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別の世界で新たな生を望みますか?と、問われた俺の物語  作者:


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12 続・ダンジョンへ行こう

 通路の先は少し拓けた所で、道が二方向に分かれていた。どっちに行こうかと考えて、左側の道へ。

 左手の法則ってやつだよ。

 すると直ぐに、突き当たりの土壁っぽいのが遠目に見えた。ハズレだな、と思っていたら──


「あ、あれ!テリュース様、宝箱じゃないか?」


 レックスが行き止まりの下の方を指差して、いきなり走りだした。その途端。

 宝箱らしきモノの手前で、レックスの頭上にショッキングピンク色の蛇がぼとぼとと落ちて来た!


「うわぁ?!」

「レックス?!」

「天衝破!」


 慌てて詠唱しようと思った瞬間、カイさんが剣を振り回して突きを放つと衝撃波が発生した。

 その衝撃波で、落ちてきた蛇が壁際に吹き飛んだ。

 団子状態の蛇三匹、まとめて狙う!


「『風よ、研ぎ澄ます刃と化せ──風刃』」

「『火よ、その熱量を弾丸と化せ──炎弾』」


 俺の風の刃に、体勢を立て直したレックスの火球が乗った。最初のカイさんの技で、ほとんど死にかけのピンク蛇三匹は呆気なく煙になった。


「カイさん、ナイスだ!かっけぇー」

「すいません、ありがとうございます!」

「おう、ケガしてないか?」

「カイさん、お手数おかけしました。ありがとうございます。──レックスは迂闊さを反省しろ」

「ごめん、母さん」

「まあまあ、次からは気を付けようなレックス。それで宝箱は?」


 蛇のドロップアイテムが周りに転がる中、変わらずある宝箱に目を向ける。

 装飾もない質素な箱だ。ハズレ臭い。


「ん?鍵が掛かってる、開けられる?」

「それなら『解錠』っと」


 初級黒魔法の解錠で、レックスが鍵を外した。

 初級だと簡単な鍵しか開けられないから、俺は覚えてなかったけど、初級の詠唱無しが可能になったレックスはちゃんと覚えていたらしい。


「本当に凄いな、お前ら。詠唱無しで魔法使えるお子様とか聞いた事ないぞ」

「そうなの?自分の主属性は習熟が早いって、爺様が言ってたよ」

「いや……それにしても。王族とかならともかく」

「っ、良いではないですかカイさん!たまたま優秀な子供達なだけですから、我が子ながら誇らしいです」


 ちょっと焦りを感じるフトモモ様にカイさんも微妙な顔になったけど、レックスだけは照れて顔を背けた。

 そして、肝心の宝箱の中身は魔石が一つだった。

 まあ、入り口近くの宝箱だし、大した物が出る訳ないとは思ったんだけど。

 鑑定してみたら、中級魔法の『撤退』が込められていた。最後に使用した魔法ゲートに転移できるというモノらしい。つまり、ダンジョン内で使うと入り口に戻れるアイテムという訳だ。


 ちなみに、転移魔法は上級魔法で希少ですが、ダンジョン内では発動しないので、撤退が使えないと面倒なのです。ただ例外として、罠等の転移は発動します。ご注意を。と、フトモモ様が仰った。


 現在のメンツだと撤退は誰も使えない魔法なので、まぁ良かったね。って事で、来た道を引き返して分岐の右側通路を行く事にした。



◇◇◇



 右側の通路は土壁の天井辺りから、クモの巣がびっしりと垂れ下がっていた。

 見た瞬間に俺は手をかざした。


「『火よ、その熱量を弾丸と化せ──炎弾』」


 居るのは分かってんだよ!シネシネ!

 俺はクモなんか大嫌いだぁー!

 火がクモの巣に広がって、ブスバス燃えるとワラワラとクモが出て来た!成犬くらいの真っ赤なクモが四匹!!気持ち悪くてしかもその大きさに目眩がした。


「『火よ、その熱量を弾丸と化せ──炎弾』」

「ちょっ、テリュース様落ちつけって!『鑑定』」


 唖然としてたレックスが立ち直ったか鑑定を発動している。だが、俺はクモなんか鑑定したくない!

 早く抹殺だ!


「テリュース様、このクモ火に耐性あるみたいだぞ!」


 な ん だ と


「『水よ、凍て付く刺となり穿て──氷刺』『水よ、凍て付く刺となり穿て──氷刺』『水よ、凍て付く刺となり穿て──氷刺』『水よ、凍て付く刺となり穿て──氷刺』」


 ピキーンピキーンピキーンピキーン!


