21 パーティー編成
それから一週間後。
その間はアレンの部屋が改装中だった事もあり、オスカーの侍従部屋では手出しが難しかったのか、襲撃はなかった。
例の新規採用職員は、遠目に確認するに留めたレックスによると、茶髪の男で顔から半身に火傷の跡が見られたという。新たなクロウラーの影に警戒が必要だろう。
そして、アレンに新しい侍従が派遣された。
前の侍従は、ヴァレリウス本国に強制退去させたそうな。さすが爺様だ。
今度のアレンの侍従はすでに髪は白い年配の穏やかそうな人で、シウスさんというらしい。学生ではないので、教室内には入れない侍従職専任だそうだ。
早速配属でアレンがシウスさんを紹介してくれた時、何故かレックスが酷く狼狽えていた。
「──アレン殿下の身辺は、今後かなり安全になると思われます」
「まあ、前のがいなければね」
「それもありますが。シウス師匠は私の先生でもありまして………」
「は?師匠?先生?」
「あの方は、ウォード砦で私に短剣等の手解きをして下さいました。歳を取られはしましたが、前歴はヴァレリウス王家の影だそうで。流石ご隠居様ですね」
どうやら、爺様は心強い人を引っ張ってきたらしい。確かに、さすがだ爺様。
って、そんな人をレックスの先生にしてたのかよ、一体レックスをどうしたかったんだ、爺様。
◇◇◇
「そうだ、テリュース。私とパーティー組もうよ」
「パーティー?」
ダンジョンが出現し始めたここ数年の話らしいが、恒例行事になっている春の屋外実習というモノがあるらしい。
全学年合同で、聖王国サーラ内の低レベル帯ダンジョンを使って行われるのだとか。
何故ダンジョンか、それにはこの世界の仕組みが関わっている。どこの領地に現れるか分からないダンジョンなので、いずれは跡取りとなろう貴族階級の子息子女にどういうモノかを学ばせる取り組みらしい。
実地で学ぶ意味があるのかとか、跡取りに危険が──等と、疑問はあっても言ってはならない。
そういう屋外実習らしいという事だ。
そして最上学年の3年生は、入園したての1年生を必ずパーティーに誘い面倒を見なくてはならないらしい。なんて面倒な話だ。
そんな訳で、3年生のアレンが誘ってきた訳だ。
ちなみに、夜の食堂だ。
飯を食いながら話を聞いている。
今日はカレーだ。
「………なるほど、いいよ。人数制限はある?」
「5~6人だね」
「じゃあ、俺とアレン、レックスで3人か」
「ちょっ、俺も混ぜてや。アレン殿下」
「ああ、オスカー殿下も是非」
襲撃の時に、オスカーの空き侍従部屋をアレンが借りた事で馴染みになったらしい二人だ。
「後は……あ、侍従とか連れて行けるのかな?」
「うん、王族や高位貴族が居るからね」
「じゃあ、シウスさんで5人か。最強だな」
「お任せ下さい、若様」
「いや、テリュース。侍従は数に入らないんだ」
「そうなのか、じゃあ後一人は欲しいのか」
後一人はオタク女?ちょっと面倒だな。
「ふむ、あいつ誘おうや。ギルの旦那の甥っ子」
「あー、闘魂の……面識あったの?」
「挨拶したくらいやな。あいつ同類ちゃうし」
「同類って、ああ。違うのか」
そうか、闘魂サルエルは転生者じゃ無いと。
「テリュース、誰を誘うって?」
「オルトランの第一王子、闘魂のサルエル殿下」
「──闘魂?」
「それは二つ名だそうです。アレン殿下」
「えっと、隕石落とし──みたいな?」
「咄嗟にそれが出るとか、さすがアレンだな……」
「隕石落とし、ってヴァレリウスの前王弟やろ。めちゃ有名やん、破壊魔王やってな」
「そうなんだよ!うちのお祖父さまなんだ!」
「──破壊魔王って……いや、間違ってはないな」
「敵味方を巻き込み、周囲を破壊されておられましたから。いや、懐かしい……私も潰されかけたものです」
「──シウス師匠、ご隠居様って……」
まあ、ギルバートさんの事とか聞けるといいかなと、闘魂を誘ってみた。
初めて正面から見たが、明るい茶髪は短く切り揃えられて、琥珀のような瞳の元気良さそうなオルトラン第一王子・闘魂のサルエル殿下だ。
面はいいのに名前も雰囲気も猿っ子。
「おう、ありがとう。彼も一緒でいいか?」
サルエル殿下が指差したのは、隣に並ぶ金髪のワンレンを肩で揃えた碧眼のイケメン。(王族は本当に美形ばっかりだよな)聖王国サーラ第一王子・正義のイザーク殿下だった。
「やあ、よろしく頼むよ」
そんな訳で何故か、攻略対象が揃い踏みの──ただし、主人公不在──パーティーが出来上がってしまった。男ばっかりだな。
運命のテリュース
激情のオスカー
闘魂のサルエル
正義のイザーク
哀哭のレックス
引率のアレン
侍従のシウスさん、って濃いメンツですね!
