24 正義のイザークとオスカー閑話
目が覚めたら、屋外実習から1日が過ぎていた。
早速、俺の部屋にやって来たアレンは、嘘みたいに元気そうで。
まあ、いいんだけどさ。
それで例の男爵令嬢や、もう一人居たらしいクロウラーの影は見事に即逃げたらしい。
確実にアレンを仕留めたと思ったんだろう。
赤毛に逃げられたのも痛い。
依然、影三人は行方を掴めず。
件の男爵家は聖王国サーラの政府により調査の末、爵位没収と当主の投獄が決行されたとのこと。
大した証拠は残って無くて、男爵の供述では帝国にまで届かず、けれど他国の王族も絡む案件の為に厳しい処分となったようだ。元男爵令嬢と職員は指名手配中との事。
結局、トカゲのしっぽ切りで終わった感じだな。
「私が助かったのは、テリュースのおかげだって聞いた。本当にありがとう、感謝してるよ」
寮の俺の部屋へやって来たアレンが、神妙な顔して礼を言う。やめろよ、照れるだろ。
「別に、大した事してない。回復魔法使っただけだし」
「本当に、回復魔法だけなのかい?」
「そうだけど?」
「そうなのか。──うーん……」
なんだか腑に落ちない感じのアレンだが、俺は回復魔法と、──あ、治癒魔法も使ったか。
「ああ、治癒魔法も使ったけど?」
「いや、そうじゃないんだ。私は金属性が適正ないの知っているだろう?でもね、何故か金の魔法が使えるようになったんだ」
「は?」
「夏休みで帰省後に、選別板で確認しようとは思っているが。何故だと思う?」
「え?何故だろう?」
え?俺の所為なの?何で?
というか、属性って増えるものなの?
まあ、アレンが元気ならどうでもいいけど。
◇◇◇
そういえば。
ダンジョンで寝たまま起きなかったイザークが、どうなったかと思っていたら。
翌朝の食堂でご機嫌なサルエルと、微妙な顔のオスカーが話を出した。
「僕のこと、闘魂のサルエルとか言い出すんだ。なんかちょっと格好いいよね」
「俺も、激情のオスカーやって」
「は、それって………」
「二つ名ですね。ちなみに私も、哀哭のレックスと」
「いや、違わんのやけど違う……ちゅうかアレは」
なるほど、前世の記憶が蘇ったとか?
しかも、ゲーム知識持ち。
「イザークには話とか詳しく聞いてないのか?」
「ああ、まぁ。会えば分かるやろ」
そして。
食堂に金髪ワンレンで碧眼のイザークが現れた。
「おはよう、運命のテリュース。屋外実習では迷惑を掛けたようで申し訳なかった。──その、体調はもういいのかな?魔力枯渇だったと聞いているけど。それにしてもテリュースは小さくても素敵だね」
一言余計だが、だが何か違うような。
視線に妙な熱があって怖いっ!
「あ、ああ問題ない。イザーク殿下にも問題がなくてなにより…………」
「そうか、安心したよ。──そういえば、クリスティーナ殿下とは婚約してないって聞いた。本当に良かった。彼女は悪役令嬢だから、テリュースも気を付けて。運命のテリュース、本当に尊い」
「えっと……あ、はい?」
確かにこれは、話し難い!というか逃げたい。
俺の硬直を察したレックスが連れて逃げてくれた。
「ヤバい、鳥肌立った」
「お察しします」
「な。聖王国サーラは巫女の情報あるやろうし、話が早ようてええかと思うんやけど、アレはなぁ」
「クリスティーナに話させろよ」
「あー、それがな………」
どうやら、クリスティーナと、あのイザークは相性が悪いらしい。
「私、いきなり悪役令嬢!とか呼ばれたんだけどっ!テリュースに近付くな!とかって、何なのっ!私の推しはレックスなのにーっ!」
はいはい。
毎度になる昼休みのカフェでクリスティーナの絶叫が響く。
「話がしたいなら、テリュースがすればいいのよっ!イザークの推しはテリュースみたいだしっ!喜んで話してくれるわよぉ!」
「──冗談にもならない」
「気持ちは分かるが正論やで」
嫌だっ!
