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別の世界で新たな生を望みますか?と、問われた俺の物語  作者:


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2 アレン登場

 爺様に魔導具で鑑定されてから、魔力制御や魔法理論の勉強時間がぶっ込まれたのはまぁいいんだけど。

 魔法はロマンだし。

 けど、そこに更に言語学だの礼儀作法と、座学を増やされ俺はストレスが溜まっている。

 俺、まだ4才児なんですけど!



 そんな訳で──

 魔法を使うのは、部屋の中じゃなければ問題ないかと、ウォード砦の四方にある監視塔の一つに向かった。

 哨戒の騎士が降りて来たのをやり過ごして、ダッシュで上に上がる。

 最近空を、群れ成して飛ぶ見慣れぬ鳥が目に付いていたからだ。そこでストレス発散がてら、覚えたばかりの風の初期魔法『風刃』で、飛ぶ鳥をザクザク切り裂いたら気持ち良かろうと。

 初期魔法なら、俺の魔力でも10回は発動できるし!

 焼き鳥、手羽先、たぶんみんなも喜ぶ!


 しかし、意気揚々と上がった塔の上で見るその鳥は、思ってたよりデカかった。

 地面から見上げた時は、小さかったんだけどね。

 とりあえず、一羽くらいは落とせるだろうと頑張って狙ってみた。首をはね飛ばせば勝ち!


「『風よ、研ぎ澄ます刃と化せ───風刃』」


 と、上手く一羽落とせたと思ったら、そのデカ鳥は薄い紫色の煙になって消えた。

 え、消えた?!


 そして、その刹那。

 残りのデカ鳥の群れが一斉に俺を見た。


 ちょっ、ヤバいかも?

 焦った俺は、無我夢中で『風刃』を早口で連射!

 幸いデカ鳥の動きは遅い。


 俺に特攻で突っ込んできてたから、狙わなくてもザクザク当たる。

 けど、俺の目を狙ってくるからマジ怖ぇ!

 バタバタ落ちて、煙になって消えたと思ったら。

 なんか生肉が転がってるのが凄い違和感だけど。

 さすが異世界。


 ──残りどれくらいだ?

 と、思った瞬間。くらっと視界が揺れて意識がすうっと落ちていく感じがする。

 うげっ、これが魔力枯渇かっ────!!


「このバカ者が!『守護結界』!!」


 俺に突っ込んできたデカ鳥は、目と鼻の先で爺様の展開した魔法の障壁に弾かれた。

 霞む視界で、俺の意識が途切れる前に見えたのは。


「『雷迅』!」


 眩い雷光を幾重にもデカ鳥に放ち、肉を転がしながら、俺の前に悠然と立つ爺様の後ろ姿だった。

 ちょっ爺様、あんた格好いい!


 ───なんて、感動したのは気の迷いだった。

 目が覚めたら、お仕置きが待っていたよ。


「………その前にお祖父さま、あのデカい鳥の肉は、どうなりましたか?」

「ああ。後始末に駆り出した詫びに、騎士団の連中に振る舞った。この辺では珍しい魔物だが、なかなか悪くない味だったな」

「………ぜ、全部食べちゃったんですか!!」

「当然だろう、気候的にも傷みやすいのだぞ」

「そんな───!!」

「さて、テリュースよ。罰として、今日一日静かに反省するが良い!『静寂』!」

「………………………………!!!!」


 何この魔王様!!!!



◇◇◇



 そろそろ汗ばむ季節になった。

 テリュース・ウィルクス、4才7ヶ月。


 最近座学で知ったこの地域は、ウィルクス公爵領内にあるそうだ。そしてウィルクス公爵は、テリュースの伯父さんに当たるらしい。

 ちなみに、爺様が前公爵家当主だったそうな。

 後を嫡男・現公爵に譲って、隠居してるのが現在。

 だから何だと言われても困るが。


「初めまして。君がテリュースかな?僕はアレン・ウィルクス。よろしくね、君の従兄だよ」


 つまり公爵のご子息で俺の従兄が、夏の間の避暑地としてここに居座るらしい。


 アレン・ウィルクス。6才2ヶ月。

 ウィルクス家の血が彼も濃く出ているようで、手入れの良さそうなサラサラの銀髪を顎のラインで切り揃えて、まるで女の子のようだ。瞳は薄い水色。

 浮かべる笑みは品良く、貴公子然として育ちの良さが伺える。まあ事実、公爵家嫡男だしね。

 だからコイツは間違いなく、将来敵になるだろうなと、俺は思った訳だ。イケメンは敵だ。


「やあ、テリュース。今日もお祖父さまと座学の勉強なの?僕も一緒でいいかな?」

「いいんじゃないですか?ただ、アレン様は僕より年上なのでつまらないかもしれませんが」

「そんなことないよ、尊敬するお祖父さまとの勉強は楽しみだな。君が羨ましいぐらいだよ」


 アレン君は、爺様っ子か。

 というか、アレン君は昼過ぎのこの時間は、騎士団駐屯地で鍛練じゃなかったっけ?

