28 秋の狩猟祭
秋は聖王国主導の教会が崇める聖サラディンのお祭りがあるらしい。
サラディンとは神格化されてはいるが実のところは、古代の文献などによると一番最初にこの世界との契約を成した聖王国サーラの始祖王であるらしい。
ヴァレリウス王城で王子教育で聞いた話だ。
ただ、その理屈だと他の6国の始祖も神格化されていそうなものだが、そうでもない。
国毎に、始祖を讃える祭り等あるようだが、神格化されているのは何故かサラディンだけだ。
宗教系のベルナール神学園では古代の英雄神として教えられる。まあ、いいけど。
閑話休題。
サラディンのお祭りの前後には、色々催しもあるそうで、当然ベルナール神学園でも英雄神にちなんで狩猟祭がある。
狩猟は王侯貴族のたしなみでもある事だそうだが、狐や兎など稀に魔物も混じる。最も、ヤバそうな魔物は先に処分されているという話だ。
お祭り行事なので、参加するのは希望者の生徒だけでいいのだが。その狩猟での獲物を意中の女生徒に捧げて告白するという乙女ゲー臭い伝統があるそうな。
え?もちろん、俺はやらないよ。
銃を使っての狩猟とか、俺は絶対面倒になって魔法使うのが目に見えてるし。
どうせならその日は聖王国サーラの街でのお祭りに行って買い食いとかしてみたい。
「狩猟祭のパーティー組もうや!」
「だが断る」
「なんでや、古臭い狩猟のライフルとかロマンやろ」
「ロマンは良く分からないけど、僕は槍でもいいなら混ぜてくれ」
「運命のテリュースがやるのなら是非とも混ざろう」
「私はテリュース殿下の侍従ですので」
「よっしゃ、決まりやな!」
「いや、断ったよね?」
なし崩しにメンツに入れられてしまった。
俺以外の攻略対象勢は、妙にノリだけはいいよな。
ついでにアレンも誘ってやろうとしたら、私は遠慮しておくよ、とにっこり笑顔で断られた。
一昨年の狩猟祭で婚約者がいないアレンは、獲物を狙う女子生徒に囲まれクレクレされて相当困ったらしい。立場の微妙なアレンは、迂闊に女子生徒に婚約の約束などできなかった。以来狩猟祭は避けてるとか。
ナニソレ怖い。
◇◇◇
そして、狩猟祭当日。
ベルナール神学園の裏手にある森林地帯にて、狩猟祭が開催される。
本部となる拠点エリアには大きな天幕が複数張られ、教師陣営と警備の騎士等が在中する。
他に、獲物を持って帰還する男子生徒を待つ女子生徒も多く居る。
「ごきげんよう、クリスティーナですぅ。レックス!私、待っているからぁ~っ」
女子生徒の中で翠の長い髪で水色の瞳を輝かせ、大きな胸を揺らし叫ぶ見た目は美少女なクリスティーナが混じっていたようだ。
「哀哭のレックス、存分に応えてやるといい」
「テリュースちゃうし問題ないんやな。イザーク」
「私はただの侍従ですから……」
「レックスが本命なのか。いいなぁ、巨乳」
「私は……ただの侍従で。分かってます?各殿下方」
「なんだ、巨乳は嫌だったのか」
「テリュース殿下、そうではありません!」
「それなら僕と同じだろっ!」
「サルエル殿下、それはそれで肯定も致し難く……」
「おお、なら俺と同じ手の平サイズやな」
「……いえ、もう少しあっても宜しいかと」
「なるほど、レックスは美乳派か……」
「──そう言う、運命の君は?」
「テリュース殿下は、フトモモです!」
「お前が言うなっ!いや、間違ってないが…」
「ほう、乳は無いがフトモモなら……」
「アーッ!早よう受付に行こや!」
「ちなみに私は……ちょっと、聞いてくれても良いだろう!」
という訳で、とっとと受付を済ませて森林地帯の狩り場に向かうのだった。
既に幾つかのパーティーが狩りを進め、猟銃の音がパンパン響いている。
流れ弾に当たるのは避けたいので、少し奥まった茂みの先にと進むといい感じに少し拓けた場所に出た。
早速、ひょこりと顔を出した狐を追ってサルエルが槍を構えて走りだす。
猟銃で狙おうとしたオスカーだが、サルエルに当たりそうなので猟銃を下ろした。
「次の獲物は……と」
「そういや、関係ないんだが。前世の自分の事ってオスカーやイザークは覚えているか?」
レックスがみんなの昼飯の準備を始めたので、その隙にオスカーとイザークに聞いてみる。
「自分のか?せやな、この喋りとか何をしたかみたいなんは思い出せるんやけど。自分の名前や容姿なんやは全然思い出せんのや」
「……お前もか。俺もだ、歳も名前も顔も」
「皆同じなのか、私もだよ。ただ……」
「なんや?」
「私は前世は女だったよ」
「はぁ?」
「ええぇ……マジなん?」
「おそらくだけどね、何せ容姿も思い出せないから。ただ、思考は女だよ。私は麗しい銀髪の運命のテリュースを尊く思って萌えてゲームを遊んだ。記憶が戻った時はかなり混乱もしたが、それでも身近にテリュースが居る事に喜びを感じる……」
それ、思考だけ女の、体は男だったんじゃ……
ちょっと声には出せなかったが、オスカーも微妙な顔をしていた。どのみち、今は男だし!
