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別の世界で新たな生を望みますか?と、問われた俺の物語  作者:


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31/32

31 冬休み・王城編 侍従は見ていた

 ひたすら王子教育に追われる日々の中。

 隙を見て捕まえたアレンに、閨教育の事を問い詰めようとしたんだが。


「──分かった、分かったから!夜にテリュースの部屋に行くからっ!」


 お付きの侍従も驚く程にアレンが狼狽える、俺は返答に満足して自分の部屋で待つ事にした。


 さあ来い!と、ウキウキしながら部屋で待ち構える俺をレックスは胡乱な目で見て居たが。

 そして、観念したようなアレンが夜更けにやって来た。


「で!どうだったんだ?」


 俺の食い付き加減に怯みながら、アレンが口を開いた。


「どうって、そもそもテリュースは閨が何か分かっているんだよね?」

「もちろんだ!それで、本番もやったんだろ?相手はどんな女だった?」


 途端に顔を赤らめるアレン。

 溜め息混じりにレックスが茶をサーブした。


「ね、閨教育で来られたのは、高級娼館のたぶん30前くらいの綺麗な方だったよ」

「ほうほう、年増の美人ならアレンの好みじゃないか?バーンズ隊長だってそうだろ?」

「は?」

「ち、ちょっ、テリュース!それは語弊あるから!」


 静かに聞き役に徹していたレックスから低い声が漏れて、アレンが慌てて立ち上がった。


「でも、その顔だと悪くなかったんだろ?」

「うっ……そ、そもそもこれは閨教育という授業だから……」

「──聞き捨てならなかったのですが。うちの母に、お二人揃って懸想されていた、と?」


 盛り上がっていた俺の背後で、レックスから冷気が漂ってきて思わず振り返った。


「違うよっ!バーンズ隊長は綺麗な方だとは思っていたけど、それだけだからね!」

「お、俺はバーンズ隊長のフトモモをお慕いしていただけだ!」

「──そうですか、テリュース殿下だけは反省をお願いいたしますね」


 最近は無表情が板に付いたレックスが、にっこり笑うとかなり怖いと感じた瞬間だった。

 アレンはそそくさと自分の部屋へ退散し、俺は冷気の漂う部屋で天井を仰ぎ見た。

 クソっ!アレンから話を聞きそびれたー!



◇◇◇



 そうして、新年を迎えた。

 今日は昼間の新年会で、王族が揃って挨拶をする。


 王族の控え室で、俺と同じ白い正装のアレンと顔を見合わせて思わず苦笑いした。

 なにしろ、普段は顔を合わせる事もない王妃と第一王子のサイラスも居るからだ。

 その王妃はというと、艶のある黒髪を結い上げ体のラインを引き立たせるような細身の赤いドレスを身に纏っていた。

 歳は既に30後半の筈だが、それよりは若く見えて艶めかしさもあり美人だが、その雰囲気は娼婦のようだなと思った。

 そして時折、王妃は開いた扇の影から、俺に鋭い視線を寄こす。うざってー!

 それとは反対に第一王子のサイラスは、こちらを見ようともせず壁に視線を固定していた。


「──待たせたな」


 白の正装で長い銀髪を揺らしながら、国王が控え室に現れた。その場に居た全員が頭を下げる。


「楽にしてくれ。アレンとテリュースは、サイラスの後に続いて入場するように」

「はい」


 俺とアレンの声がハモった所で、国王の侍従が広間への扉に手を掛けた。それに肯きながら、国王は王妃へと腕を差し出す。


「では行こう」


 侍従によって開かれた扉から、賑わう広間へと足を踏み出した。

 王族入場のコールが響き、一瞬で賑わっていた広間が静かになった。


 壇上の王族席に並んで、国王が新年の挨拶を始めた。そして新たな抱負として、今年の秋には王位継承の儀式を第一王子のサイラスと俺で行う事が公表された。

 会場内の招かれている貴族たちを壇上から覗うが、公の場には出る気のない爺様はやはり居ないようだ。

 そして、その発表内容に会場がざわめく。第一王子を立太子しないのだ。まあ、当然の反応だろう。

 そして、王妃のキツい視線が俺に刺さった。


「──それでは、新たな年明けを祝し杯を掲げよう」


 国王の声掛けで、王族席にグラスが並べられる。

 俺たち子供のグラスの中身は、どうやら白葡萄のジュースのようだ。けれど、国王と王妃のグラスは炭酸の気泡が見える。


 えー、シャンパンとか?俺もそれがいいなぁ。

 中身が気になって、小声で国王のグラスに魔法を放った。


「『鑑定』」


──────────────────────

 炭酸入りの白葡萄酒・毒物混入【猛毒】致死量。

 主に祝杯などに用いられる【酒類】

 ダカツ【魔物】の猛毒【ドロップアイテム】

 が混入されている。粘膜からの吸収が有効。

──────────────────────


「──乾杯」


 猛毒、それも致死量だと?!