 避暑に来てるとはいえ、公爵家の家庭教師も一緒に連れて来てるらしいんだよな。

 公爵家嫡男は、それはそれで大変ぽいな。

 そして、アレン君の護衛騎士を率連れて、爺様の部屋に向かった。

 爺様は少し驚いていた。


「どうした、アレン。鍛練はいいのか?」

「はい。その、私も……テリュースと一緒に、お祖父さまに教わりたいのです」

「それは構わぬが──まあ、良い。二人とも座りなさい」


 ちょ、爺様──俺とアレン君への対応、違くね?

 しかし、アレン君はせっかく爺様の部屋に来たのに、なんか沈んでるな?


「それでは、テリュース。昨日の魔法理論の続きから始めよう」

「はい、お願いします」

「──え?魔法理論?お祖父さま、テリュースはまだ4才ですよね。何故…………」

「…………テリュースは平均より魔力が多くてな、その為に無茶ばかりして何度も魔力枯渇で倒れておる。──故に、少し早いが理論を教えている所だ。アレンは既に習った所だとは思うが、復習と思って聞くがいい」

「…………はい、お祖父さま」


 結局、アレン君はなんか沈んだままだった。

 魔法理論が初期段階過ぎて、つまらなかったのかもしれない。

 ……って、俺の所為じゃないし!4才児だし!


 けど、通常は6才で選別の儀を受けてから、魔法理論とか習う訳だし。

 そこまで、授業内容に開きは無い気もするよな。

 いや、公爵家嫡男の勉強だから、めっちゃ進んでたりなんかして────。



◇◇◇



「やあ、テリュース」

「おはようございます、アレン様。今日も一緒にお祖父さまの所へ行きますか?」

「いや…………今日は、鍛練に行こうと思うんだ」

「あ、そうなんですか」

「…………うん」


 明けて翌日。

 今朝の食堂でのアレン君との会話だ。

 なんだか元気がなかった気がするが、まあ割とどうでもいい。


 それよりも、俺には夏到来に向けての野望がある。

 氷の魔法だ!

 魔導具で保冷機能が付いた物はあるそうだが、冷凍機能は無い。そして保冷機能の魔導具も、小型の冷蔵庫くらいで大した容量も無いときた。

 ここの砦に唯一ある保冷機能の魔導具は、騎士団でポーションなんかの薬品管理に使っているらしいからお目にかかった事もない。


 夏と言えば、ビールだ!が、この世界で流通してるのはぬるいエールだ。

 せめて氷を浮かべたい!

 氷が欲しければ、自前の魔法でなんとかするしかない!

 と、いうわけで。氷の魔法な訳だっ!!


 え?4才児がアルコール飲料ってどうなのって?

 この世界は飲酒法ないし、エールは水のようなモノらしいよ。

 まあ、子供の体じゃ大した量飲めないと思うし。


「さて、取り出しましたるは、樽です」


 厨房で使ってない樽を無断借用して、自分の部屋まで転がしてきた。


「坊ちゃま、何の遊びですか?」

「まあ、見ててよ」


 何を始めたのかと、困り顔で覗く侍女のニーナは無視だ。

 俺は転がして寝かせたままの樽の口の中へ、氷魔法を展開。詠唱と共に水の魔法陣が広がる。


「『水よ、凍て付く棘となり穿て──氷刺』」


 シュパパパッ──ガツガツ!ベキベキッ!

 樽さんが穿たれて、底に無惨な大穴が空いたぜ!


「───坊ちゃま?」

「問題ない!とりあえず、樽の中に刺さってる氷を確保だニーナ!」

「ご隠居様には、坊ちゃまがお部屋で魔法を使って樽を壊した旨を後で報告しておきますよ」

「えぇ──やめて、やめて!!また静寂の刑に処されるから~!!」


 何とか木製のジョッキ一杯の氷を確保して、俺は急ぎ厨房に向かった。

 その場にいた料理人からエールを注いでもらい、メイドに運ばせますよ~とか言うのは断って、零さないように食堂までゆっくり歩いた。

 冷えてきたジョッキの温度に、たまらず一口飲んでみた。

 うん──味はともかく、冷たいのがいい!

 そろそろ昼食の時間だし、エールで昼飯を食うぜ!

 ウキウキで食堂に足を踏み入れたそこには、何故か爺様が仁王立ちならぬ魔王立ちしていた。

 ニーナ!もうチクったのか?!


