27 新学期・秋と公国
新学期が始まる。
その前日に俺とレックスはベルナール神学園の男子寮に戻ってきた。
俺の部屋は悔しいが、そのままだ。まあ、レックスに言わせると風呂が部屋にあるだけマシらしいけど。
今は寮に部屋の余裕が無い、とかで新しい部屋などはなかった。
そして、来年春にアレンが卒業したら、その部屋が貰えるらしい。俺も王子になったのにー!!
「オスカー、話がある」
「お久やな。聞いたで王家に入ったんやろ」
「そんな事よりも。お前、巫女の髪の色とか知っているか?」
「そんな扱いなんか……あ、巫女の髪の色?いや、知らんなぁ。なんでや?」
ええい、役に立たん奴だ!
俺は寮の食堂を見渡し、できれば近寄りたくない人物が居るかと辺りを探した。居てしまった。
「イザーク、話がある」
「ああ、久しぶりだ。変わりないようで嬉しいよ。運命のテリュース」
いや、俺は夏休み中にちょっと背が伸びてるから!
とにかくイザークの視線が怖い!
「巫女の髪の色とか、教えてくれないか?」
「ああ?双子の巫女は共に主人公らしいピンク色の髪だったよ。瞳は翡翠色。運命の君、何か気になる情報でもあるのかな?」
「主人公らしいってなんだ?いや、ただ。巫女に娘が居ないかなーと思って…」
「ヒロインの髪がピンク色というのが、一時流行ったんだよ。──うーん?まあ、子供が居てもおかしくはない年齢だとは思うけどね。……そもそも現実の巫女は今は18~19才くらいの筈だから」
え?それだと、俺より5~6才くらい上なのか。
「そうなのか?」
「気になるのかい?子供を産ませるような事をしたいとか?少し妬けるね」
「そんな訳あるかっ!」
その年齢くらいなら確かに有りだが。いやいや、気になるのは幼女だから
というか、イザーク性格が変わり過ぎだろ!
それで、あの幼女レインの歳は幾つくらいだ?
女は成長早いからピンとこないが、推定7~8才くらいの幼女だ。それで巫女が18~19で逆算……
え?10才やそこらで出産?!
──ちょっと、無理があるか?
ええい、わからんっ!あの幼女はなんなんだ!
そう。あのチューン公国に居た幼女が、ずっと気になってはいたんだ。俺は。
「何をそんな悶えとるんや?テリュースは」
「………まさか巫女に?」
「これは、稀にある色ボケの様子だと思われます」
「そこの侍従、黙れっ!」
誰が色ボケだ!というか、違う!
今更だが思い返せば、──心配事かと聞いて、レックスの事を大丈夫だと言ったレインのあの言動。
そう、あれは……
「哀哭のレックス、夏休み中に何かあったのかい?」
「いえ、私が知る限りは……」
「──俺はチューン公国で、桃色の髪の妙な幼女に会ったんだ。まるで、未来を見たような言動をしていた」
「どうゆう状況なんや、それ?」
俺が川に落ちるまでの事を考えていた時だ。
「テリュース殿下は襲撃に合い行方不明、チューン公国にて発見されました。その時の事ではないかと?」
「──ああ、それでレックスの心配をしていた俺に、心配ごとかと彼女は聞いてきた。──その後に俺の腕に触れてきて。魔力の揺らぎを感じたと思ったら、彼女がその後に大丈夫だと言った」
「──ほう?」
「ただの慰めとかちゃうん?」
『その人はたぶん元気』
「いや、あれは──確証はないがたぶん大丈夫だろうと。そういう感じだった」
「テリュース殿下は、遠見の能力かもしれないと思われているのですか?」
あの魔力の揺らぎは、魔法とは違った。
遠見の能力は魔法とは違うスキルのようなものか?
「どうなんだ、イザーク?俺には実際の能力がどんなのか分からないけど」
「──そうだね。確かにセカシューで主人公が攻略対象と握手や不意の接触等で、先を見る選択肢が出るイベント等もあったけれど……テリュースに触れるとは、侮れない幼女だね」
「いや、相手は幼女やろ?」
触れたって言っても、そんなエロい事じゃ全然ないし!って、イベント?
「……それから、チューン公国から帰る前なんだけど。俺に、彼女は私の運命と言ったんだ」
……そう最後の、アレだ。気になるだろ。
『またね。私の、──運命』とかって。
「ほう、私への宣戦布告だろうか」
「アーッ!言葉はなんや意味深やけどっ」
「テリュース殿下の二つ名を教えたからという訳ではなくですか?」
「そんな恥ずかしいのは言わないし!」
「まあ、仮にだけど。その幼女が双子のどちらかの娘だとしたら、親である双子の方は既に巫女の能力を失っている可能性があるね」
「え?そりゃなんでや?」
「夏休み中に私は、我が聖王国サーラの古い文献を色々と調べてみたんだ。巫女の能力は産まれた次代に全て引き継がれる。まさに一子相伝であるらしい。ただ、今代は双子であると特殊で前例はない。だが、次代が産まれたのなら、双子は同時に能力を失っている可能性があると考えられる。ふむ、チューン公国か。我が国の情報部に動いて貰うとするか」
え?それじゃ、あのレインは娘って事か?