「見てないで、早く粉砕しろ!」

「「「は、はい!」」」


 呆然としてた全員が慌てて剣やナイフで凍ったクモを叩き壊して行った。

 まったく、つまらぬものを凍らせてしまった。


「テリュース様、クモがお嫌いなんですね」

「あんなもの好きなやつ居ないだろ!」

「あー、坊よ。次からクモは俺とレックスが対処するわ」

「それは助かる」


 クモの魔物とかあり得ない!

 というか、俺は虫系全般が苦手だ。

 前世、独身だった俺はアパートの4階に住んでいた。たぶん独身だ。狭いアパートだったし。

 そして、帰宅してエアコン付けようとしたら部屋に居たんだ。アゲハ蝶が!どこから入った?

 アパートは4階、窓も締め切っていた部屋でひらひら飛ぶアゲハ蝶──恐怖で部屋から出て、助けてくれとツレに電話した。

 そんな、どうしようも無い記憶が蘇った。

 そうだ、だから蝶も嫌いだ。


 とりあえず、クモが消えると残っていたクモの巣も消えたので、ドロップアイテムはレックスが回収して先に進むのだった。

 その後も、狼の魔物とかコウモリっぽいのとか出たりした。クモの時は俺は静観で進み、やっと一層を降りた所で広さもある場所だったし昼食にする事になった。


「このダンジョンって、そんな大きい訳じゃないんすよね?」

「はい、広さはそこそこありますが五層までしかないと聞いています。力量のある冒険者なら数時間で踏破できると予想されます。ご隠居様は3時間も掛けて調査したそうですから」

「3時間もか──あ、ご隠居様って、外に居た人だろ?あの隕石落としで有名な前王弟の」

「知ってるの?」

「ご高名はかねがねだな、戦争の功労者にして英雄だから。名前だけは知ってる人は多いぞ、俺の爺ちゃんが隕石落としのファンでな!」

「マジで?」

「マジマジ、会ったなんて言ったら腰抜かすな」


 アレンが聞いたら喜びそうな話題だな、と思いながら昼食用に用意されてた梅干し入りおにぎりをほおばる。

 フトモモ様が魔導具のリュックで運んでくれたお弁当だ。中にはかなりの量が入るらしい。中は時間も停止してるとかで、おにぎりも全然乾いてなかった。


「坊の食ってるの何だ?」

「オルトランの食材の米で作ったおにぎりだよ、一つ食べる?」

「お、いいのか」

「いいよー、俺しか食べないし」


 カイさんにおにぎりを渡して、反応を待つ。

 前に梅干し食べた時の俺の反応で、レックスはずっと警戒していて、絶対に梅干し入りおにぎりは食べないのだ。なんてやつだ。


「おー、美味いなコレ!真ん中の赤いのが酸っぱいけど──」


 おにぎりを食べはじめたカイさんが、不意に動きを止めて目を見開いた。

 なんだ、その反応?


「カイさん、梅干しの種は食べなくていいよー」


 種抜かずに丸々1個入っているから、それかと思ったけど。

 カイさんは目を見開いた後、何度も瞬きをしてから首をブンブンと振った。


「カイさん?」

「あ、坊か──ああ、いやこの梅干しがちょっと酸っぱくて驚いたんだ」

「そうなんだ?口に合わなかった?」

「いやいや、美味い!これ、オルトランで手に入るんだったか?」

「うん、他国にはそんなに流通させてないみたい」

「マジか、オルトランの冒険者ギルドに頼むかなぁ」


 美味しいっていうのは本当だろうな。頻りにどうやって手に入れようかと考えているようだ。


「テリュース様。魔力の残量を考慮して、今日は二層の探索で終わりにしましょう。二層には退避用のゲートがあると聞いています」

「え、最後まで行かないの?魔力は回復してきてるし、行けそうなんだけど」

「ですが、怪我などの回復ポーションは持参してきていますが、魔力回復ポーションは用意しておりませんので。やはり後日にまた来ましょう」

「後日か……クモがいるから微妙なんだけど」

「行けそうなとこまで行ってからでいいんじゃないすか?最奥まで行けば脱出用のゲートもあるって聞きましたけど?」

「最奥はボス部屋です。撃破後にゲートが出現するので、ボスを倒す余力が必要で──」

「俺とバーンズの姉さんがいるから、このレベル帯なら問題ないって」

「バーンズ隊長もカイさんも強いしね!」


 なにはともあれ。二層の退避ゲートの場所をまずは探してから、後は考える事にした。

 さあ、行こうと立ち上がりかけた瞬間──

 カイさんとフトモモ様が顔を見合わせて、俺とレックスに手振りで待てと示した。

 まだ遠いけど、耳を澄ませば話声と靴音が複数聞こえる。


「──今日は、騎士団の調査はないはずですよね?」

「はい、私達以外の人間がいる事はおかしいです」


 カイさんとフトモモ様が小声で交わした後、遠くから聞こえる話声が微かに聞き取れた。


 «──とにかく、最奥だ。そこにダンジョンの封石と呼ばれるコアがあるらしい»

 «それ取っちまえば、ダンジョンが消えるんだろ?ダンジョンが消えても俺達大丈夫なのかよ?»

