16、衝撃の事実
翌日、俺はグエンの店に行った。グエンはカウンターに座っていた。
「いらっしゃい」
「よう」
グエンはいつもと違って、元気が良かった。グエンは俺に言った。
「バッジを乗せてみて」
俺は棚からバッジを一つ持ってきて、グエンの頭の上に乗せた。すると紫の枯葉になった。
「キノコじゃない……!」
「キノコはやめたんだ。公式のバッジに戻したんだ」
「……それがいい。懐かしいな」
俺はバッジを取ってつぶやいた。俺が持つと一葉になった。
「葉っぱが一枚になった!」
「ああ、それもオリジナル。恋愛してない人はそうなるんだ。デフォルトがそれだな」
なるほど。俺は今、恋愛気分じゃないんだな……。
「? 元気ないな」
グエンに言われて、俺は城であったことを話した。
「王子も転生者だって!? それでコルに興味があったんだ……」
「そうなんだ。俺たちのことは言わなかったけど。話だけ聞いてきた」
それぞれが似たキャラに転生したという考えを話すと、グエンも考え込んだ。
「魔法学校の授業では、性格は魂によって違うらしい」
「環境とかじゃなくて、そうなのか。それでゲームキャラとは違うんだな」
俺たちに前世の記憶があるのは、その続きを生きているからなのか? 記憶があるせいで、俺は前世の終わりがトラウマになっているのかも……。
「俺、もしかしたら結婚できないかも。そのほうが自分に合ってるなら、それでもいいかなとは思うけど」
「なんだよ、俺には好きな奴ができるとか言ってたくせに。——それで、一葉になったのか」
「そうだけど、結婚したいほど好きになったことがない。……だから、好きな人がいるお前が羨ましいよ」
「俺だって、そういう好きなのか分からない。——お前だって若いんだから、今決めなくてもいいだろ。……もう、なんで俺がアドバイスしなきゃいけないんだよ」
グエンは呆れていた。
「キースはロマンチストだよな」
「そうだな。中二病のお前に相談するぐらいだからな」
「中二病言うな」
俺は思っていたことを打ち明けた。
「前世も結婚できなかったから、今世もそうなのかもと思ってさ」
「そもそもなんで、キースは亡くなったの?」
「俺は交通事故だよ。自転車に後ろからぶつかられたんだ」
「……え、俺も自転車に乗って事故に遭った。サラリーマンに後ろからぶつかったんだ」
「え?」
俺は驚いた。事故に遭ったという言い方が不自然だったが、グエンに近寄って指を向けた。
「……まさか、お前が——?」
「もしそうなら、ゴメン!」
俺が近づいて手を上げたことで、グエンはとっさに両腕で頭をかばった。
「俺も仕方なかったんだ。赤いスポーツカーにぶつかられたんだ!」
「! ……そうなのか」
「歩道は混んでたから車道を走ってたら、俺も後ろからぶつかられた。死んでから、赤いスポーツカーが電柱にぶつかってたのを見たんだ。それで、あの車に飛ばされたんだと思った」
俺と同じだ……。俺は自分の周りしか見ていなかった。まさか、別の事故があったとは!
——赤いスポーツカー? ウルフレッド……あれ? 記憶がよみがえった。記事で見たことあるぞ……、もしかして……。
「そのスポーツカー、王子じゃないのか?」
「——え? まさか?」
「ゲーム制作者のコメントに、王子の名前は憧れのスポーツカーから付けたって書いてあったんだ。今は廃業したウルフ社の赤いスポーツカー、ウルフレッド。ゲームが人気になったから、大手メーカーが限定で復刻モデルを作ったって、SNSで話題になってた」
「!」
あの車、一台八百万円はする。無職がとか言ってたが……、あのヤロ~、前世もボンボンだったのか! なんて強運!
——俺は心の中で、笑いながら口から血をたらした。……もう絶対あいつには関わらねぇ~。
横を見ると、グエンが小さくなって、ぽろぽろと涙をこぼしていた。
「ごめん……」
グエンがぽつんと言った。……俺も逆の立場なら、同じ気持ちだ。俺は慌てて言った。
「大丈夫だ、俺は怒ってない。済んだことだし。——悪いのは王子だ。あいつは何も考えてないヤバイ奴だから、お前も気をつけろよ」
「うん、うん」
グエンは涙を拭きながら頷いた。グエンは外見ワイルド系イケメンなのに、涙もろいな。まだ思春期だし、情緒不安定なのは仕方ないか……。
よく考えたら、黒キノコも紫の枯葉に集約されてるから、こいつはまだ病んでるんだよな。俺や王子と違って繊細なんだろう。
俺はグエンをなだめながら、考えていた。俺たちは同じ時に死んで、共通点があのゲームだったんだ……。偶然だろうけど、問題はゲームが進行しているということだ……。
城の会議で、婚約についてウルフレッド王子が呼ばれた。王子は奥の席に着いて聞いていた。大臣の一人が言った。
「マレルタ公爵令嬢には問題がありませんでした。また候補にされても問題ないでしょう」
ゼレツ公爵が言わせたのだろう。公爵は目を瞑って腕を組み、成り行きを聞いていた。王子は一瞬眉をひそめたが、姿勢を正すと無表情で言った。
「彼女とは上手くやっていける気がしない。側室を持ってもいいのなら、マレルタ令嬢と再び婚約してもよいです」
会議の場はざわめいた。近年では王室に側室が存在した記録はない。王子は涼しい顔で会議の間を出て行った。
王子は王妃に呼び出された。王妃は執務室のソファに座り、王子は手を後ろにしたまま立っていた。早く出て行きたかったからだ。ミアも王子の後ろにいた。
「ウル、なぜあんなことを言ったのです!」
「キース令息のアドバイスです」
「——何ですって! キース、とんでもないことを!」
王子は王妃の言葉を待たずに、さっさと出て行った。ミアは王妃に、
「キース様はそんな方ではありません」
「ミア」
王妃は立ち上がると、ミアをそっと抱きしめた。そしてミアの両肩を持ち、目線を合わせた。
「ミア、男に騙されてはいけませんよ」
「……はい」
王妃の静かな圧力に負けて、ミアはおとなしく返事をした。
(ごめんなさい、キース様。色々伝わりませんでした。……でも私は信じています)
俺は父さんから呼び出された。父さんは机に両肘をつき、手を握っていた。
「おい、お前。王子に側室を持つように言ったらしいな」
「ブホッーーー!」
父さんの言葉に、俺は吹いた。
「王妃がたいそうお怒りだぞ」
「そんなこと言ってませんよ!!」
「そうだろうな。お前はフェミニストだからな。やれやれ」
あの王子!! とんでもないことをしてくれやがって! これでまた俺の婚活が遠のいた。俺は心の中で笑顔を引きつらせた。
もういやだ! 俺は田舎に引きこもることにする! 王子、いやゲームに巻き込まれるのはもうごめんだ!!




