019 エイリアンの生態
—道中、博士から聞いた観察所見はこうだった。
・昨日14時頃、大型飛行物体が湖の上空に出現。
・物体下部からパイプ状の触手が無数に伸びて、湖面まで到達した。
・物体側部の開口部から、トンボ型の飛行体が大量に飛び出した。
・飛行体から4本足のクモ型が地上に降下、住民を襲った。
・4本足は30~50体程度の集団で行動。
・4本足が建物などを襲撃、捕らえた住民はトンボ型が掴んで大型飛行物体へ輸送。
・2本足は残留している1体のみ確認。群れのリーダーか索敵役?
・大型飛行物体は、飛来してから約20時間で湖水のほとんどを吸収。
・大型飛行物体は10時頃に上昇し、上空に消えた。
その後、トンボ型飛行体、4本足の姿は確認していない。
大学付近で確認しているのは1体のみ。付近を周回している。
・生態として考えると、アリのような組織構造・役割分担か。
行動が画一的で感情や意識のある生物とは考えにくい。
機械的なルーティンで活動しているのではないか。
・付近の住民を全て連れ去ったとすると、少なくとも被害規模は約3万人。
—これに対し、仙川は自身の体験と照らし合わせた。
・ほぼ同時刻に、防府市の海上に大型飛行物体が複数出現
・沿岸部の工業地帯から市街地へ向けて襲撃
・襲撃パターンは博士の所見とほぼ一緒。
・大型のトンボ型飛行体を確認している。
胴が異様に長く、トンボというよりアジア伝承の「龍」に近い。
・防府基地より戦闘車両、回転翼機が出動したが、ことごとく撃破。
・火器、砲撃は一切効果なし。撃破できたのは水田での1体のみ。
・侵略行為が基地内にまで及び、民間人を救護して撤退。
・降雨が始まったら侵略行為が沈静化。
・件のラプトル型も行動を停止。天候回復後再行動。
・水田の泥濘で行動を制限できた。その後攻撃が有効になり撃破。
——「田んぼの泥濘が有効だったというのは興味深いですね。行動制限と攻撃の有効化・・・泥の成分が何らかの機能を無効化させた可能性を調べないと」
博士は真剣だが愉しそうに口元を綻ばせて思考を巡らせていた。
「そもそもアレは生物なのか、兵器なのかも検証しないと・・・生物的な思考を伴う行動が希薄であるし・・・ドローンのような遠隔兵器なのかも・・・ふむ」
「博士、まもなく到着します」
仙川が左手の田んぼの向こうに見える大きな倉庫が並ぶ建物を指した。
田んぼの奥に、着弾で円状に抉れた箇所に、まだ散乱するラプトルの残骸が見えた。
「ほほう、あれですね」
博士は両手で陽光を遮りながら遠くに見える残骸を遠望している。
「どうやってアレを回収するか・・・ショベルカーはありますか?」
「カイくん、ある?」
仙川が助手席に座っているカイに訊ねた。
「ショベルカーはないですね、小型のユンボならあったと思いますが、たぶん小さすぎて厳しいかと。バイペダルローダーじゃ田んぼに入れないし・・・」
「それなら、96式があるじゃないですか」
博士が意外そうに声を挙げる。
「96MEも自重で沈み込んじゃいますよ」
カイが呆れたように反論したが、博士はにやっと笑った。
「I.R.I.Sの運動制御なら行けますよ」
「え?ここで使うんですか?」
「ええ、既存のフレームのコアからI.R.I.Sコアに交換すれば使えますよ」
「そうは言っても、既存の2機は運用中ですし、壊れた3号機のフレームはあるにはあるけど・・・」
「じゃ、その壊れたフレームを改修しましょ。カイ君、きみ高専生だったよね?手伝ってくれるかね?」
博士は後部座席から身を乗り出し、助手席のカイの顔を覗き込んだ。
「でもそれって、亡くなった隊員さんの・・・」
カイの脳裏に今朝の八代の言葉がよぎる。
「・・・判りました。ぜひお手伝いさせてください!」
少し考えて、憧れの博士の提案にカイは応えることにした。
「04より全隊、人員、車両ともに異常なし、現地同行者としてY大学の久永博士1名を随伴。まもなく帰着します」
『01より04、了解。ご苦労だったな。引き続き警戒を厳として帰還せよ』
偵察車両は誰もいない、時が止まったような田んぼと畑に囲まれた道を風を切って進む。
やがて国道につながる交差点に差し掛かり、左折して国道を進み、拠点である倉庫会社へ到着した。
倉庫前のトラック通用門前では、葉月がゲートの門を開けて手を振っていた。
——仙川たちはトラックヤード前に停車中の指揮車両の横に停車した。
傍らには、大破した3番機が指揮車両の架台から降ろされ、横たわっていた。
「おお、これがその機体ですね」
降りるなり、博士は横たわる3番機に駆け寄った。
「ふむ・・・右マニュピレータ左腕も交換しないとダメそうですね。足は・・・修理すれば何とかなりそうですね」
博士はぐるりと3番機の周囲を歩いて状態を確認し、パイロットシートが剥き出しの胸部コアによじ登った。
シートに付着していた血痕を見て、博士はパイロットの身に何が起きたかを察したのか、静かに手を合わせた。
隊長の八代が、倉庫の中から姿を現した。
仙川は八代へさっと敬礼し、八代も軽く返礼した。
「お疲れさん。まずは食堂で休んでくれ。女将さんが昼飯用意してるぞ」
「ありがとうございます。あちらが・・・」
仙川は振り向いて、3番機の傍にいた久永博士の方を見た。
「工学博士の久永先生です。工学部でいちばん有名な先生です!」
すかさずカイが八代に補足した。
「そうか。ここは暑いし、まずは中で休んでもらおう」
八代は口元を緩ませて3人を食堂へ先導した。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
次回より次の章「I.R.I.S起動編」へと移ります。
引き続き『アイアンシェル』をお楽しみいただけましたら幸いです。




