30 冬休み到来
後期試験なんかも終わって、いよいよ冬休みがやってくる。
冬休みは公務なんかもあって、それなりに忙しい年末年始になりそうだ。公務って言っても、新年の挨拶だとか俺の誕生日にちなんだ茶会とかなんだけど。
公務以外は王子教育が毎日ある訳で。
それでも年明けの公務が終われば5日程は勉強も除外して完全休暇が貰えると聞いて、かなり気持ちが浮上した。
「テリュース殿下、明日の昼前にサーラのポータルへ向かう馬車を手配してあります」
「レックス、その馬車って朝にできないか?ポータル予約の時間まで、ちょっと土産を買いに街に出たいんだけど?」
「それは良い判断だと思います、ご隠居様へのお土産ですね。畏まりました、馬車の時間変更を手配します」
「ああ、うん爺様にお土産をね……」
土産は建前で、買い物に出たいだけだったんだけど、まあいい。土産は上手く使えるだろう。
とにかく、王子という立場はなかなか面倒だ。
ウォード砦にいた頃のように、ふらふら気侭に動く事もできない。
けど休暇の5日間を使って、俺はチューン公国に行きたいと思っている。気にはなっていた、レインという幼女の件でだ。
とはいえ王子の身分では許可は簡単に降りないと思うから、こっそり隣国に潜り込もうと思ったら手段は限られてくる。
なにしろ、国家間を転移では移動できないという世界の理がある。便利なようで面倒臭い世界だ。
まず身分を明かさないと利用できないポータルは使えない。そうなると、国境の関所を歩いて抜けるしか手がない。そこでも子供が一人では止められるだろう。けれど、問題なく通れる立場が確立出来ればイケると俺は考えている。
それは、冒険者だ。
冒険者には、ダンジョンでの活動という大義名分がある。そして冒険者カードという身分証明が発行されて、国家間の移動にはほとんど制約が無いらしい。
つまり、俺が平民として冒険者になればいいのだ。
その為には平民の服が必要だ。王子の衣装しかない現状では、誤魔化しようがない。
つまり、平民の服を手に入れたい訳だ。
◇◇◇
そして翌日。
早朝から手配済みの馬車に乗って、俺とレックスはサーラの王都へ向かった。一応王族なので、ヴァレリウスから派遣された騎士が2人馬で併走している。
騎士2人はポータルまでの護衛だったのに、街歩きに付き合わせる事になってしまった。何かすまんと、心の中で謝っておく。
忘れない内にと、先ず爺様への土産を買う事にした。
「爺様への土産って、何を買えばいいんだ?」
「テリュース殿下からのお土産なら、ご隠居様は何でも喜ばれるかと思います」
「──何でもって一番困るんだけど。まあ、爺様だし酒でいいな」
サーラ王都の商店街に向かって酒造店を探した。
それなりに大きな店を見つけて、地酒を要求したらトウモロコシの蒸留酒だという。
なるほど、たぶんウイスキーのようなものだろう。美味いかどうかはともかく、それの一番高いのを買って爺様への土産にすることにした。
代金は俺の王子費用を預かるレックスが払って、荷物は護衛に預けた。護衛のクセに魔導具ポーチを持ってたらしい。クソっ、うらやましい。
王城に戻ったら、俺も魔導具のリュックとか要求しようと心に刻む。
それから、いよいよ本命の平民の衣装を探す事にした。
「冒険者っぽい服が欲しいんだ、どこで買えるかな?あ、古着で全然いいんだけど」
「──何故、それがご入り用なのか伺っても?」
「城で冒険者ごっこするから?」
「ごっこ遊びですか?しかも疑問形?」
「まあ、汚れてもいいような服が欲しいんだよ」
「城の洗濯メイドが頑張って洗うので、汚れは問題ないと思いますが?」
「いいだろ、気分の問題なんだよ!」
「………畏まりました」
不審げなレックスを何とか黙らせ、服屋に向かう。
新品じゃなくていいと、古着を扱っている店を探して覗いてみた。
寒いしコートとかもある方がいいな。
そう思って、雑多に並んでいるコートっぽいのを見てると、いい感じのフード付きのマントがあった。
俺の身長的にコートはどれも裾が長すぎたが、マントはギリギリ引きずらない長さだ。子供用かな。裏地に毛皮が張られてて温かそうだ。
これなら中はあんまりこだわらなくていいかと、生地のしっかりしてそうなシャツとズボンに決めた。
後は、靴だな。
その店には靴も並んでたので見てると、良さげな編み上げブーツが目に付いた。サイズは少し緩いかもだが紐をキツメに結べばイケるかと、手に取ろうとして値札のゼロが多いのに気が付いた。
「『鑑定』」
─────────────────────
革のブーツ【アイテム】防御力・小
ブイブイ【魔物】のなめし革で出来ている。
足音が消える静寂効果【符呪】
─────────────────────
なるほど、符呪が付いてるから高いのか。
だが、コレはいいな!
