げてしまったのだと。

 歴戦のエルンストには、その手口に覚えがあった。

 魔石に転移魔法をあらかじめ仕込み、魔力追跡を阻害する為に水中へ飛び込み、まんまと逃走を計る小賢しい賊──クロウラーの影。

 エルンストは護衛二人に待機を命じた後、情報を得る為に己一人で転移魔法を描く。


 ───既に、私の魔力登録は削除されているやもしれぬが── 一瞬、考えが過ったが──魔法は発動した。


「──転移魔法での直接来訪は、歓迎致しかねます。叔父上」

「緊急事態だ。嫌なら私の登録を抹消しておけ」


 転移した先は、王居の執務室。

 王城には魔法を阻害する結界があり、魔力登録のある者のみ魔法発動が可能になる。

 エルンストを叔父と呼ぶこの男こそ、ヴァレリウス王国の現国王グレアム・ヴァレリウスその人である。

 年齢28才。ヴァレリウスの象徴である銀髪を、背中辺りで切り揃えた美丈夫。先兄王、そしてテリュースを彷彿させる碧眼を抱く──その瞳を苦く思いながら、エルンストは息を吐く。


「──アレンが攫われた。実行犯はおそらくクロウラーの影が絡んでいよう、何か情報はないか?」

「アレン──マリオンの息子の?」

「そうだ、お前が養子にと望んだ子供だ。事が王妃派に漏れたのは、お前の不始末でもある。早く情報を寄こせ!」

「叔父上の仰る通りですね、申し訳ございません。──その賊らしき者共は、最近帝国クロウラーとの国境付近に出没している賊徒で相違ないかと。根城を探させてはおりますが、ファンリンの街近郊の山と詳細は不明です。ファンリンであれば、叔父上の方が思い当たる節もありましょう?」

「──ファンリン近郊の山?騎士隊長から聞いた手を妬いているという、こそ泥連中にクロウラーの影が混ざり込んでいる──と」

「叔父上、王家の影を出しましょう」

「──山中に転移できる者は居るまい、要らぬ。事は急を要する、私が自ら行く」


 言うが早いか、エルンストは転移魔法を発動した。

 孫二人が囚われているであろう山中へ。



◆◆◆  side テリュース・ウィルクス



 アレンを急き立てて、何とかロープを焼き切る事ができた俺は、一息付いて残ってた火を踏み消した。

 直火はギリギリ当たってないけど、熱い火熱で肌がヒリヒリする。


「よし、行くか……」

「──待って、テリュース。何か言ってる」


 アレンが上を指差す。

 そういや、急にドタバタ賑やかになっている。


 «あん?敵襲だぁ?»

 «数は?──え?変なジジイが一人?»

 «魔法をバンバン使ってる──まさか?!»


 ガタンッ!


 «そんなジジイが居るんだ……?»

 «クソっ!!──隕石落としだ!!»

 «知り合い?»


 ダンッ!


 «殺すぞ!このボケがっ!とっととガキ殺って逃げるぞ!»


 ガタガタッ!


「隕石落とし!……って」

「──変なジジイ……うん、間違ってはないな」

「お祖父さまが来てくれたんだっ!!」


 ギギギーッ ガタンッ!

 歓喜のアレンと顔を見合わせたその時、この地下室の落とし戸が開けられた音がした。


「──クソっ!何であの死に損ないが出張ってきてんだよ、ふざけんなよっ」

「あー。前の戦争で、隕石落とされまくって死にかけたんだっけ」

「うるせぇ!ボケがっ───あ?何で縛ってないんだよ!」

「え?俺ちゃんと縛って転がしたし──あれ?」


 梯子を降りてきた男二人と、アレンと俺はがっつり鉢合わせた。

 こいつらをどうにかしないと、上に上がるのは無理過ぎるぞ、と。


「あーもう何でもいいわ、──死ねよっ!」


 問答無用とばかりに、ぼさぼさの赤い髪の男──ガラの悪い方が、短刀を腰だめに突っ込んで来た!

 アレンの手前に立っていた俺の首元へ──

 早い、魔法も間に合わない──

 と思った瞬間、キーンッ!と甲高い音と共に魔法陣が現れ、赤髪の男の短刀を弾いた。


「……んだとっ、このクソがっ!」


 一瞬、呆けた後に赤髪はキレた。

 爺様の御守りすげぇな!

 俺の後ろに居たアレンはかなりびびって、腰が抜けたかその場に座り込んだ。

 俺も大概びびっては居たけどね!

 キンキンキンキンッ!

 やけくそ気味に赤髪が短刀でぶっ叩いてくる。

 爺様の魔法が切れるまでに、何とかこいつらの足を止めたい。けど隙を窺う俺を、もう一人の短髪で青緑の髪の男──ボケの方がずっと観察するように見ている。


「ガキが舐めてんじゃねぇぞ!オラオラっ!魔力切れたら終了だっての!」


 キンキンキンキンッ!

