14、俺の借金
コルの商品のおかげで店の空き棚は無くなり、デザイナーと仕立て工房ののれん分けを手伝って、新しく一つずつ増やした。現在はそれぞれ五社と契約している。うちは専属契約はしていない。そのほうが、他社のトレンドや情報が入ってくるからだ。
これで売り上げは増えたが、俺はまだ給料をもらっていなかった。
父さんに呼ばれて、その話になった。
「お前が手伝うようになって、上手く回っていくようになった。給料なんだが、私はお前が起こした問題の解決金を今までたくさん支払ってきた。だから給料は当分なしだ。
お前はもう働く年だから、割り当て金も三分の二をカットすることにした。まあ、残りがお前の給料ということになる。お前が結婚するまではそのままだな」
「分かりました」
とほほ……。解決金は給与のない俺では到底払えない額だ。うちの損失だから仕方がない。
割り当て金とは月に自由に使えるお金、お小遣いのことだ。残りは前世の給与の半分ぐらいだな。家賃も食費も払わなくていいから、そう考えると結構ある。
今は女性にプレゼントを買わなくていいし、友達との付き合いにもしてない。舞踏会にも出てないから衣装代もいらない。まあ、これを結婚資金として貯めていくか。
「ジェイがお前のことを目利きだと褒めていたぞ。お前はビサに似ているからな。——この調子で頑張るように」
本当!? うれしい~。ビサは母さんの名前、ビサーナの愛称だ。母さんはまだ帰ってこない。貴族の奥さんは家事をしなくていいから、家にいなくても困らない。この分だと夏季休暇も旅先で過ごしそうだな。
「はい」
俺は返事をして父さんの執務室を出ると、ジェイ兄の執務室に行った。
「父さんから給料の話を聞いたよ」
「ああ、それは俺も聞いてる。お前は服には気を遣わないよな。いつも同じ服を着ているし」
それは俺がゲームキャラだからな。なぜか同じほうが落ち着く。心の中で苦笑した。
「俺のお古をお前にやるよ。好みじゃないなら、売って中古品を買うといい」
「ありがとう」
ここでも買取のお世話になるとは……。ジェイ兄は濃い色を好むが、俺は薄い色のほうが好きだ。ジェイ兄の服は、うちのオーダー品だから質がいい。高く売れるだろう。服が必要ないときは、そのお金も貯金するか。
「店のサンプル品も、買い手がなければお前に回してやるよ」
「ありがとう!」
やった! 女性物も高く売れるからな。ほくほく。
俺が仕入れから戻ると、ばあやが飛んできた。なんか嫌な予感がする。
「コルタス様がやって来て、いまジェイ坊ちゃまの執務室でキース坊ちゃまをお待ちですよ」
コルが!?
「分かった!」
俺は慌てて、ジェイ兄の執務室へ行った。ノックをせずに中に入った。部屋の中には、ソファに座り大口を開けて、イチゴのジャムタルトを食べているコルと、執務机で仕事をしているジェイ兄がいた。
「戻ったか」
「キース様!」
コルは手をフキンできれいに拭くと、ぴえんの涙目になって俺のところに来た。
「どうしたんだ。兄さんに何かされたのか!?」
「人聞きが悪いこと言うな。今、お菓子を食べていただろ。コルがいたおかげで仕事がはかどったな」
ジェイ兄は眼鏡のブリッジを指で上げた。あははは……。ジェイ兄らしい。二人は今日初対面だな。
「王子から手紙をもらったんです」
コルが手紙を見せてくれた。そこには、
『コルタス・ムラカを第一王子専属の魔法使いに任命する』
と書かれていた。——ん? 専属の魔法使い? 聞いたことないぞ。
「王室に、専属の魔法使いなんかいないよな?」
「そうだな。先に父さんとも話したが、コルは魔法学校出身じゃないから、魔法学校の連中がよく思わないだろう。王子個人の趣味と言われてしまうから、コルにとってはよくないな」
魔法学校は国が運営している。専属を作ると、魔法使いを王室が独占する動きとも取れる。問題がありそうだ。
「変だな。こないだ会ったときは、まったくコルに関心がなかったけど。むしろ俺のことだけ文句を言っていた」
「そうか。父さんとの話では、王子個人のことなら断っても問題ないだろうということだ」
「そうだな。コルから断りの返事を書けばいいと思う。
今回のことは多分王妃も知らないだろうから、俺から王妃に手紙を書いて伝えておくよ。何かあったら助けてくれると思う」
「はい、ありがとうございます」
コルはすっかり元気になった。
「じゃあ店まで送っていくよ」
「ありがとうございます。キース様」
「お菓子を包ませよう。コルもカフェアンジェロでサービスしてあげるから行くといい」
「ありがとうございます! ジェイコブ様」
ジェイ兄にコルがお菓子好きなことは言ってある。ジェイ兄は、お礼を言われてうれしそうだった。コルにも無料パスを作って渡さないとな。
店には二人で歩いて行くことにした。
「王妃様に呼ばれてから、お客様が増えたんです。来月の家賃は払えそうです!」
「そうか、良かったな!」
商品箱の中にはショップカードが入っている。商用で名刺を使う者は多いが、経費がかかるので、ショップカードを作るところはほとんどない。
前世だとインターネットがあるから必要ないが、ここでは通信がないので、住所が書いてあるショップカードは宣伝としてすごく役に立つ。香水をもらったメイドから、口コミが広まったんだろう。
「全部、キース様のおかげです」
コルはそう言うとニッコリ笑った。かわいい~♡。
「ありがとう。うちもコルの商品で助かってるよ」
「えへへ」
コルは照れて笑った。コルがすっかり落ち着いて良かった。俺も微笑んだ。
俺はコルを送ったあと、グエンに王子の件を伝えに行くことにした。




