23 続・屋外実習
視界が切り替わったそこは、同じダンジョン内の何処かだった。
罠等の設置に転移の魔石を使っても、ダンジョン外には転移先を設定できない。
辺りの様子を覗えば、レックスと目が合った。
レックスも油断なく周囲を警戒中だ。
足元には同じく巻き込まれたイザークが倒れていた。障壁が間に合わず、裂傷があるのか服が少し裂けている。
とりあえず、意識がないようなので回復魔法をかけて寝かせておく。
ここは突き当たりの小部屋のようで、目の届く辺りには何も無い。入り口部分は暗く先は見えない。
「分断されただけか?」
「いえ、足音です。誰か来ます!」
入り口から現れたのは、30半ばくらいの茶髪の男だった。左半分に火傷の跡が見られる。
「──やっと来たか、待ちくたびれたぜ」
「アレンだけじゃなく、俺も狙いか?」
なんだ、この声に聞き覚えがある?
「このツラ見りゃ、わかんだろ?頭染めてでも、てめぇだけは借りを返したかったんだよ」
コイツは?!
「──お前、クロウラーのあの時の影か!」
「髪を染めて……?まさか、赤毛?!」
嘲る男を見て、レックスの顔が歪む。
「ったくよ、あの時の火魔法には参ったぜ。回復遅れてこんな様だ……」
「はっ──いい様だ!」
「……母さんの……!!」
そうだ、コイツは──バーンズ隊長の仇だ!!
「ああぁ!!てめぇも、消し墨にしてやるよ!!」
「ふざけるなっ!」
赤毛の魔力が唸ように吹き上がる。
もしかして、あの時の技?
「最初から全力だっ、業火炎熱衝破!!」
「『守護結界』!」
業炎を纏う短剣が、更に熱風を伴い切り刻む勢いで俺に迫る。させじと、レックスが短剣を抜いて俺の前に出ようとした。
けど、目で止める。打ち合えば短剣が溶かされる。
爺様の御守りを当てに、俺は水の中級魔法で迎え打つ。上級では範囲が広過ぎる、中級に魔力を更に込める。そして、コイツの火を凍らせてやる。
「『水よ、飽くなき凍れ其れを広げ凍土とせん──浸凍』」
アレンが火で無事だった事から、今回は対魔法防御だと見当を付けていた。
キーン!と甲高い音が響く。その後に乾いた音。
さすが爺様、弾いた。ここが正念場。
「ちいっ、またそれかよ!ってクソっ」
身を引いたヤツの腕や足が、白くなった。
完全に凍らせられなかったけど、動きは鈍るだろう。
しかし、爺様の御守りが砕けた。
「『鑑定』」
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シクロ 32才9ヶ月 ♂ Lv 29
主属性・火 Skill
HP 6840/ 8980 業火炎熱衝破,・要短剣
MP 780/ 1420 短剣技能・高
魔石操作・中
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警戒レベル・黄、あれ?思ったほどステータス高くないな。コイツ魔力低い。それで黄色か。
まあ、体力は俺の四倍以上あるけど。
さっきの技は後ギリ1回使えるくらいか?
今でこれだから、前は1回しか使えなかったかも?
「てめぇ、勝手に覗いてンじゃねぇ!」
「うるさい、やれレックス!」
「言われずとも!!」
レックスが速攻で切り込む、だが技能差や体格差の所為か鈍っている筈だが流される。
当然だ、レックスは背が伸びたとはいえまだ13才なんだ。
俺はひたすら補助に回る。
早さ上昇と腕力上昇で、レックスの技能差を補う。
「『快速』『剛力』」
「ふざけんなっ、クソがっ」
俺に短剣投げる余裕は無いだろうけど、保険もかける。
「もう一度『守護結界』!」
レックスが押している、赤毛は歳か?スタミナがないようだ。隙が出来たら攻撃魔法を放とうと、俺は手をかざしたまま様子を見る。
だが、業を煮やした赤毛が、あの技をまた使おうとしている。
「クソおっ、業火炎熱衝破!!」
「レックス、短剣で受けるな!溶ける!──それで、それでバーンズ隊長はっ!!」
「──っ?!」
短剣で受けようとしたレックスが、即座に体を滑らせるように躱し直進する赤毛の側面に回った。
そして──
レックスの短剣が、振り向く赤毛の胸元を穿った。
「ぐうぅ、クソっ、……」
膝を付く赤毛に、レックスが短剣を構えた。
マズいっ!!