「なんなんだ、この魔物はっ?!」
沈黙に包まれたその空気を、いきなりサルエルの驚愕に満ちた声が引き裂く。
「どうした、サルエル?」
少し離れた草むらで、サルエルが腕を押さえて後退りしていた。その腕が血に染まっている。
サルエルを追うように飛び出してきたのは、成犬ほどの大きさの黒い犬だ。
口元から血を滴らせ、唸りを上げている。
「みんな、気をつけて!この犬は魔物だ!しかも何かおかしい!」
「サルエル殿下、治療します!こちらへ!」
レックスが促し、サルエルも後退を始める。
顔を訝し気にしながらも、オスカーがリュックからサブマシンガンを引き出した。
「『鑑定』」
俺はとりあえず、その黒犬に鑑定を放った。
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ヘルハウンド Lv 42 主属性・黒
HP 17900/ 17900 Skill
MP 3180/ 3400 毒牙・中
咬歯顎・大
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警戒レベル赤!なんだ、この魔物!
「『守護結界』」
ひとまず考えるより先に、みんなに障壁を張った。
驚いたようにオスカーが俺を見る。
「こいつ、かなりレベルが高い!めちゃくちゃ体力あるぞ!気を付けろ!」
「マジか?!」
「『鑑定』」
レックスも慌てて鑑定を唱え、驚いている。
「サルエル殿下、この魔物は毒スキルがあります。毒を受けているかもしれません。今治癒します!」
「すまない、レックス。助かる」
サルエルの怪我の対処はレックスに任せて、俺はヘルハウンドに集中する。
前足で地を掻き、動こうとした黒犬ヘルハウンドに、オスカーがサブマシンガンの乱射で牽制。
ヘルハウンドはその銃弾を躱して飛び退く。
「『氷刺』」
その足元へ俺が氷刺でザクザクと氷の刺を放ち、足止めを狙う。黒犬は動きが早く1~2発当たるも後は躱された。
「『金の、其の輝きを疾風の矢とせん──光矢』」
イザークからも初級金の攻撃魔法がその胴体を狙って放たれ、光の矢がヘルハウンドの体勢を崩した。
そこへオスカーのサブマシンガンが火を噴きヘルハウンドの胴体を銃弾が穿つ。
「クソっ!まだ消えんのか、しぶとい!」
ヘルハウンドが銃弾に削られながらも詰め寄り、その顎をオスカーにぐわっと開いた。
キーンッと、オスカーの障壁に顎が弾かれヘルハウンドが反動で転がる。
「っぶなー、死ねやオラっ!」
「『水よ、飽くなき凍れ其れを広げ凍土とせん──浸凍』」
オスカーの更なる連射と、俺の中級水魔法が同時にヘルハウンドを狙う。
ピシッピシッと凍り付き始めた所を、サブマシンガンの銃弾が砕いていく。やがて薄い紫の煙が出たと思った時には、ヘルハウンドは消えていた。
「──めっちゃ、びびったで」
「とんでもないな、アレは。──あ、サルエルの怪我は?」
「大丈夫、ちょっと油断しただけ。野良犬かと思ってたら、凄い動きが早くて……レックスが治療してくれたからもう大丈夫。ありがとう、レックス」
「いえ、大事にならず良かったです」
「──どうやら、まだ安心するのは早そうだよ」
イザークの硬い声に俺は顔を上げ、ヘルハウンドが消えた後の場所に視線を向けた。
カサリと音がして、草むらから新たなヘルハウンドが3匹も顔を出した所だった。
流石に俺も顔が引き攣ったし、みんなの息を飲む音も聞こえてきた。
「──みんな動くな。俺がまとめて叩く!」
ヘルハウンド3匹がまだ固まっている。こんな体力のある魔物の相手を個別になんかやってられるか!
狙うなら今。
「『水よ、冷気を喚ぶ冬の到来其れは白銀の氷の陣──吹雪』」
水の魔法陣が眼前に広がり水の上級魔法を展開。
魔力を込める事で凍結度を増す!まとめて凍れ!
ヘルハウンド3匹を白銀の吹雪が襲う。
広範囲をその身を凍らせる冷気が吹雪く。レベルが高い敵だ、一瞬で凍り付く訳では無い。だが、じわじわと末端から躰が白くなり凍り付いていく。
だが、ヘルハウンドが吹雪を抜け出そうと凍る足で地を掻けずまだ唸る。
「『地よ、其の衝動は奔れ天へ昇り地を穿て──雨岩』」
そこへ地の中級魔法だ。黄茶の魔法陣が展開。
魔法が放たれると同時にヘルハウンドの足元から、小さな岩塊が大量に勢いよく浮上し雨の如く降り落ちる。半分凍ったヘルハウンドがその瞬間瞬間に砕けていき、薄い紫の煙と化す。
岩塊が降り終わってもまだ1匹の姿が残っていた。
けれど、既に瀕死だ。
「──トドメは任せてっ!」
サルエルが名誉挽回とばかりに飛び出した。
俺は魔力は問題ないが、その場に座り込んだ。
「必殺のーっ、テーン・シーン・ハーン!!」
サルエルの槍による怒濤の連続突きが決まり、最後のヘルハウンドが煙となり消えた。
ていうか、天津飯?
