11 ダンジョンへ行こう
そして、夕刻。
夕飯時に帰宅した爺様に、食堂で話を聞いてみた。
「お祖父さま、北の子爵領のダンジョンはどんな感じだったんですか?魔物が強かったんですよね?」
「ああ、ダンジョン外の魔物が高レベルと報告を受けて、子爵領のダンジョンへ調査には入ったが──ダンジョン内の魔物は該当するものが居らず、レベル帯もそこまで高い魔物構成ではない。それにより、ダンジョンから出た魔物ではないだろうと結論付けて後はマリオンに投げた」
「北の子爵領のダンジョンは、マリオン公爵の管理下になるんですか?」
「いや、正確にはダンジョンが発生した領土に帰属する資産になる。だが、それを管理できる資産を持たない領主は、国に寄贈する事になる。マリオンは寄親として相談を受けたに過ぎないのだ」
「なるほど。──では公爵領にダンジョンが発生した場合は、マリオン公爵のものなんですね。ダンジョンで稼げるんですよね?」
「うむ。ただ、発生する場所によっては損害もあるのだ。いきなり街中に発生する事もある」
「え?街中はちょっと困りますね。人がいない所ならともかく……」
ちらっと壁際に控えてるレックスを見れば、顔を強ばらせて立っている。やっぱ聞いてたな。
マズいな、これは後で爺様へ報告されそうだ。
新しいオレンジの点、ウォード砦の北西って何があったかな──爺様に報告が来てないなら、まだ発生してないって事かな。
「──ご隠居様、お食事中に失礼致します。ウィルクス公爵様より急使が参っております。公爵領内にダンジョンが発生した模様です」
執事が爺様にマリオン公爵からの使者来訪とダンジョン発生を告げた。
爺様は急ぎ、応接室に向かった。
セーフ!思わずレックスに視線を向ければ、レックスは肩を落として苦笑いで俺を見ていた。
◇◇◇
翌日。
俺とレックスは鍛錬時間にだべりながら、走っていた。走り込みだ。
「──昨日の夜は生きた心地がしなかった」
「まあまあ、もうダンジョンは発見されたし」
「そうだけど……あ、そういや昨日。テリュース様、詠唱無しで障壁出してなかったか?」
「昨日──ああ、猪の時か。うん、銀の初級は無詠唱でも発動できる様にはなった。俺は主属性が銀だし。レックスも黒ならできるんじゃないかな?」
「え?!マジで?──『鑑定』……おお!出来た!」
「自分の主属性は、習熟が早いって爺様が言ってたじゃん。ただ効果とか発動時間とかはまだまだ低いけど……あ、昨日といえば、レックスは夜間に短剣の技とか習っている訳?」
「え?!」
「昨日、一人で一匹倒してたよね」
「あ、いや──それは黙秘」
「ちっ……もう帰れ」
「うぐ……」
今日も爺様の講義はお休みだ。
昨夜のマリオン公爵からの使者は、爺様への公爵領のダンジョン調査の依頼だったらしい。
朝から爺様はダンジョンに向かった。
しかしダンジョンか、ちょっと行ってみたいな。
「あれ?お祖父さま、もう帰って来たんですか?」
昼過ぎ、今日はどうしようかなっと思ってたら、爺様が砦に帰って来た。
「うむ、ダンジョンの調査は終わったのでな」
「早かったですね!狭いダンジョンだったんですか?」
「それもあるが、ダンジョン内の魔物が底辺レベル帯だったのだ。あれは旨味が全く無いと言えるダンジョンだ。マリオンに判断は委ねるが、抹消して次を待つべきだろうな」
「へ?抹消?って、ダンジョン消せるんですか?」
「ああ。消して魔素に還す事で、また何処かにダンジョンが発生する。ただ、我が公爵領に再び現れるとは限らないのだが」
ダンジョンが任意で消せるだと?!
消すくらいなら遊ばせてくれ!
「あ、あのお祖父さま!魔物が底辺レベルって事は僕くらいでも探索出来ますか?抹消される前に行ってみたいです!」
「──ふむ」
「あ、それに!ダンジョンって何年か無かったんですよね?だったら、ダンジョン初心者の冒険者向けに解放すれば、しばらくは多少は利益も出るのでは?」
「──なるほど、マリオンに伝えておこう」
おおぉ?!マリオン公爵さま!
消す前に遊ばせてくださーい!