そして、当然というか。
「ええぇ───っ?!もう、パーティー組んじゃったのぉ!!しかも、何っ?!攻略対象が全員パーティーに居るとか、聞いてないぃっ──!!」
「成り行き?」
「そやな」
「ちょーだいぃ、レックスだけでいいからぁぁ!」
「申し訳ありません、私はテリュース様の侍従ですから………」
「いけずぅー!けどそんなレックスにも萌えるぅ」
「──そもそも、萌えとは?」
「もうぉーっ、いいもんっ!女の子だけでパーティー組むからぁぁー!!」
泣きながら走り去るクリスティーナだった。
◇◇◇
そしていきなり屋外実習当日。
実習場所のダンジョンまで、教師が持ち回りで転移でグループ毎に移動させるらしい。
教師は学園の障壁に魔力登録がある為、転移を外部に発動可能なんだと。しかし、その回数を数人で回すとか大変そうだ。魔力ポーションガブ飲みか?
人数を馬車に詰め込むより、早いし金はかからないし安全でもあるとは思うが。
「ごきげんよう。クリスティーナですっ、クリスって呼んでねっ。今日は頑張るわっ!ちびっ子達には絶対に負けないんだから!」
デカい胸を振り現れたクリスティーナが、腰に片手を添え俺達6人を指差す。
一言多いわ、オタク女め。
サルエルがその胸元に反応して顔を赤らめる。
なるほど、小猿エルは巨乳派。
「だ、誰。あの娘?」
「マキューリアの第四王女、クリスティーナ殿下です」
小声の小猿エルにレックスが返す。
「というか、何?勝負なの?」
「討伐成績優秀者には、魔法実技の評価査定でプラス判定になるんだよ。学園の生徒カードが、実は冒険者ギルドカードと似た機能でね」
「ほう、なるほど。討伐記録が残るのか」
「そうよっ、だから負けないわっ!」
「ですが、クリスティーナ殿下は2年生ですから、判定は1年生とは別ですよ」
「もうぉー、クリスよっ!レックスのいけずぅー!」
また胸を逸らして強調した後、ぷんぷんしながらクリスティーナが自分のパーティーメンツを連れて転移に向かう。
そのメンツに、あの茶髪の編み込み男爵令嬢が居たのにはさすがの俺もドン引きだ。
レックスも気付いたようだ。
「マジか……」
「クリスティーナ殿下は、話を飲み込まれてはいなかったのでしょうか?」
「どしたん?」
「何かあるのかい?」
「例の水濡れ令嬢だ」
「あの日、女子寮で水濡れだった女子が居たと報告を受けている。その生徒だね?」
「あのオタク女……何考えとんや、いや考えとらんな絶対」
「私はシウス師匠と情報共有します」
「そうか、あの襲撃犯なんだね……」
状況が分からないサルエルとイザークは、キョトンとしてた。
しかし、これは。
男爵令嬢を警戒していなかったと言えば嘘になるが、クリスティーナと同じパーティーという事に意図が有るような気がする。
目立たないように認識阻害を使っていた男爵令嬢が、目立つ王族と行動を共にするのだ。
つまり、俺達がクリスティーナと接触する関係である事を知っていると考えられる。
これは例の新規職員も、紛れ込む可能性があると思った。
サルエルとイザークにも、ある程度の情報共有は必要だろうと話す事にした。説明担当はレックスだが。
「──つまり、以前の襲撃犯が、今回も何か行動を起こす可能性があるという事ですか」
「そうです、イザーク殿下。このまま行動を共にされると巻き込まれる恐れがあります」
「でも、無いかもしれないんだよな?別に僕は構わないかな、イザークはどうしたい?」
「ですが、サルエル殿下。状況的には可能性は高いのです」
「そうですね。教師や警護の騎士にも、この情報を共有して増援させましょう。ここは私の国です、他国の王族が危険なのに引く訳には参りませんよ。私も一緒に行きますとも」
さすがは正義のイザークか?
正義感に溢れた感じで、現場の教師に聖王国サーラ第一王子として命令を出した。
ダンジョン内への警戒に騎士増援要請。
万が一の為、賊を逃がさぬよう布陣を敷く。
そして、俺達は波乱の屋外実習に向かうのだった。




