021 パッチワーク
——そこから作業が始まった。
倉庫から工作用機械の部品、バイペダルローダー、構内移送用のクレーンアームなどが集められ、『弾薬庫』から「CLASSIFIED」のラベルのついたコンテナが搬出され、指揮車両の横に横たわる3番機の前に集められた。
博士の指示に従い、持ち出した「CLASSIFIED」のコンテナを開封すると、他の96MEと違う頭部カメラ形状をした、コクピットコアが収められていた。
「これ、他の機体と少し違いますね」
開封したコアの頭部を見て、カイがその違いに気付いた。
「まあね、I.R.I.S用にカスタマイズされたものだしね」
博士は懐かしいものを見るような目で、コアの頭部を見つめていた。
「これで笹木の機体も蘇る訳か。なら俺が面倒みてやんねぇとなァ」
葉月が感慨深げに呟く。その顔は少し寂しそうでもあった。
そして、カイと博士、葉月たちの手によって、破損したコクピットブロックを外骨格フレームから外し、運び出された新品のコクピットコアが収められた。
コクピットフレームが通電し、コアに「火」が入る。
制御用OSが起動し、初期設定モードに移行する。
博士がパイロットシートに座り、手元のモバイルPCとコンソールパネルのソケットにケーブルで接続した。
「I.R.I.S、初期設定モードに移行。パイロット設定をスキップ、ハードウェアチェックと適合調整を開始・・・」
博士がAIに指示を出すと同時に、破損して動かなくなった外骨格フレームに「灯」が燈る。
低い稼働音が唸りだし、アクチュエータの稼働音、冷却ユニットのファンが唸り、油圧シリンダーが上下した。
破損した両腕は、無造作で機械的な動きを繰り返し、そのたびにぶら下がった部品を揺らした。
コクピットブロックのスピーカーから、低い男性の声を模して発せられる。
『接続ハードウェア、Type96 Movable Exoskeleton Bipedal Combat Vehicle、外骨格フレーム。右腕、ハンドマニュピレータ、反応なし。接合部ジョイント、異常なし。左腕、肩部装甲、反応なし。肘部アクチュエータ、稼働40%。肘部ジョイント、反応なし。右脚部、脛部装甲、反応なし。各部アクチュエータ、稼働80%、左脚部、接合部に異常。稼働90%、その他異常なし』
博士は音声を確認し、声で命令を伝える。
「各ユニットの正常化を実行」
音声コマンドを認識し、AIは『声』を発する。
『各部ユニットの正常化を開始します。正常化に伴い、稼働不能な部位を強制パージします。付近の安全を確認してください。実行してよろしいですか?』
「実行」
”バーン!"という派手な音と共に、3番機の右手と、左腕の肘から下が吹き飛んだ。
あまりに大きな音だったせいか、皆慌てて集まって来た。
「何事だ!」
八代が血相を変えて指揮車から飛び出し、楓は96MEに乗ったまま、こちらに駆け込んできた。
女将さんや紗綾、アキラは倉庫の中からこちらの様子を伺っていた。
「ハハハ・・・すみません」
コクピットの博士はバツの悪そうな顔で頭を搔いていた。
カイは、吹き飛ばされた壊れた右手を見つめ、一瞬黙り込んだ。
そして、気を取り直したかのように作業を再開する。
——結局、激しい音に驚いてやってきた徳川、上田の2人が3番機改修の手伝いに加わり、作業は日が暮れるまで進められた。
傍らでは、女将さんが倉庫からバーベキューコンロと木炭を見つけ出し、手の空いていた紗綾とアキラ、仙川が加わって、食堂のテーブルと椅子、休憩用のベンチを運びだして、即席のバーベキュー会場が作られた。
「だって勿体ないわーね、食堂の食材腐らせたらバチが当たるじゃろ?」
女将さんがまだ傷んでいない食材、肉、野菜が中心だが、着々と準備が進められた。
辺りが暗くなってきて、指揮車両の投光器が照らされた。
日中の狂ったような暑さも、日が落ちてきて和らぎ、涼しい風が体感温度を下げた。
投光器に照らされて、作業を続ける5人の様子を、紗綾とアキラはすっかりバーベキューの準備が整ったベンチから眺めていた。
「なんかすごいね、男の人って」
紗綾はぽつりとつぶやいた。
怪訝そうな顔で、アキラは隣に座る紗綾を見上げた。
「あんな大きい機械を、みんなで頑張って修理してる。あーゆーの好きなんだろうね、何かを作るっていうか・・・」
「うん・・・」
アキラは5人が協力して3番機を組み上げている光景を見ながら、小さく頷いた。
「ボクも・・・手伝いたい」
アキラはベンチから立ち上がり、カイのもとへ走って行った。
食材を抱えた女将さんが通りかかり、紗綾の隣に腰掛けた。
「男の子じゃねぇ。やっぱりああいうの、好きなんじゃね」
「ええ・・・でも・・・」
紗綾は少し困ったような顔で、カイと話すアキラを遠目に見守っていた。
「おにーさん、おにーさん」
アキラがカイのダンプポーチを引っ張り、掠れた声をかけた。
「ボクも手伝いたい」
「ん?手伝ってくれるの?じゃぁ・・・」
カイは工具箱から、小型ドライヤーを出して、アキラに手渡した。
カイは右腕に接続中のクレーン用アームのケーブルと、腕部から伸びている補助ケーブルの保護膜を剥いて、ケーブル芯同士を絡ませた。
そして、予め通しておいた絶縁用のシュリンクチューブで、接合部を覆った。
「チューブのとこ、ぶぉーっとしてみて」
アキラは言われる通り、ドライヤーをONにした。
熱い風がシュリンクチューブに当たると、キュっと収縮して接合部にぴったりと圧着した。
「なにこれ、面白い!」
「面白いでしょ?熱い風をあてるとキュッと縮んで固めちゃうんだ」
「へぇ・・・もう1回できる?」
「うん、じゃ、次こっちね」
アキラがドライヤーをあてて、別のケーブルの接合部を圧着させた。
「ようっし!これでここはオッケイ!」
カイはアキラにニコっと笑いかけると、アキラも楽しそうに笑い声を上げた。
——陽も暮れて、あたりが真っ赤なオレンジ色に染まる。
ボロボロだった3番機は、右手の代わりにクレーン用アーム、左手は蟹鋏型の工業用油圧カッターが取り付けられた。
破損していた左肩や右足には、剥き出しの箇所にありあわせの鋼板を繋ぎ合わせて取り付けた。
その姿は、軍事用のそれとかけ離れた、どちらかといえば工作機械のような出で立ちだった。
「なんだか、ツギハギだらけの機体になったな・・・」
指揮車から降りてきた八代が、横たわる3番機の姿を見て苦笑を浮かべた。
頃合いを見計らっていた女将さんが声を上げた。
「さぁさぁ、今夜は贅沢にバーベキューよ!勿体ないから全部食べきってーね」
テーブルの上には、大量の肉と野菜が山盛りになって置かれていた。