「そのブーツは良さそうですか?」
離れて待っていたレックスが、俺の手にしているブーツを覗き込んだ。
「ああ、符呪が付いてる!コレはいい」
「そうなんですか?けど、テリュース殿下なら城の符呪の魔導具で、ご自分で符呪もできるのではないのですか?」
「は?」
「ご隠居様が以前、城の符呪魔導具が使えればもっといい御守りが作れるのだが……みたいな事を仰っていましたけど」
「マジ?」
「まあ、ご隠居様からそう伺っただけなので、詳しい事は分かりませんが」
自分で符呪ができるなら、かなり美味しいじゃないか!ちょっと城に戻ったら詳しい事聞いてみたい!
「けど、とりあえずコレは買う」
「了解です。そろそろ時間もありませんし、そちら全部購入したらポータルへ向かいましょう」
冒険者になる装備をひとまずゲットして、待機してた護衛に荷物を預けて共にサーラのポータルへ向かった。
ヴァレリウスに移動したら、そこからは馬車じゃなく直接城へ転移の許可を貰っている。
前回は馬車でトラブルがあったから、警戒も兼ねてのありがたい許可だ。通常は緊急時以外は城への転移はダメらしい。
そんな訳でレックスと護衛も連れて俺は城に向かう為、転移魔法を発動した。
「『銀の、其れは導行く手を照らし新たな路を繋ぐ魔の軌跡──転移方陣』」
視界が切り替わって、ヴァレリウスの王城入り口ホールに到着。
待ち構えてたらしい、城の侍従長に出迎えられた。
「お帰りなさいませ、テリュース殿下。早速ではありますが、陛下がお呼びになられています。このまま陛下の執務室へご案内させて頂きたく思います」
「ああ、分かった」
レックスと護衛をそのまま引き連れて、国王の執務室へと移動する事に。
王城の三階にある執務室の重厚そうな扉の所でレックスと護衛は待機して、侍従長が開けた扉の中へは俺だけが入った。
部屋の中には執務机でペンを走らせている銀髪の国王だけが居た。どうやら人払い済みらしい。
現国王はグレン王子の双子の兄弟だから、俺にとっては伯父さんになる訳だよな。
「──帰ったか、テリュース。お前の生誕の茶会の件で伝えておく。招くのは、お前の歳に近い子息子女になる。そこで将来、側近として使えそうな子息を見定めると良い。子女に関しては、婚約者候補となる」
机から顔を上げる事なく、国王が事務的に告げる。
しかし側近はともかく、婚約者候補っ?!
「えっと、婚約者って自分で選べるんですか?」
「そうだな、政略的な面で問題ないと思われる子女を呼んでいる。好きに選ぶと良い、今回は顔見せに過ぎない。──ただ、せめて婚約が決まるまでは手を出すな」
「…………はい?」
「お前はグレンの息子だからな……、また婚外子など出ては困る」
親の因果が子にっ?!
理解のある伯父だと喜べばいいのか?
って、いやいや。テリュースまだ12才だからっ!!
その婚約者候補ってのも幼女枠だろーっ!
「──閨に関しては、13才の誕生日の後にでも教育を設けるよう手配はしてやる」
「閨っ?そ、それは、実地教育ですかっ?」
「………やはり、グレンの息子だな。──もう良い。話は終わりだ」
「えーっ!あ、ちょっと待って。魔導具のリュックとか欲しいんだけど!あと、符呪の魔導具って城にあるんですよね?」
「魔導具のリュックだと?それは侍従長に手配させるがいい。──符呪の魔導具は貴重なのだが……」
「やっぱりあるんですか?」
「まあ、あるにはある。だが符呪には比較的大きな魔石が必要だ。小さい魔石では大した効果は符呪できないからな。その上、魔石はその都度壊れる。その魔石を用意せねば符呪はできない、そして城の魔石はそれほど余裕はない。お前が自分で魔石を用意するならば、符呪の魔導具を使う事は許可してやろう。話は終わったな?」
「えぇー……」
しっしっと犬か何かのように追い払われて、執務室を後にすることに。
というか、閨教育は実地なのかどうなのか!
それから、魔石くらいケチらなくても良くね?
