9、もう一人の転生者
グエンは前世、十五歳で亡くなったそうだ。若くて気の毒だなと思った。俺もまだ若かったけど。自分も二十八歳で死んだことは言った。
「それで、お前は何で病んでるの?」
キースは相談役でもあったからな。聞いてみよう。俺はグエンの肩の上にバッジを乗せた。バッジは、また紫の毒キノコに変わった。グエンはギクッとして、すぐにバッジを肩から取った。
「それは……。
俺はコルたん推しなんだ。推しのいる異世界に転生してしまったんだ。もう、絶望しかない!」
「え、推しがいるならラッキーじゃん?」
コルとは、最年少の攻略対象、十五歳の魔法少女コルタスのことだ。
「ファンは推しに対して、絶対不可侵なんだ! 気安く話しかけたり、近づいたりしない!」
はぁ? アイドルなら泣いて喜びそうなファンだな……。
「それで、自分が恋愛できないから、破局した仲間を見て楽しんでいるということ?」
「……そうだよ」
グエンは気まずそうに視線をそらした。——やっぱり、病んでる!
「キース様は推しはいないの?」
「キースでいいよ」
この世界は身分に厳しいけど、俺は元平民なので特に気にしない。俺は前世を振り返った。
「俺は、婚活のためにゲームをしていたから、特に推しはいなかったな。婚活しようと思った矢先に死んだけど」
「そうなんだ……。じゃあ俺の気持ちは分からないよね」
「そうだな。たとえ推しがいても、俺は喜んで推しと恋愛するからな」
「さすが、キースだ……」
グエンは皮肉を込めて言った。せっかくコルと同じ魔法使いなのに……。こいつは年齢からして、中二病臭がする……。放っといて帰るか。そう思った矢先、店のドアが開いて、まさかのコルが入ってきた!
うわ、眩しい! コルは白い衣装が特徴的だ。つばが上に上がった帽子に、ハイネックの上着、膝丈のキュロットパンツに白いブーツ。薄い黄緑色の長い髪は足まである。背はミアより少し低い。コルも白い光をまとっていた。うわ~、かわいい♡。天使だ~。
「あの、グエンさんですよね」
「そうだ」
俺はほわほわした顔をしていたが、グエンは意外と冷静に答えた。
「私、コルタスと言います。この近くに店を出している魔法使いです」
うんうん、俺たち二人とも知ってる♡。
「——うちの店はあまりお客が来ないので、ここにうちの商品を置いてほしいのですが、ダメでしょうか……」
「ダメだ。ここには中途半端なものは置けない。帰ってくれ。お前はここに来てはいけない」
グエンはきっぱり断った。え? 何言ってんの、このキノコ……。コルだってお客でもあるだろ。
「そうですよね。帰ります。突然失礼なことを言って、すみませんでした」
コルはしょぼんとして、くるりとドアのほうを向いた。そんな! このまま帰すわけにはいかない。俺は思わず声をかけた。
「待って! 俺に商品を見せてほしい。俺はキース・グランテだ」
「え? はい」
コルは生成りの肩掛けカバンから、商品の瓶を取り出した。
「花の香りを魔法で再現した香水です」
知ってる。ゲームでも女の子の好きそうなものを店で売っていた。実際に公式からコルの香水が数種類販売されて、女の子を中心に人気があった!
俺はバラの香水を受け取って、蓋を開けて匂いをかいでみた。わあ! 本当にバラの香りだ! 実際に匂いをかぐと感動する!
「これなら、うちの店に置いてもいいな。うちは二軒ブティックをやってるんだ。ちょうど店に置く商品を探してたんだよ」
「本当ですか!?」
「他にもあるよね。店に行って見せてほしい」
「はい!」
俺はすっかり商談に夢中になった。彼女の肩に軽く手を置いて、ドアを開けた。
「おい!」
視界の端に、手を差し出したグエンが見えたが、気にしなかった。ドアは無情にもグエンの前で閉まった。
俺は、コルの店ラ・フロールに行った。グエンの店から十分強だ。表通りから一本奥に入ると住宅地なので静かだ。コルの店はアパートの一階にある小さい店だった。
中も狭くて、工房と店が一緒になっていた。
「商品はこちらです」
商品棚を見る。女の子が好きそうな魔法石のお守り、ブレスレット、香水の瓶、ルームフレグランスの魔法石、おみくじ……。
「おみくじがある!」
「はい、占い魔女さんのおみくじを置かせてもらってます。占い魔女さんにはお世話になっていて、相談にも乗ってもらってるんです」
知ってる! 俺もお世話になった。ゲームで攻略対象の好感度を見るときは、占い魔女の店に行くのだ。おみくじを引くと、好感度が上がるミッションやアドバイスが書いてある。懐かし~。
おまじないのメニュー表もあった。コルのおまじないは、好感度や運がアップするのだ。
「俺もおまじないしてもらう! 今、婚活してるんだ。いい相手が見つかるように」
「いいですよ。銅貨一枚です」
コルにおまじないをかけてもらった。俺との間にピンクの魔法陣が現れ、周りが清浄な空間に包まれた。
「終わりました」
「ありがとう」
聖女の治癒魔法も良かったけど、これもなんだか清々しい気分だ。
「サンプルに商品をいくつか買っていくよ」
「ありがとうございます! 助かります」
コルを攻略するのは簡単だ。金だ。彼女は金に目がない。というのも、店を維持するのに必死なのだ。この店で買い物すれば、好感度は簡単に上がる。
主人公の王子は金があるから、コルは一番簡単な攻略対象とも言える。
「本当なら無料でお渡ししたほうがいいのでしょうが、実は今月分の店の家賃を四分の一しか払えなかったんです」
「そうなの!?」
彼女は恥ずかしそうに言った。詳しい事情まではゲームにはなかった。こんなに若いのに、自分の店を持っていてえらいな。彼女はグエンと違って、村の魔法使いの弟子だった。都会に憧れて、首都に店を持ったのだ。
「はい。二か月滞納すると出て行かないといけません。でも、街の中心部でないと、私のような無名の魔法使いはお客さんが来ないので、この立地がいいんですよね」
コルは目線を下にして、自嘲気味に話した。
「それなら、俺が大家さんに払っておくよ。うちの仕入れ値から少しずつ引いて、返してくれればいいよ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
これでコルの好感度は、五十パーセントぐらいには上がっただろう。ニシシ。
コルはかわいいから、ジェイ兄も気に入るだろう。ミアがいなくなって、元気がないからな。
俺は商品をいくつか買うと、大家の家を聞いて店を出た。帰りに家賃の支払いをしに向かった。




