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IronShell 白き灰のアイリス —自衛隊×AI×メカオタク。人類の反撃は一滴の洗剤から始まった—  作者: 須田唯屋
希望の槍 編

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035 決戦、ハミングストリート

 アイリスからの通信が続く。

『A(アルファ)およびB(ブラボー)02はそのまま作戦ポイントへ誘導。B(ブラボー)01は病院正面へ移動し安全を確保せよ』


『了解』

八代と楓が声を揃えて返答を返し、仙川がさらにスピードを上げる。

『04了解。作戦ポイントへ移動開始』


 八代の96ME1番機は先行して病院正面玄関の立体駐車場で身を隠した。

仙川たちの車両は爆音を撒き散らしながら直線を走り切り、再び左に90度ターンして病院正面を抜けていく。

楓の2番機が仙川たちの通過に合わせてエイリアンの波との間に割って入り、軽量型の機体の特性を活かして仙川たちを追従していく。



 仙川たちA(アルファ)チームと楓の2番機は、角を曲がって医学部キャンパスの横を南に駆け抜けて外周を半周し、西にある市役所の方へ向かう。


 一団は産業道路と呼ばれる旧街道の狭い路地を爆走し、私立高校前の交差点でターンして南進し、その先にある市役所の横を駆け抜ける。

さながら『ハーメルンの笛吹男』の童話のように、激しい楽曲に狂わされたエイリアンの大群は狭い路地を埋め尽くす波となり、楓の2番機を追いかける。


「くぅ、重たいわあ、このコ!」

ターンのたびに極端に速度が落ちる2番機の挙動に、楓が悪態をつきながらペダルを強く踏みつけた。


 再び、アイリスから各チームへ通信が降る。

『01、医学部防犯カメラ上でエイリアンは確認されず。引き続き周辺警戒を継続』


『01、了解』


『C(チャーリー)チーム、医学部へ進んでください。要救助者と接触を試みてください』


『C(チャーリー)チーム、徳川です。移動します』


『60秒後にA(アルファ)チームが作戦ポイントに到達。E(エコー)チーム、準備してください』


『E(エコー)05了解ィ。いつでもいいぜ』

作戦ポイントとなる「ハミングストリート新天町」アーケード街の西側エントランス前。

奥の道路を塞ぐように陣取る指揮車両《キャリア》の中で、葉月が無線に応える。

葉月の眼に、こちらに向かってくる楓の2番機の上半身が見えた。


『E(エコー)チーム、散布係スタンバイ』

アーケード街のほぼ中心部に位置する「水神さま」を祀る神社。

そのすぐそばにあるスプリンクラー設備で待機していた学生たちが、止水弁のバルブの前で合図を待つ。


『こちらツギハギ。アーケード東側スタンバイ完了』

ツギハギに搭乗し、東側エントランスに陣取るカイも返答を返す。

カイはアイリスと共に最終地点のアーケード東側エントランスの前で待機している。


 その時、D(デルタ)チームで熱唱していたボーカルの男子学生は自分の喉の限界を悟り、バンドメンバーたちに目配せして合図を送った。

そして、ドラムが転調し、それにベースが合わせてドン!ドン!ドン!と重低音を響かせ、リードギターが曲調に合わせて緊迫した旋律《コード》をつなぎ合わせていく。


 その瞬間、スピーカーから放たれたのは、この街が生んだ世界的映像監督の代表作において、最も有名な『決戦の旋律』だった。


 かつて幾度となく人類の存亡を賭けた戦いを彩ったそのリズムが、学生たちの手によって、腹の底を揺さぶる重低音のベースに合わせ、ギターとドラムが荒れ狂う凶悪なメタルサウンドへと変貌を遂げていた。


『アーケード内のスピーカーに接続。D(デルタ)チームの演奏を流します』

アイリスが通信に割り込み、アーケード内に凶悪なメタルサウンドの波動が響き渡る。


 サウンドの波動に呼応するかのように、仙川たちの車両2台が道を塞ぐ指揮車両の前で派手なスキール音を響かせ、直角に90度にドリフトする。


指揮車両《キャリア》スレスレのところで軋むタイヤがアスファルトに食いつき、商店街のアーケードの中へ滑り込む。


楓の2番機もそれに続き、その巨体の両脚で踏ん張るように左に傾かせながらブレイクターンし、直角にアーケードの天蓋の下へ駆け込んだ。


2番機の後を追うエイリアンの長い列は、道を塞ぐ指揮車両にぶつかりながら、そのまま連なってアーケード街の中へなだれ込む。


かつては賑わいを見せた商店街の軒先や、今もなお住民の手で綺麗に整備されていた美しいマーブルの石畳が、おびたたしい数のエイリアンの群れで埋め尽くされていく。


『E(エコー)チーム、散布開始。作業後ただちに退避してください』

アイリスの冷静な声が通信に届く。


『はい!了解しました!』

スプリンクラー設備で待機していた学生たちが、止水弁のバルブを捻り全開にする。

そして、全力疾走でその場を離れる。


——アーケード街を疾走する仙川たちの後を追うように、アーケードの天蓋から、小さな泡を含んだ水飛沫が一斉に降り注ぐ。

スプリンクラー設備と連動し学生たちが夜を徹して作り上げた『界面活性剤噴霧装置《バブルシャワー》』が作動し、約300mのアーケード街の中に降り注いだ。


水飛沫がエイリアンの群れに降りかかり、エイリアンたちの体躯でバチバチと白い結晶が弾けた。

防御力が失われたことにも気づかず、界面活性剤の泡で足を滑らせながら、エイリアンの大群は目の前の楓の2番機を執拗に追いかけ、アーケード街の奥へ奥へと進む。


『05、エントランス起爆準備』

どこまでも冷静なアイリスの声が響く。

アイリスの声に合わせ、指揮車両《キャリア》で待機していた葉月が動く。


 途中3か所あるアーケードと道路との交差路は、徳川たちが調達した大型トラックなどであらかじめ塞がれていた。

出入口が両端のエントランスの2か所しかない、細長い密閉空間。


 その中を、大音響と共に仙川たちという囮《おとり》役に食いついたエイリアンの大群は、本能のまま前へ前へと進み、ついには最後尾の一体までもがアーケードの中へ吸い込まれた。


 そして、密閉された商店街が完全にエイリアンの大群で埋め尽くされたとき、仙川たちの車両が東側アーケード出口に到達し、まっすぐに駆け抜けた。

続いて、楓の2番機が散布された界面活性剤で足を滑らせ、まるで柔道の受け身を取るように前転し、派手な金属音を立てながら天蓋の外へと飛び出す!


『爆破、今!』


 アイリスの声が響き、葉月が起爆スイッチをひねる。

西側のアーケード入口の突き出た天蓋部分を支える支柱が吹き飛び、巨大な天蓋がそのまま真下へ落下し、退路を塞ぐ。

しかし、東側の『出口』では中途半端な爆発が起き、道路に突き出ている支柱が中途半端に折れ曲がり、巨大な天蓋が斜めに垂れ下がった。


抑揚のないアイリスの声が、無慈悲に響く。

『東側アーケード、閉鎖失敗』

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