 国王の音頭が聞こえて慌てて視線をそちらに向ければ、既にグラスが口元だ!


「呑むな、国王っ!!」


 俺が叫んだ瞬間。

 国王が血を吐き、その体が崩れるように倒れた。


「──陛下?!」

「国王陛下!」

「……宮廷医を呼べ!」

「近衛兵、陛下をお運びしろ!」


 会場中が騒然となる中、王妃だけは一瞬薄らと口元に笑みを浮かべたのが視界に入った。クソ王妃!

 国王を運ぼうとしている近衛兵が立ち塞がり、邪魔で仕方ない。


「そこをどけ!クソっ!国王を動かすな!」


 なんとか近衛兵を押し退けやっと国王に近付いたが、意識不明で顔色がかなりヤバそうだ!間に合え!


「『金よ、其の身に宿りし害意持つ不浄を消し去らん──浄化』」


 金の魔方陣が広がり上級治癒魔法が発動するも、国王の顔色が今一つ良くない。


「『金の、其の身を救う切なる癒しの光を望み求めん──快癒』」


 再び金の魔方陣が描かれて上級回復も使ったが、意識は戻らないようだ。

 間に合ったよな?うーん、分からん。


「テリュース、陛下が倒れたのはまさか……毒だったのかい?」


 駆け寄って来たアレンが小声で俺に囁く。

 俺はそれに肯きながら、国王の側近を手招く。


「テリュース殿下、毒だったのですか?」

「ああ。ダカツという魔物の毒は消えた筈だが、念のため宮廷医に見て貰ってくれ。それと、国王のグラスの回収を頼む」

「はい、畏まりました。後はお任せを。殿下方も速やかにご退場を願います」

「ああ」


 まあ、国王の側近だし、全部言わなくても段取りは出来るだろう。国王が近衛兵によって運ばれるのを見送り、会場内を見回す。既に王妃は退席した後のようで姿は無い。

 だが、真っ青な顔色の第一王子サイラスが立ち尽くしているのに気が付いた。


「──アレン。サイラスは関係ないと思うか?」


 俺の傍に佇むアレンを見上げて呟く。

 アレンも視線だけサイラスに向ける。


「……そう、思うけど。あの顔色は妙だね」

「毒は王妃の指図だと思うが。サイラスは何か知っていそうだよな」

「──問い詰めるのかい?」

「ダメかな?」

「いや。やるなら后宮に戻られる前じゃないと、王妃にバレるなと思って」

「どのみち問い詰めたら、王妃に報告するんじゃないか?」

「そうでもないかもしれない、半々てとこかな。王妃への反発もある感じだし」

「………ふむ。──お、サイラスが動いた。じゃあ追い掛けて問い詰めてみる」

「ちょっと、テリュース。私も行くよ」


 広間から王族控え室の方へと動いた第一王子サイラスを追って、俺とアレンも扉から控え室へと入った。

 控え室には他に誰も居ない、好都合だ。

 俺たちが追って来た事に、背中まである長い銀髪のサイラスがギョッとしたように振り返った。


「──サイラス、ちょっと話を聞かせてくれないか?」

「……な、何だと。無礼だろうお前っ!それに、私は自室に戻る所なんだ。話す事など無い!」


 言うが早いか、通路に続く扉に向かおうとしたサイラス。それより先にアレンが扉の前に立った。


「サイラス殿下、貴方が素直に応じてくれれば時間はそれほど取らせないと思うよ」

「……ちッ、話とは何だ」

「さっきの騒動は、王妃の企みだよな?お前は何か知っているんだろ?」

「──知らない。私は何も知らないっ!まさか、直接陛下を害するなんてっ!」


 声変わりも未だなのか、少し甲高い声が響く。

 元々それほど関わった事が無い奴だからか、妙にそれは引っ掛かった。確かコイツ鑑定遮断の魔導具を身に付けているんだよな。その意味は……


「──もしかして、お前女か?」

「──────っ?!」

「えっ?」


 俺の言葉に動揺したサイラスが、驚きに目を見開いていたアレンを突き飛ばして扉に手を伸ばした。

 思わず逃がすかと俺が掴んだそのサイラスの手首に、腕輪が見えた。俺の手を振りほどこうとサイラスが腕を振った弾みで、その腕輪の金具が弾けた。

 音を立てて、腕輪が床に落ちる。


 凍り付いたように動きを止めたサイラスの、その髪の色が一瞬で銀から濃紺に色を変えていた。


