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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
反光合成禁断ノ時限果実

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「現実には、戻りたくない」


 最小単位社会の日々があまりにも尊すぎた。この幸せがあまりにも素晴らしすぎた。


「楽しいだけに、このまま……引き篭もりたい」


 今更開かれた、現実社会の未来になんの幸せがある。


「お願い、します。……センパイ」


 この現実社会(レールの上)に、わたしの幸せはありません。


「わたしを……一閃十界の、レナファルトのままで……いさせてください」


 貴方の側にいることだけがわたしの幸せです。


 わたしという存在が、現実社会でどれだけ重荷になるかは承知しています。もしこの地が陽の光に晒されてしまえば、貴方がレールの上で築いた全てを失ってしまうことも。


 それでもどうかお願いします。


 これからも、リスク(わたし)を背負ってください。


「最後通告だ。これが人生のセンパイなりの、最後に見せてやれる優しさだ」


 重荷になり続ける覚悟を示したわたしに、センパイは言った。


「ハッキリ言おう。レールに乗った人生なんざクソだ。いっそリスクを背負ってでも、レールやルールを外れて左団扇で暮らしたい。レールを走ってる奴らを、こいつらなに必死こいてんだ、って雲の上から笑っていたい。


 だがな、そんなことができないから、俺はこうして底辺街道を走り続けてる。向上心もないが賞罰もない。嫌々、泣く泣く、レールの上で日銭を稼いで、まあ、なんとかこの暮らしくらいは維持できてる。これが一度もレールを外れなかった男の末路だ」


 現実社会でのセンパイの将来は、輝かしいものではないのは知っていた。


 なにかの拍子で簡単に崩れ落ちる、拙い足元であることも。


 センパイは現実社会で真面目にやってこなかった、必死にやってこなかった。


 だから社会はそんなセンパイが落ちたとき、自業自得だと言うであろう。


「だがな、初めからレールを外れた奴は、もっと悲惨だぞ。無理にレールへ戻ろうとしたところで、一度外れた奴に社会は容赦ない。


 通過儀礼を怠ってきたことに、今までおまえはなにしてきたんだ、って罵ってくる。今更戻ってきたところで、わざわざ踏み台になりにきたのか底辺め、と嘲笑ってくる。そのくらい面倒で、だるくて、かったるくて、惨めな思いをしなきゃならん。


 後先考えず楽しいことだけをやってきたツケは、そうやって未来で払わなきゃならん。残念ながら、それがクソみたいな社会に生かされるってことだ。一度レールから外れたら、二度と這い上がれん自信があるぞ俺は。


 そんな未来への不安を抱えたままで、これまでどおりやっていけるか? 怖くないのか? 今まで通り、楽しいに引き篭もっていられるか?」


 それでもセンパイは立派である。わたしとは違って、現実社会(レールの上)で生きていけているのだから。


 センパイは現実を現実のまま捉えられない、愚かな盲人ではない。楽に流され未来から目を背ける人間であっても、置かれた現実を受け入れず、両耳を塞いで俺は悪くない社会が悪いんだと叫ぶ愚者ではない。


 現実を捉え、受け入れた上で『社会はクソだ』といつも叫んでいる、模範的なろくでもない大人なのだ。


 そんな大人の姿を、臆面もなく見せつけてくる。


 人間、こうはなりたくないだろ、と。


 おまえはまだ間に合うぞ、と。


 わたしの未来を想って、そんな道化を必死に演じてくれる。その優しさがとても温かかった。


「怖く、ないです。だって――」


 ですがわたしに、そんな優しさは必要ありません。


「未来のことなんて、なにも、考えてませんから」


 だって最初から、未来のことを捨ててセンパイに救いを求めて来たのだから。そこに間違いはありませんでした、この幸せこそがその証明です。


 先に待っているのは決して明るい未来ではない。


 けれどこの幸せが、漠然とした未来への展望を暗ませてくれる。そこに不安も恐れはなにもないのだ。


「一閃十界のレナファルト!」


 怒鳴るような音。ろくでもない未来に微笑みすら浮かべてしまったことに、説教されるかもしれないとつい身をすくませてしまった。


「汝の自宅警備員雇用は、本日を持って正社員へ格上げだ!」


 だがもたらされたのは説教ではなく、


「知ってるとは思うが、うちには福利厚生なんてない。なにせブラック企業だからな。社員の人生の責任なんて取る気はさらさらないぞ。それどころか俺は、社員の未来とやりがいを搾取するようなクソ社長だ。このことが労基にバレたら最後、倒産だけじゃすまん。秒でしょっ引かれる。そんな社長のもとで働いてるんだ。そんときはおまえだって、タダじゃ済まんからな」


