32 冬休み・王城編 王族の思惑
毒物騒動の翌日。
ようやく国王の意識が戻ったと報告が届き、俺とアレンは国王の寝室に向かう事になった。
俺たちが足を踏み入れた国王の寝室は、書棚と丸テーブルと猫脚の椅子が一つそして天蓋付きのベッドという簡素ともいえる感じだった。ほぼ寝る為だけの部屋だろう。国王の意向か、人払いされているようだ。
その天蓋付きベッドで、青白い顔の国王が体を起こして座っていた。
「──来たか。テリュース、お前の機転で難を逃れたと聞いた。感謝する」
「ええ、はい」
まさか、別の意味で酒が気になっていたから、とは言えない。
国王の顔色に躊躇しながらも、アレンが口を開いた。
「陛下、お加減はよろしいのでしょうか?」
「……ああ、毒物に関してはもう問題は無い。ここに来て疲れも出たのだろうと宮廷医も言っていた」
「そうでしたか、お目覚め間もない中を訪れて申し訳ありません。──ただ、取り急ぎお耳に入れたい案件があります」
「──ほう、何だ?」
気怠げに国王が先を促した。アレンと顔を見合わせて、肯いてから俺が後を引き継ぐ。
「昨日の事です。国王…陛下が倒れた後にサイラスの様子が怪しかったので、問い詰めようとしたのですが。その結果サイラスが逃げようとして、身に付けていた魔導具らしい腕輪が外れまして。そして、そこでサイラスの髪の色が銀から濃紺色に変化したのを俺とアレンが目撃した次第です」
何とか敬語の体裁を保って言い切ると、国王は口元に笑みを浮かべて目を細めた。
あんまり驚いた様子が無い所を見ると、既に知っていたのか?、と思った。
アレンも目を見開いている。
「──成る程、濃紺か。その状況では、サイラス。あれはさぞ怯えていた事だろうな」
「ええ、まあ。あ、手荒な事はしてませんよ。ちなみにサイラスは女です」
ちょっと手を掴んだけど、手荒な事にはならないよな。表向きは男だし、サイラスは。
すると国王はちょっと眉を顰めて俺を見た。
「──よもや、女と知って手込めにしよう等とは思っていないだろうな?」
「は?」
んな訳ないだろっ!
国王の中で俺はどういう扱いなんだよ!
ていうか、アレン!そこでびっくり顔で俺を凝視するなっ!!
「──まあ、だとしても。あれは処分せざるを得ないがな」
感情のない国王の呟きが聞こえた。
まあ、そうなんだけどね。
そこで躊躇いながら、アレンが問う。
「恐れながら、陛下は全てご存じでいらしたのでしょうか?」
「そうだな、いや。──髪の色はあれが肌身離さず魔導具を身に付けていた為、影でも掴めなかった。それ故に、あれの父親が誰であるかは見当が付かなかったが。濃紺の髪であるなら察しは付く。──そして女児である事には、4年ほど前にようやく調べは着いた。あれが10才を越えてから毎月のように、一定の期間に体調を崩したと言い引き籠もっていたのだ。それ故に簡単に調べは付いた。──そもそも、最初から私の実子では無い事は分かっていたがな」
なんか、色々暴露話キターっ!!
って、その察しは誰だよ?
それとサイラスが毎月って……あいつ、生理が重いのかっ?!いや、学園ではそんなひ弱設定の話は聞いてないぞ?露見を恐れて王妃が、城ではその期間はサイラスを閉じ込めていたのかもしれんが。
そもそも、最初から分かっていたのかよ?!
アレンも唖然としているし!
「──最初から、とは?」
思わず突っ込んだ俺に、国王は溜め息を吐いた。
なんか凄い嫌そうに眉を顰める。
「あれの年齢を考えてみるがいい。確かに私が即位する前に王妃は嫁いで来たが、私が王妃と閨を共にしたのは婚姻後の一夜のみだ。そして、それから5ヶ月も経たずにサイラスが産まれた」
まさか1発だけとか?
それで、非処女って気が付いたから止めた?
というか、5ヶ月経たずってどんな未熟児が──
あっ、察し!既に腹に子が居たのか!
色々考えていたら、苦笑いのアレンに肩を叩かれた。
「──落ち着け、テリュース」
「お、おう」
思わず国王の顔をまじまじと見てしまった。
まさか、それから10年以上も女っ気無しか?
この国どうする気だったんだ?