執務室から出てきた俺の顔を見て、レックスが微妙な顔をして横を向いた。
「………何故ここで色ボケ?(小声)」
「聞こえてんだよっ!」
一番に閨教育が気になりながらも、とりあえず王子宮の自分の部屋へ向かう。
王子宮は現在、俺とアレンだけが利用している。
第一王子のサイラスは、后宮の方に部屋があるそうだ。
ちょうど今帰宅したらしいアレンと遭遇した。
「あれ?アレンは朝のポータル予約で帰ったんじゃなかったのか?」
「そうだよ。ただ、私は城まで馬車だったからね」
「あー、なるほど。で、シウスさんは?」
「シウスは、冬休みの間はウォード砦に戻るらしい。私の学園での侍従職のみでと、お祖父さまに頼まれたそうでね」
「ほう」
そういえば、アレンは俺より歳上の15才だ。
という事はもう閨教育も終わっているんじゃないのか?
ちょっと気になり、すっかり見上げるくらいデカくなったアレンへ声を落として尋ねた。
「──所でアレン。閨教育ってどんな感じだった?」
「えっ?!」
不意を突かれたか、頬を薄ら赤くしてアレンが狼狽えた。
最近はすっかり王子然と澄ましているアレンだが、妙に素直な所は変わってない。
「………ふ、普通だった、かな?」
「ほう、どう普通か詳しく!」
「ちょっ、テリュース!僕、あ、いや私は荷物置いて着替えるから、じゃあまたっ!」
慌ててアレンは自分の部屋へ逃げた。
ほう。その照れ具合を見るに、閨教育はやはり実地なのかとニヤけてしまう俺が居た。
後でじっくり聞かせて貰おうではないか。
ふと見れば、離れて待っているレックスが半眼で納得したように頷いている。
「………それで色ボケか(小声)」
思わずレックスを無言で蹴ろうとしたが、あっさり躱された。クソっ!
レックスは言葉遣いこそ変わったが、俺へのこういう遠慮の無さは幼少時と変わってない気がする。
「あ、レックス。侍従長に魔導具リュックの手配を頼んでおいてくれ。陛下から許可は出てる」
「畏まりました」
とりあえず護衛に預けておいた荷物を回収して、俺は自分の部屋で一息つく事にした。
明日からは王子教育が続くと思うと、気分は滅入るんだが。
けど、後で符呪の魔導具を見に行きたい。
大きな魔石といえば、ヘルハウンドを倒した後の魔石がそこそこ大きかった。皆と分けたから、手元には一つしかないけど。これで何か符呪できたらいいな。
魔導具じゃなくて、完全自力で符呪ができれば早いんだけど。オスカーから聞いた話だと、自力符呪はスキルが身に付くまで相当な数を熟す必要があるらしい。スキルがあっても、低いままでは大した符呪もできないとか。しかも適正がないと全然スキルも生えないとかで、自力符呪は無理過ぎると諦めた。
魔力はあっても、そんな時間はないし。そういう意味では、確かに符呪の魔導具は手っ取り早い。
休憩した後。夕飯にはまだ早かったので、侍従長を捕まえて、符呪の魔導具の場所を聞いた。
符呪の魔導具の管理は、宮廷魔導師の管轄だそうで魔導師宮まで出向く事に。
そこでは王子であるという肩書よりも、爺様の孫であるという事の方が重要だったらしい。どうやら爺様の信者が宮廷魔導師には多いらしく、爺様の孫だと分かるなり対応がとても好意的に変わった。
「ほうほう。テリュース殿下は、エルンスト様のご指導を受けておられたのですな」
「うん、1年前までウォード砦に居たからね。あ、爺様の特級魔法も見た事あるよ」
「おおっ、あの隕石落としをっ?!」
俺が爺様の孫だと判明した途端に現れた宮廷魔導師統括の老師(たぶん爺様よりも歳上)の好々爺っぽいローブを身に纏った人に、符呪の魔導具まで案内して貰った。
「──そういえば。あのエルンスト様でさえも、符呪を会得される事は諦めておられましたな。そんな訳でこの符呪の魔導具を前陛下に強請られたそうで」
「………爺様らしいというか。けど、符呪魔導具って高いんだよね?」
「そうですな。転移ポータルがもう一台増やせるくらいだそうで、当時は前陛下もかなり渋っておられましたなぁ。いや、懐かしい」
そもそもの値段は分からなくても、それは簡単に普及できるほどの値段設定ではないんだろうという事は想像できる。
「さて、こちらがその符呪魔導具になります」
魔導師宮の奥の鍵の付いた扉を開けて、老師が案内してくれた。それほど広くはない小部屋で、壁面には大小さまざまな魔石の並んだ棚があった。
そして、魔導具の照明に照らされて符呪の魔導具が部屋の奥に据え置かれていた。俺の身長だとその台座のような部分にギリギリ届く感じの大きさだ。もっとこぢんまりした物かと思っていたけど、思ったより大きい物だった。
「そちらの窪みに魔石を置き、符呪対象となる物を台座の下の反応板に乗せます。後は台座にあるその操作板に魔力を少し流す事で、符呪の項目が表示され手順を踏めば符呪が発動します」
言われた通りにレックスに持たせていたフード付きのマントを下の板に置いて、ヘルハウンドの魔石を窪みにセットした。
「ほう、そこそこの魔石ですな。それならば効果を絞る事で2種類くらいは符呪できそうかと」
「効果を絞る?選ぶ事ができるとか?」
「そうです、その操作板に魔力を流してみて下さい」
論より証拠と、操作板という透明な板に手を乗せて魔力を流してみた。液晶ディスプレイみたいに文字が表示される。セットした魔石の大きさで、符呪できる効果の増減やオプションぽい設定が可能らしい。
なんか凄いな、これこそゲームっぽいんじゃないか?
