26 夏休み・王城編と帝国の皇女
俺を迎えに来た爺様と馬車でチューン公国の関所から、ヴァレリウスへと移動した。
その間に爺様から、レックスの安否確認もできた。
「レックスは、大丈夫だったんですね」
「うむ、怪我一つ無い」
どうやら、爺様の御守りがレックスを守ったようだ。まだ壊れてなかったらしい。
ふと、レインが大丈夫だと言っていたのを思い出した。いや、まさかな。
レックスは、何とか離脱はできたが俺の行方が判らず、止む無く爺様へと報告して捜索して貰う事になったらしい。そして捜索する中、冒険者ギルドを通じて俺の生存が伝えられたという。
余談だが、国の国境線には古代より転移での移動を阻害する理が存在するという。
つまり、ダンジョンの原理に近いようだ。国ごとがひとつのダンジョンのようなものらしい。
その為、国家間の移動は罠の原理からの魔導具ポータルでの移動か、国境から物理的に歩くか(馬車などは大丈夫らしい)などの手段になるそうだ。
だから世界が終焉を迎える時、世界の全てを魔素にしてしまうのかもしれない。と、俺は考えている。
閑話休題。
ヴァレリウスの関所からは、爺様が俺を連れて王城へと直接転移での移動となった。
そう、つまり。俺を王族入りさせるんだとさ。
「やっぱり、そういう事ですか。流石、お祖父様ですね。王妃にバレてたのは頂けませんけど」
「うむ、遺憾である。ともかく、テリュースは確実に有資格者であると判明した以上、この処置は必然だ」
オルトランでギルバートさんに古代語を読んで貰ったらしいけど。日本語が古代語とか始めて知った。
もしかして、ギルバートさんの出任せだったらウケるけど。
そして、王城では改めて属性を見るクリスタルや、選別板での俺の情報などが開示された。
立ち会ったのは、国王とその側近の二人と爺様。
そして、俺の実母フィーネさん。
いや、初めて見たけど銀髪のまだ20代でも通りそうな清楚系の美人だった。実際は30後半らしい。
初めてってのも変だが、俺の意識が蘇る前のテリュースの記憶には無いんだ。仕方ない。
それから魔力の登録とか、なんか色々と書類にサイン会を経て──俺は王族の一員、テリュース・ウィルクス・ヴァレリウスとなった。
じゃあ、王位継承の儀式ってのはもういいのかと思ったんだけど。
それは来年の秋に、俺と第一王子のサイラスと二人で行うそうだ。
継承順位の関係で、現在の王の子サイラス殿下が1位なので王位継承の儀式は取り止めない。
って、ちょっとアレンじゃなくても王の意図が判らない。そんなに、サイラスに跡を継がせたくないのか?と色々と邪推は進むよね。
後は、例の俺とレックスの乗った馬車、そしてクロウラーの影の件だ。
やはりというか、爺様の手配した馬車は王都に入る前に襲撃されて足止めを食い、賊の馬車が俺達を乗せたという事だ。
崖上に居たもう一人は、あのエニードとかいう元男爵令嬢の女だった。そう目撃したレックスが証言した。捜索はしたが、証拠になる物は無かったという。
既に王妃側に情報が漏れていた事に、爺様も煮え湯を飲む思いだったようだ。
これからの王城の王妃側への情報遮断に、色々と力を入れる予定らしい。
それから、アレンはと云うと。
王城の王子宮にある、新たな広い俺の部屋に訪れた。
この王子宮にはアレンの部屋もある。第一王子のサイラスは未だに后宮に住んでるらしい。
「私は、問題なければウィルクス公爵家に戻りたいと思うんだ。お祖父さまにも強く奨められた事だし。ただ…」
「ただ?」
そこで、アレンはポケットから魔導具を取り出して作動させた。音遮断の効果の魔導具だ。
ちなみに王城では、魔力登録のある者しか魔法や魔導具の類いも使用できないそうだ。
「──うん、テリュースにだけは伝えておくよ。僕は全属性になった。有資格者の文字が出たんだ」
「は?」
「驚くよね、僕も驚いた」
え?金の魔法が使えるようになったとか言ってたからか?!