幼女(親の方)にそんなえろ鬼畜な事して胎ませたけしからん奴が帝国に居るって事か?
いや、双子のどっちが親かは不明か。
というか、それ以前の話。
あれは、巫女の能力だったのか?
もしかして、乙女ゲーの内容を知っている、ただの転生者とかだったりして?
「予言書物の内容を知る、同類の可能性もある…かも?」
「──予言書物とは?」
「セカシューの内容が書かれた本がオルトランにある。──ちゅう事になってんのや(こそっ)」
「うちのご隠居様が、オルトランで実際に存在を確認されたそうです」
「ああ、そうやな。ギルの旦那が言うてた」
「なるほど、同類か。クリスティーナのみならず、他にも……」
え?存在を確認?
爺様、オルトランまで行ったの?
一体、何の存在を確認してきたんだ?!
「──チューン公国には、もう一人の悪役令嬢も居る。或いは、それの仕込みやもしれない。学園に入れないからと小賢しい…ふふふ」
「ちょっ、イザークが怖過ぎるんやけど」
いや、もう何でもいいや……
混迷する考えに、俺は思考を投げる事にする。
俺も爺様に調べて貰う。うん、そうしよう。
◆◆◆ side 公国 カリーナ・チューン
チューン公国の悪役令嬢ことカリーナ・チューンは、蒼い髪に蒼い瞳の大人びた少女である。体付きも出るところは出ているいいスタイルだ。まだ14才といえど、なかなかに色っぽさもある。
本人も自覚があるのか普段から装いは大人びていて、艶っぽい。要は美人なのだが、ちょっと老け顔でもあるのだ。
そんな彼女の公国に、いきなり帝国の皇女がやって来た。とりあえず平身低頭で対応する事になった。
相手が12才の幼女とはいえ、属国の立場としては言われた事には肯くしかない。それが帝国の宰相の動向を探れという、ちょっと意味がよく分からない案件であったとしてもだ。
「我が父ではなく、私がこの案件を対応させて頂いて宜しいのでしょうか?」
「いいのよ、あまり公にしたくないの。貴女には、それくらいの伝手はあるでしょう?知っているのよ、遊びに夢中な公子の代わりに貴女が政務を手伝っているって。とても優秀だそうよね」
公国の内情は筒抜けの為、カリーナは苦笑するしかない。
先の帝国皇帝とは違って、現在の皇帝は属国に対してそれほど強く干渉してこない。その為、カリーナの兄公子は遊び呆けている、とカリーナは思っている。
実際は少し違う事を帝国の皇女アンネローゼは知っているけれど、カリーナを持ち上げて巧く使う事にした。定期的に連絡を寄こせと告げて、アンネローゼは立ち去った。
「まだほんの子供のクセに、妙な迫力がある皇女よね。はあ、とりあえず。その宰相ってどんな人なの?」
「まだ30過ぎの若さで、帝国の宰相になった男ですね。噂では先帝の庶子だとも言われています。ああ、お嬢様の好きそうな男ですよ」
カリーナは政務を手伝わせている兄の側近に話を振った。どうせ情報収集は側近に任せる事になる。
「あら、私好みの人?ちょっと気になるわねぇ」
カリーナの好みは甘えさせてくれる年上のイケメンなので、側近の見立ては彼女の興味を引いた。
「先ずは宰相が度々訪ねているという、レンドルミン侯爵の邸を探ってみましょう。かの侯爵は帝国の黒ギルドにも関与している噂もあります。ひょっとしたら思わぬ追い落としのネタも得られるやもしれません」
「ああ、色々やらかしてる侯爵よね。まあ、いいわ。その宰相に接触できそうなら教えてね」
「畏まりました」
側近はカリーナの元を辞すると、詳細を兄公子に伝えに向かった。
そして、数日後。
件の宰相と接触した側近が、公城へ茶に招く事に成功した。
その宰相は艶やかな背中まである黒髪を束ねており、水色の瞳で品良く笑みを浮かべる美丈夫だった。
対面したカリーナが、一目惚れして舞い上がったのはお察しである。
私的に仲良くなって話を聞けるようになれば、皇女の依頼も叶うだろうと俄然やる気になったカリーナである。
後ほど。報告を受けた皇女アンネローゼが、頭を抱えたのは言うまでもない。




