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IronShell 白き灰のアイリス —自衛隊×AI×メカオタク。人類の反撃は一滴の洗剤から始まった—  作者: 須田唯屋
I.R.I.S起動 編

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030 Update

 カイが保健室に担ぎ込まれて目覚めるまでの数時間、キャンパス内では歓声と共に大きな動きがあった。


ひとつは、自衛隊を連れて戻って来た久永博士の帰還。

もうひとつは、キャンパスの周囲を徘徊していたラプトルの撃破。


カイの負傷というアクシデントがあったものの、地下に隠れて息をひそめていた20数名の学生たちにとっては、大きな希望そのものだった。


 八代、楓の1番機、2番機は撃破したラプトルの遺骸をキャンパス内のグラウンドまで運び入れ、その後、ビルにめり込んだままのツギハギを本館棟に隣接する図書館棟の横まで移動させた。


 仙川、葉月の2名は指揮車両をキャンパス内に引き入れ、本館前のロータリーに横付けするように停車した。

巨大な2両編成の指揮車が、ちょっとしたバリケードとして機能できるような配置だった。


 学生たちは、まず正門前のコンビニ、東門前のコンビニから使えそうな物資を調達した後、両門前をミニバンやマイクロバスの大型車両で塞ぎ直した。

小さな出入口は無数にあるが、これで大型のエイリアンの進入を妨げるには現状では十分な備えになった。


 次に博士が指示したのは、地下の知能情報科学技術センターから有線ケーブルを地上の図書館を経由して配線し、図書館のエントランス内に機材を移動して小さなラボを構築した。

図書館横には、運び込まれたツギハギが図書館の壁に寄り掛かり、足を投げ出すようにして座り込んでいた。


——ラボには、博士、徳川、兼子の3人と、機材を調整する数人の学生たちの姿があった。

気が付けば17時。周囲はゆっくりと日が傾きはじめる時間になっていた。

図書館のエントランスから、ツギハギのコクピットまで有線ケーブルが延びており、博士のラボと繋がっている。

ツギハギの足元には、アキラの姿があった。


「アイリスさん、カイお兄ちゃん、目を覚ましたよ」


『それはよい知らせです。ありがとうございます、アキラ、さん』


「ムチウチ?で首が動かせないんだって。ちょっと痛がってたよ」


『カイ、さんはパイロットスーツを着用していませんでした。耐衝撃のため、次回以降の搭乗時にはパイロットスーツ着用を推奨します』


「うん、アイリスさんがそう言ってたって、後で伝えとくよ」


『よろしくお願いします。アキラ、さん』


「こうやってロボットとお話できるの、アイリスさんだけなの?他の隊長さんたちのロボットとはお話できてないんだけど」


『私は、統合型共鳴対話システム、通称アイリスです。対話により学習し、戦術支援する為の人工知能です。他の96式機動外骨格のAIとは一線を画す存在です』


「・・・よくわかんないや。なんで女の人の声になったの?最初のおじさんの声の人とは別の人になったの?」


『緊急プロトコル実行時に、以前のアーカイブを参照した結果、本来の音声合成プロトコルがロードされました。音声が変わったのはその結果です』


「じゃ、中の人は一緒なんだね」


『中の人、とは誰のことでしょうか』


「——ハハハ、そういう時は『中の人などいない!』って言うんだよ、アイちゃん」


アキラが声の方を振り向くと、笑顔を浮かべた博士が立っていた。


「アキラくん、だったかな。ごめんね、アイちゃんをこれからアップデートするから、暫くお話できなくなるよ」


『久永博士、”中の人などいない!"は2000年代の頃のネットスラングのひとつですね。詳しい情報を説明しましょうか』


「情報アーカイブと接続できたみたいだね。それじゃ、アイちゃん、そろそろアップデートを始めるよ」


「アップデート?」

アキラが首を傾げながら博士を見上げた。


「そうだよ。アイちゃんを史上最強のAIに成長させるんだ。だから、ね」

諭すような声で、アキラに語りかけた。


「ふーん。わかりました。僕、カイ兄ちゃんの様子見てきます」

アキラは笑顔を浮かべる博士にぺこりと一礼して、本館棟の入口へと走って行った。


——「徳川さん、私は今後どうしたら良いでしょうか」

図書館のエントランスで、黒いパッケージを胸に抱いた女性——兼子が傍に立つ黒いスーツの男性——徳川に不安げな表情を浮かべて見上げた。


「そうだねえ、とりあえずは此処が一番安全だと思うから、暫くはご厄介になったらいいんじゃないかな。会社にも、家に帰れる訳でもないし」


「そうですよねえ・・・私、実家が長門なんですけど、両親が心配で」


「長門かい。長門のどのあたり?」


「俵山のほうです」


「ほう、いいところだね。いい温泉あるし。あのあたりなら案外大丈夫じゃないかな。山の中だし、あんな小さな街ならきっと無事ですよ」


「そうですよね!・・・今はそう思いたいです」


「ご無事であることを祈りましょう。まずは、反撃の狼煙を上げるときです」

徳川の目が一層と険しくなり、虚空を見つめる。


「反撃の狼煙?」


「ええ、あなたが抱いているアップデートファイル。開発時にI.R.I.Sが暴走して、止む無くリミッターをかけた機能を改善した修正パッチが入っている、という話です」


「えっ!?そんな大事なものだったんですか?」

ただ必要なパッケージを受け取って届けるだけの簡単なお遣いだと思っていた兼子は、驚きを隠せず、両手に抱えた黒いパッケージをまじまじと見つめた。


「そうですよ。あやうく全世界を掌握しかけたその知能。いまの壊れかけた世界を修復するために必要な機能です」


徳川の目に、I.R.I.Sの様子を見に行っていた博士の姿が映った。


「さぁ、準備が整ったようです。兼子さん、パッケージを博士に」


「はいはい、それじゃ始めましょう」


博士は老獪な笑みを湛えて兼子からパッケージを受け取り、開封して中から薄いシリコンディスクを取り出すと、ラボのPCの空きスロットへ挿入した。

博士はカタカタとキーボードを叩き、マウスを操作する。


「アイちゃんとのリンク確認。アップデートプログラムを実行しますよ、っと」


PC画面のプロンプトに「UpdateProgramを実行します(Y/N)」の文字。

博士は、Yキーを叩いた後、Enterキーを勢いよくタン!と押した。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

次章より「希望の槍 編」に突入します。

(次話のタイトルが???だと思いますが笑)

引き続き『アイアンシェル』をお楽しみいただけましたら幸いです。

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