「………髪の色も誤魔化していたのか」


 思わず俺は溜め息混じりに呟いた。

 状況を理解したのだろう、アレンが息を飲む。


「──それじゃあ、サイラス殿下は陛下の実子ではないという事か?」

「わ、私が望んでこうなった訳ではない!物心付いた時には、既に王子として育てられていたんだ!髪の色だって、その頃には常に魔導具を身に付けさせられていた!私にはどうしようもなかったんだ!!」


 開き直ったのか、サイラスは己の状況を叫ぶ。

 何だかな、だから王妃に反発していたという子供っぽい状況だった訳か。


「お前分かっているのか?このままだと、王妃もろとも処分されるんだぞ」

「──っ?!わ、分かっている!だから、ずっと怖くて……でも、どうしようもなかったんだっ!」


 真っ青な顔で涙ぐみ、震えながらもサイラスは叫ぶ。俺はアレンと顔を見合わせて苦笑した。


「──まあ、これからサイラス殿下がご存じの話を素直に話して頂いて、協力関係を築けるなら──情状酌量の余地有りと取り成して差し上げる事も出来なくはないかな」

「いいか、サイラス。お前が王妃の企みに全く関与してなければの話だぞ!」


 アレンと俺の説得?に光明を見出したか、サイラスが頭をぶんぶんと縦に振る。どうやらサイラスは王妃の操り人形でしかなく、女であるのに王子として生きていただけのようでもある。本当かどうかはこれから調べるしかないが。


 今日の所は騒動の後という事もあり、これ以上サイラスを引き留めると王妃が怪しむ可能性があるとして。魔導具を付け直させて后宮に帰らせた。

 また後日、改めてサイラスの話を聞く事にする。


「──しかし、何で今までバレてないんだ?選別の儀式とかサイラスは教会でやらなかったのか?」

「どうだろうね、私は公爵家の子息として教会で受けたけど。王城でも選別板で公開したしね」

「ああ、俺も王城で公開したな。もしかして、サイラスは国王にも公開してないのか──調べてみないと分からんな」

「おそらくね。だから陛下はサイラス殿下の立太子を認めなかったんだろう。まあ、王妃を追い込む手筈は継承の儀式までに整いそうかな。──問題は陛下の容態か」

「そうだな。後で一緒に国王の見舞いに行くか?」

「ああ。侍従長に確認を取って、陛下の意識が戻ったようなら行こうか」


 とりあえず俺とアレンは王子宮に向かいながら、この後の話をしていたが。

 姿が見えなくなった俺たち二人を探していたのだろう、アレンの侍従に捕まった事で、お互い着替える為に別れて自室に戻った。


 あれ?レックスは何処に行った?



◆◆◆  side レックス・バーンズ



 年の割には顔立ちもはっきりと美形に拍車がかかる。艶やかな黒髪を首元で結んだ、紫色の瞳の侍従。

 レックス・バーンズ。


 王子付きの侍従とはいえ、まだ13才のレックスは王族席まで侍る事は適わない。

 新年の宴会のその日、レックスは侍従長の指揮の元、裏方の準備業務に着いていた。

 グラスの曇りがあれば布で磨き、カトラリーの曇りがあれば布で磨きとひたすら磨く作業を言い付けられて、既に無心の境地に居た。精神統一スキル持ちは伊達ではない。


 そもそも、このスキルを得たきっかけは、彼のどうしようもない主への我慢の日々だったのではないかとレックスは思っている。

 実際は、己の出自故に日々耐え忍んだ精神の昇華といえるが、本人は気が付いていない。


 そんな中、いよいよ乾杯前のグラスの準備が始まった。並ぶグラスに曇りはないかと、レックスは入念にチェックを入れる。会場内へのグラスは大量だ。


 そして王族席へのグラスがワゴンに並べられた。

 もちろん、そちらも入念にチェックを入れる。

 そんなレックスの前に一人の男が立った。


 その男はお仕着せの侍従服を着てはいたが、レックスには見覚えがなかった。その為、繁々と顔を眺めた。歳は20半ばほどか、短く切り揃えられた青い髪と薄い緑の瞳をしている。

 その男はレックスが子供と油断したのか、レックスの目の前でグラスを指で撫で回した。


 グラスに指の跡形が残るだろうがっ!

