18、眠り姫
それからしばらくして、ロン兄から了承の手紙が届いた。ついでにロン兄の奥さん、義姉のモリスから、ラビアンローズで新作の日傘と帽子を買ってくるように頼まれた。ラビアンローズは隠れ攻略対象がいる洋品店だ。
これで、出会いだけはコンプリートだな。俺は苦笑した。
ラビアンローズに行くと、早速隠れ攻略対象のアメリアが出てきた。アメリアは黄色い眼鏡に、外はねした赤ピンクのセミロングで、クロスした黄色い髪留めをしている。この髪留めは好感度が上がると色が変わるようになっている。
紺色のスーツを着ている、制服キャラだ。童顔で年齢よりも若く見える。ルイーズは派手なコスプレ系で圧倒されたけど、アメリアはかわいい感じだ。どっちもコスチュームキャラだな。
「今日はどういったものをお求めですか?」
「新作の赤いバラの刺繍の日傘と、同じ柄のボンネット帽子です。生地は白で」
「こちらです。とても人気で、すでに品薄なんですよ」
わあ~、間に合って良かった! アメリアは棚に案内すると、商品を出してくれた。
「こちらでよろしいですか?」
白地に少し開いたバラが、ランダムに配置されている可憐な柄だ。
「はい、それです!」
「では、お包みしますね。合計三二○○ラスです」
もちろんこれからお世話になるので俺が払う。貴族は普段ツケ払いだが、俺はお金の入った巾着から銅貨三枚と百ラス硬貨を二枚出した。これでお土産もゲットできた。
準備ができたので俺は領地のラースロに向かった。首都からは馬車で二日かかる田舎だ。父さんとジェイ兄が見送ってくれた。さらば首都! 俺は馬車に乗り首都に別れを告げた。
王子のゲーム期間が終わるまでは戻ってきたくないな。いつになるのか見当もつかないが……。
二日かけて、ラースロの屋敷に着いた。祖父母とモリスが出迎えてくれた。モリスは赤茶色の天パの髪をアップにしている。ちょっとふくよかだ。ロン兄は仕事でいないそうだ。祖母が俺にハグをした。
「久しぶり! あいかわらず、かわいいわね」
「あははは……」
もう二十三歳ですけど……。俺は兄たちと違って、線が細いから。祖父もニコニコして歓迎してくれた。
「よく来たな」
「いらっしゃい」
モリスも声をかけてくれた。
「お世話になります。これ、頼まれていたものです」
俺はモリスに包みを渡した。
「わあ! ありがとう! 息子がまだ小さいから出かけられなくて、本当にうれしいわ! 買い物は気分が上がるわ」
甥っ子のランディはまだ一歳だ。
「俺がプレゼントします」
「まあ、ありがとう♡。きょうはゆっくりしてって、ロンが言ってたわ」
「分かりました。ありがとうございます」
メイドに部屋へ案内してもらった。久しぶりに来たので、散策することにした。
屋敷を出て農地が見える丘に行った。屋敷の周りも私有地だ。そういえば子供の頃、森に行ったときにジェイ兄はリスやウサギがいると、じっと見ていたっけ。かわいい物好きだからだったんだ。思い出して笑った。
野原には小さな花が咲いている。大きな木がぽつんと立っていて、木陰を作っていた。そこを通り過ぎると斜面に白いものが見えた。——人だ。
近づくと美しい娘が寝ていた。ベージュの髪を左にゆるく編んで、肩の下で結んでいる。白いギャザーとフリルのブラウスに、茶色のティアードスカートをはいていた。
天使か!? 村の娘? いや違うな。手を見るときれいだった。貴族の娘だ。ここは私有地だし、うちの客か? 俺は首をかしげた。聞いてないな。
出会いがあったってことは、コルのおまじないがまた効いたってことだよな? すごいな、コル!