あ、だからアレンを養子に入れたのか。
けど、アレンはその当時は有資格者じゃなかった筈だ………本当に手詰まり感が半端ないぞ。
そんな国王は、苦笑を浮かべた。
「──帝国クロウラーとの和平関係を維持する事のみが念頭にあった当時だが。今ならば、王妃とサイラスを共に排除する事に躊躇は無い……」
「あー、サイラスはちょっと待って下さい」
「陛下、サイラス殿下ご自身は悪事への加担として身分を偽った事は否定できませんが、それすらも王妃に強要されての行為だと思われます。そして、此方への協力に同意しました。情状酌量の余地をお認め下さい」
いきなりの嘆願に国王は面食らったのか、目を見開いた。そして不思議そうに首を捻った。
「サイラスと其方ら二人は、さほどの関わりも無いだろう。やはり女と知って情が湧いたか?」
「天然か国王は……(小声)」
慌ててアレンが俺の口元を塞ぐ。
いや、だって女と性欲が国王の脳内で直結してないか?俺の事そう思っているんだろっ?!
「じょ、情はともかく、殺すには惜しい人材だと思います。サイラス殿下は学園での成績も悪くなく、且つ王子教育も受けられております。名を変えさせ、テリュース殿下の配下になど如何かと。もちろん、魔法契約もさせましょう」
「……ふがっ?」
サイラスを配下って?そんな話聞いてないぞ!
国王がアレンの提案で、顎に手を当て目を伏せる。
「アレン、それはテリュースの側近の立場としての意見と取って良いのか?」
「はい、私は臣籍降下ののち、テリュースの側近として支え立つ考えであります」
「ふががっ?!」
いや、アレンのそれも俺は聞いてないからっ?!
「ふむ。それはそれで、叔父上がまた暴れそうではあるが……」
国王の叔父って、爺様か?!
確かに爺様は色々文句言うだろうな。
半眼になりながら、アレンの手を引き剥がす。
「──お前、公爵家に帰るんだろ?」
「そうだよ、テリュースのおかげで帰る事ができる。──だから今度は、公爵家から仕事に来るよ。それに関してはお祖父さまも納得して下さった。サイラス殿下の事はいずれ王妃の子だとお祖父さまにはバレるとは思うけど、しばらくは内緒にしておこうと思う」
決定事項として語るアレンに、俺だけでなく国王も溜め息を吐いた。
「──まあ、良かろう。サイラスは表向きは処分として籍を抹消となるが。新たに名を付け、下級貴族にでも養子縁組させても良かろう。その前に本人から話を聞かねばなるまいが……少し疲れた。今日はここまでとしよう」
お開きの合図で国王がベルを鳴らして侍従を呼んだことで、俺たちも部屋を後にした。
「本気かよ、アレン」
「もちろん。テリュースは幼少時に側近候補との顔合わせが無かったし、国内の学園に行っている訳でも無い。今から側近を選ぶとなると、サイラス殿下はなかなか使える人材だと思うよ」
「ふむ。けど、サイラスの側近は使えないのか?」
どうせ要らなくなるなら、ついでに取り籠めばいいかと思ったが。アレンは微妙な顔をして声を潜めた。
「王妃の息が掛かっているのを、テリュースは使いたいのかい?」
「それは無いな。なるほど理解した」
自分の部屋へ戻りながら、アレンの言い分を聞いていた。
まあ、アレンが側近なら後は任せておけばいいし。
思ったより楽ができそうだよな。
「──そういえば、陛下に毒を盛った男をレックスの手柄で捕らえられたんだってね」
「ああ、そうらしい。いい機転だったよなレックス」
後ろに着いてきているレックスを振り返って、話を振った。
昨日、何処に行ってたのか姿が見えなくて、少し遅れて戻って来たレックスだ。
レックスが犯人を見ていた経緯は、昨日の内に聞いている。
「いえ。事前に対処できず、申し訳ない次第です」
「それでも。捕らえられたのは君の手柄だよ、レックス。犯人が吐けば後は証拠固めだけだからね」
恐縮しきりのレックスだが、その機転で城から出る前に犯人の乗った馬車を止められた。王妃に繋がる証拠が固まれば、後は仕上げをご覧じろだ。
◇◇◇
それから3日後。
第一王子サイラスを儀式に関する話し合いと称して、国王が呼び出した。
まあ実際は王妃処分後の、サイラスの身の振り方を相談という事だ。王妃への建前も必要だしな。
人払いされた国王の執務室にはサイラスと俺、それからアレンも一緒に話に混ざる。
「──サイラス。其方が王妃の傀儡として生きてきた経緯は知り得ている。だが、其方本人に野心がなかったと言い切れるのか問いたい」