しかも、前世絡みだとレックスを連れて行けない!
一人でアレと会うとか嫌だっ!
「よし、オスカーお前も道連れだ」
「マジか……嫌やなぁ」
◇◇◇
そんな訳で、夜。
レックスが鍛練に出るのを見計らい、オスカーとイザークの部屋に向かう。
人払いを頼んで、三人でなんと応接室に入った。
「ちょっ、俺の部屋より部屋数多いやん……」
「お前はまだいい、俺の部屋なんか……」
聖王国サーラ本国王子の待遇は良いようだ。
退室前に侍従の用意した茶を眺めながら、ソファーに座り話をする事にした。
「人払いしてまでの話とは何かな?運命のテリュースからの話なら、何でも嬉しいけれどね」
だから、ちょっと視線が怖いから。
「ぶっちゃけた話、前世を思い出したんやろ?」
本当にぶっちゃけたよ、オスカーのヤツ。
イザークが驚きに目を見開いた。
「──まさか、君たちにも前世が?」
「そうや。今の所、分かってんのは俺とテリュース。クリスティーナもや。後はオルトランの王弟」
「つまり、皆。別の世界で新たな生を望んだと?」
「ああ」
「そういう事やな」
「──しかも、皆。王族か」
「いや、まあ。一般人にも居るんかもしれんけど、今の所聞いた事は無いっちゅうだけや」
「セカシューと関係が……登場人物?いやでもオルトランの王弟は登場人物でも攻略対象でもないな」
「それやけど、乙女ゲーの内容に詳しいんか?」
「ああ、そうか。君たちもこの世界が『世界の終焉を愛で救ってみせるわ!』略してセカシューの世界だと気が付いているのか」
「いや、そう言ってるのはクリスティーナだけだ」
「せや、俺もテリュースもギルの旦那も知らん」
俺たちは乙女ゲーやるオタクじゃねぇ!と、心の声が揃った気がした。
「ああ、クリスティーナか……あの悪役令嬢ね」
ふんっ、と鼻で笑うイザーク。
そんなに嫌か。まあ、俺も嫌だが。
「そうだね、やり込んだよ。全キャラ攻略で隠しキャラの哀哭のレックスも出したさ!だけど、私の推しは運命のテリュースただ一人!ああ、銀髪を靡かせる麗しい彼……あ、今の、小さいテリュースにも可愛くて萌えるよ!」
いや、聞きたくなかったな。それ。
「アーっ!いや、それで内容なんやけど。巫女の情報は聖王国サーラはどこまで掴んどるんや?」
「ああ、主人公が行方不明なんだよね。詳しくは情報部に聞かないと分からないが。一人を攫ったのはほぼ帝国で間違いないと、ゲーム知識のある私には考えられる。ただ、実際は証拠がなくて問い詰め切れない状況らしい」
「え、一人?」
「どういう意味や?」
「14年ほど前、幼女を一人連れた高位貴族風の男が、サーラの聖なる山に近い街に居た事が目撃されている。当時、偽名を使っていたらしくて掴み切れていない」
「じゃあ、もう一人は?」
「まさに、行方不明のままなんだ」
つまり、双子の一人はおそらく帝国で、もう一人は一体何処に?