◇◇◇
せっかく発生したダンジョンなので、マリオン公爵も旨味が余り無いとはいえ消すのは少し惜しかったらしい。消した後で、他で美味しいダンジョンが生まれたらそりゃ悔しいよな。
俺の案を聞いて冒険者ギルドに打診した所、あちらも乗り気だそうな。
なにしろ、ダンジョンが消えて8年近く経っている。その間に冒険者となった世代は、みんなダンジョン経験が無いのだ。
ダンジョンがあちこちに発生しているとはいえ、ギルドとしても難易度の高いダンジョンにいきなり行かせるのは悩む所だったそうな。8年近くの冒険者不遇時代で、冒険者になる人も減り生活に困って辞めた人も多いらしい。そんな人達のカムバックも応援したいという訳だ。
そんなこんなで、冒険者ギルドの協賛も受けて、初心者ダンジョンが確立する事となった。
そして二十日程後。
ダンジョンの準備も粗方整ったそうで、冒険者に解放する前に俺達に遊ばせて貰える事になった。
マリオン公爵ええ人や~。
ダンジョンが出現した場所は、街道近くの森林だったので、被害もなくダンジョンまでの道を整備するだけでよかったとか。
森林を切り拓き、ダンジョン周辺は簡易な広場になっていた。出店の準備も見られて、賑やかになりそうな感じ。警備の公爵家騎士団も配置されていて、ダンジョンにしては妙に物々しい気もする。
「やあ、テリュース久しぶりだね。ダンジョンの件は、本当に感謝しているよ。父上の報告を最初に聞いた時は、旨味が無い抹消するしかないだろうと、そう言われたんだ。それが、その後に君の案を聞かされて、テリュースは賢いと誉めていらしたよ。私もそう思う。君の案には本当に助かった」
まさか居るとは思わなかったマリオン公爵が、ご機嫌で現れた。爺様は軽く咳払いして、マリオン公爵をじとりと睨む。
「マリオン伯父様、お久しぶりです。僕はダンジョンで遊びたかっただけなので恐縮です」
「うんうん、是非楽しんでおくれ。それで、冒険者ギルド側からも、一人同行させる事になっているのでよろしく頼むよ」
「冒険者ギルド所属のカイです。本日はよろしくお願い致します!」
マリオン公爵の後ろから現れたのは、まだ若そうな20代半ばぐらいの深緑色の髪の青年──いつぞやの冒険者カイさんだった。
「彼は今後、冒険者ギルドの新人指導にも当たるらしく、先にこのダンジョンの確認をしたかったそうだ。Cランク冒険者だそうだから、護衛代わりにはなるよ父上」
「うむ。ならばダンジョンへは、バーンズに任せて私は残ろう」
俺とレックスの保護者として来てた爺様だったけど、底辺レベル帯のダンジョンらしいし、過剰戦力なので残るのだろう。
という訳で、ダンジョンへは俺とレックスに護衛のフトモモ様バーンズ隊長。プラスの冒険者カイさんで挑む事になった。
これでも十分、過剰戦力だと俺は思うけどね。
そしてダンジョンへ!
ダンジョンの入り口は、突貫工事で仕立てたと思う建設中の建物の横にある、お堂の様な建物の中らしい。これもダンジョンの為に作られたモノだった。
「一般的にダンジョンとは言いますが、入り口は洞窟の様なものではありません。これがダンジョンへの入り口です」
円形のお堂の中は、床のない囲いの様な感じだった。フトモモ様がその中心を指さす。
そこには、なんというか球体のブラックホール的なものが浮かんでいた。濃紺の渦巻き状で、魔力が感じられる。ゲートとかなのかな?
「通常は、冒険者ギルドに登録のある者だけが、外で手続きを行いダンジョンに入れるようになります。防犯対策としてこの建物が設置されました」
「防犯対策って……一般人が入らないように?」
「そういう面もありますが。他領のダンジョンを妬み消そうとする者が、過去には希に居たそうなのです。それが、一番の要因になります」
「うわぁ、勝手に消されるのは困るね」
「はい、そういう事です」
「それでこれが、入り口なんですか?」
「そうです、それに触れる事でダンジョン内部へと移動します。入り口周辺にトラップ等はないと伺っていますので、どうぞ安心してお進み下さい」
「え?!入ったらいきなりトラップとかあったりするんですか?!」
「そういうダンジョンも、過去にはあったと聞いています」
「うへぇ……」
「マジか」
「ダンジョンてヤバくね?」
どうやらカイさんもダンジョン初体験らしく、ちょっと今のフトモモ様のトラップ発言にげんなりしてる。
けど、爺様が既に調査済みだし、ここに危険はないのは分かっている。
そして、俺達はその入り口に触れた。
一瞬の浮遊感のようなものを感じた後は、景色が切り替わった。
そこは光射す洞窟の少し拓けた広場っぽい感じだった。上を見ても穴がある訳ではないのに、どこからか光が射している。足元は乾いた土らしい。
「あちらが通路のようですね、テリュース様参りましょう」
「はーい」
「そうそう、カイさんといいましたか。私はシルーニア・バーンズと申します。今回はテリュース様の護衛として同行しております。ですので、こちらはお気遣いなく冒険者ギルドの職務を遂行頂いて問題ありません」
「あ、はい。どうもです」
おや、カイさん。フトモモ様が美女過ぎてちょっと照れてる感じ?レックスが胡乱な目をしてるぞ、と。
話かけたいのはやまやまなんだが、フトモモ様にカイさんと遭遇した話がバレると後が面倒だしな。
とりあえず、先に進むぜ。
フトモモ様が示した通路は、洞窟の中をくり抜いた感じの少し狭い道だった。狭いといっても3人並んで歩けそうな感じだ。
先頭にフトモモ様、その後ろに俺とレックスが並び、最後尾にカイさんで進む。
俺の眼前にはフトモモ様の、フトモモ様所以のフトモモがある。チビでよかった。
レックス俺を突くな!
