25 夏休み・邂逅編
そして、前期試験も終わり、夏休みがやって来た。
色々気になる事はあるけどね、巫女だの何だの。
けど、子供にはどうしようも無い訳で。
とりあえず、俺はヴァレリウスのウォード砦に帰省する気満々だった。
けど。寮で帰る準備中に、思わぬ事案が発生。
「ご隠居様からのご指示で、ヴァレリウスの王都のポータルに着いたら、そこから王城へと向かえとの事です。迎えの馬車は手配されているようです」
「は?王城へ?」
「はい、そう指示されてます」
何で王城?俺一度も行った事無いんだが?
「おそらくですね、グレン殿下の件だと思われます」
「はぁ?」
「テリュース様を、王家に迎えられるのではないかと予想します」
「はあぁっ?!何でそんな急に?!」
「まあ、ご隠居様なので…」
「聞いてないしぃ────っ!!」
なになになに!俺を王子にするのか?
まさか、俺との代わりにアレンを公爵家に戻すとかそういう算段なのか爺様!
いや、俺はいいけどアレンは?
「ちょっ、アレンは?」
「アレン様はポータルの予約時間の関係で、早朝にこちらを発たれたようです」
「マジかーっ!」
おそらく来年の儀式まで、アレンが襲われ続けるのも我慢したくなかったんだな爺様は。
気持ちは分かるが、先に言えよー!
全属性じゃないアレンは、資格が無いから。
それなのにスペアと称して留め置かれるとか、不憫過ぎるよな。
王家で学んで、アレン本人も理解している筈。
この世界の王は、たぶん直系である事と全属性に意味がある。
有資格者は直系の全属性にしか、居ないんだって事を。
俺は考え過ぎて、なんか脱力した。
そして、聖王国サーラのポータルに向かい、ヴァレリウスへと転送。
「テリュース様、馬車を確認して来ます」
「うむ」
ヴァレリウスのポータルターミナルから馬車乗り場に行くと、手配されている筈の馬車が来ていなかった。
レックスが辺りを確認していると、1台豪華な馬車が馬車乗り場に入って来るのが見えた。
「テリュース様、こちらの馬車のようです」
レックスに手を振られて、その豪華な馬車に近づき乗り込んだ。
けど、家紋も無いのはお忍び用かな?
走り出した馬車の中もカーテンが引かれてて、何だか中でやましい事でもする用か?とか妄想する。
この揺れがいい刺激とか……くくくっ
「テリュース様、妙です」
「え、俺か?」
「……また色ボケ(ボソッ)…あ、いえ馬車が」
「聞こえてんだよ、馬車ぁ?」
レックスがカーテンを開けて、窓の外を確認する。
その後、御者席を覗く小窓を開く。
「──御者が居ない!テリュース様、先が崖です!」
「何だって!クソっ『守護結界』」
「ドアがっ!外から何かでっ」
レックスが短剣を隙間に突っ込みこじ開けようとするも、馬車が崖から離れわずかな浮遊感の後──
「『氷刺』」
俺はその反対側のドアを氷刺で穿って蹴り砕き、レックスの腕を掴んで外へ飛ぶ。
「『風よ、広き天空に其の身を委ね願う我が意の侭に──浮遊』」
──馬車はそれを引く馬ごと崖下へ落ちて行く。
「あっぶなーっ……」
「ありがとうございます、テリュース様。あ、自分で飛びます」
浮遊魔法で二人で浮いて、辺りを見回した。
御者の男が逃げたのならともかく、確認に来る確率が高いだろう。とりあえず、一旦身を隠せそうな崖下が見える岩陰に移動した。
賊が確認に来るなら、馬車の残骸が見える場所に現れる筈だ。
「御者はどんな感じだった?」
「王家からの馬車です、と。物腰柔らかな感じだったので……帽子を被っていたのですが見えたのは青緑の髪で顔に火傷の跡があり、ほっそりした感じの……」
青緑の髪?火傷の跡?
御者席は影になってて、よく見てなかったが。
まさか。
「王家からって、そこが妙だな。爺様が手配したなら、公爵家からの筈…」
「あ、王城に向かうので、王家だと……すみません」
「いや、俺も確認しなかったし。けど、明らかに俺を狙ったんだな。今日の事が王妃に漏れてたか」
「……あ、誰か来たようです」
落下で壊れた馬車の残骸が流れて行く。
水深はそこそこ深そうだ、馬車の残骸はほぼ沈んでいる、その上流れが少し早い。
その所為で、破片や馬がどんどん流れて行く。
残骸の見える近くの土手に、青緑の髪の男が近付いている。間違いない。髪が以前より短くなっていて火傷の跡があるけど、クロウラーの影だ。
流れる残骸の中に、俺達の姿が無いのは確認したのだろう。青緑の髪の男は、川下の方に顔を向ける。
「『氷刺』」
「?!」
俺達が隠れていた崖上の岩陰から、下に見える青緑髪に向けて俺は水魔法を放つ。
青緑髪はその場で膝を着いたのが見える。
「『黒の、迸れ唸れ其れを喰らう顎を示せ──闇刻』」
「テリュース様!」
その時、背後から黒の中級魔法の詠唱と共に闇魔力の巨大な顎牙が、俺達を噛み砕かんと大きくその口を開き迫った。
咄嗟だろう、レックスが俺の背を押し俺はその勢いで崖から落ちる。
その瞬間、レックスに巨大な顎牙が食らい付くのが見えた。
落下する俺は慌てて浮遊魔法を唱えようと口を開いた刹那──崖下から放たれた風魔法で体が吹っ飛んだ。
ニヤリと笑みを浮かべる青緑の髪の男の姿を一瞬視界に捉えた直後、俺の体は水底へと叩き付けられた。
その衝撃で、意識が飛んだ。
◇◇◇
「『……………うる癒しの光を望み求めん──快癒』」
「──あ、目が覚めたみたい」
「おー、俺の魔法もだいぶいい感じになってきたなぁ。どうよ、坊っ!」
ぼんやりと目を開けると、見覚えのある深緑の髪の陽気そうな顔が見えた。
その下には、桃色の髪の幼女がすました顔で立っている。
「──もしかして、冒険者のカイさん?」
「おう!久しぶりだな坊。あんま変わってなくて直ぐ分かったぞ」
失礼な!ちょっとは身長伸びてるよっ!