その掛け声はまさかギルバートさんのセンスか?
ともかく、一体あの魔物は何だったんだ。
ヘルハウンドが消えた場所を、俺はため息を吐きながら眺めた。
ダンジョンの外に、高レベルの魔物、か。
「──しっかし、テリュースの魔法で楽できたんはええけど。何やろな、この辺にダンジョンとか無かった筈やけど」
「ええ、近くにダンジョンはありません。推しの勇姿に萌え浸りたい所なのに、とても妙だ。事前に魔物の間引きは行っているのに、こんな魔物がこの場所に居る事自体に問題がある」
「魔物の出現頻度が上がっているとか?」
「そんな話は聞いて無いよ。──ともかく、一度戻り現場の騎士に警戒指示を出します。いいですか?」
「そうだな、もう魔物も居ないようだし……」
「では、ドロップアイテムを回収してから戻りませんか?」
計4匹のヘルハウンドが消えた後には、黒い魔石が4個と犬肉と首輪が落ちていた。装備品のドロップか?
と、いうか……
「犬肉ってどうなの?」
「レベル高い犬なんだろ?高値で売れるよ!」
「好まれる人は居ますね」
「うえぇ、俺はいらん。売るんでええやろ」
「まあ、俺も食いたいとは思わないな」
なまじ、実物見てるしな……
じっとドロップの首輪を見ていたイザークが、顔を上げて俺を見る。
「──この首輪……符呪効果があるね」
「符呪?」
「装備者の魔力で効果が発動するアイテムだよ、ダンジョンの宝箱からも稀に出るね」
「なるほど、魔導具と違って自分の魔力が燃料か」
「まあ、魔導具はダンジョンの宝箱から出たとは聞かないけどね」
「ああ、魔導具国家があるからや。たぶんな」
それは魔導具の聖遺物が存在するから、魔導具そのものは出ないという事か?
その理屈だと、武器や防具も宝箱からは出ないという事になるけど。
「ふむ。それじゃ、符呪は造れないという事か?」
「いや、符呪の勉強した人か、符呪の魔導具なら付けれる。符呪師はうちのグラントハイトでは引っ張りだこやで」
「ああ、武器と防具の国家だから」
「せや、符呪の魔導具やと効率はええんやけど魔導具それ自体が値段が高い所為で、普及はあんまりしてない。しょっぱい符呪なら人力がまだ早いみたいな」
「──そんな事より、この首輪は預かっていいかな」
「テリュース殿下。鑑定してみましたが、この首輪は隷属の符呪が付いています」
「え?」
「なんやて?!」
「先ほどの黒犬は、偶然現れた訳では無さそうだよ」
思わず俺も、鑑定でドロップの首輪を見た。
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ヘルハウンドの首輪【アイテム】防御力・小。
ヘルハウンド【魔物】が装備していた首輪。
契約者の命令に従う隷属の首輪。【符呪】
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つまり、あのヘルハウンドは誰かが命令したから、ここに現れたって事か。そして狙いは、何だ?
「符呪に詳しい者に解析させるよ。おそらく契約者の名前は割り出せる」
「まあ、その契約者はすぐ切れる三下やろな」
「ふ、だとしても。我が国での無礼は許せない」
「魔物は消えるし、ドロップで残るとは思ってなかったとしたら……笑えるけどな」
「そんなマヌケやったら、ええけどな」
とはいえ、ドロップで落ちていた首輪は2個だけだったし必ず落ちる物でもないんだろう。
とりあえず1つはイザークが取り、もう1つはレックスに持たせて爺様に送ってもらう事にした。
随分と前の事だが。
まだダンジョンが現れ始めたばかりの頃に、ヴァレリウスでダンジョンには居ない高レベルの魔物が出たという事があった。
爺様が調べに行ったのは覚えている。
まさかとは思うけど、念の為だ。
「というか、普通の獲物が狩れてない件」
「まあ、それどころちゃうかったし」
「最初の狐があの黒犬の所為で逃げてなければなぁ。レックスにあげても良かったんだけど。後でレックスは大変だと僕は思うし、ごめんよ」
「はい?サルエル殿下、それは……」
「ああ、そういえば。悪役令嬢が待ってますねぇ」
「まあ、俺には関係ないし」
「はい?あの、悪役令嬢とは?」
「関係ないし!」
本部の拠点エリアに戻った後で、クリスティーナが騒いでレックスに詰め寄っていたが──
俺には関係ないし!




