29 事後報告と皇太子
そろそろ肌寒くなって秋も深まった頃。
狩猟祭の件で話があると言われ、イザークの応接室に集まって聞いた話だ。集まったのは、パーティーメンツの俺・オスカー・サルエル・レックス、そして部屋の主イザーク。
「調査の結果だが、残念な知らせになる。例の首輪の符呪を解析し判明した契約者は、帝国の者であると調べは付いた。だが、帝国に打診をしたがその者は病死したとの返答を受けた。もちろん内密に帝国へ調査員も派遣したが、他殺であるらしいと情報を得ただけになった」
なるほど、イザークは色々手を回したようだな。
「──らしいっていうのは?」
「その者は子爵家の三男で、その子爵家の事業を手伝っていた。話はその事業の掃除婦からなのだが、当の三男は他国に取引で出ていたという。だが、死体で戻って来て直ぐに埋葬されたと話していたようだ」
「あの時、何処かで状況を見ていたのかもな」
「近くにはそれらしい気配はありませんでしたが」
「遠視の魔法でないんやったら、符呪の付いたアイテムとかちゃうか?」
ドロップアイテムが確認できる距離だと、そこまで遠くは無い筈だけど。当時、俺は精神的に疲れていたし、周辺にまで気が付いてないのは自信がある。
「──ともかく、口封じで殺されたと考えられる。そして、入国の記録の際は偽名でオルトランの動物商として入国しているようだ。黒犬を檻に入れて荷馬車に乗せていた事で国境の担当者が覚えていた。そして、他に同行者が1人」
「え?うちのオルトランの商会なのか?」
「いや、違うと思うけど。黒犬の所為でポータルが使えなかったから偽ったんだろ?」
「うへぇ、クロウラーからオルトラン抜けてサーラまで荷馬車で運ばせたんか」
自国が絡んでいるのかと、サルエルが慌てる。
けど、賊は帝国の奴だ。
むしろ、国を一つ跨いでの行動には執念さえ感じる。執念といえば……まさか、王妃?
「おそらくそうだろうな。今はオルトランにも調査協力の要請を出している」
「もー、僕に言ってくれたら、直に動くのに!」
「だがサルエル。私は国として動いているから……」
「分かってるけど、僕も当事者だ。僕からもうちの宰相に動くよ」
「すまない、助かる」
各国を巻き込んだ騒動になっているが、そもそもの今回の狙いは……
「──もしかしたら、狙いは俺だったのかも」
「それは、あの魔物が君を害する為に用意されたと言いたいのかな、運命のテリュース?」
「たぶん?他に帝国が行動を起こす事って思い付かないというか?俺は王妃に狙われてると思うし」
ターゲットをアレンから俺に変えた筈だし。
自意識過剰だったら笑うけど。
「話が逸れて悪い。それで、同行者ってのは?」
「ああ、足取りは掴めていないんだが。森林から少し離れた渓谷で、空の檻を積んだ荷馬車が投棄されているのを発見している。国境越えにそれらしい人物がいない事から、魔導具で姿を消して国境を抜けた可能性がある」
「あれ、死体は?」
「捜索はしたんだが、未だ発見されてないんだ」
「いや、帝国に死体が返ったんやろって事や?」
「実際に死体が埋葬されたかの確認はできてないんだ、何処かで処分している可能性が高い」
「なるほど……それで、姿を消す魔導具ってそんなに出回ってる物なのか?」
「そうやな、そこそこあると思うで。その魔導具は元々はかなり前に魔導具国家マキューリアで売り出されたんや。最初はそれほど重要視されてなかったんやて。マキューリアの上層部がその魔導具の危険性に慌てて待ったを掛けた時には、国外に流出してたっちゅーお粗末な話や」
その線もダメか、確証に至るモノが無いな。
でもなんとなく、今までのクロウラーの影とは違う印象がある。魔物をけしかけて終わりって……
やっぱり自意識過剰だったかも。
とりあえず、オルトランの協力待ちという事で、イザークの報告会は終わった。
だが、数日後。
逃走したと思われる賊の手掛かりが、オルトランでも得られなかった。
姿を消す魔導具で認識できない賊というのは対処出来なかったようだ。
その為、聖王国サーラとオルトランの両国で魔力を視覚化する魔導具の導入が検討される事になった。
ちなみに、ヴァレリウスでは6年程前に検討されて国境には導入済みである。ただ、帝国と隣接するオルトランは山岳地帯も間にある為、険しくはあるが山越えをされると捉えきれない部分があるそうだ。
イザークとサルエルはその結果に不満げな様子だったけど、まあ仕方ないよな。
この世界は基本的には国内だけの小事に留まる陰謀が主だと思う。他国に仕掛けてくるような国は帝国くらいなのが現状ではある。
◆◆◆ side 帝国 ジュリアノス・クロウラー
悪名高い帝国の皇太子宮。
その宮の主は、帝国の皇太子ジュリアノス・クロウラー19才。黒髪に金の瞳の青年だ。
余談だが、彼に前世の記憶などは無い。
「──それで、魔物は消えたのに首輪が残ったと?」
「はい。その為、露見を恐れ逃亡を計ろうとしたので処分した旨の報告が届いております」
「そう、全く役に立たなかった訳だね。その上、証拠まで残すなんて残念だよ」
「遺憾であります」
報告に現れた側近に、ジュリアノスは溜息を吐く。
そもそも今回の件に魔物を使う羽目になったのは、皇帝の影を無断使用できなかった事に起因する。
影の中でも格の低い部隊の者を今までは難なく利用できていたのだが、いきなり皇帝本人から叱責を受けてしまった。そして現在は謹慎処分中である。
それなのに、叔母のマリーからは何とかならないかと催促の書簡が届く。止む無く、今回は宰相であるフィッツアーが管理する祖父の遺産を利用する事にした。わざわざ僻地のサーラまで運ばせたはいいが、失敗した上に証拠まで残す残念な結果だ。
7年程前に火の上級魔法を放った子供を、私的にも殺したい思いはあった。
当時に負った火傷の跡を消す為に、サーラから特級回復ポーションを取り寄せる羽目にもなったのだ。
全く以て忌々しいチビだ。
叔母のマリーが危惧する継承の儀式とは、次代に聖遺物を継承する為のものだ。
己の息子が正当に嗣げれば問題は無いと言える。
危惧するという事はつまり、息子が嗣げない可能性があると考えているのだろう。
いや、可能性ではなく断言できる要因がある。
そういえば叔母は嫁入りに、お気に入りの護衛騎士を連れて行ったのだったか。
叔母の息子がヴァレリウスの聖遺物を継承すれば、ヴァレリウスも簡単に属国にできるかと踏んで協力をしていたジュリアノスだったが、どうも雲行きが怪しい。
「マリー叔母さんには、ヴァレリウスの国王を殺す方が早いって教えてあげないといけないかな」
儀式ができないように、王を殺せばいい。
必要なら銀の有資格者のチビを捕まえて、後程に聖遺物を継承だけさせればいい。
儀式など形式的なもので、必要ではないのだ。
とはいえ、銀の聖遺物がどう役に立つものなのかも分からないのだが。
「──儀式をされれば、状況次第でマリー叔母さんは毒杯を飲む事になるかもしれない訳だしね」
ひょっとしたら、ヴァレリウスの国王はそれを狙っているのかもしれないが。と思うジュリアノスだった。