 «問題ない、コアを外すと生存者以外はダンジョンもろとも魔素と化すという話だ。昔はそれを利用して、死体遺棄など証拠隠滅に使っていたらしい»

 «まあ、今回は公爵家への腹いせでダンジョン消すだけの綺麗な仕事だけど»


 会話内容はとんでもないものだった。

 しかも、聞き覚えのある声がいる。

 あの赤髪の男だ!

 今度はダンジョンを消すだと、ふざけんな!!


「────テリュース様、レックスを連れて退避して下さい。私がここに残って足止めします」

「俺も残るから、坊は応援を呼んできてくれ」


 足音は3人。つまり、赤髪と青緑髪ともう一人。


「──敵は、魔法に特化したやつもいる。二人では厳しいと思うから、俺は残る」

「テリュース様、それはいけません」

「いいから!レックス撤退の魔石だ、それで爺様に伝えろ、『井戸』の封鎖が必要な敵だと!」

「え、井戸?」

「そう言えば爺様は分かる!行け、レックス!」


 レックスに撤退の魔石を渡して、一人で発動させた。レックスの姿が消えて、フトモモ様バーンズ隊長が溜め息を付いた。


「テリュース様は、賊が何者かご存じなのですか?」

「詳しくは知らないよ。前にアレンを殺そうとしてた、クロウラーの関係者って事くらい。俺とアレンを誘拐した実行犯のやつの声が聞こえた」

「──帝国クロウラーか」

「なんて事だ、和平協定を破るのか……」

「たぶんだけど、赤髪の男は直情で物理攻撃特化、青緑髪の男は魔法主体──もう一人は分からないけど」


 ぐっと拳を握り締める。

 俺の習熟度合いでは大して保たないけど、魔力を込めれば少しは保つか?


「爺様が来るまでお願いします。『守護結界』」


 俺は、カイさんとバーンズ隊長に対物理障壁を張った。二人の顔が引き締まった。

 そして、足音が近くまで来た。


「あれ?人が居るね?」


 少し拓けたこの場に現れたのは、例の二人とそして10才くらいの黒髪の少年だった。

 その少年の面立ちは、目の色こそ金色と違えど黒髪だからなのか酷く似ている気がした。

 その顔にバーンズ隊長が息を飲む。

 めっちゃ、レックスと似ていた。


「今日は誰もダンジョン内に居ないって聞いたんだけど、マリー叔母さんは当てにならないなぁ」

「あれ、このガキ。公爵のとこの……」

「うわ、思い出した!ムカつくガキだ」

「お前達、何言ってるの?公爵のガキはお前達がしくじって王家に入っちゃったでしょ。おかげでマリー叔母さんのヒステリーが酷いし」

「そのガキと一緒に居たのが、そいつなんだって」

「ふうん、公爵の庶子とかかな?まぁいいか、邪魔だし早く殺せよ。お前達」

「チッ、殿下の仰せのままに!」

「以下同様!」


 好き放題言ってたかと思った矢先、赤髪の男が短刀を抜いて俺に向かって来た。それをバーンズ隊長が剣で払い赤髪の体制を崩した。


「テリュース様には近付けさせませんよ!」

「チッ、うぜぇな」

「『風よ、唸れ雷雲列なれ……』」

「おっと、詠唱はキャンセルだ、天衝破!」

「くっ……」


 青緑髪の詠唱をカイさんが潰す、青緑髪も短剣を抜いた。いい感じに時間稼ぎが出来そうな構図になる。

 俺は合間に加勢したい所だが、あの少年がどう動くのか気になる。

 少年──赤髪が殿下と呼んだ、つまりクロウラーの皇族?なんで皇族が?


「うん?僕が気になるの?なぜ僕のような高貴な者がここに居るのか。仕方ないんだよね、ダンジョンの封石は資格者にしか触れないらしいから。ほらお前達、あんまり時間かけないでよね」


 ダンジョンの封石 資格者?

 コイツも有資格者ってやつか?!

 余裕こいてんじゃねぇよ!


「『水よ、凍て付く刺となり穿て──氷刺』」

「なっ?!うわぁ─腕がっ」

「ちぃっ、殿下?!」


 俺の水魔法で殿下の右腕に氷の刺が突き立ち、その周囲を白く凍らせる。

 注意が逸れた赤髪にバーンズ隊長が剣を振るう、がしかし赤髪が辛うじて躱した。

 カイさんも切り込むが、青緑髪は短剣でひたすら受け流すに徹する。


「このチビが!舐めてんじゃないよ!」


 キレたらしい黒髪殿下が俺に無事な左手をかざす。

 そこに浮かぶは黒の魔法陣──


「『黒の、迸れ唸れ其れを………』」


 知らない詠唱、中級魔法か?