少し進むと通路の先方に、魔物が現れた。
「『黒の、其の真理を解き示さん──鑑定』」
「『鑑定』」
俺のすぐ後にレックスも鑑定を発動した。
俺達の前に黒い魔法陣が浮かぶ。
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クチナワ Lv 7 主属性・水
HP 780/ 780 Skill
MP 100/ 100 桃色吐息・小
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警戒レベル・白、けどレベルは俺より上。
眼前に見えるはフトモモ……じゃなくて、通路の先方にはとぐろ巻く四匹のピンク色の蛇が居る。
大きさは普通の成犬くらいの全長だが(それでもデカいけど)、色がヤバい。
ショッキングピンクってやつ。
「まだ、こちらに気が付いていないようですね。どうされますか?テリュース様」
「じゃあ、俺右端から潰す、後はレックスよろしく。バーンズ隊長は待機でいいです」
「分かった。俺は左だな」
「『水よ、凍て付く刺となり穿て──氷刺』」
「『火よ、その熱量を弾丸と化せ──炎弾』」
俺が右端の蛇へ、レックスが左へと魔法を発動した後、レックスがナイフを抜いて駆け出した。
俺は、俺の魔法で凍り付いた右端のピンク蛇に手をかざして詠唱に入る。
どうやら、習熟度が少し上がって魔力量に差があると、氷刺は対象を凍結させ易いらしい。
「『地よ、硬質なる尖石を隆起せよ──地隆』」
そして、凍結させた敵は衝撃で粉砕できる!
地面から凄まじい勢いで隆起した岩の先端が、凍結しているピンクの蛇を粉々に粉砕した。
薄い煙になって消えるそれを横目で見ながら、次の蛇に手をかざす。
「『水よ、凍て付く刺となり穿て──氷刺』」
その間、レックスが左端の延焼しているピンク蛇を、ナイフで切り裂いて煙に変えていた。
そして、レックスに反応していた別のピンク蛇が俺の氷刺で凍結する。
動いているのは後一匹。
単体でなく、範囲で凍らせれば楽そうだよな。早く中級魔法覚えたい。──とか思いつつ、動いているピンク蛇へ手をかざす。
「『水よ、凍て付く刺となり穿て──氷刺』」
面白いくらいに凍りつくピンク蛇、魔力量の差ってやつは凄い法則だね。
そして粉砕!
「『地よ、硬質なる尖石を隆起せよ──地隆』」
でも、俺より魔力量が多い敵だと凍結しないんだよな。やっぱ、魔力量を増やすのが俺つえぇできそう。
残りの凍結ピンク蛇を、レックスがナイフで砕いて煙に変えて終了。
ただ、見ていたフトモモ様とカイさんが、びっくりした顔で立っている。
「テ、テリュース様、魔力量は大丈夫……ですか?」
「うん、全然大丈夫」
「母さん、テリュース様は魔力量が多いから」
「えっ、母さん?!」
「あ、はい。レックスは私の息子ですから」
「………マジか」
あ、カイさんがショック受けてる。
分かる分かる。フトモモ様は若く見えるしね。
「テリュース様、失礼は承知の上ですが鑑定を使用しても宜しいですか?」
「いいよー」
護衛として気になるんだろうな、戦闘を止められても面倒だし見て把握してくれてた方がいい。
「しかし、凄いな坊。俺、初級魔法の氷刺でこんなに凍るのとか初めて見たよ。あ、けど前も凍ってたな」
「あー、ピンク蛇の魔力量が少なかったからだよ」
「いやいや、坊はまだ子供だからな……末恐ろしい」
「あ、ドロップアイテムか?なんか転がってる」
レックスが地面から水色の石と蛇皮らしきものを拾い上げた。
「うん、何それ宝石?」
「ああ、魔石だな。魔導具師なんかに特に売れる。それに蛇皮もあるのか、蛇皮は素材だ。初心者にはいい資金源になりそうだな、ここは」
「じゃ、カイさんに俺の分あげるよ」
「何でだ、坊?」
「俺アイテムはいらないけど、もう少し魔法使いたいから。獲物独占は悪いし」
「いやいや、俺は冒険者ギルドから日当が出るんだ。気にする事はないぞ、坊」
「ご飯代の足しにならない?それに、口止め料だから。俺達と会ったのはここが初めてって事で」
「んん?あーなるほどな、テリュース坊ちゃんだし?」
ちょっと声を落としてカイさんに言えば、理解してくれたようでニヤリと笑って魔石を受け取ってくれた。俺もニヤリと笑い返した。
俺に鑑定を掛けたフトモモ様は、レックスを引っ張り何かボソボソ話している。俺の魔力量が普通の子供よりは多い事に驚いたんだろう。
とりあえず、ドロップアイテムが他に落ちてないか辺りを見てから移動する事にした。