静かに国王がサイラスへと言葉を告げる。
当のサイラスは思わず喉を鳴らした。
野心ねぇ。あったら即終了だよな、これ。
けど、たぶん。国王はサイラスに野心が無いのは調べが着いているんだろう。
「や、野心などありません!私は母上に言われるまま王子として過ごすしかなかったのです!物心付いた時には既に王子だったのです!城に居ては母上からの干渉が多く、それが嫌で学園をサーラの神学園にしました。アレン殿下が神学園に行かれると聞いて、私もと思ったのが切っ掛けではありました。他国なので、神学園に居る間は母上からの直接的な干渉から逃れられました」
野心なんかより、王妃の干渉から逃げたかったらしい心情をサイラスが語る。先の事など考えてなかったという事かな。
未だ子供っぽいサイラスに、国王から苦笑が漏れた。
「学園の件は当時、王妃も渋っていたと記憶している。よく納得したものだと思ったが」
「そ、それはその……アレン殿下の動向を近くで監視できると方便を吐いて許可を得ました」
「はあ?お前そんな事してたのか?」
「だから方便だって!その私からの通常報告では埒もないと思われたのか、母上はアレン殿下の侍従を買収したようだが」
「いや、方便とかじゃなくて。結局は報告してたんだろ!」
「ご、ごめんなさい!」
思わず声が出た俺にサイラスが平謝りになった。
「まあまあ、テリュース抑えて。サイラス殿下から私への実害は無かったのだから」
アレンが苦笑交じりで俺を止める。
当の本人のアレンが、なんで気にしないんだよ!
「──さて、話を戻そう。サイラス、其方の処分に付いてだが。おそらくサイラス・ヴァレリウスは廃嫡後に毒杯となる」
唐突に話の軌道を国王が戻した。
スルースキル高いな国王!
けど、国王の言葉に真っ青になるサイラス。
「──だが其方には。サイラス・ヴァレリウスの名を捨て別の人間、女として生きる選択肢がある」
続いた国王の話にサイラスが目を見開く。
「テリュースの側近候補にどうかとアレンが嘆願している。其方が肯くのであれば、魔法契約により忠誠を誓う必要があるが」
「私が女として生きて良いのですか?それに、テリュース殿下の側近に?」
「王子の身分として、其方はこの城の事を多く知り得ている。それはただ放逐する訳にも行かぬ為の縛りともなるが、其方はこれを望むか?」
確かにサイラスを放逐したら、城の内情を他で特に帝国なんかにぶちまけられたら洒落にもならない。
なるほど、アレンはここまで見越してたのか?
思わずアレンの顔を覗えば、口元に笑みを浮かべて俺を見ていた。
これは、なかなか優秀な側近を得てしまった気がするな。そしてサイラスも、そのアレンが言うなら使える奴なんだろう。
国王からの問いに一瞬息を飲んだサイラスが、それでも希望を見たのか顔色が良くなっている。
「つ、謹んでお受け致します!」
サイラスが諾とした事で、王妃を処分後のサイラスの生存は確定した。いや、名前変えてだけど。
「最も、これは私への毒混入の件の王妃の関与の証拠が集まり次第の沙汰となる。それまでは口を噤むようにな」
国王殺害未遂関与と王子の詐称云々で、王妃は毒杯決定になるのかな。連座でサイラスも表向きは毒杯。
さすがに実母が有罪で処分は、サイラスも若干は顔色を悪くしたが。
「おそれながら陛下。この件を帝国には?」
少し躊躇いながらアレンが問うと、国王は口元に笑みを浮かべた。
「全て終わった後に、使者を送る予定だ。適任が居る」
それはつまり、死んでも問題ない奴って事だよな。
なんとなく、国王がただの凡庸ではないと感じた瞬間だった。けど、全く女っ気無しの国王ってのは俺には理解不能だな。まだ全然若いと思うのに。
アレンは国王の言う適任に察しが付いたのか、サイラスの顔を見て肯いた。
ほう、サイラス絡みの誰か、か。
それから、サイラスの知り得る王妃に関する情報を色々と吐かせてから解散となった。
とはいえ、既に国王が掴んでいたらしい情報だったようでサイラスは大した情報を持っていない事がわかっただけだった。
◇◇◇
いよいよ、俺の誕生日を迎えて13才になった。
まぁ、まだ身長はいまいち伸びてないけど。
けど成長期さえ来れば、きっと俺も背が伸びる筈!
まあこれで生誕茶会を乗り越えたら、いよいよ俺の休暇になる。
冒険者になって、チューン公国に向かうんだ!