 うわぁい──てか、これ爺様の御守りだから!


「ちょっ、シクロ。それ対物理特化の魔法だと思うから、魔法で殺した方が早いんじゃない、かな?」

「うるせぇっ!だったらもう一匹はてめぇが───」


 キンキンキンキッ!! パキンッ…… ザクッ!

 乾いた音の後、俺の左肩に衝撃が来た。

 ザクッで切られて仰向けに転がった。

 その時、左手首の腕輪から、色のなくなった石が割れて落ちるのが見えた。

 爺様の魔法が切れた!ヤバい!


「おー、やっと魔力が切れやがったか。手こずらせやがって!」

「──いやいや。多分それ、そのガキの魔法じゃないと思うし……」

「うるせぇ!オラっこれで終了!」

「──テリュース?!」


 赤髪が俺にトドメを刺そうと振りかぶった──その時。

 キーンッ!

 涙目のアレンが被さるように、俺の上にいた。

 赤髪の短刀は、アレンの御守りが弾いたらしい。


「──またかっ!!クソっ」

「もう、俺が殺るからさ……」


 地団駄踏む赤髪の背後から、ため息を付きながら青緑髪が、手の平をこちらにゆっくり向けた。

 それを見たアレンがハッとしたように強張った顔のまま、視線を俺に向けた。

 俺は右手を青緑髪に向けていた。


「『水よ、凍て付く刺となり穿て──氷刺』!」

「み、『水よ、凍て付く刺となり穿て──氷刺』!!」

「『風よ、唸れ…』うっ──?!!」


 俺の放った氷刺は青緑髪の腕を、遅れてアレンは赤髪の足を貫いた。

 それでも青緑髪は無事な左手をこちらに向けた。


「油断したなぁ、こんな子供に……」

「くそっ!何でもいいから、早く殺せ!」

「分かってるよ!『風よ、旋風渦巻け舞い踊れ…』」


 俺もアレンも、もう一度と、男達に手を向けていたその時。───頭上から、コツーンコツーンッ──と靴音が響いて、


《『守護結界・対魔』》


───爺様の声が聞こえた。


「『……全てを飲み込め吹き上げろ──竜巻』!」


 青緑髪の風の上級魔法が、狭い地下室に吹き荒れ天井をも突き崩し大穴をあけた。

 けど、俺とアレンは薄く銀に輝く障壁に守られて、周囲の惨状をただ眺めていた。


「──このボケっ、俺を殺す気か!こんな地下で何でそんな魔法使うんだよ!」

「ごめん、ちょっとイラっとして」


 男二人は暴風から逃れようと、上に上がる梯子に取り付いている。

 崩れ落ちた天井の淵に影が射して、そこで爺様の声が響きわたる。


「『彼方より招くは虚無の調べ、其処に是非はなく善悪もない、全てはまた無へ還る───流星招来』」


 爺様の声に、アレンは歓喜で目を輝かせた。

 俺はその詠唱の後の、降ってくる大量の隕石にポカーンとしてた。

 建物は半壊し、辺り一帯が隕石落下で穴だらけになる。

 ちょっと爺様、隕石を降らす意味は?!


 そして、降ってくる隕石に仰天した男二人。

 他の盗賊連中は見捨てて、急ぎ井戸に飛び込むや否や転移してとっとと逃げたらしい。


「お祖父さま!聞いて下さい!私は、魔法が発動できました!」

「────そうか、それは良かったな」


 崩れた建物から出て、俺の怪我を爺様に回復魔法で癒して貰った。

 その間、アレンは魔法が使えたことで大興奮だったのに対して、爺様は何かちょっとしょぼんな感じだった。

 さて帰るかというタイミングで、一人の高位貴族風の銀髪の男が、黒装束の集団を引き連れて現れた。

 どうやら爺様の知り合いらしく、立ち話を少ししてから別れた。

 何を話してたのかは聞こえなかったけど。



「──アレンが無事でなによりでした」

「来たのか、もう終わったぞ」

「そのようですね。街までは私の転移で飛べたのですが、どうしても遅れました。生きている残党は影に処理させます。最も、叔父上の魔法の後では生存者は少ないかもしれませんが」

「──クロウラーの影は逃がしてしまったが」

「仕方ありませんね」

「うむ」

「では、これで失礼し──おや?アレンともう一人子供がいますね」

「アレンと共に攫われた子供だ」

「ほう、どちらの子息でしょう?」

「──フィーネの子だ」

「………ふむ、興味深い。それは──また後日にでも、詳しくお話を伺いたく思います」

「──そうか」



 男の去り際の意味あり気な視線と、爺様の苦そうな顔でなんとなく、イヤーな感じはした。







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