19 遠見の巫女
昼休み。
恒例になりつつあるメンバーで、カフェの丸テーブルを囲む。
俺、オスカー、クリスティーナ、レックスだ。
既に各々食い物を食いながら話をする。
その為、レックスも座らせて食わせている。
「──うん、そうよ。主人公は予知能力っぽい能力がある設定。確かね、攻略対象への選択肢でどれを選ぶかって時に、これを選ぶとこうなるかも。みたいな一手先が見える感じ。完全な予知とは違うみたい?」
「──なるほど、それで遠見の巫女か」
「完全に見えたら、乙女ゲー……やない、予言書物のバランスが崩壊するやろ」
「──予言書物のバランスが崩壊?」
「聞き流せや、ソコっ!細かいわ!」
「そんな細かい指摘のレックスにも萌えるわぁ」
「萌えの要素どこにあるんや」
予知能力っぽい、か……微妙だな。
「──それで、予言書物ではその能力を狙った者が妹巫女を襲ったと聞いたが。その襲撃犯は明言されてないのか?」
「コイツさらっと流したで、見習え侍従」
「はい、申し訳ありません」
「いやぁん、レックス尊いぃ。──あ、犯人ね。明言は無いんだけど。その冒頭で流れる説明の所のイラストが帝国兵っぽかったわ。全年齢向けだから色々誤魔化された表現だったけど、襲って自分の女にしようとして、絶望した妹巫女は自分で命を断ったみたいな」
襲って自分の女って………あれ?
「……って、巫女が行方不明になったの14年も前だろ?歳は幾つだ?」
「それもねぇ、予言書物とは違うのよ。予言書物だと、スタートする1年前のその冒頭の時期。つまり今から1年後の事件で14才の筈なんだけど。ちなみに予言書物だと主人公は攻略対象と同じ歳なの。──けど、現実は計算が合わないわよねぇ」
「──どう考えても、俺らより年上やな」
なるほど、現実はロリコン野郎という訳じゃないのか。
「色々と時期が違って幼女だったから、そのまま攫われた?──その、帝国兵っぽい奴の顔とかは?」
「うーん、ロン毛のイケメンだったわねぇ。髪の色とかは、モノクロの絵だったから分かんないなぁ。でもモノクロで黒だったから、黒かそれ系の濃い色かなぁ。それで、マントに黒豹の刺繍があったのよ、黒豹って帝国の国旗よね?」
「そうですね。裏地の色が分かれば色々と見当も付くのですが……黒豹のマントは、帝国の爵位持ちです」
「やっぱ、帝国でビンゴやな」
とはいえ、それはゲームの設定だ。
そして時期がズレたのには、意味は有るのか?
襲撃当時には俺達──攻略対象である有資格者は産まれていない。既にそこで乙女ゲー的には、成り立たない気がするけど。
いや、年下を攻略するショタゲーに変化?
うーん、ダメだな。ゲームだと思うからダメだ。
現実を見よう。
時期がズレる何かがあった?
14年くらい前。──産まれる前。
「──世界の魔素の減少、ダンジョンの消滅。その時期じゃないのか?」
「……確かに、それぐらいの時期ですね」
「せやな、なんか関係があるんやろか?ギルの旦那は何も言うてなかったけど」
「んー?予言書物ではそんなの無かったわよ」
「魔素の減少が先か?襲撃が先か?微妙な時期ではあるかと思いますが」
「巫女が攫われたから、魔素が減少してダンジョンも消えたなら──巫女が絶望しかけた為に、とか説明付かないか?」
「それでは、裁定の針自体が意味を持ちませんね」
「あ、そうか」
うーん。魔素の減少は関係ないか。
この世界と密接な感じだと思うんだが。
密接と言えば、万象の地図!
