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「無闇に放り出そうとしたいわけじゃない。クソ親のもとへ帰れと言いたいわけでもない。カバーストーリーはガミ辺りと相談になるが……お姉さんのもとへ身を寄せるくらいは、一つの選択としてありなんじゃないか?」
「ね、ね、姉さんの……もと?」
陽キャバラ色青春レイプエンドの末路を辿りたくないから、センパイに救いを求めたのだ。姉さんの元に戻るなんて論外である。
センパイもそれは知っている。だからこそ、無責任にそんなことを言っているのではないと察した。
「今回のことでお姉さんも思い知っただろ。おまえの病的なコミュ障じゃ、高校なんざまともに通えるわけがないこと。そして自らの親のろくでもなさを。大切な妹を、今なら手元において守ってくれるんじゃないか? 甘くはないが、そういう優しさは持っている人なんじゃないのか?」
姉さんは甘くはないが優しい人だ。
父のろくでもなさを身に沁みた今ならば、あの家に戻れなんて言わないだろう。その手元で守ってくれるはずだ。
「なら、自分がいかにろくでもない、クソ雑魚ナメクジコミュ障であるかを、ちゃんと伝えろ。そして交渉するんだ。下々の寺小屋なんざ行くだけ時間の無駄。なにせ自分は、神童だからってな」
「む、む、無理……です。ね、姉さんの前で、で……そんなこと……い、言えない、です」
「無理じゃない。なにせおまえには、これがある」
そしてセンパイは、パソコンに手を置いた。
「本音を口に出せないなら、爆速タイプで性根を叩きつけろ。顔を突き合わす必要なんてない。いつも俺とやっていることを、お姉さんとやるだけでいい。一閃十界のレナファルトとして戦うんじゃなく、偽ざる文野楓の思いを知ってもらえ」
センパイといつもやっているコミュニケーション。
偽ざる想いを声に出す術を身に着けていないからこそ、それを文字に起こし紡いできた。
父相手にそんなことをしても意味はないだろう。
でも姉さんはいつだってわたしの本心を知りたがっている。向き合おうとしてきてくれた。それを黙って俯くことでやり過ごしてきた。優しく手を引かないでくれと、わかりあうのから逃げてきたのは、いつだってわたしのほうだ。
もし、センパイとしているコミュニケーションと同じことを、姉さんが許してくれるのなら……きっとわたしたちの関係は、大きく変わるかもしれない。全てのわがままを許してはくれないだろうが、気持ちさえ伝われば心に寄り添ってくれるはずだ。
だってあの人は、世界で一番わたしのことを想ってくれているのだから。
「それにだ。今のおまえは、生産性のないパラヒキニートじゃない。一人の大人を堕落させた、ダメ人間製造機だ。これからの身の振り方の交渉期間中に、お姉さんをたらしこめ。堕とし込め。おまえなしでは生活が成り立たんほどに、ダメ人間へと叩き落とせ。そうしたらよりよい条件を引き出せるはずだ。今のおまえにはその力がある。俺がその生き証人だ」
そうだ。今のわたしはかつての生産性のない引きこもりではない。
メイド王へと至った、最強の自宅警備員だ。
姉さんは真面目なので、センパイほど上手くいかないかもしれない。それでも一ヶ月もあれば、わたしを手放したくないと思わせることくらいはちょちょいである。
ホラーハウスの楽で楽しいだけの日々は幸せだった。甘いだけの社会に耽ってきたわたしにとって、姉さんの優しさに満ちた世界は辛いかもしれない。でも……もしその世界で甘えさせて貰えるのなら、一度は逃げだ現実社会、その未来へ進めるかもしれない。
甘いだけの最小単位社会。
成人するまで逃げ延びることができたなら、当初予定していたバッドエンドは回避できるかもしれない。でもその道程はあまりにも遠すぎる。どれだけ気を使おうと、理不尽な災厄一つで台無しになる。
そうやって陽の光に晒されとき、堕ちるのはわたしだけでは済まないのだ。
だけどもし、現実社会のレールに戻ることができたなら、センパイを道連れにせず済む。
「それらを踏まえて、もう一度聞く」
わたしとセンパイ。両方が助かるわかりやすい未来があった。
「これからおまえは、どうしたい?」
そうしてセンパイは同じ言葉を繰り返す。
完全に詰んだと思われていた未来が、センパイによって切り開かれた。
わたしは神童である。全てを踏まえた上で、わたしの本当の望み、その答えは既に出している。でもその決断を文野楓の口から出すのはあまりにも重すぎた。
何度もセンパイの顔とパソコンを行き来する。
レナファルトになりたい。レナファルトなら簡単にこの決断を、選びたい道を示せるのに、それをセンパイは許してくれない。
文野楓が声に出した決断しか許さない。そう言わんばかりに。
そうやってわたしは最強スキルを発動してしまった。
顔を俯向け黙って全てをやり過ごす。
こうしていれば現状維持ができるのだと。未来へ問題を放り投げるのだ。
わたしはセンパイが好きだ。
現実社会ではただの依存心でも、この最小単位社会では真の恋や愛である。
陽の光が降り注ぐ地では問題ある想いでも、日陰の地では許される。
だってその方が楽しいから。幸せだから。良いことや悪いことは、全部わたしたち二人で決めていけるのだ。
そこでわたしは気づいた。
最小単位社会は、今日までレナファルトが築き上げてきたもの。二人で決めたルールの中で、それを守って生きてきた。
センパイには現実社会の問題を、全部背負ってもらい、決めてもらっているのだ。
最小単位社会で水を与えて貰い、大事に育ててもらった。画面越しだけではなく、文野楓の中にレナファルトの華を咲かせてもらったのだ。
陽の光に照らされぬ地で、光合成をできるまでになったのである。
「セン……パイ」
なら最小単位社会でくらいでは、重荷にならず天秤が偏るような真似はしてはいけない。自分のやりたいことは、自分で決めなければならない。
覚悟を決めるのだ。
「わたしは、帰り……」
わたしはもう文野楓ではない。
陽の光に照らされぬ最小単位社会で華を咲かせた、
「たくない」
一閃十界のレナファルトだ。
現実社会からは逃げ出しても、センパイからは決して逃げてはいけない。
その目をしっかりと見据え、レナファルトの意思をここに示した。
最終話は17時頃に投稿いたします。