◆◆◆ side オスカー・グラントハイト
夏休みがやって来た。
朱赤の髪をポニーテールにした翠の瞳のグラントハイトの第一王子は、侍従に荷物を纏めさせて自国に帰らせた。そして、オスカー本人は自国から派遣された護衛のみ連れ、ギルバートに進捗状況を聞きにオルトランに立ち寄った。
「久しぶりやな、ギルの旦那。んで、巫女の事とか、世界の終焉なんやらは、どうなっとんや?」
いきなり押し掛けて来たオスカーに、思わず苦笑が漏れるギルバートだった。
オスカーが初めてオルトランにやって来た時も、事前に全く連絡もなくて驚いたのだ。他国にいきなり来る王子とか、グラントハイトはどういう教育をしてるんだと。付き添っていた侍従が恐縮頻りだった事から、この王子の性格かと諦めたが。
その時オスカーはまだ7才、ギルバート21才の邂逅だった。その1年後だろうか、マキューリアの第四王女クリスティーナが押し掛けて来て爆弾発言をしたのは。
ここは乙女ゲームの世界なのよっ、と。
もうどうでもいいが、転生者王族は自由過ぎると思うギルバートだった。
「相変わらず、自由な王子ぶりだなお前は。どうもこうも進展は無いぞ。まあ、万象の地図は頻繁に確認に行ってはいるが、それも未だ変化は無いし」
「そうなんか。学園やとなぁ、サーラの第一王子イザークが前世の記憶思い出したで。しかもや、ゲーム知識持ちみたいや。んで、巫女の行方やけど、やっぱり一人は帝国らしいんやけど。もう一人はわからんのやって」
「──え?双子は一緒じゃないっていう事か?」
「そうらしいなぁ、目撃されとんのが一人なんやって。面倒くさい状況やろ?」
「なるほどな。だが、サーラの第一王子が転生者なら、色々話は通し易くなりそうではあるな」
「そういや、手紙でヴァレリウスの魔王が来たってあったけど。どうなったん?」
「ああ、どうというか……まあ、魔導具でソレっぽく予言書物は作ったが。日本語だったし、気にはしてなかったな。どうやらテリュースの事で話が逸れてな。また来るらしいよ、ちょっと勘弁して欲しいが」
「作ったんか!マジか!──って、テリュース?そういや、オタク女がテリュースが王子ちゃうんは設定とは違うんやとか言うてたな」
「ったく誰のせいで要らぬ苦労をしたと思ってるんだ。まあ、だからか。テリュースは選別板に日本語で出たから出自が確定できなかったんだろうな」
「ふーん。まあ、テリュース見てたら、俺も銃だけ撃てたらええとか言うとらんで、ちょっと魔法覚えよとか考えたわ。全属性なんやしなぁ」
「どうした、何かあったのか?」
「えぇーとなぁ。屋外実習でな───」
そこで、屋外実習の経緯をオスカーが語る。
帝国の影らしい者に襲われ、ヴァレリウスのアレン王子が負傷で倒れた後だ。
腹を槍が貫通し、アレンの体は出血が凄かった。
致命傷だとオスカーは思った。賊もそう確信したのだろう。目的は達したとばかりに、賊の女エニードも姿を消す魔導具で消え逃走した。
残ったメンツは追うどころではなく、なんとかアレンの血を止めようと手持ちの低級ポーションを振りかけ布で縛って止血を試みていた。初級回復魔法も使ってはみたが効果が無いのか状況は変わらず。
その布さえも赤く染まり出血は止まる気配がなかった。もうあかんやろ、これは……オスカーがそう思って溜め息を吐いた時テリュースが戻って来た。
なんで直系王族が複数居て、誰も回復魔法使って無いんだよ!全属性だろ!