「レックス、気持ちは分かるが。トドメは刺すなよ」
俺は慌てて、レックスを止めた。
「──はい」
そのわずかな間に、赤毛が懐に手を入れ──
その姿が消えた。
「──しまった、魔石か?!」
迂闊だった。直ぐに睡眠魔法を掛ければ良かったと思ったけど。
俺はレックスを止めるのにいっぱいだった。
「追います!」
「待て待て!一人で行くな!イザークが居る」
「──あ、はい」
気を失ったままのイザークは、まだ目覚めず小部屋の隅に寝て居た。揺すっても起きなかった。
仕方なく、取り急ぎ撤退魔法でダンジョン入り口に連れて飛んだ。
外では、意識不明なままのイザークで教師が騒ぎ出したが、怪我も回復したし問題ないと置いて来た。
急いでまたダンジョンに行かなければ。
アレン達はまだ、戻ってきていなかったのだ。
逃げた赤毛も気になるけど、外の騎士達はそれらしいのを見ていないと言う。
もしかしたら、姿を消す魔導具を所持していたのかもしれない。
俺とレックスは再びダンジョンに入った。
罠が仕掛けられたのは、入り口からの通路の先。
そして、その通路に足を踏み入れた俺は愕然とする事になった。
横たわるアレンの体が、じわじわ広がる血に染まっていた。
「アレン!」
「アレン殿下!」
慌てて駆け寄った俺に、怪我を負ったらしいシウスが頭を下げる。
「申し訳ありません、若様。私が居りながら」
「謝罪はいい、どうして治療しない!」
「すまん、ありったけのポーションは使ったんや」
「なんで直系王族が複数居て、誰も回復魔法使って無いんだよ!全属性だろ!」
「僕は初級しか覚えて無いんだよ」
「普段は使わんしなぁ、同じや」
「低級ポーションじゃ血が止まらないのーっ」
がん首並べてどいつもこいつもっ!
「もういい、俺が回復する!」
「けどたぶん、もう。あかんかも」
見ればアレンの顔に血の気がない!ちくしょう!
「うるさい!『金の、其の身を救う切なる癒しの光を望み求めん──快癒』」
上級回復魔法を詠唱して、金の魔法陣が展開するもアレンの血が止まらない。
なんだ、何か阻害されている?
「『金よ、其の身に宿りし害意持つ不浄を消し去らん──浄化』」
「テリュース様、アレン殿下の脈が……。これではもう。特級魔法でもないと……」
うるさい!
特級回復魔法なんか知らないし、知ってても特級回復は主属性が金じゃ無いと使えないんだよっ!
ゴタゴタ言ってないで金属性連れて来いよっ!
っていうか、金ってイザークだろ?!
あーっ、ちくしょう!役に立たねえ!
ちくしょう!また死なせるのか!
バーンズ隊長みたいに!
また俺の目の前で!
マリオン公爵が!爺様が泣くだろ!
ちくしょー!
アレンっ死ぬなっ!
「『金の、其の身を救う切なる癒しの光を望み求めん──快癒』!!」
ありったけの魔力をくれてやる!
「これは……」
「なんや、魔法陣がめちゃくちゃ光って……」
なんだかやたら魔方陣が眩しい気はしたが、俺はそれどころじゃない!とにかく外野の煩いのにブチ切れてた。
「アレン殿下の顔色が!」
「え?何これ、アレン殿下の体からも光が……」
「これはまた、凄まじいですな」
「どないなっとんや?」
あーもう、うるさいんだよ!
「──テリュース様?!」
「若!魔力が枯渇しますぞ!」
「ちょっ、テリュースもうええって!」
みんなが、ごちゃごちゃうるさい──
ちくしょー!
とか思っていたら、意識が途切れた。




