10、攻略対象とお見合い
家に帰ってジェイ兄の執務室で報告した。
「そんな逸材が!」
コルの話に、ジェイ兄は眼鏡を押し上げて目を光らせた。俺の微妙な視線を感じてコホンと咳払いした。それから、机の上に置いたサンプルに目線を落とした。
「もちろん、魔法使いとしてだ。——女性が好きそうなものばかりだな。おみくじも置いてみよう。待ち時間の暇つぶしにちょうどいいだろう。占い魔女から直接買えるのか?」
「……コルを通そう。そうすれば少しは、コルの利益になる」
「そうだな。平民の生活を安定させるのも貴族の役割だ。家賃の建て替えは経費から出そう」
「助かる!」
ジェイ兄の了承を得て、コルと取引をすることになった。コルが喜ぶだろう! 俺は執務室を出た。
おみくじのことは、実は占い魔女に会いたくないのもあった。これ以上ゲームキャラに会いたくないのだ。巻き込まれてる嫌な感じがする……。これ以上、面倒ごとはごめんだ。結局、俺も父さんたちと同じだな。ちょっと苦笑した。
ゲーム期間は大体一年。相手が決まったらゲーム終了とは思うが、王子は二十歳とまだ若い。恋愛ゲームの主人公の年齢にしては上のような気もするが、学園物ではないことと、大人もできるようにとのことらしい。
その代わり攻略対象五人は、全員年下だ。マレルタが十九歳、聖女が十八歳、一番下のコルが十五歳と年齢はかぶっていない。
それ以外にも、隠れ攻略対象がいる。主人公より年上の女性キャラ二人だ。占い魔女二十三歳と、攻略対象にプレゼントを買う洋品店の店員二十六歳だ。年上好きと、大人向けのキャラだな。
俺は攻略対象五人だけしかプレーしなかったが、隠れ攻略対象もクリアすると、さらに隠しキャラ二人が出てくるということだった。
翌日、コルに報告に行くと、目を潤ませてすごく喜んでいた。
「ありがとうございます! この御恩は一生忘れません」
「あ、いや……」
コルの態度に、俺はちょっとたじろいだ。コルは礼儀正しいな。
俺はいくつか商品を仕入れて、占い魔女のおみくじも頼んでおいた。コルの店を後にすると、グエンのことを思い出した。店も近いから、様子を見に行ってみるか。
グエンの店に行くと、グエンはカウンターの内側で、変わらずに挨拶した。
「いらっしゃいませ。……なんだあんたか……」
そう言うと、椅子に座ってうつむいた。何だ、落ち込んでたのか。仕事はしっかりしていたようだが。
俺は商品棚のバッジを一個持ってきて、またグエンの頭の上に乗せた。バッジの絵が変わり、キノコが黒くなった! 黒い傘の部分に、白い十字の模様が入っている。黒いということは、キノコは腐ったのか?
「おい、キノコが腐ってるぞ」
「最終形態だ。——まさか俺が一番にそうなるとは……」
グエンは下を向いたまま話した。俺はバッジを頭から取って、カウンターの上に置いた。
「俺はコルと仲良くなったぞ」
「キースは、彼女が店をやっていけるように手助けしたんだろ。家賃を払ってあげたり。……彼女にとっていいことだから、別にいい」
——なぜそれを知っている……。俺は冷汗をかいた。
「お前、ストーカーなのか!?」
「違うよ。コルたんがお金に困ってたから、念のため大家に聞きに行ったんだ。……でもキースが払った後だった」
ほっ。
「——キノコが変わるってことは、お前は恋愛したいんじゃないのか?」
「……フラれて、もう推しじゃなくなったら?」
「そしたら、ファン卒だろ。そしてまた誰かを好きになる。——好きな子は、推しより上だ。推しなんか、好きな子の代わりでしかない」
グエンは頭を上げなかった。こいつもいろいろ考えているんだろう……。
「また来る」
俺は店を出た。
俺はそれから真面目に働いていた。ある日、父さんから執務室に呼ばれた。
「お前に見合いの話が来たぞ」
「え? 相手は誰ですか?」
「カタリナ・ブラン伯爵令嬢だ」
「!」
攻略対象だ! 最後の一人! 貴族だから今後、舞踏会で会うとは思っていたけど……。まさか、いきなり見合い相手とは!
「分かりました。会います」
俺は父さんの執務室を出た。カタリナは十七歳だから、今年から舞踏会に出られる。この国も前世と同じで、二十五歳から三十代前半までが結婚適齢期だ。
貴族は若いうちから婚約者を決めることが多い。
——これって、コルのおまじないの効果か? そうなら、コルはやっぱりすごいな。
見合いは、彼女の家で行われることになった。父さんも同行する。初めて会ったカタリナも白く光っていた。攻略対象の中では、一番普通の女の子キャラだ。オレンジ系の茶色い髪に、茶色い瞳。かわいいけど、いたって普通。
応接室で両家の顔合わせを済ませると、二人だけで庭で話をすることになった。庭に白いテーブルと椅子が置かれて、お茶の用意がされていた。二人で座る。
「私って、特に取り柄もなくて、パッとしないから、男性に相手にされないんですの」
「そうなんですか……?」
彼女の悩みは、「普通」なことだ。ゲームでもいつも悩んでいた。俺はそれから、彼女の愚痴をずっと聞いていた。
……俺に推しがいない理由は、全員年齢が十歳近く離れていたからだ。実際会った攻略対象は、本当に輝いていて尊いと思う。でも、恋とは違う。グエンは年が近いからそういった気持ちになるんだろうな。これで、攻略対象全員と会ったな。
「話しやすいので、ついキース様には何でも話してしまいますね。ごめんなさい。つまらない話ばかりで」
「いえ、大丈夫ですよ。あなたのことが知りたいので、どうぞお話しください」
「まあ! ありがとうございます」
ほとんど聞いてなかった……。でも、彼女のことは大体ゲームで知っているからな。俺が彼女の愚痴を引き続き聞いて、お見合いは終わった。
帰りの馬車で、父さんが聞いてきた。
「どうだった?」
「どうだろうな。彼女はまだ若いし」
「そうだな。急ぐこともないだろう」
こっちが了承しないと話は進まないから、しばらくはこのままだろうな。俺は窓から外を眺めた。