俺は寝ている令嬢に何かする男ではないが、かと言ってそのまま起きるのを待つのもな。俺はその辺に咲く花を摘んで、彼女の髪に飾った。そして、俺も横で寝て彼女が起きるのを待つことにしたが、本当に寝てしまった。
令嬢が起きると、隣にキースが寝ていた。髪には何か違和感があり、目の端に花が映る。触ってみると無数に花が差してあるのが分かった。
令嬢はその辺の花を取ってくると、花冠を作った。花冠ができるとキースの頭の上に乗せて、その場を後にした。
令嬢はグランテ邸に戻った。モリスが離れまで探しに来た。
「ソフィ、戻ったのね。どうしたのその花飾りは? きれいね」
ソフィは窓ガラスに映る自分を見た。白い花をメインに、黄色やピンクの小さい花が差してあった。
「王子様が差してくれたのよ」
「あら、まあ」
「お礼に花冠を置いてきたわ」
(誰かに会ったのね。……キースかしら?)
「迎えの馬車が着いたわよ。もう帰るなんて、本当に急ね」
「仕方ないわ。遊び人のキース様が来るって知ったお父様が、心配したんですもの」
「フフフ、そうね」
ソフィは荷物を馬車に乗せると帰っていった。
しばらくして起きると、何かが頭から落ちた。
「何だ?」
水色の花をベースにした、きれいな花冠だ。横を見ると令嬢はいなかった。花冠はきっと、令嬢が作ってくれたんだろう。いないのは残念だが、仕方ないな。ちょっとため息をついた。
俺は花冠を頭に乗せて屋敷に帰った。
屋敷に入るとモリスに会った。
「あら、まあ!」
「ただいま」
モリスが花冠を見て驚いていた。
「それはどうしたの?」
「寝ていたら置いてありました」
「そうなの。フフフ」
モリスは意味深に笑った。部屋に戻ると花冠を窓辺の棚の上に置いた。思わずドライフラワーにしようか悩んだが、その時の思い出のままにすることにした。
夕食にはロン兄もいた。ロン兄は、父さんの髪色のモスグリーンが少し混ざった濃い茶色の髪で、俺たちと違って短髪にしている。令嬢のことを聞いてみた。
「俺が来たときに、お客がいましたか?」
「いたよ。モリスの従妹のソフィア・トレビス侯爵令嬢が、遊びに来ていた」
「!」
やっぱり、うちの客だったんだ。ソフィア・トレビス侯爵令嬢の名は聞いたことがある。社交界にほぼ出て来ないが、その美しさは密に噂になっていた。
まさかモリスの従妹だったとは! 父さんは知っていただろうが、俺まで情報は来なかった……。まさに隠しキャラな感じだから、もしかしたら、そうかもしれないな。
俺は彼女の持つ穏やかな雰囲気に心惹かれていた。また会って、今度は話がしてみたいな。
「——なんで俺に知らせなかったんだ?」
「お前が来るのが分かって、心配した侯爵から呼び戻されたんだ。だから離れに隠して、黙っていたんだよ」
くそ~。俺はこっちにいるから、次会う機会は永遠に来ない気がする……。俺はやはり結婚運がないのか……?
「明日は領地を案内するよ。馬には乗れるだろう?」
「うん。しばらく乗ってなかったから練習してきたよ」
子供の頃は乗馬も習っていたが習い事は全部辞めたので、慌てて練習してきた。
「お前は乗馬も上手だったからな」
ロン兄はそう言いながら、思い出すように微笑んでいた。——俺、上手だったんだ。
翌日は果樹園を見て回った。今は桃が最盛期だ。農家の人から桃をもらった。うまい~♡♡。カフェアンジェロでも桃フェアーが始まっている。
桃のお菓子、食べたかったな~。こっちでも料理人が作ってくれるか。アンジェロのレシピは領地でも教えている。町にカフェもあるし、今度行ってみよう!
「明日は織物工房を回ろう」
「分かった」
屋敷に帰って部屋で一息ついた。ふと、昨日もらった花冠を見た。一日経ったのでもう元気がない。しおれていくのはやはり惜しいな……。
俺は水色の花だけ取って、ノートに挟んでおいた。
夕食の席でモリスに聞いた。
「義姉さん、押し花ってどうするといいの?」
「あら、まあ。花の厚みを取って、ちり紙に挟んで重しを置いて水分を取るのよ。乾燥するまで紙を変えるの」
「ふ~ん。やってみる」
俺は部屋に戻ると、もう何個か花を取って残すことにした。押し花のしおりもいいな。店で売れそうだ。花はたくさんあるから、ここの特産品にしてみようかな。