そう言われては返す言葉も無い。
授業に必要な魔法や、初級回復魔法は使えるが上級魔法は全然覚えていない王族メンツだった。
ちなみに、侍従のシウスは金の属性は持っていなかった為に回復魔法は使え無いという状況だったのだ。
そしてキレっキレのテリュースが、二度目の上級回復魔法を詠唱し始めた途端。
金の魔方陣が眩い光を放った。これでもかと込められた魔力に輝きをなお増して、光がアレンの体を包んだ。
通常の魔方陣はこんなに光る事など無い。
オスカーは特級魔法など見た事も無いが、思わず特級魔法なのか?と思ってしまった程だ。
だが特級魔法は、己の主属性の物しか使え無い。
銀のテリュースに、金の特級魔法は使える筈も無い。
そしてその光が、アレンの体からも発光を始めた。
それと共に顔色も戻って行く。
驚きに目を見開くばかりの中、魔力が枯渇するというシウスの声でオスカーも我に返る。
もうええって!と、止めた時にはテリュースの意識はなかった。
「──と、まあこんな感じでな。テリュースにはたまげたわ。あいつチートちゃうんやろか?」
「ふむ。チートはテリュースというより、有資格者の全てに言える事だと思うが。テリュースのはちょっと興味深い話だな」
「ああ、有資格者は全属性やから?」
「そうだ。そして、巫女の文献を色々と集めた中に興味深いものがある。神格化された初代の王サラディンは、巫女に選ばれた者であるという説だ。巫女に選ばれし有資格者は、世界を統べる権限を手に入れるという──巫女を攫った帝国の奴は、この説を知っている有資格者ではないかとな。巫女に選ばれると、全ての特級魔法すらも使えるようになる可能性がある」
「へえー、そら知らんかったわ。けど、テリュースは特級魔法は使ってないで。なんか妙なスキルが生えたせいらしいわ。怒りモードやと魔法の効果上がるんやて、どんなチートやっちゅうねん。──あ、チートちゃうけど、サルエルのあの技名は幾ら何でもないやろ!何で天津飯やねん」
「──ああ、サルエルは天津飯が好きだからな。ついな……冗談のつもりだったんだが、真に受けられてな。流石、叔父上とか言われたら訂正し難かった」
「ひでえ叔父やわ、サルエルは転生者ちゃうんやろ」
「ああ、選別板には普通に有資格者と出てた」
「あ、もう一人の悪役令嬢はどんな感じなんや?」
「ん?ああ、水の公女か。そちらは分からないが、その兄の公子がどうも転生者臭いな。4年前から冒険者ギルドを通して、大量の調味料の発注が入っているんだ。仲介に入っている男は7年くらい前から独自で調味料を取引してた者だから、一概に公子が転生者とは言い切れないんだが」
「ふむ?ギルの旦那の事や、その男は信用できるんやろ?」
「ああ、もちろん。ここだけの話だが、マキューリアの第一王子が10年くらい前に出奔したという話は知らないか?」
「んんっ?オタク女の兄貴で継承問題で逃げたって奴か?え、そいつ?」
「ああ、クリスティーナの異母兄だな。あそこの王は側妃が三人居るから、腹違いの兄弟姉妹が多い。その上、継承は長子相続ではなく能力で決めるとかで、諍いも絶えないんだが。その男は今は冒険者をやっている。どこで知ったかは口を割らなかったが、梅干し入りのおにぎりに感銘を受けたという。おそらく時期的にテリュースが絡んでいる。あの時期に梅干しを送ったのはヴァレリウスのテリュースだけだしな」
「へぇ、妙なとこで繋がっとんやな」
「ああ。ウケたのは、そのおにぎりの梅干しで前世の記憶が戻ったらしいって事だな。本人は隠してるが、間違いなくあいつは転生者だ。日本語の商品名を普通に読めるんだからな」
「え、梅干し酸っぱー、って前世が戻った?ちょっとウケるわ、ソレ!しかも、全然隠してないやろそいつ!」
二人で爆笑しながらゲームに関係なく、まだまだ転生者が居そうだなとオスカーは思った。
そうして、無作法な自由過ぎる王子は自国に戻った。
ブクマありがとうございます!
イザーク殿下はネタキャラなので、そういう展開はありません!念のためw
スマホでちまちま書いている話なので、PCからだと読み難いかな…とか今更に思ってます。
すみません!