 思わずイラッとしたレックスが、その男の腕を掴んだ。


「──グラスが汚れます。無闇に触れないで下さい」

「あ、ああ。悪かった」


 男は狼狽えて目をさ迷わせていたが、グラスから指が離れた事でレックスは気に止めなかった。

 そして男が触ったグラスを、男の目の前でレックスは磨き始めた。

 そのレックスの行動に男は眉を顰めたが、キッチンメイドが王族用のワゴンに酒瓶を運んで来た事で頬を緩ませた。酒瓶は既に栓が抜かれている。

 男は今度はその酒瓶の縁に指を沿わせた。

 レックスの目は、グラスを磨きながらも男のその様子を視界に捉えている。


 今度は酒瓶に指の跡を残す気か?!

 許せない思いで、この不届きな男をどうしてくれようと視線を辺りに向ければ、いいタイミングで侍従長が王族用ワゴンを押す為に現れた。

 ワゴンの傍に居る不審な人物を侍従長は見咎める。

 本日の人員の顔は覚えている、侍従長は伊達ではないのだ。


「誰だお前は!そこで何をしている!」


 侍従長の叱責の声に、レックスもようやく見覚えがないと感じたのは間違いではなかったと合点がいく。

 当の男は本日の臨時職員です、等と適当な言い逃れを始める。

 しかし、会場内へのグラス配備の時間も迫っており侍従長は衛兵を呼べと近くに居た者へ指示を飛ばした。それを聞いた男は慌ててその場から逃げ出した。

 遅れてやって来た城の衛兵へ、不審人物の情報の元捜索を依頼してから侍従長はワゴンを押して王族席へ向かった。


 しまった、瓶も磨けばよかった。

 胡散臭い男が触れた酒瓶のことを思い、レックスが溜め息を吐いた。


 その時、会場内が騒然となったのが裏方に居ても耳に届いた。

 裏方で手伝っていた他の侍従が駆け込んでくる。


「大変だ!陛下が血を吐いて倒れられた!」

「テリュース殿下が上級治癒を唱えられた、どうやら毒らしい!」

「陛下の意識が戻らないらしいぞ!」


 数人が騒ぐ裏方で、思わずレックスは今まで磨くのに使っていた布を見た。まさか。


「『鑑定』」


──────────────────────

 木綿の布きれ・毒物付着【アイテム】

 幾度か洗浄され耐久の落ちた布きれ。

 ダカツ【魔物】の猛毒【ドロップアイテム】

 が付着している。粘膜からの吸収が有効。

──────────────────────

 あの男が指で撫でていたのは、毒物を塗る為だったのか!

 己の目の前で行われた犯行を、見逃してしまった事に自責の念に囚われる。

 だが、まだ遠くまでは行っていない筈。

 不審人物の顔を確実に見たのは、レックスと侍従長くらいだろう。お仕着せを脱がれたら、衛兵では追えない。


 そこまで考えた所でレックスは裏口の男が逃げたであろう通路を駆け出した。

 しばらく駆けたその先で、先ほどの衛兵が二人辺りを探していた。不審人物はこの辺りで見失ったらしい。そこは王城の備品倉庫の区画、施錠されていて入った気配はない。

 唯一は手洗いのトイレがある事。

 レックスは飛び込んでみるも、人影はなかった。だが、床に散らばっているのは侍従のお仕着せだ。


 慌てて衛兵に誰かここから出て来なかったかと問えば、下級貴族風の男が出て来たという。

 念のため何故ここに居るのかと聞いたそうだが、気分が悪くなり裏方のトイレに案内してもらったのだと返された。

 衛兵は平民も多く、例に漏れずその衛兵二人も平民だった。貴族に対しては強く出られない為それで通したという。仕方ないのでどんな服装だったのかを聞いて、レックスは来た道を引き返す。


 貴族風の服装に着替えたのは、おそらく会場内の混乱後、帰宅する貴族たちに紛れて逃げる為だろう!

 どこなら確実に捕まえられるか?