 とりあえず潰す!


「『水よ、凍て付く刺となり穿て──氷刺』」


 慌てた俺の魔法発動で、黒髪殿下がギョッとして詠唱をやめはしたが狙いが外れ地面を凍らせた。


「このガキっ」


 赤髪が短剣を俺に投げた、がバーンズ隊長がそれを剣で弾く。そして返す勢いで赤髪に振り下ろすも、赤髪は再び懐から短剣を抜きその剣を受け流した。


「『風よ、研ぎ澄ます刃と化せ──風刃』」


 カイさんの隙を付いたか青緑髪から風の初級魔法が放たれた。それはカイさんを掠めて俺を狙ったものだった。ヤバい!


「『地よ、硬質なる尖石を隆起せよ──地隆』


 咄嗟に俺の眼前に岩の先端を突出させ壁にした。

 風の刃が弾かれた。


「ふざけやがって──けど、いくらなんでもガキの魔力はもう無いはず!殿下!」

「そ、そうだよね」


 そうだなぁ、普通の5才のガキならな!

 フトモモ様は鑑定で俺の魔力量は知っているから慌てない。カイさんもなんとなく魔力量が多いのは気が付いてる。

 よって、まだまだ問題ない!

 気を取り直したらしい黒髪殿下がまた詠唱を始めようとした。させるかよ!


「『水よ、凍て付く刺となり穿て──氷刺』」

「ちょっ、まだ魔法使っ、──ヤイロの嘘吐き!」

「ええぇ……」


 俺の氷刺が、大慌てで避けようとした黒髪殿下の右足に刺さった。

 青緑髪──ヤイロに文句を言う黒髪殿下。

 その傍ら、短剣でガンガン切り込むも、隙無くバーンズ隊長の剣に弾かれまくった赤髪が苛立ちに唸っていた。


「シクロっ!!もう魔力温存しなくていいから、さっさと殺せよ!!」

「分かった!殺す、ぜってぇ殺す!」

「ええぇ、ちょっと殿下。シクロの転移の魔力残さなくて逃げられるの?外にはあの隕石落としが……」

「井戸くらい近くにあるでしょっ!!ヤイロも早くそいつら殺せっ!!」


 ヒステリックに黒髪殿下が叫んだ後、赤髪──シクロから魔力が噴き上がる。


「業火炎熱衝破!」

「くっ……?!」


 業炎を纏う短剣が、更に熱風を伴い切り刻む勢いでバーンズ隊長に迫る。己の剣で受けようとしたバーンズ隊長の目が見開かれる。鋼の剣が半ばで溶け出した。

 剣を捨て避けようにも遅くシクロの短剣がバーンズ隊長の胴を焼き、──キーンッパキンという音と共に短剣が一瞬弾かれる。

 だがそれも一瞬で、短剣の連撃による衝撃でバーンズ隊長の体が吹っ飛び地面を滑った。


「ちっ、またそれかっ!!」

「──バーンズ隊長?!」

「なっ……バーンズの姉さん?!」


 俺には全ての流れが一瞬で、魔法も間に合わなかった。慌てて倒れたバーンズ隊長に駆け寄る。


「今、回復魔法を……あ、ポーションがあったよね!」

「も、申し訳……ありません。テリュース様……致命傷です。……初級魔法では……ポーションも…低級……」


 シクロの技はバーンズ隊長の胴体を、未だ煙が出る赤い炭火のように変えていた。


「バーンズ隊長?!──バーンズ隊長!!」

「しっかりしろ、坊!」


 その時俺は慌てたカイさんの叱咤する声を遠くに聞きながら、バーンズ隊長の胴体と周囲の状況をまるで俯瞰するように感じていた。

 黒髪殿下が笑みを浮かべて俺に手をかざす。


 ふざけるな。こんなのレックスになんて言えばいいんだよ。ふざけんな。こんなのあり得ない!

 おまえらも、燃えちまえよ!!


 俺は唯一知っている上級魔法を思い出す。

 初めてテリュースが発動させた魔法。


「『炎よ、噴け高まれ其の爆熱を衝動に広がるは焰の陣──獄炎』」

 

 広い範囲を高温の爆炎が包みそして広がって俺が敵だと認識する者を焼き尽くす。

 その熱を感じながら、カイさんの声と爺様の声が聞こえた気がして、意識が遠のいた。

 魔力枯渇だ。




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