3、悪役令嬢と同居
ハテナ過ぎる展開に、俺は走って玄関まで行った。玄関には悪役令嬢じゃなくて、マレルタ・ゼレツ公爵令嬢が、茶色の四角いカバンを持って立っていた。
その姿は、神々しい! 圧倒的ビジュアル! まるでフィギュアのように完璧だ。美しい薄紫の長い髪に、赤い瞳。なんかエフェクトのように、周りに白い光がかかっているようだ。これ、ゲーム補正? 俺の目がおかしいのかな?
「初めまして、マレルタ・ゼレツ公爵令嬢です」
彼女は俺に頭を下げて礼をした。俺は彼女に圧倒されながらも挨拶を返した。
「……キース・グランテです。今日はどうしたんですか?」
「はい、私は王子の命に従って、キース様と婚約するつもりなのですが、父が反対するので、家を出てここでお世話になろうと思います」
何? いきなり同居? なんなのこの展開? 俺は驚いて言葉が出なかった。その時、彼女の後ろにいるメイドに気がついた。
黒髪シャギーのおかっぱに黒いメイド服、この子はミアだ! ミアも攻略対象で、王子のメイドだ。何でここに?
「そのメイドは城のメイドですよね?」
それとなくミアのことを聞いた。ミアが淡々と答えた。
「私は、王子のメイドのミアです。マレルタ様をサポートするように仰せつかっています」
それはつまり、監視役か。ミアは主人に絶邸服従。嘘もつかないので王子の信頼も厚い。恋愛ではツンデレキャラで、風貌からもファンの間では黒猫と呼ばれ絶大な人気を誇っていた。
ミアにも仄かな光が見える。ミアは悪役令嬢と違って、小柄でしなやか。猫のように思わず触ってみたくなる。俺はミアに吸い込まれるように手を伸ばした。
ガシッ!
マレルタに手を掴まれた。痛い……。公爵令嬢なのにどこにそんな力が。俺のか弱い手が折れそうだ。マレルタは背も高いし、王子と並ぶと丁度いいぐらいだ。スタイルがいいということは、いろいろ育っているということだからな。
マレルタは俺を鋭い視線で睨んでいたが、カバンを床に置くと両手で俺の手を握った。
「キース様、この婚約を成功させましょう」
目が座っている。怖い。マレルタはクールキャラなので、表情が全く読めない。確かに遮ったので、自分を差し置いてメイドに見惚れたのを怒っているのだろう……。
止めてくれて助かった。もしミアに触っていたら、ミアの好感度はがた落ちしただろう。
マレルタは、俺より少し低いぐらいなので目線が合う。怒った顔もきれいだ。いつもなら気安くそう言っていただろうが、
「はい……」
俺はそのまま素直に返した。マレルタは満足そうに手を放した。ふぅ~。マレルタの荷物は、あとから来たうちのメイドが持った。
なんだかゲームを思い出す。セリフの選択を間違えると、好感度は上がらない。マレルタの場合、主人公の王子なら「男性に気安く触ってはいけない」と窘めてもいい。
マレルタが聖女をいじめた理由も、聖女が王子と(意図してないが)接触が多いことを注意するからだ。
しかし、身分の低い俺は初期段階では従うほうが正解だ。王子の様に上から言っても、いつもの通り気安く言っても、マレルタの好感度は下がるだろう。俺はばあやに聞いた。
「父さんは執務室にいるだろうか?」
「はい、おりますよ」
「では、案内します。こちらへ」
俺は二人を父さんの執務室まで案内した。ばあやは持ち場に戻った。執務室に入ると父さんに、二人の紹介とうちに来た理由を説明した。
「分かった。それなら、メイドの部屋のある客室を用意しよう。それまでは応接室でお待ちいただこう。案内してくれ」
父さんは案内をメイドに頼むと、俺を見た。
「お前はここに残れ」
「はい」
「こちらへどうぞ」
メイドは二人を連れて出て行った。父さんは近くに来いと指で合図した。
「いいかお前、絶対公爵令嬢には手を出すなよ。公爵に睨まれたら、私たちは首都で商売ができないからな」
「分かってるよ」
俺は手を振って答える。——実際は、釘を刺してくれて助かった。ゲーム設定のせいか、攻略対象たちの威力に俺は抗えない。これは由々しき問題だ。
「それならいいが……」
そう言いつつも父さんは信用してない様子。さすがだ。俺は部屋を出た。
同居と言えば、お風呂でばったりとかは異世界ではありえないな。それに、ミアが阻止するだろう。
ミアはか弱いが、けなげにも魔法アイテムや武器を使って主人を守ろうとする。今はマレルタが主人だ。何があっても、ミアが阻止してくれるだろうから、大丈夫だな。よし。
と思ったのに、深夜、マレルタは一人で俺の部屋を訪ねてきた。俺はもう寝ていた。手元灯だけを付けて、ドアを開ける。
「お話があります。中に入れてください」
マレルタは寝間着姿にガウンを羽織っていた。後ろには誰もいない。——どういうことだ? ……話だけならいいだろうか? 俺はマレルタを中に入れた。




