022 ツギハギ
—その夜の食事は豪勢なものになった。
まずは、亡くなった笹木に献杯を捧げた。
開始前に担ぎ出された八代は、軽く咳払いをひとつした後、
「独りだけビール呑んでる笹木に・・・、献杯!」
と、ノンアルコールビールを掲げた。
『献杯!』
唱和した後、全員でグラスを掲げた。
厳かな空気を、女将さんの鶴の一声で和らげる。
「さぁさ、頂きましょう。持ち出せない食材がいっぱいあるんよ。もったいないけえ、食べきってね」
続けざまに、八代から明日の予定について説明があった。
「明日の朝、指揮車両に物資を積めるだけ積んで、準備出来次第Y大学工学部の地下シェルターへ移動します。今夜みたいな豪華な食事も、暫くは食べられないことも想定されます。皆さんしっかり食べて、今夜はゆっくり休んで下さい」
バーベキューコンロの木炭は、予め良い塩梅に火が回っている。
赤々と上がってた火の勢いは落ち着き、熾火の輝きが白き灰をまとった木炭の表面から漏れている。
網の上は、食材が焼かれるのを心待ちにしているかのように、陽炎がゆらめいている。
女将さんがジップ付きのフリーザーバッグをドン!とテーブルに置き、調味料に漬け込まれた肉を豪快に調理用バットに取り出した。
「しっかり味付けちょるから、あまり裏返さんとじっくり両面焼いてな」
女将さんは、待ちかねたようにトングをカチカチ鳴らしている楓に、山盛りの肉が入ったバットを手渡した。
「よっしゃぁ~肉やぁ~!焼くで~!」
楓が網の上に肉を置いていく。
じゅわぁ~、と香ばしい音と匂いを立てて、肉が置かれていく。
「楓ちゃん、あまりひっくり返さんとじっくり焼くんよ」
女将さんが肉を山盛りにした別のバットを、紗綾に手渡した。
空いている方のバーベキューコンロに、紗綾と上田で肉を並べていった。
「野菜もあるから、どんどん焼いて食べてーね」
女将さんはどんどんとバットに肉、野菜を盛っていく。
辺りを包む、香ばしい肉の焼ける香り・・・
しっかり焼いて、という女将さんの言葉もそこそこに、我慢できない面々が早々に肉をひっくり返し、両面を焼き、取り皿に置くやいなや、トングを箸に持ち替えて口に運ぶ。
「う~まッ!」
楓が目を丸くしながら口をモゴモゴさせる。
「これ?豚肉?」
「そうよ。たぶんトンカツ用のロース肉」
女将さんがトングを使って、追加の肉を並べていく。
「下味つけるときに、ちょっとだけ片栗(粉)まぜるんよ。そうすると焼いてもパサパサにならんし表はカリっと焼けるんよ」
そんなやりとりを横目に、博士とカイも焼けた肉を皿にとり、口に運んだ。
——表面はカリっと、中は肉汁でジューシー。
油が抜けずに噛めば噛むほど肉の旨味が詰まった肉汁が口の中に広がる。
表面の香ばしさと、染み込んだ味が豚の油と調和して、いつまでも噛んでいたくなる。
博士は延々と咀嚼し飲み込んだ後、呆れたようにカイに問いかけた。
「・・・キミたち、こんな美味しいものばかり食べてたの?」
——1日中働いた11名の胃袋は、大量の肉と野菜ですっかり満たされた。
八代、楓と交代してきた葉月、仙川も、哨戒任務とはいえしばらく「お預け」を喰らった反動もあり、物凄い勢いで平らげていった。
民間人の皆が片付けをする中、徳川、カイ、博士の3人は、ほぼ改修を終えた3番機の前に居た。
コクピットに座っていたのは、カイだった。
開きっぱなしのコクピットハッチの前に、徳川と博士が、パイロットシートに座るカイを囲むように寄り掛かっていた。
「基本的な操作はバイペダルローダーとそう変わらないよ。違うのは操作スティックのボタンの数が倍くらいある位かな」
博士はカイに96MEの基本操作について説明を続けた。
「まぁ、増えてるボタンはほとんどが武装やオプションの操作や切替だから、そのあたりはI.R.I.Sと対話しながらやった方が早いかもね」
「なんか、ゲームのチュートリアルみたいですね」
カイの感想に、博士はクスクスと笑う。
「そうだね、まさにそう!複雑な挙動を簡単なコマンドで実現するのに、ビデオゲームの操作系やUIは現代兵器も見習うべき究極の進化だったんだよ」
博士は興奮気味に両手でコントローラを持つそぶりを見せた。
「ほら、ゲームパッドってさ、こう持って操作するじゃない?いま君の両手の操作スティックってさ、ゲームパッドを分割して片手づつ持ってる感覚でしょ?」
博士は、両手でゲームパッドを持つその手を左右に離し、両手でスティックを握るように変化させると、親指と人差し指をクイクイと動かした。
「なるほど。これは知らなかった」
横で見ていた徳川も感心するように頷いた。
「これで実際にHMDを装着して、目の前に広がるUIを見たら、まさにゲーム画面みたいに見えると思うよ」
博士が、パイロットシートの傍らにあったHMDバイザーをカイに手渡す。
「掛けていいんですか?」
カイは目を輝かせた。
「いいから、掛けてみて」
博士はカイのHMD装着を手伝うと、3番機のパワースイッチをONにした。
低い稼働音と共に、コクピット内のパネルに灯が点る。
『システム、起動。接続ハードウェア、Type96 Movable Exoskeleton Bipedal Combat Vehicle、外骨格フレーム。未知のハードウェアを検出。接続中・・・』
無機質な低い男性の声が響く。
「I.R.I.S、テストモードで再起動」
博士がカイの被るHMDから伸びているヘッドセットのレシーバーマイクを掴み、音声コマンドを伝えた。
『音声コマンドを認識。管理者によりテストモードで再起動します』
AIの音声が響いた後、一旦パネルに灯った明かりが消え、再び点いた。
『テストモード、起動。パイロット、登録なし、機体固有名称、なし』
『パイロット名を登録してください』
無機質なAI音声からの問いかけに対し、博士がカイに回答を促す。
「とりあえずカイ君、マイクをONにして」
『レシーバーのマイクをONにしました』
『パイロット名:とりあえずカイ君、でよろしいですか?』
カイが慌てて訂正した。
「あああ、違う!パイロット名、サクラ カイ、に変更」
『パイロット名訂正:サクラ カイ、に変更します』
『機体固有名称を登録してください』
カイは少し考えて、思いついた言葉を口にした。
「んー・・・、ツギハギ?」
『機体固有名称:ツギハギ、で登録します』
徳川は苦笑いしながら、博士と顔を見合わせた。
「『ツギハギ』か。面白いね」
博士は「いい名前じゃないか」と笑っていた。




