8、魔法使いの店
後日、父さんが城に行って、会議に出ていた貴族たちにどうなったか聞いてきた。
王子はセシリアに、様子を見に行くようには言っていなかった。セシリアの単独行動だった。
セシリアは王子にバレないように、早急に事を運ぼうとしたようだ。ゴシップ紙を見て、マレルタに嫉妬して来たんだろう……。
セシリアの行動に激怒した王子は、セシリアを城に出禁にした。ただセシリアの話が街に出回らなかったのは、神殿側が頼んだからということだった。
神殿側は聖女の人気を落としたくないので、王室は神殿に貸しを作ったことになる。しかし、貴族の間には広まっているはず。俺が相手だということも……。
王子の中では完全にセシリアは無しになったな。ヒロイン格なのにあっという間に、退場するとは予想外だった……。
マレルタに落ち度がないということになり、俺たちの婚約の件も根拠が無くなった。だが、王子はそれについては明言しなかった。言い出しっぺなんだから、ちゃんと撤回しろよな。まったく。
ゼレツ公爵もツーンとして何も言わないから、初めからなかったものになったんだろうということだ。
暗黙的に、マレルタは再び王子の婚約者候補になったようだ。
俺は父さんから話を聞いたあと、執務室を出た。結局、俺もマレルタとは合わないと思っていたから、は~、やれやれだ。ただ、俺の醜聞が増えたので、俺と婚約したい令嬢はもういないだろう……。
廊下で立ち止まって庭を見た。今はバラが咲いてる。——当分は仕事に専念しよう。今は親とくらしてるから何不自由ないけど、ジェイ兄が結婚すればいずれこの家を出て行かなければいけない。
領地はロン兄の家族が暮らしている。うちは首都でも商売してるからジェイ兄も首都の家にいられるけど、普通の貴族なら跡取りしか家の恩恵はない。
貴族身分でいると税金も高いし。そうなると、小さい家を買うか、貴族用のアパートに住むかだな。家が広くなければ使用人はいらないし、前世平民の俺は自分のことは自分でできる。
そういうつつましい暮らしでもいい人を探さないとな。いざとなったら、平民になればいいし! せっかく貴族に生まれたけど、お金のない奴は貴族ではいられないから仕方がない。
それよりも! 俺はブレスレットを見た。俺も忘れていたが、マレルタは外し忘れた……。わざとではないだろう。一緒にいて、マレルタは不器用な人間だと分かったからな。
表情は顔に出るし、顔に出ないときは関心がないからだ! あの寝間着もミアが選んだんだろう。十六歳なのにグッジョブだミア。
でも俺は、他にブレスレットを外せる人物をもう一人知っている。これを作った、天才魔法使いグエン・アルバだ。魔法学校を十六歳で卒業して、首都に自分の店を持っている。グエンもゲームキャラだ。好感度の上がる恋愛アイテムを売って、応援してくれる頼れる存在だ。自分からゲームキャラに会いに行くとはな。
このブレスレットは金貨一枚もする。金貨は前世の価値で十万円ぐらいだ。売値の一割で買い取ってくれる。それをそのまま売るから、ボロい商売だな。
——まあいい、置いて行ったんだから売っぱらって、結婚資金の足しにしてやるぜ! ウシシシ。
俺は歩いて街に向かった。グエンの店は、表通りにある、間口の狭いこじんまりした店だ。焦げ茶色のレンガの外装に、白い文字で「グエン・アルバの魔法アイテムの店」と書いた看板がかかっている。俺は中に入った。他に客はいなくて静かだった。
「いらっしゃい」
小柄で、クリーム色のぼさぼさっとしたワイルドな長髪、きりっとした目の少年が俺を出迎えた。おお~、グエンだ!
「キース様ですよね。どういった御用件ですか?」
俺も有名人だな……。
「このブレスレットを外して、買い取ってほしい」
「! ——分かりました」
グエンはブレスレットに驚いたが、すぐに笑顔に戻った。グエンは右手で、俺の左手を軽く掴んで、自分の左手をかざした。
「マレルタ令嬢とは終わったということですか?」
「?」
マレルタと付き合っていたのは、まあ、みんな知ってるからな。
「ああ、そうだ」
「そうですか!」
俺が答えると、グエンは解呪しながら笑った。エメラルドグリーンの魔法陣が現れる。——なんだ、こいつ。今、笑ったよな……。
カチャリと音がしてブレスレットが外れた。
「できました」
グエンはニッコリ笑う。
「ありがとう……」
「お金を持ってきますので、ちょっとお待ちくださいね」
グエンはブレスレットを持って、カウンターに向かった。俺は店内を見回した。店内は恋愛アイテムや、魔法アイテムで埋め尽くされていた。
赤いハートマークのバッジが紙箱の中にたくさんあった。横には同じデザインの紐のキーホルダーもある。
「あ、これ!」
「それは、ブレスレットは高価なので、平民用に作ったバッジです。一個銅貨一枚ですよ。付けた人によってステータスが変わるんです。今、平民の間でめちゃくちゃ人気なんですよ」
うわ~、前世を思い出す! バッジは金色の台座で、マーク部分の背景の色は白で、透明にコーティングしてある。公式と同じ仕様だ。銅貨は千円ぐらい。それ以下はラス硬貨だ。この国はルース国で、通貨単位はラスだ。
俺はバッジを一つ持つと、マークが双葉に変わった。俺はそれを見てニッコリ笑った。これは使えるかも。……でも俺の場合、次のターゲットを探していると思われるかな?
相手が見つかって、片思い中に使うといいかも。よし、必要になったら買いにこよう! 俺は今度こそ買えるのでウキウキした。
グエンがこちらに戻ってきて、銀貨一枚を俺に渡した。
「ステータスマークは、ハートが二種類、葉っぱが二種類、枯葉が二種類、キノコが二種類です」
「キノコ?」
キノコはなかったぞ。
「キノコは俺のオリジナルで、枯葉から攻撃的になった人です」
オリジナル? ——闇堕ちしたってこと……? カウンター奥の壁の棚を見ると、キノコになったバッジがたくさん置いてあった。
「あれは買い取ったもの?」
「そうです。あんなにたくさん、大収穫です♡」
え? キノコの山が? こいつやっぱり喜んでる。グエンはキノコバッジを見ていたので、俺は手に持ったバッジを、グエンのフワフワの頭に乗せてみた。バッジは双葉から、赤い斑点模様の紫のキノコに変わった。
こいつ、病んでる……。
「ん?」
グエンが気づいたので、さっとバッジを取った。ちょっと待てよ、あんなにたくさんキノコになったってことは……。俺はバッジを見た。
「破局したってことだよな。——もしかして、このアイテムに細工がしてあるのか?」
「はあ? そんなことしてませんよ。アイテムが必要だってことは、元々その恋愛は上手くいかないってことでしょ」
……こいつ! ゲームと違って性格悪いな。グエンは目を瞑って両手を広げた。
「現実はゲームとは違うんですよ」
——ゲーム!? もしかして、
「お前、転生者なのか?」
「え? そういうキース様も?」
「そうだ。俺もこのゲームをしていた」
グエンが俺を指差して、俺は素直に答えた。まさか他にも転生者がいたなんて!!




