13、王妃の悩み
初めて間近で見る王子は確かに美しい。でも、こいつは俺に隠すこともなく嫌悪の表情を向けていた。——俺、なんでめちゃくちゃ嫌われているのか……?
婚約の命もあったから、よほど遊び人が嫌いなのか? それなら過去は変えられないから、嫌われても仕方ないよな。俺は鼻からふっと息を漏らした。
王妃が王子に向けて言った。
「私のお客様に失礼な態度を取らないでちょうだい。——ちょうど良かったわ。あなた、マレルタとキースに婚約を命じて二人に迷惑をかけたわね。キースに謝りなさい」
そうだ! 謝れ。そしたら許してやる。王子は王妃の言葉に嫌そうな顔をした。
「……聖女とも仲良くなったそうですよ」
王子はそう言うと、部屋から一人で出て行った。それは、俺のせいじゃない! コルには王子が言った意味が伝わらないといいが……。
あのヤロ~……、謝るのが嫌なんだな。王子、嫌な奴で決定! その時、コルが俺の服の袖を掴んだ。コルを見ると、下を向いて震えていた。
「大丈夫だよコル」
俺はコルに小さい声で優しく言った。コルは頷いた。
「キース、あなたは噂とはだいぶ違うようね。魔法使いが信用している」
「あ……、いえ」
その噂は恐らくまあ、本当ですけど……。俺は汗をかいた。
「それに、ミアからも話を聞いていたのよ。さあコル、商品を見せてちょうだい」
「……はい!」
コルは気持ちを持ち直して明るく答えた。カバンから香水とルームフレグランスを取り出す。
初めは箱がなかったのだが、うちに置くときにそれぞれの箱を作らせたのだ。うちは箱込みで売っていて、コルの店では箱はプレゼント用で別売りにしている。
貴族の人気商品はやはりバラの香りだ。コルの香水は特別で、付け過ぎても周りには一定の香りしか広がらない。他の人と同じ香りでも、匂いがきつくなったりしないのだ。
みんながそれぞれ一定の香りを保つので、まるで花が咲いているように、不快感がなかった。コルの気遣いができる性格がよく出ていた。
俺とコルで箱から瓶を取り出した。王妃はバラの香水を手に取って匂いを嗅いだ。
「まあ。本当に花のようにいい香りだわ……。素敵ね」
王妃がうっとりして言った。それから、ルームフレグランスの森の香りを手に取った。
ルームフレグランスは魔法石から自然の香りが出てくる。魔法石は香りをイメージした色と形にカットされていた。森の香りは黄緑色で木の形をしている。
「まあ、まるでその場にいるようだわ! 清々しいわ。——懐かしい香りね……。今では自由に外を出歩けないからとてもいいわね……」
王妃は田舎にいたことがあるんだな。
「消臭剤はないかしら?」
「あ、はい、あります」
コルは消臭用の魔法石を取り出した。念のため持ってきておいて良かった!
「ウルは本当に臭いのよ! 部屋も。食生活がよくないの。部屋に持ち込んで一人で食べているのよ。だから変な臭いがして、メイドたちから苦情が出ているの」
わあ……。あの王子の欠点が臭いか。ゲームでは臭いは分からないからな。しかし、食生活が悪いのにあのスリムな体型なのはゲーム補正なのか? 羨ましい。
「これなら、どんな悪臭も消臭します。ルームフレグランスは魔力が無くなったら、充填料金で、充填されたものと交換できます」
「まあ、助かるわ! いくつあるの」
「今日は三個持ってきてます」
「今日持ってきたものは、全部買い取るわ!」
「!」
「ありがとうございます」
コルが固まったので、俺が代わりにお礼を言った。
「良かったな。コル」
「はい!」
「今後は、お店に使いを出すわね」
「はい、ありがとうございます」
これが続けば、コルの店は王家御用達になるな~。
「その黒いものは何?」
王妃が黒い半円の魔法石を指差した。
「これは、その場所の星空を天井に映し出す魔法石です。ここでお見せします」
コルはそう説明すると、呪文を唱えて部屋を暗くした。石に触れると、天井に現在の星空が映し出された。ホームプラネタリウムだな。これはゲームにはなかったアイテムだ。
「なんて、きれいなの! これは絶対、ルーにいいわね!」
ルーは第二王子のルーファス王子のことだな。ウルフレッド王子の陰に隠れて、表に出てこない大人しい王子だ。
コルはまた石に触れて星空を消すと、部屋を元の明るさに戻した。
「あなたたちも香水を選びなさい」
王妃は、ミアともう一人のメイドを促した。王妃付きのメイドはサービスがいいな。ミアはクチナシの香水を選んだ。渋いな。
「ミアは戻っていいわよ」
「ありがとうございます。キース様、コルタス様、失礼します」
ミアは俺たちにお辞儀をすると戻っていった。コルも恐縮して頭を下げた。二人のやりとりも、かわいくていいな♡。
「お客様の分もお茶を用意してちょうだい。手の空いてる子たちも呼んできて」
王妃は案内したメイドに指示を出す。出て行ったメイドと入れ替わりで、他のメイドたちが来て香水を選んだ。
俺たちは、お茶に呼ばれて休憩することができた。城のお菓子を珍しそうにコルが眺めていたが、やがて一つ食べると、目を輝かせた。王妃はそれを見てニッコリ微笑んだ。
「今日のお礼に、お土産に包んであげましょう」
「ありがとうございます」
コルは頬張っていたので、俺がお礼を言った。コルも食べ終わるとお礼を言った。
「ありがとうございます」
「さあ、どんどん食べて」
王妃は本当に優しいな。コルを見る目が温かかった。
「あなたたちは本当に仲がいいのね。兄妹のようだわ。うちの息子たちも仲がよければよかったのだけれど……」
二人の王子は仲がよくないんだな……。
「ウルはあの通りでしょ。子供のころから弟といても意地悪しかしないのよ。家来のように扱うから、できるだけルーとは離すようにしているの。どうしてああなったのかしらね?
私は動物の名前を付けるのは嫌だったの。でも神託で付ける習わしがあるから。ルーは逆に大人しい性格だし、困ったものだわ」
王妃はため息をついた。王妃はまともだし、メイドにも優しい。いい人だった。ゲームキャラの通りだな。
あの王子が悩みの種なんだろう。跡取りだし、ちょっと気の毒だな。
「本当にあなたには、何でも話してしまうわね」
「どうぞ、お話しください。うちは三人兄弟で、特に仲が悪いわけでもいいわけでもないですよ。兄弟とはそんなものでしょう」
「そうね」
王妃は自嘲した。お茶会が終わると俺たちは王妃と別れて部屋を出た。コルはお土産にお菓子をたくさんもらってうれしそうだった。空になったカバンにお菓子をしまった。また馬車に乗って帰路に就く。馬車の中でコルがぽつんと言った。
「あの王子は邪悪です。魔法使いはそういうのが分かるんです」
え? あいつ、俺が思っている以上にヤバい奴なの!?
『魔法使いが信用している』
なるほど、王妃が言ったことはこういう意味なのか。王妃がコルが言ったことを聞いたら、卒倒するだろうな……。心の中でちょっと苦笑した。
俺も嫌われてるから王子には気をつけないとな。あいつにはもう絶対会わねぇ!