「──この付加要素っていうのは?」
「魔物の素材を追加して、基本的には無い符呪効果を得る事もできるのです。契約等に関する事項などもここで設定が可能ですな」
「へー、なるほど。契約……」
ヘルハウンドの隷属の首輪って、つまりこんな仕組みからできてるのか。
「──とりあえず。今回は付加要素は無しで、どんな効果が付けられるかな」
操作板の符呪可能一覧を見ると、幾つかの項目が表示されている。
身体強化系、防御力向上系、属性耐性系、認識阻害など。どうやら符呪する物が今回はマントだから、防御関連のみに限定されるっぽい。
さて、どうしようかな。認識阻害や防御系は魔法で対応できるしなぁ。
でも、常時発動可能なら認識阻害は有りか。
「あ、100%にすると、これだけしか付けられないのか。50%じゃ弱いよな70%くらいだとどうだ?」
「ほう、認識阻害ですかな。100%だと魔力の消費量もバカになりますまい。65%くらいに振って、防御力に少し足すくらいで宜しいのでは?」
「ほうほう、なるほど。けど、防御力はいらないかな。回避率に振ろう、ってしょぼっ!」
残りを回避率に振ると、回避率3%向上とか出た。
「まあ、魔石の大きさ的にはそれぐらいでしょうな」
「……なるほど」
とりあえず、それで符呪を作成した。ポチッとな。
無色の魔方陣が広がって、符呪が完了したらしい。
セットしたヘルハウンドの魔石は、綺麗に消滅していた。
「『鑑定』」
───────────────────────
革のマント。フード付き【アイテム】防御力・小
狐【動物】のなめし革のマント。裏地に皮貼り。
認識阻害65%・回避率3%向上【符呪】
───────────────────────
「まあ、こんなもんかな」
「ほお、流石はエルンスト様のお孫様ですな。そのお歳で無詠唱とは!」
「いやいや、初級魔法だし」
「なんのなんの、こんなにお小さくて無詠唱とは!」
「……ぷふっ」
一体何歳だと思ってるんだよ!
てか、笑うな腹黒侍従めっ!
「今後のご成長が楽しみでありますな。──そういえば、テリュース殿下は杖をお使いにはなられないのですかな?」
「うん?杖?」
「はい、魔力を通せば杖から魔力球を放つ事が可能です。まあ、威力は初級魔法よりも劣りますので、エルンスト様ぐらいに成られると魔法の方が早いと杖には見向きもされませんでしたが」
「ああ、爺様なら言いそうだな……けど、魔力球を放つってどんな感じ?」
「そうですな。杖には属性がありまして、魔力を通す事で、その属性を纏った魔力球を放出できるのです。詠唱も必要としませんので、突発的な事象に対応し易いという利点があります」
それって、咄嗟に何かを投げる代わりに杖で対処みたいな感じかな。
「つまり、杖は魔導具って事?」
「いえいえ、杖は魔法具と言いまして、あくまでも媒介に過ぎません。昨今はあまり良い杖が入手し難くはあるのですが」
「もしかして、ダンジョン産とか?」
「はい、杖の材料と成る木材がダンジョンの魔物のドロップ産ですな。それに適した木材のダンジョンが出現したとは聞き及んでおりますが、そのダンジョンがチューン公国でして。依然、入手が難しく」
「ふーん、チューン公国か」
それなら。ついでに杖の材料も探しに行けば、一石二鳥じゃないか?と、ふと思った。
ブクマありがとうございます!
既にストックが切れて、ちょっと更新が一日置きくらいになりそうな現在です。
なんとか頑張ります(汗)