「それは…」
「まだ、誰も知らないんだ。でも僕は来年の春成人で、公爵家に帰る。これはもう決定事項なんだ」
「ああ、──分かったよ」
アレンは帰りたかったんだ。
望んで王家に来た訳でもないのに、名目上でのスペアでしかないのに因縁に巻き込まれて。
ずっと、帰りたかったんだな。いいと思うよ。
そして、アレンは魔導具の動作を止めて、部屋を出た。
俺が王族入りした事で、アレンの成人で公爵家への降下が公に発表される。
おそらく、王妃からの悪意はこれでアレンには向かなくなるだろう。
本当の敵は、俺だと認識した筈だ。
◇◇◇
「本日、テリュース殿下付きの侍従として配属になりました。レックス・バーンズです」
「おう、ご苦労。無事で何よりだ」
当然のようにレックスもやって来た。
まあ、爺様が手配したんだろう。
「けど、王城配属だと色々調べられただろ?何か言われてないのか?」
「その辺りは、ご隠居様が手を回したようです。警備上か魔力の登録はさせられましたが」
「なるほど」
どうでもいいけど。前王弟である爺様の伝手は、未だに王宮内でも強いようだ。恐ろしい。
あれか?隕石落としのファンとか?嫌過ぎる。
しかし、たかが侍従に、王城内の魔法使用の許可をもぎ取った爺様は流石だろう。
「早速ですが。夏休みの間に、テリュース殿下のお披露目を兼ねた茶会が開かれます。急な話なので、招待は上位貴族のみの内々のものになるそうですが」
「──茶会とか、面倒そう。酒もないよね」
「殿下はまだ12才なので、夜会には出られません」
「ふーん。まあ、座って笑ってりゃいいか」
「それに向けて、早急に王族作法など王子教育も開始されます。残念ながら夏休み中は、遊ぶ暇もありません」
「マジかよ─────?!」
頭を抱える俺に、レックスが少し言い難そうにして話を続ける。
「──それと、これは関係ないのですが。学園前期中に、一度もテリュース殿下からの手紙が無かった、とご隠居様が愚痴られていました。マリオン様には出しているのに……とも」
「え?爺様にはレックスが報告してるから、俺から書くことないし。マリオン公爵にはソファーの文句を書いただけだし……」
「とりあえず、ご報告までに。ご隠居様が少々面倒でして……」
「お、おう」
そんなこんなで、俺の夏休みは──ひたすら教師に追われて終わった。
終わってしまった。ガクリ。
◆◆◆ side 帝国 アンネローゼ・クロウラー
そこは悪名高い帝国の、離宮の一つ。
物思いに耽る、艶やかな長い黒髪の美少女がいた。
彼女の名は、アンネローゼ・クロウラー。12才。
父親譲りの金色の瞳が憂いに陰る。
現皇帝ラインハルト・クロウラーの末の娘だ。
彼女は乙女ゲームの登場人物ではない。
が、しかし。彼女には前世の記憶がある。
そう、彼女もまた転生者であった。
そして、以前の生では。
『世界の終焉を愛で救ってみせるわ!』
略してセカシュー、の大層な愛好者でもあった。
彼女は前世の記憶が目覚めた時、ここがセカシューの世界だと気が付いた。そして、絶望した。
何故なら、帝国クロウラーはセカシュー本編に全く関わる事のない国なのだ。
セカシュー本編の舞台は、聖王国サーラの神学園。
その神学園は、聖王国サーラと同盟国の王侯貴族のみが留学可能だ。
つまり、サーラとは和平交渉止まりのクロウラーの皇女は、セカシュー本編をその目で見ることも叶わないのだ。
その上、彼女の推しは哀哭のレックス。
本編に関わる事の無い帝国の、隠しキャラだ。
つまり、彼女の異母兄なのである。
そして、レックスが帝国を激しく憎む事も既に理解している。
記憶が目覚めてから、彼女はまず皇帝である父親を懐柔する事に励んだ。
元々は、好戦的な先代皇帝が戦争したがったが上の公国属国化。に続きヴァレリウスへの宣戦布告。
当時第二皇子で現皇帝の彼女の父親は、その状況に色々と思う所があったようだ。気侭で粗暴な人物だが存外根は優しい事を彼女は知っている。
前皇帝はどうも黒の聖遺物を使って色々やろうとしていたらしい。当時の第二皇子は、そこに危機感があった為の強攻策に出たようだ。
それについて詳しくは分からない。聖遺物については皇帝にしか使用出来ないのだ。