 酷い雇用概要であった。


 あまりにもろくでもないその内容だが、目を見開いてしまった理由はそれではない。


 リスク(わたし)を背負い続けてくれると決めてくれたのだ。


 視界が霞んでしまうほどの喜びが、この胸の内に湧いた。これ以上ない喜びである。


「だからレナ」


 しかしそれは打ち止めではなく、ポン、と頭に手を置かれると共に、


「堕ちるときは一緒だぞ」


 最後の最後まで一緒にいてくれると誓ってくれたのだ。


 衝動に任せるがまま、センパイの胸元に飛び込んでいた。喜びを抑えきれず、泣きじゃくってすらいた。


 そんなわたしを鬱陶しがることもなく、慈しむように頭を撫でてくれる。 


「ほんと、おまえも災難だな。こんなろくでもない大人に引っかかって。神童の未来が台無しだ」


 センパイはおかしそうに、神童たるわたしの未来を憐れんだ。


「仕方、ありません。だって……」


 そんな憐情があまりにもおかしくて、


「わたしは……ろくでもない子供、ですから」


 涙声ながらついクスリと笑ってしまった。


 わたしにとって、センパイは人生のセンパイだ。画面越しにいつも楽しいだけを与えてくれた人。人生の唯一の彩り。


 現実社会に居場所がないからこそ、最小単位社会を構築し、たった二人の社会を営んできた。


 未来のことを考えてくれた優しさではなく、その場しのぎの甘さだけ差し出してくれる。それを『この人だけはわたしのことを理解してくれる』と心の拠り所として、盲目的かつ献身的に、尊敬し崇めてすらいた。


 自分にとって都合の良い人だから、こんなにも慕ってしまったのだ。


 社会はそれを、依存心だと定義している。


 真実の恋や愛ではないと、正論を操りロジハラしてくるだろう。


 でも、いいのだそれで。


 陽の光が降り注ぐ地ではそうかもしれないが、この最小単位社会に置いて、この想いは真の恋や愛だと定義されている。現実社会の定義など知ったことではない。


 わたしの社会(せかい)は、センパイと二人で完結している。


 それがなによりも楽で楽しく、そして幸せなのだ。


 センパイ、貴方のことが大好きです。


 センパイ、貴方のことを愛してます。


 これからもずっと側にいさせてください。


 現実社会では禁断の果実なんて定義があるかもしれませんが、日陰の地にはそんな定義はありません。


 貴方が実らせてくれたこの果実を、どうか口にしてください。


 そうやって引き返せないところまで、リスク(わたし)を背負ってください。


「ありがとうございます……センパイ」


 ここはわたしたちだけの社会(せかい)


 現実社会では決して許されない、幸せな営みがここにはある。


 陽の光に晒されたとき、わたしたちは社会(らくえん)を追放される。その先で罰を与えられ、苦しまなければならない日がくるだろう。


 わたしは恨みつらみは絶対に忘れない。社会がこの幸せを奪い、わたしたちを追いこんだときは絶対に許すつもりはなかった。わたしはどれだけ自分が悪かろうと、その全てを棚にあげられる生き物なのだ。


 わたしは神童である。その時はどれだけ時間をかけようとも、アメリカ史上最悪の事件を越えてこの名を歴史とwikiに刻むだろう。


「どうか、こんなわたしと……」


 隣家には大変理不尽な話であるが、その時はこう謝罪しよう。


「一緒に堕ちてください」


 ごめんなさい田中さん。


 恨むならどうか、わたしたちを追い込んだ社会(せかい)を恨んでください、と。

当初は短編のつもりで書き始めた作品で、

タマ視点の補完として追加したレナ視点でした。

なので裏表となり、ただ同じことを繰り返すだけとなりました。

ですが本格連載しようと決め、ここまでを前提にし、最後までプロットを立て完結にいたりました。


妥協もご都合主義もない、これ以上は蛇足だろ、という最終話。

それをしっかり書ききれたと思っておりますので、どうか最後までこのままお付き合いください。


タマとレナが果たしてどうなるか。

もし結末が気になる、楽しんで頂けたなら、ブクマと下の☆から評価ををお願いいたします。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



コミック版が3月28日に発売、予約受付中!
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『センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?』書籍版、発売中!
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― 新着の感想 ―
[良い点] レナの章、読了。 父ガチャ失敗からの姉ガチャ星5。しかし使い勝手は最悪だ。 この表現好きです。 [気になる点] 小学校時代のお調子者男子、楓嬢のこと憎からず思ってたんですかね。くそどう…
[一言] 楓視点で見ると先輩かっこよすぎませんか!? これはまごうこと無き人生の先輩
[一言] 最終的に共生関係として生きていくことを決めるという内容が昭和のはじめぐらいまであった結婚するまで旦那になる人の顔をしらずに、この人とともに生きていくんだという心持ちに近い関係なのかもと言う感…
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