5、公園デートイベント
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「はい、なんでしょう」
「これ」
俺は腕を上げて、ブレスレットを見せた。
「これは君が、マレルタ令嬢に渡したんだよね」
俺がそう言うと、ミアは目を見開いた。それから、表情が顔に出たので目をそらし、答えに困っていた。主人のことを話すわけにもいかないからな。
口をバツにして焦っている。かわいい♡。俺は内心ニコニコ顔だが、表情は少し気まずそうにした。
「怒ってるんじゃないよ。マレルタ令嬢が用意するとは思えなかったから聞いたんだ」
「はい……」
質問には答えなかったが、ミアが用意したのは間違いないな。俺はその場を後にした。
(キース様、鋭いわ。用心しないと……)
ミアは、キースの後ろ姿を肩越しにちらりと見ていた。
午前中は買い付けに行くことにした。マレルタを連れて行くわけにもいかないので、センスがいい若いメイドを連れて行く。午後はマレルタたちと出かけることにした。メイドに連絡を頼むと、マレルタからは了承の返事が来た。初デートだ。当然ミアも同行するから楽しみだ。
「ミアも行くのか、羨ましいな」
ジェイ兄に、買い付けの話をしに行ったついでに話した。
「彼女が好きなものを聞いておいてくれ」
「そんなことをして、婚約者が心配するだろ?」
「大丈夫だ! 彼女もかわいい物好きだからな」
なるほど。ジェイ兄は婚約者のデイジーとは見合いだが、同じ好みなのか。羨ましいな。
ミアの好きなものは知っている。果物だ。でも俺が今知っているのはおかしいので、本人にちゃんと聞いて辻褄を合わせておかないとな。
午前中の買い付けを済ませると、一度屋敷に戻った。午後になり、馬車にマレルタとミアを乗せて、再び街に出た。
「どこか行きたいところはありますか?」
「特にありません」
マレルタはしれっと答える。まあ、必要なものはうちのメイドに頼めばいいからな。彼女の普段の買い物は屋敷に来てもらうだろうし、いきなり連れまわしてもよくないだろう。そう思って、十四時過ぎに出かけたのだ。うちのカフェ、アンジェロに行くことにする。
アンジェロに着くと店内で二人で座った。残念だが、ミアは外でこちらを見ながら待っている。マレルタがメイドを同席させるわけがないからな。
注文を待っている間、俺はミアを気にかけていた。ミアは街ゆく人から声をかけられていた。若い男性からお年寄りまで。おばあさんは道を聞いていたのだろう。ミアは一見地味だが、攻略対象なのでかわいい属性で注目を集めてしまうようだ。
店員が注文の品を持ってきた。紅茶と、俺はチェリーパフェ、マレルタは円柱型のチェリーケーキだ。
「そのブレスレット、本当に効いているのかしら?」
紅茶を飲むと、鋭い声でマレルタが言った。俺がミアを気にしていたからだろう。
「そんな意味で見ていない。俺はフェミニストだから心配しているだけだ」
「……分かりました」
俺がぴしゃりと言ったので、マレルタはそれ以上は言わなかった。——マレルタは最初と違って、俺といても全然進展させる気がない……。何か変だな。
俺はゲームのマレルタを知っているからな。好感度が上がると、このマレルタでも頬を染めたり、いじらしい表情を見せるのに、全くそれがないということは、全然好感度は上がっていないってことだ。せいぜい十パーセントぐらいだろう。このブレスレットをして安心しているのか? 試してみるか。俺は身を乗り出した。
「あなたが心配することはありませんよ。私にはこのブレスレットがあります」
「そうですね」
ミアが用意してくれたな。俺は、テーブルの上に置いた彼女の手に自分の手を置こうと手を伸ばした。すると触れる直前に、素早く引っ込めた。今の、かるた取りのように早かったぞ……。
やはりマレルタは、本当はこの婚約に乗り気じゃないんだ! ゲームでもマレルタは、王子と結婚するために育てられていた。王子に命令されたから仕方ないんだろう。それで俺が今までのように遊び歩かないように、ブレスレットをはめたという訳か?
王子に逆らうと俺もどうなるか分からないからな。いいだろう。俺も好きになれない相手と婚約する気はない。いざとなったら、公爵が味方だからな。父さんも、別に公爵と縁戚になりたいわけじゃないだろうし。
こうなったら、お互い好感度十パーセントのまま、仮面カップルのように行動しようじゃないか!
俺はマレルタを見てニッコリ笑った。マレルタもニッコリ作り笑いを返した。俺たち上手くいきそうだ。昨日とは別の意味で……。
そうと決まったら俺もジェイ兄のようにミアとの時間を楽しもう! ミアと同居できるのも今だけだからな。
俺は急いでパフェを食べ、マレルタが食べ終わるのを待った。店を出ると三人で再び馬車に乗った。次の行先は公園だ。
「次は公園で、ボートに乗りましょう」
「……私は日に焼けるので、馬車にいます」
「そうですか」
公園はゲームのデートスポットだ。マレルタは好感度が低いと、必ずそう言って断るので計画通りだ。公園は近いのですぐに着いた。
「では、私は少し体を動かしたいので行ってきます。ミアをお借りして、散策してもいいですか?」
「どうぞ」
マレルタから了承をもらった! 馬車の中なら内側から鍵をかければ、一人でも安全だからな。ミアを見ると頷いた。やった~! ミアとデートすることに成功した!
ミアと二人で池の周りの小道を歩く。といっても、ミアは後ろから付いてくるだけだ。桟橋まで下りるとミアのほうを向いた。
「一緒にボートに乗ろう」
「それは、ちょっと……」
ミアは断った。
「俺が一人で乗っているのを目撃されると、ゴシップ紙に何を書かれるか分からない」
俺とマレルタの婚約話はもう広まっているはず。その中で、あのキースが一人でボートに乗っていたら、悩みでもあるのかと思われて、マレルタもあることないこと書かれるだろう。ミアならそれは避けたいはずだ。ニヤリ。
「分かりました……」
ミアは仕方なく了承した。俺はボートに乗ると、ミアに手を差しだして、彼女をボートに乗せた。