だが、皇族ならば閲覧可能な書物にある聖遺物を用いての他国不可侵の禁忌。それに触れる可能性があったのかもしれない。
戦線が激化する前に当時の第二皇子はヴァレリウスの王城に忍び込み、あちらのグレン王子と密約を交わしたらしい。
自分が頭を取るから、手打ちにしようと。
そして、その際に。レックスの母、シルーニア・バーンズに一目惚れしたのだ。
だからといって、押し倒すのはどうかと思うが。
そんな当時の第二皇子は、兄王子が特攻した隙に皇城を占拠し前皇帝を斬り、色々始末を付けてからシルーニアを貰い受ける算段を考えていた。
既に妃が居て皇子が一人産まれているが、側室はまだ居なかったし。
だが、ようやく雑務を片付けたその時には、既にシルーニアは他の男と婚姻した後だという。
泣く泣く諦めた皇帝だった。そこは潔いと思う。
それはさておき。
アンネローゼは皇帝にせっせと同盟への道を説く。なんとか主戦派を押さえないと、小競り合いに巻き込まれゲームではシルーニアが死んでしまうのだ。
そうなるとレックスは帝国を憎んでしまう。
なんとかシルーニアが死なないように、主戦派の小賢しい宰相のユーリ・フィッツアーを父親皇帝から切り離そうと画策する。
だが、思わぬ伏兵の叔母マリーによって、ヴァレリウスのダンジョンが襲撃に合い、その所為でシルーニアが死んでしまった。
ゲームでは、叔母マリーはヴァレリウスに嫁いではいなかったのだ。
レックスが帝国を憎むのは、既定路線で強制力の成せる技なのかと。アンネローゼは嘆く。
だが、諦めない!
いつか、レックスとは平和的に会うのだ!
憎い帝国の皇女としてとか嫌過ぎる!
だからシルーニア死亡の報を自ら届け、未だ気持ちを残していたか傷心に沈む父親皇帝の耳元に囁く。
そうそう、そのシルーニア・バーンズを殺したのは、貴方の影ですよ、と。
余計な事をした叔母マリーと、兄皇子をとりあえず潰す。絶対潰す!
皇帝直属の影を勝手に使っている兄皇子の存在は、おそらく皇帝自身も気分が良く無い筈だ。
そして宰相のユーリ・フィッツアー、ゲーム冒頭部分のあのイラストは間違いなくこの男だ。
ゲーム開始前に巫女を殺される事が無いように、見張る必要がある。
と思っていたのに、聖なる山に巫女がもう居ないってどういう事なの──────っ!!
慌ててフィッツアーの邸宅に探りを入れるも、動いた気配はない。
聖王国サーラへ探りを入れさせれば、巫女は15年近く前から行方不明らしい。過去の帝国への使者の記録を見れば、色々と糾弾されている。
どうなっているの?!
まだ世界は終焉を迎えていない筈よね。
既に終焉後の、新しい世界とかじゃなければね。
とにかく、怪しいのはフィッツアーだ。
探れるだけ色々調べると、どうやら属国のチューン公国にフィッツアーは度々訪れている事が分かった。
帝国内では何もなかったが、おそらくチューン公国に何かある筈だ。
確か、チューン公国の公女は悪役令嬢だ。
だが属国化の為、神学園からはハブられている。
ゲーム設定ではグラントハイトの第一王子の婚約者だが、これも全く無い。
まあ、それはともかく。
チューン公国の公女に粉掛けて、色々協力させる事にした。転生者の線も疑ってはいたが、どうやら公女は違うようだ。
むしろ、公女の兄の方が怪しい。
サーフボード片手に波乗りに興じる、サーファーにしか見えない。聞けばそんな遊びをし始めたのは当の公子だという。
魔物も出るのにバカなの?
チューン公国には浜辺もあり、海水浴用に結界で確保されたエリアも有るが波はない。
つまり結界外で、サーフィンしてるのだ。
ちなみに浜辺では屋台で焼きイカ、タコ焼き、焼きもろこしが売られている。
公子主導で冒険者ギルドを通じて、オルトランの調味料を取り寄せたとか。
焼ける醤油の匂いがする!
懐かしい匂いについ焼きもろこしを食べたが、美味しかった。醤油を私にも回させよう。
そして蒼い髪の公子は、絶対お馬鹿な転生者だろ!とか思った皇女だ。
ともかく、これからアンネローゼはフィッツアーの動向調査を頑張るのだ。
世界が終焉を迎えたら、推しに会えないからねっ!
ブクマありがとうございます!
とりあえず、次回のヒロイン接触は冬休みを予定してますが、まだそこまで書けていません。
ストックが切れそうで、焦っています。
が、頑張ります。




