7、聖女の癒し
風呂に入ると、腕の爪痕は傷になってはいないが、赤くなっていた……。俺のかわいい二の腕が……。心の中で涙した。
夜眠りにつくと、部屋をノックする音が聞こえた。何だこんな夜中に。
「はい」
「セシリアです。お話があります」
デジャヴ……。俺は眠い目のままドアを開けた。セシリアはガウンを羽織って立っていた。中に入ると、セシリアはガウンを脱いで白い寝間着姿を見せた。
え? いいのかそんな姿を見せて。マレルタは俺の婚約者(仮)だからいいけど、……なんだろう?
「二の腕を怪我しているのではないかと思って、癒しに来ました」
「ああ!」
なるほど!
「私から見ても、爪が食い込んでいるのが分かりましてよ」
セシリアはニッコリ笑った。さすが聖女! 気遣いが半端ないな。
「ベッドに横になってください」
「分かりました。ありがとうございます」
助かる~。聖女の治癒魔法が受けれるなんてラッキーだ! 俺はベッドに横になった。ウキウキして待つと、なぜかセシリアはベッドに上がり、俺に馬乗りになった。え? なにこのポーズ。
「あの……」
戸惑う俺に、セシリアは手を伸ばして、寝間着の下に指を入れた。ブレスレットをしていて良かったー!!
左腕のあたりが光った。あ~、気持ちいい。何だろうこの感覚は……。
「もう治りましたよ」
「えっ? ああ、本当だ」
見ると、もう赤くないし、ひりひりする痛みもなくなっていた。これが癒しの力か。すごい!! 気持ち良かった! 感激~。俺は余韻をかみしめた。
「ありがとうございます! 助かりました。
——あの~、そろそろどいてもらってもいいでしょうか? 誤解されると困るので……」
「キース様とあろうお方が何を言っているのです。私ではダメでしょうか? キース様のお眼鏡にかなわないのでしょうか?」
「え?」
これは誘惑されているということ? セシリアは清楚系なのにどういうこと!? 俺は冷や汗をかいた。
「……いや、もうちゃんと結婚を考えているので、そういった付き合いはしないです。それに魔法アイテムのブレスレットをされたので、他の方にときめくことはありません」
「なんてこと! あの女、こないだまで王子に入れ揚げてたのに! 姑息な手を使うわね」
セシリアは視線をそらして爪を噛んだ。ゲームのイメージとなんか違う……。言葉が俗っぽいし。
「キース様は本当にあの女と婚約するおつもりですか? それでいいんですか?」
「ああ、はい。一応、王子の命令なので……。それにそのほうが、聖女様は王子を独り占めできるのではないですか?」
都合がいいはずだよな。セシリアは俺を見おろして、手を自分の胸に置いた。
「私はこの国のヒロインなんです!」
……まあそうだよな。聖女はこの国に一人しかいないし。それに、ヒロイン系キャラだし……。
「だから、この国の素敵な殿方はみんな、私を好きになるんです」
ん?
「かわいそうなキース様。それなら私が癒して差し上げます」
セシリアは不敵な微笑みを浮かべると、俺の胸に手を這わせた。——こいつ、逆ハー女なのか!?
確かにヒロインは誰からも好かれるよな。でも、そうでないと我慢できないということ? まさかセシリアが、こんな性格だったとは……。
俺がその気じゃなくても、こんなところを見られたら、婚約者(仮)がいる身としてはいろいろ終わる。
「やめてください!」
俺は思わず大きな声を出した。誰か! 助けて~!! 心の中で叫んだ。
ガチャ!
その時突然ドアが開いた。開けたのはマレルタで、その横にミアがいる。ミアは魔法アイテムのカメラで、フラッシュをたいた。俺の胸に手を置いているセシリアと、俺の姿を連射した。ギャーーー!!
撮影が終わると、二人はドアを閉めていなくなった。……終わった。
翌日、朝食の席にマレルタはいなかった。朝なのに、めちゃくちゃ疲れている俺……。父さんが言うには、
「メイドのミアが、マレルタは家に帰ると伝えに来た。食事も客室で取るそうだ」
「ああ、そうですか……」
あの後、俺はセシリアを部屋からつまみ出した。セシリアも朝食は客室で取ってもい、すぐに出て行ってもらうことにした。
父さんと兄さんには朝食の席で、昨夜の出来事を話した。どうせ話さないといけないからな。二人とも聖女の行動に驚いていた。父さんは咳払いをした。
「このことは、成り行きを見守ろう」
朝食が終わって、食堂を出るとミアが立っていた。
「今日でお別れです」
「はい。楽しかったです」
ミアとの同居も終わりだ。感慨深くて、率直な感想を述べた。ジェイ兄もさっき残念そうにしていた。ミアは俺に近寄って小さな声で言った。
「マレルタ令嬢は王子から、キース様を骨抜きにしたら、また婚約を考えてもいいと言われていました」
何だってーーーー!!
俺はミアを見た。これは秘密の暴露だ。ミアは、好感度が八十パーセント以上になると必要な情報を教えてくれるのだ!
ミアは頬をピンクにして微笑んだ。これはミアの素の笑顔だ。ミアは頭を下げると、俺の前から去って行った。
——まさか、そんな事情があったとは……、それでマレルタは前向きだったんだ。俺の心を弄びやがって……。
一番の原因は王子だ! どういうつもりだ!? 余興か? 本当に性格が悪いな! 俺は頭にきた。
俺はジェイ兄と、マレルタとミアの見送りに出た。
「お世話になりました」
マレルタは素っ気なくそう言うと、俺たちに軽く頭を下げて馬車に乗った。
「ミア、またね」
ジェイ兄がミアに言った。俺も手をふった。ミアは俺たちにぺこりと頭を下げた。馬車が動くと、ジェイ兄は泣いていた。俺はちょっと苦笑した。