「テリュース、厨房の樽は騎士団で賄うエール用のものだ。魔法遊びの標的にしてはならない。──そして、部屋の中で魔法で遊ぶなと、何度言えば分かる!このバカ者が!!」

「ご、ごめんなさい」

「今日も夜まで静かに反省するが良い!『静寂』!」


 速攻で魔法を放った爺様は、俺が握りしめていたジョッキをぶん盗りゴクリと喉を鳴らして一口飲んだ。


「!!!!」

「これは没収だ、幼い者の飲酒はよろしくない。──ふむ、私はエールは余り好まぬが、冷たいのは悪くないな」


 ニヤリと笑い、魔王は食堂の椅子に優雅に腰掛けた。このクソじじい!!!!



◇◇◇



 翌日。

 昨日の反省を基に、金属製の壊れないモノで試そうと思考錯誤していた。

 思ったより氷魔法の威力が高い為、銅製品だとたぶんベコベコに凹むと思う。厚めの鉄製品ならギリ耐えられるかな。


 厚手の鍋とか鉄板を求めて、厨房に突入してみた。

 昨日も居た料理人──名前はドニというらしい。──から、厚手のスープ鍋を借りた。

 昼過ぎから仕込みに使うので、それまでならいいとのことだ。


 4才児には重量のある鍋を、えっちらおっちらと時間的に人が居ない中庭に運んだ。

 花壇の石垣に鍋を斜めに乗せて、腕を構えた所で声を掛けられた。


「やあ、テリュース。何しているの?」

「……えっと、鍋に氷を入れようと。─アレン様は、休憩ですか?」

「鍋に氷?──うん、休憩。朝の家庭教師の授業が一つ終わったから。それで、氷って?」

「暑くなってきたので、飲み物に入れる氷を魔法で出そうと思って………」

「──魔法……使うの?見ててもいい?」

「あ、はい」


 食い気味にアレン君が見てる中、腕を構えて鍋を狙う。


「『水よ、凍て付く刺となり穿て──氷刺』」


 水の魔法陣が描かれ、氷の刺が鍋に叩き付けられる。

 シュパパパッ──ガツガツガツガツッ!!!!ゴーン!

 最後のは、衝撃で鍋が石垣から転がって倒れた音。


「うわっ!」


 慌てて鍋を起こして中を見た。

 鍋底に張り付いた氷は無事だった。

 なんとか、鍋も凹んでない。

 ほっと一安心で振り向けば、アレン君は目を見開いたまま立ち尽くしていた。


「……えっと、よかったらこの氷でオレンジジュースでも飲みますか?」

「──うん、ありがとう」


 顔色が悪いアレン君だが、護衛騎士が控えているし大丈夫だろうと、俺は鍋を抱えて厨房に移動した。

 鍋から削った氷をジョッキに入れ、料理人ドニにオレンジを絞ってもらって氷の上から注いだ。

 ジョッキを2つ握って、厨房からまた中庭に出ればアレン君は動いた様子もなく、その場に立ち尽くしていた。


「アレン様、どうぞ」

「…………ありがとう」


 近くの花壇の石垣に腰掛けて、俺はオレンジジュースを飲んだ。氷で冷えたジュースは冷たくて美味しい。

 飲み終わって立ち上がったら、アレン君からため息が聞こえた。


「───テリュースはまだ4才なのに、本当に……魔法が使えるんだね……」

「はい?」

「僕は……6才で、選別の儀も受けたのに、魔法理論だって魔力制御だって、ちゃんと勉強してるのに……魔法が発動しないんだ……ぼ、僕は……頑張ってる…のに……っ……」


 涙声でポツポツと喋るアレン君に、俺は気まずくて視線を逸らしてポリポリと頭をかいた。

 魔法が発動しないというのは、ちょっとよく分からないけど──自分より小さい奴が、当たり前にできてたら、そりゃキツいよな。


「……でも、僕は………公爵家の嫡男だから……出来て当たり前………なのに出来ない……お祖父さまにも…顔向け……出来ない」

「お祖父さまは、気にしないと思うけど」

「お祖父さまっ……は……英雄……なんだ…5年前の戦争だって……お祖父さまが、なのに……こんな不出来な……僕みたいな孫が……申し訳なくて……」


 めちゃめちゃ爺様好き過ぎだろ、アレン君。


 アレン君が握りしめてるジョッキが、チャプチャプと声に合わせて音を立てる。

 氷溶けちゃっててもう飲めないな、なんて勿体なく思いながら──

 掛ける言葉も思い付かなかったし、黙ったままアレン君の手からジョッキを奪って、中身をその場で捨てた。

 とたんに、ハッとしたようにアレン君が俺を見た。


「氷が溶けてしまったので、もう美味しくないですから………アレン様は部屋に戻った方がいいと思います」


 それだけ言い残して、俺はとっととその場を去った。




 



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