茶会を明日に控えて、アレンが俺の部屋へ打ち合わせに来た。とはいえ、祝いの言葉を貰って顔見せ程度の茶会だ。大した話ではないだろう。
「テリュース、明日の事だけど。ご令嬢達に関しては、君の意向を優先するから問題ない。重要なのは、側近候補に関してなんだ。前にも言ったけど、幼少時に君は国内の貴族子弟と面識がない。これから関係を築いて行く必要がある訳なんだけど。明日の招待客で覚えておいて欲しいのは、騎士団長子息と宰相子息の二人。この二人の両親は派閥には関与せず、中立的な立場に居る。そこで、子息を取り込んで将来的には引き込みたいと思うんだ」
「え?俺まだ立太子もしてないのに、もうその先を見越してるのか?!」
「当然だろう?現状では、テリュースしか継承者がいないんだからね」
「──ああ、まあそうなるのか……」
アレンが有資格者になった事は内緒にしてるから、サイラスが失格で俺が次代の王になるしかない訳だ。
結局は乙女ゲーの内容通りになったのか。
「え、この国大丈夫なのか?」
「その為に、次代を支える側近候補は私にとっても重要なんだよ。城内に関しては、王妃を処分後に王妃派の貴族も排除すれば風通しは良くなるけどね」
つまり、帝国の間諜がそれなりに居るのか?
王妃に情報が抜かれる原因はそこかもな。
「城内の問題は、王妃絡みだけって事か?」
「そうだね。王妃派が居なければ、テリュースが立太子する事に反発はほぼ無いと思うよ。だって、テリュースはお祖父さまの孫だからね」
いやいや、爺様は前王弟でしかないだろ。
まあ今回の決め手は、爺様の実子であるフィーネさんの庶子が、前王の実子であるグレン殿下の子だったことだ。こう考えると血は濃いな、従兄妹だからギリギリか。
「というか。先代の実子グレン殿下より、爺様の孫ってのが重要なのかよ」
「もちろん、先代の孫であるって事もだけど。現状の城内には、未だにお祖父さまの支持者が多く居るんだ。先代亡き後、お祖父さまを中継ぎにでもと推していた人達だからね。私が王家入りしても、反発もなく良い雰囲気で迎えられたのはこのおかげでもあったんだ。とにかくお祖父さまの孫って事は重要なんだよ」
ちょっと城内の爺様のファンが恐ろしい件。
中継ぎって、その頃は既に爺様は臣籍降下した後だろう。今の国王だっていい歳だった筈なのに。
「まあ、爺様の支持者が多いのは分かった。明日はその子息二人とそこそこ話をすればいいんだな」
「ああ、まずはその二人だね」
◇◇◇
そんな訳で翌日。
茶会は恙無く開催されて、俺に挨拶のご令嬢達4人が群がって来た。年齢が15~10才の公爵家、侯爵家の子女達だ。
確かにみんな可愛い顔立ちの子なのだが、15才の侯爵令嬢はともかく他は幼女枠だろう。
その15才の侯爵令嬢は俺に微笑ましい笑みを浮かべていた。絶対身長を見てお子様扱いだろ、それ!
みんな綺麗なドレスだが、それだと流石に足は見えないし。まあ、今日は顔見せだけだし。
そもそも感覚的に幼女には何も感じないよな、やっぱり。あのレインって子がおかしいんだ。
いや、この世界で短いスカートの娘自体を見てないせいか?けど、あのフトモモは幼女のくせにエロかったよな。
そんな事を考えてたら、近寄って来たレックスに咳払いされて我に返った。おっと、顔に出たようだ。
思わず、適当に笑って流した。
次いで、側近候補の子息達が挨拶に来て、アレンの言う二人も顔を見せた。けど挨拶の後、何故か話題が爺様の話になった。
「父から聞きましたが、テリュース殿下は幼少時にエルンスト様のご指導を受けておられたとか。是非とも拝聴致したく!」
「エルンスト様の魔法の才は素晴らしいと我が父より聞き及んでおります。特に特級の隕石落としは見ものであるとか!」
どっちもアレンの言う、騎士団長子息と宰相子息なんだが。親が中立的とか本当かよ!
思わず傍に立つアレンを半眼で眺めたら、アレンは話題が嬉しかったのか満面の笑みを浮かべていた。この、爺様大好きっ子め!
もうこの二人は囲い込みに問題ないだろ、これ。
そんなこんなで俺の生誕茶会の顔見せは、茶を飲んで笑って終わった。
やっと、冒険者になってフトモモを見に行ける!
じゃなくて、巫女かどうかの確認に行くんだが。
ついでにダンジョンにも潜りたいよな。
評価&リアクションありがとうございます!
実はリアクションを何処で確認できるのか、今まで気が付いていませんでした。
ページ毎の編集の所だったとは…orz
ちゃんと気が付きました!
ありがとうございます!励みになります!