「──万象の地図で、各国に国の色で光る表示があるよな?」
「ああ、有る。遺物の事やろ」
「遺物?」
「ソコに何が在るかとかは知らん。うちの王家の言い伝えやと、古の契約の元に開かれる。とかってあるけど。要は王を嗣がんと開けれんし入れんのや」
「あー、うちのマキューリアの遺物はねぇ、思うままに魔導具が造れる遺物なんだって。お父様が言ってたよ」
「お、お前っ、遺物は国毎の秘匿案件なんやぞ!それをまぁペラペラとっ!」
「でも、どうせ王のお父様しか入れないしぃ。こう言うの造ってって頼んでも、自分の頭にそのイメージが浮かばないとダメとかって微妙なのよ。それ目当てに兄様達は後を嗣ぐのに目の色変えてて、相続争いで一番上の兄様とか逃げちゃって空気悪いしぃ」
「なるほど、そういう類いの遺物なのか」
「まぁ、そうらしいで……ちなみに、ここだけの話な。うちのは武器や防具らしいわ」
「ほう、つまり国毎の特色が……」
「そうとも限らんとは思うで、特色ない国もあるし。テリュースのヴァレリウスなんか特色ないやろ」
「──確かに、無いな」
「そうですね、ヴァレリウスには特色と言える物は浮かびませんね」
「けど、国毎の……それってもしかして……」
「なんや?」
「いや、何でもない。独り言だ」
もしかして、と思ったのは。
世界が消えて、新たに再生される時に必要になる機構なのかも………とか、ちょっと思った。
まあ、世界が消えてからの事なんて、考えても仕方ないんだけど。
「そうや、テリュース。関係ないんやけど、昨夜の賊はアレン殿下狙いなんか?」
「ああ、そうだ」
「昨夜って、男子寮の襲撃よね?何があったの?けっこう大きな音だったから、女子寮でも騒ぎになってた」
「ヴァレリウスの、アレン殿下の部屋に襲撃がありました。賊は火魔法を放って逃走しております」
「嘘っ!アレン殿下って大人びた雰囲気のイケメンよね!大丈夫だったの?」
「お怪我もなく問題はないそうです」
「ほんでも、部屋がめちゃくちゃやで、よう怪我せんかったよな」
「そっかぁ、良かったねぇ。女子寮だと、お風呂に入ってて音にびっくりした子が居たみたいで。廊下を水浸しにしてたの。ちょっと驚き過ぎだと思ったけど」
「え?」
「クリスティーナ王女殿下、その話を詳しく……」
「はぁっ、レックスぅ。クリスって呼んでぇ」
「…………クリス王女殿下、お話をですね」
「んーっ、話って水浸しにした子?気になるの?ちょっと妬けちゃうわね」
「──いいから、早よ!」
「もぅ、テリュースなんか、ちびっ子のクセにぃ」
「殴るぞ!」
チビ言うな!ていうかその話の女の怪しさに何故気が付いてないんだコイツ!
「──ほんで水浸しがなんや気になるんか?」
「はい。賊は逃走後に水に浸かっております。転移先が廊下であれば、水浸しもあり得ます」
「ん?そもそも、なんで水に浸っとるんや?」
「魔法痕跡を消す為ですね。水中で魔石を発動させれば詠唱もなく痕跡も消せます。その手口をクロウラーの影が使って逃走するそうです」
「なるほど、んでその女子が怪しいと──」
「んー?なんだか良くわかんないけど水浸しが関係ある感じなの?」
ええい!まだるっこしいっ!!
「で、その水濡れ女子は?」
「え、えっとぉ。確か1年の子で、……あ、セタル男爵令嬢だったと思う」
「──良し、とりあえず調べてみるか」
「はい、畏まりました」
「ちょっと、レックスまでこっちスルーしないでよぉ!」
「はい、クリス殿下。その男爵令嬢の特徴などは?」
「え?特徴?髪の色とか?──えっとぉ、挨拶くらいしかしてない子なのよね。確か、茶髪で編み込みしてたかなぁ。やっぱり気になるの?レックスぅ」
「容疑者という意味でしたら、気になります」
「ええーっ!どういう事なのっ?!」
全く話が飲み込めてないクリスティーナは放っておいて、移動する事にした。面倒くさい!
「もう行くぞ、レックス」
「はい、テリュース様」
「ちょい待ちぃや、アレン殿下を襲撃したんは、帝国の者なんか?」
「おそらくですが」
「マジかぁ。なんや面倒な事になってきたな、ヴァレリウス」
「ああ、頭が痛くなるよ」
だが、取っ掛かりは出来た。
男爵令嬢なら部屋は二人部屋か四人部屋の筈だ。
そして、浴室は共用のものしかない。
クリスティーナは王族用の4階で部屋に風呂があるから気が付いていないみたいだが。
入浴時間の決まっている共用の浴室で、夜中に風呂はあり得ない。
まあ、水が張られてたから嘘じゃないけどな。