「カイさんは老けたね」
「俺はまだ29なんだぞ、老けたって程じゃないだろ!」
いや、前はなかったその無精ヒゲは、せっかくのイケメンが台無しだと思うな。
「──それで、ここはどこ?どうしてカイさんが?」
どうやら、民家風の小部屋のようだが。
どこだろう。
「タイアの街の安宿だ。近くの川で流れ着いた坊を、このレインが見付けてな。拾い上げたら坊だったんで、びっくりしたぞ」
「──タイアの街?どこだろう」
「チューンの北、ヴァレリウスとの国境付近だな」
「は?チューンって、水のチューン公国?!」
「そうそう」
えー……流されて、隣の公国まで?
マジかよ?!
「──そうか、助けてくれてありがとう」
「いやいや、礼ならこのレインに言ってくれ。こいつが見付けなきゃ助けらてなかったからなぁ」
カイさんに言われて、そのレインって言う幼女に視線を向ける。たぶん7~8才くらいのまさしく幼女だ。
桃色の髪を顎辺りで揃えたおかっぱ頭。翠の瞳が、静かに俺を見返した。
おお、せめて後10年後に期待したい美幼女だ。
小さいながら、短いワンピースの裾から覗くフトモモがぷりぷりと……
いや、俺はロリコンじゃないから!
「──そうか、君が俺を見付けてくれたのか。ありがとうレイン」
「……うん」
「しかし、どうしてカイさんはチューン公国に?」
「おう、俺は今こっちの冒険者ギルドに助っ人に来ててな、ダンジョンの帰りに坊を拾ったという訳」
「なるほど。──え?このレインって子もダンジョンに?」
「違う違う!川で人がって、ダンジョン帰りの俺をレインが捕まえたって事だ」
「ああ、なるほど」
俺の顔を見てふっ、て感じでレインが笑う。
なんだろう、それが妙に大人びて見えた。
え、いや。俺はロリコンじゃ…ない…筈。
「──けど、どうやって帰ろう。歩いてかな」
「本気かよ。いや、待ってりゃ迎えが来ると思うぞ。一応、公爵家には冒険者ギルドを通じて連絡入れておいたからな」
「え?マジで、ありがとうカイさん!」
「礼には及ばん、公爵家には前に世話になったし。まあ、迎えが来るまでのんびりしてな」
「助かります!」
「一応、坊に回復魔法は使ったが、無理せず寝てな」
「……そういえば上級の詠唱が、──え?カイさん魔法を前は使ってなかったよね」
「ああ、その──目の前で何もできずに死なせるのは、もう嫌でさ。せっかく魔法が使えるんだ、覚えなきゃ損だろ!ってなあれから色々覚えたんだぜ」
少し照れ臭そうに頭を掻きながら、カイさんは食い物を買いに出て行った。
そうか、バーンズ隊長の事でこの人も──
いい奴だな、カイさん!
しかし、まさか隣国に流れ着くとはなぁ。
そういえば、レックスは大丈夫かな。
あの時、背後から魔法が発動されて──
賊が一人だなんて思って、油断した。
ぼんやりとベッドの上で流される前の事を考えていると、幼女レインが俺に水の入った木のコップを差し出した。
「お、ありがとう」
「うん……」
レインが俺の顔をずっと眺めたまま動かないから、コップの水を飲みながら俺は首を傾げる。
なんだろう、妙に子供っぽくない子だよな。
「どうかした?」
「──なにか、心配なことがあるの?」
不意にレインのちいさな手が、俺の腕に触れた。
そして翠の瞳が俺の顔を覗き込んでくる。
「ああ、友達がちょっと心配なんだ。ここに来る前に一緒にいたんだけど──無事なのかと」
その瞬間、レインのその瞳に魔力の揺らぎが見えた。その幼い顔が妙に大人びて見える。
一瞬ドキッとした……ちょっと止めて。
「うん、──その人はたぶん元気」
「え?」
その大人びた表情でふっと笑った。
なんだ、この幼女は……
「たぶん大丈夫」
「あ、ありがとう?」
「うん」
いくら今俺の体がちびっ子でも、
幼女にときめくとかあり得ないって!
俺の手から飲み終わった木のコップを取り、レインがくるりと後ろを向いた。翻るスカートから覗くむちむちが目に入って息を飲む。
クソっ、幼女なのにそのフトモモはちょっとエロいっ!
ちょっと軽く混乱しながらも、カイさんにお世話になる事に。
ちなみに、食い物を買って戻って来たカイさんが手にしてたのは、何故か焼そばとイカ焼きだった。
まさかオルトランの食テロがチューン公国にまで伸びているのか!と思ったら。
ここの公子が主導でチューンの浜辺に出店を展開していて、その出店でコレを売ってるらしい。なるほど、その公子は転生者なのかもしれないな。
それから二日後、爺様が迎えに来た。
カイさんに世話になった礼を言い、別れを告げてチューン公国の国境に向かう馬車に乗る前。
レインが俺を見上げて、あの大人びた顔を見せる。
「またね。私の、──運命」
そう、呟いたのが聞こえた。




