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IronShell 白き灰のアイリス —自衛隊×AI×メカオタク。人類の反撃は一滴の洗剤から始まった—  作者: 須田唯屋
I.R.I.S起動 編

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027 潜在的弱点

 11時を回った頃、一行は準備を完了し、1日半を過ごした物流倉庫を後にした。


アキラのお陰ですっかり綺麗になったツギハギ=アイリスは、知らない間にアキラと会話し、仲良くなったらしい。


出発前にカイと紗綾がアキラを迎えに来た時、巨大なロボットとアキラが楽しそうに会話しているのを見かけた二人は、その光景にびっくりしていた。


 太陽は天頂に達し、雲一つない青空。

あまりの暑さに蝉の声も止み、アスファルトの上で陽炎がゆらゆらと立ち昇っていた。


 先頭は仙川と博士が乗車する偵察車両、続いて葉月が運転する2両編成の指揮車両が続く。

指揮車両の前側キャリアに徳川たち民間人5名と食料などの生活物資、後方キャリアにラプトルの残骸が積載されている。

偵察車両と指揮車両の間を八代の1番機、指揮車両の後方をカイのツギハギ、最後尾の殿《しんがり》を楓の2番機が務めた。


 大型のキャリアは片側1車線の道路をほぼ占有する為、狭い日本の道路では必然的に両側の九六式機動外骨格(96ME)は指揮車両の前後に展開せざるを得なかった。


一度往復した道を戻るかたちで、一行は進んだ。

狭い県道を慎重に抜け、広い自動車専用道路に出ると、2機の96MEは左右に展開し、ゆっくりと進行していった。


周囲は変わらず人の気配は無い。

山間を走る広い専用道路を抜け、市街地が見えてきた。


偵察車両の仙川から通信が入った。

『04より全隊、一旦停車せよ』


停車の報に、八代が確認を取る。

『01より04、停車理由を報告せよ』


『04より全隊へ報告、久永博士よりお話があるそうです。無線を代わります』


『えー、もしもし、聞こえますか?久永です』


『八代です。久永博士、どのようなご用件でしょう?』


『はい、説明しますね。この先、大学に到着する付近で1体、えーとラプトル型エイリアンが構外を徘徊しているはずです。これに対する対策として学生たちに構内スピーカーで誘導するよう指示しておりますが・・・万一こちら側と戦闘となった場合の対策についてお話したいと思います』


『出発前に業務用洗剤を大量に積み込んでもらいましたが・・・万一戦闘となった場合は、これをラプトル型エイリアンに向けて散布してください』


『洗剤・・・ですか』

八代が通信に割り込む。


『はい。その通りです。洗剤に含まれる界面活性剤が、防弾効果を阻害する可能性が非常に高いと考えています。こう、ぶわーっと全身に散布すれば、田んぼの泥と同じ効果を発揮できると思いますよ』


『ほう?了解しました。了解しましたが・・・』

(どうやって散布するんだ?)


八代は小さいポリタンクを96MEの指で掴んで投げつけて破裂させるか、上空に投げて射撃し破裂させるイメージが浮かんだが、いずれも現実的でないと判断した。


『博士、散布方法に問題がありますが』

八代は間をおいて、博士に問いかけた。


『そうですね~一旦相撲みたいに組み付いて上からぶっかけるのは難しいですよねえ』

博士は呑気な声で答えた。


『我々の操作感覚では大変困難な機動《マニューバ》だと思いますが』

八代としては組み付くだけでも大変に危険な行為だと考えた。

高速で激突すれば、あの反発するシールドで吹き飛ぶのはこっちの方だろう。


『カイくん。アイリスに相談してみてくれたまえ』

呑気な声が自信ありげにそう伝えてきた。


『こちら機体名ツギハギ、制御AIのアイリスです』


カイが相談するまでもなく、アイリスが勝手に通信に割り込んでくる。


『現状の右手クローアームを使用した投擲の成功率を計算しました。操作系を私に完全に委ねた場合、60%です』


『なお、パイロット、カイ、さんとの連携を考慮すると、75%です』


『失敗する可能性は、ラプトル型エイリアンの機動性を推測考慮した結果、回避または防御により25%のリスクがあると判断します』


『だそうです。如何ですか、隊長さん』

博士の自慢げな声が響いた。


『八代より久永博士へ。アドバイス感謝します。有事の際は活用させてもらいます。それでは全隊、進行再開せよ。終わり』


 カイは通信のやりとりの間、ずっと呆気にとられていた。

(もしかして、とんでもない機械、じゃないAIに乗ってる?)


『カイ、さん、前進します。操作をお願いします。ユーハブコントロール』


アイリスの音声が耳に届き、はっと我に返る。


「あぁ、ごめん、ぼーっとしてた」


カイは再びアクセルペダルを踏み込んだ。


——一行は狭い住宅地、すっかり湖水の無くなった湖の横を抜けて、高専前の交差点に出た。


 交差点前で、仙川からの無線が入った。


『04より全隊、センサーに感あり。ラプトル型の歩行音を検知。1時方向、大学東門付近!』


『01より全隊、警戒態勢!フォワードは俺、02はバックアップへ!』


 八代の号令が飛び、交差点の右方向の道路へ1番機が躍り出た。

ほぼ同時に、大学構内のスピーカーから大音量のハードロックが流れ始めた。

音源は、大学から脱出した時と同じ1時方向、東門の方からだった。


『01より04、05、そのまま正門まで進め。カイ君も進め!』


八代の号令で、偵察車両と指揮車両が11時方向の道路へと爆走する。

カイも指揮車両の後ろについて掛け出した。


『まだ距離はある、いまのうちに正門に突っ込め!』


『04より05!指揮車両は正門通れないよ!向かい側の駐車場に突っ込んで』


『05了解ィ』


—仙川と博士の乗る偵察車両が正門を抜け、構内へ飛び込んでそのまま図書館まで駆け抜けた。


—葉月が操る指揮車両は、正門向かい側のコンビニの駐車場へと頭から突っ込んだ。


 曲がりこんで駐車場へ突っ込んだ反動で大型のコンバットタイヤが軋み、急ブレーキでタイヤが悲鳴を上げた。


ちょうどその時、東門ではラプトルがスピーカーの支柱を倒し、ハードロックの旋律が途切れた。


 タイヤのスキール音とブレーキの音が響き渡り、ラプトルの頭部がその方向へ向き——物凄い勢いで構内の建物の間を縫うように駆け抜け、正門に停めてあったバリケード代わりのマイクロバスを吹き飛ばし、反対側の指揮車両に迫った。


 ちょうどその時、カイの乗るツギハギが正門前に到達していた。


『カイ、さん、3時方向より敵、2秒後に接触、防御姿勢で対応します』


「えっ!?」


 カイがHMDで右を見ようとした瞬間、大きな衝撃が正面から伝わり、遅れて背中を激しい衝撃が襲った。


 アイリスが急速にツギハギの向きを変え、ラプトルの突撃を正面から受け止めたが、例のシールド作用で突撃の衝撃が反転し、その勢いに負けたツギハギは吹き飛ばされ、後ろのビルにめり込んだ。


カイは後頭部と背中を激しく打ち、息が出来ず意識を失いかけていた。


『——パイロット、カイ、さんの意識混濁を確認。自動防御を継続・・・』


失いかけた意識の中で、アイリスの低い声が響いていた。

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