 考えながらも、とりあえず外来用の馬車乗り場を目指してレックスは走った。


 警戒態勢が敷かれたのか、衛兵だけでなく近衛兵もその場には居た。

 その近衛兵の腕章に、レックスは見覚えがあった。

 王都近衛隊分隊、育ての父親が率いる分隊だ。

 未だ育ての父に対して、素直になれない思いを抱えているレックスだが。

 今はそんな状況ではないと、歯を食いしばった。


「──父さんっ!」


 しばらく会ってはいなかったが、30半ばの陽気そうな茶髪の男はレックスの育ての父親ケイウスだ。

 いきなり父と呼ばれて面食らったケイウスだが、随分と大きくなった黒髪のその顔に目を見開いた。


「………え、レックス、か?」

「そうだよ、俺だ。そんなことより状況は?」

「ええぇ!待て、何でお前がここに……って状況?」

「俺は今はテリュース殿下の侍従だ。そんなことはいいから!警戒態勢なのは分かるけど、どこまで話が通っているんだよ?」

「……で、殿下の侍従?!っていつの間に!」

「何で知らないんだよ、祖父さんには伝えたぞ!」

「お義父さんからは何も聞いていないぞ、クソまた俺だけハブりやがってーっあのジジイ!」


 レックスの言う祖父さんとは、亡きシルーニア・バーンズの父親の事だ。どうやら婿養子ならではの軋轢が存在するらしいケイウスだが、レックス的には今はそんなことはどうでもいい。


「とにかく、状況はっ?!」

「お、おう。なんでも侍従長の証言で、不審人物を目下捜索中だが……侍従のお仕着せの男はまだ現れていない」

「そいつは、今は下級貴族風の衣装に着替えている!脱ぎ捨てられたお仕着せが裏方のトイレにあった。何処かの、いや王妃派の貴族の馬車に乗り込んでいる可能性が高い!とにかく、王妃派の貴族の馬車を止めてくれ!」


 レックスの話にケイウスは真顔になった。

 それが本当なら、既に何台かは城の敷地を出た筈だ。なんて事だ!と頭をガリガリ掻いた後、ケイウスは近くに控えていた副官を呼ぶ。


「聞いてたな?表門の分隊に今の話を伝令に出させろ、急げ!」

「ですが、分隊長。子供の言う事ですよ?」

「うるせぇ、俺の息子の言う事が信用出来ないって言いたいのか?!テリュース殿下の侍従なんだぞ!」

「分かりましたよ!伝令出します!」


 走り去る副官を見ながら、ケイウスは次はと別の分隊員を呼ぶ。


「王妃派に属している貴族の馬車を、今から徹底的に検分だ!他の分隊にも伝令を出して、支援を要請!」

「了解しました!」

「よし、俺も動くぞ。レックスまたな!」


 一連の流れをポカーンと見ていたレックスが、我に返った。まだ伝え切れていない情報があるのだ。

 慌てて待ったをかけて、不審人物の着替えた衣装の詳細を伝えた。そして、毒物の付着している布きれを渡した。


「──酒瓶とか陛下のグラスからも既に判明してると思うけど、その男が触れたグラスから拭き取った毒物が付着してる布きれだから。取り扱いは注意して。それと、多分。そんなに丁寧に毒物を洗い流す時間はなかった筈だから、決め手に欠ける時は右手の指を男に自分で舐めさせればいいと思う。苦しむなら当たりだ」

「お、おう。ったく、もっと早く言えよ!まあいい伝令を走らせないとな……お前も早く仕事に戻れよ、殿下の侍従なんだろ?」

「勝手に先走ったのは父さんだろ!言われなくても戻るよ、じゃあね」


 憎まれ口を叩くレックスの顔を眺めるケイウスの目が、懐かしむように細められる。その目に映るのは、レックスの紫色の瞳だ。

 亡き妻、シルーニア・バーンズと同じ紫色の瞳に、憧憬が蘇る。憧れて止まなかった美しい女性の瞳。

 目だけはそっくりだよなぁ。


「あ、レックス!たまには家に帰って来いよ、スレイも会いたがってるぞ!」


 走り去ろうとしていたレックスの背にケイウスが声をかける。スレイはケイウスにとっては実子であり、レックスにとっては異父弟の名前だ。


「………暇ができたら、帰るよ」


 ポツリと呟いて、レックスはその場を走り去った。


 相変わらず変わらない陽気なケイウスに、幼い頃何も知らずに懐いていた過去がレックスの脳裏に蘇る。

 誰から聞いたのだったか、茶髪のケイウスと金髪の母から黒髪のレックスが産まれるのは変だと言われて──認めたくなくて涙が止まらなかった幼い日。


 けれど、──俺の息子──そう言ったケイウスの顔を思い出す。


 未だわだかまりはあるレックスだが、拘っているのは自分だけなのではと思った。

 次に会ったら、少しは素直になれるだろうか。

 そんな事を考えながら、レックスは主の元へと急いだ。


ブクマありがとうございます!

色々突っ込んだら、長くなってしまいました。

分ければ良かったかと、ちょっと思いました。

レックス君は最終的には忍者な感じで、敵の首をクリティカルでスパーンと飛ばせるくらいになるといいなとか思ってますw

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