17、占い魔女の店
俺はその場で父さんに言った。
「俺、領地に行きます。ここにいても迷惑をかけるから、ロン兄の仕事を手伝うよ」
「そうだな。分かった、ロンに連絡しておく。ちょっと、休暇がてら行ってこい」
「はい。ありがとう」
よし、そうなったら、仕事の引継ぎだ! 俺はジェイ兄に報告に行った。
「コルのことをよろしく頼むよ。何かあったら、グエンにも手伝ってくれるように言っておく」
「グエンは天才魔法使いか。お前、知り合いだったのか」
「ちょっとね。友達みたいな……?」
「分かった。コルのことは任せてくれ」
俺はジェイ兄の執務室を出た。今までの仕事はメイド三人に任せることにした。買い付けの好みは偏らない方がいいから、三人に交代で付き添ってもらっていた。
コルにも伝えに行った。コルはすぐに涙目になった。
「キース様がいなくなるなんて……」
「また戻ってくるから、泣かないで。コルのことはジェイ兄に頼んであるから、心配ないよ。あと、グエンにも言っておく。あいつは悪いやつじゃないから、困ったことがあったら必ず助けてくれる」
「え、ああ。はい」
コルは今思い出したように言ったので、どうやらグエンは忘れ去られていたようだ……。かわいそうに。グエンとの好感度はマイナスかと思ったが、とりあえずゼロだな。
「そうだ、またおまじないをしてくれないか? 前も効果があって、お見合いができたから」
「はい」
コルは手の甲で涙を拭って、おまじないをかけてくれた。コルの暖かい魔法が心を癒してくれる。おまじないが終わると、コルは俺に抱き着いた。俺もコルを抱きしめた。やっぱり、離れるのは寂しいな。
ふと横を見ると、窓にグエンが張り付いていた。またどす黒いオーラが体から出ていた……。やれやれ。あいつは、ここにいる時間のほうが長いんじゃないのか?
俺はコルと別れて、グエンの店に行った。グエンはカウンターに座って頬杖をついていた。ムスッとして、挨拶はない。
「コルが泣いていた。どうしたんだよ」
「俺が領地に行くからだ」
「え?」
グエンはこっちを向いた。
「王子のせいで、王妃に睨まれたんだ。ここにいてもゲームに巻き込まれるから、田舎に引っ込むよ。お前ともお別れだ」
「キース……」
グエンは目を潤ませた。
「お前は本当に涙もろいな」
グエンは下を向いて泣いた。
「たまに戻ってくるから、泣くなよ。コルには、困ったことがあったらお前を頼るように言っておいたから。ジェイ兄にもお前のことは言っておいた。
——なあ、二人で占い魔女の店に行かないか? コルとの好感度を確認してみよう」
避けていたけど、もうここには戻ってこないかもしれないから、一度は行っておこうかなと思った。
グエンは泣いたまま頷いた。涙を拭くと、カウンターの下からあの危険な店番人形を取り出してカウンターの上に置いた。見た目のシンプルさが余計に不気味さを漂わせている。目が合っているようで怖い……。俺は人形から目をそらした。
二人で占い魔女の店に行った。店の看板に占い魔女の店と書いてある。「占い魔女」とは店の名前と通称で、正式には占いを得意とする魔法使いだ。
店の中は、占いのテーブルに客用の丸椅子が二つある。ルイーズは紅色の布張りの背もたれが付いた豪華な椅子に座っていた。
机の上には光沢のある黄色と緑のクロスが二枚重ねで敷いてあり、クロスに施された花のような刺繍がきらびやかだ。
占い魔女のルイーズは、瞳はピンクで、ツインテールの白くて長い髪にピンクとエメラルドグリーンのエクステを二本付けている。白い着物のような前合わせの服を着て、袖が膨らんでいて大きい。全体に派手な印象だ。瞳と髪の色は変えているのだと思う。
「いらっしゃい」
「こんにちは。取引をしているキース・グランテです」
「まあ! 初めましてキース様。お世話になっております。コルから聞いていた通り、素敵な方ですね!」
「あははは」
お世辞に俺は照れた。占いの席にグエンと座った。
「今日は、グエンとコルの好感度を見てもらいたくて来ました」
「あら、天才魔法使いのグエンね。コルと知り合いだったんだ」
「そうです」
俺が返事をした。グエンはちょっと恥ずかしそうに縮こまっている。本当にただの知り合いですから。
「一回五百ラスよ」
「自分で払うか?」
「うん」
俺が聞くと、グエンは腰に下げた巾着から五百ラス硬貨をルイーズに渡した。ルイーズは水晶玉を覗き込んだ。
「好感度は十パーセントよ」
「へ~、思ったより高いな」
俺が言うと、グエンが睨んだ。
「キース様が信頼しているからね」
「そうか。さっき言っておいたのが効いたのかも。良かったな」
「好感度を上げるには、先輩として魔法や商売についてアドバイスするといいわね」
おお~、占い魔女のアドバイスだ。ゲームっぽい。グエンは黙ってコクコクと二回頷いた。
「俺は五人見てほしいです」
攻略対象全員の好感度を確認しておこう。俺は銅貨二枚と五百硬貨をルイーズに渡した。
「あら、まあ、さすがキース様。たくさんいますね」
「いえ! ただの知り合いや、仕事相手です!」
慌てて言った。ルイーズはおほほと笑って濁した。本当です~。
「では、フルネームか、名前と職業でもいいですよ」
「マレルタ・ゼレツ公爵令嬢と、聖女のセシリア、メイドのミア、カタリナ・ブラン伯爵令嬢、コルです」
「了解です」
ルイーズは水晶玉を覗き込んだ。
「マレルタ令嬢と聖女様は十パーセントですね。お二人はキース様のことを紳士として信頼していますね」
お~、やはりその程度か。セシリアは追い出したから、好感度があるのは意外だった。手を出さなかったのが良かったんだな、きっと。
「カタリナ伯爵令嬢は五十パーセント。ミアは八十パーセント。コルは九十パーセントですよ! コルは家族のように信頼していますね」
うわ~、うれしい。俺はデレっとした顔で喜んだ。グエンが横で俺を睨んでいる。まあ、これは全員、知り合いとしての好感度だから。
「お二人の相性はいいですよ」
ルイーズは俺たちを見てそう言うと、ニッコリ笑った。二人とも一瞬止まった。サービスで見てくれたようだ。グエンが俺を見て言った。
「もう友達だな」
「そうだな」
年が離れてるけど、魔法使いと友達なら便利だな。
「お前今、便利だとか思っただろ」
便利すぎるだろ!
「魔法使いは顔に出たことが分かるから、気をつけろよ」
「はい……」
俺は素直に返事をした。ルイーズがにこやかに言った。
「意中の方がいましたら、相性も見ますのでまた来てくださいね」
「はい」
『ありがとうございました』
俺たちは二人でお礼を言って店を出た。俺はグエンに言った。
「十パーセントは信頼があるから、大丈夫そうだな」
「うん」
グエンはうれしそうに前を見て微笑んだ。最初の出会いが最悪だったからな……。グエンの店の前まで来た。俺は別れの挨拶をした。
「じゃあな。元気でな」
グエンは俺の前に出ると、目をギュッと瞑って両腕を広げた。俺は一瞬驚いたが、フッと苦笑した。俺はグエンをギュッと抱きしめた。グエンも俺を抱きしめると、静かに泣いていた。
「また、会いに来るから」
俺はグエンの頭を軽くポンポンと触った。グエンは俺の腕の中で頷いた。




