018 誘導作戦
「あいつらに面白い習性があるのを見つけたんだ」
博士はPCを操作し、次の映像ファイルをサムネイルから探す。
「こいつは、視覚よりも聴覚が優れているようでね」
博士はお目当てのファイルを見つけて続けた。
「構内放送用のスピーカーを1つだけ使ってね、音を出してみたんだ、そしたら、こんな風になった」
博士が映像を再生した。
——最初に映し出されたのは、道路を徘徊しているラプトルが音に気付き、振り向いて走り出す姿。 次の別角度の映像では、ラプトルがカメラの方向へ突進し、画面が激しくブレた後に暗転した。
「道路に面したポールにカメラとスピーカーが付いててね、音を出したら突進してきてポールごと破壊した。目が良ければ対象を視認してから行動をするはず」
「しかしこいつは音に向かって勢いよく突進し、壊れて音が止まったらまた何事もなかったように徘徊しはじめた。つまり・・・」
「つまり?」
画面を見ていた仙川は博士を見上げた。
「アレ・・・仮に『2本足』と呼びましょうか。音に敏感に反応する『習性』を利用します。同じ要領で音を出して、構内の離れた場所へ誘導して隙をつくれば、安全に構外へ出入りできます。それから、お話のあった倉庫にいる他の隊員さんたちと合流後、こちらへ戻ってくるときも同じ方法で誘導すれば、安全に構内に入れるのではないかと」
博士はにっこり笑って、さらに続けた。
「で、出来れば私も同乗させて頂きたいのですが、よろしいですか?」
仙川は危険すぎるので同乗は遠慮してほしい、と反対したが、博士はまったく引かなかった。
「同行したい理由は2つあります。1つはI.R.I.Sコアの安全確保。もう1つは、あなた方が破壊したという、あの2本足の残骸を回収、分析したいということ。現在までの状況だと、その残骸はかなり貴重な存在です。持ち帰らないわけにはいきません」
「——というわけで、私も同行させて頂きますよ。では、早速防犯カメラをチェックして、2本足の居所を特定しましょうか」
博士はニコニコしながら学生たちに指示を出し、困惑する仙川を圧倒した。
学生たちはPCを操作して、構内ネットワークに接続された防犯カメラを1台ずつチェックしていく。
「先生、居ました!東側、高専図書館の東側の道路です!」
学生のひとりが声を上げた。
全員がそのモニターを凝視する。
図書館の屋上に設置されていると思われるカメラが、破壊された民家のそばをゆっくりと進むラプトルの姿を捉えていた。
「うん、ではその先の東門まで誘導しようか。あそこは駐車場あるし、暴れられても暫くは持つでしょう。放送システムの準備をお願いできるかな」
博士はてきぱきと指示を飛ばしながら、白衣を脱いでかなり年季の入ったバックパックにPCやペットボトル、自前の工具などを詰め込んだ。
「先生、準備できました。いつでもOKです」
学生のひとりが手を挙げた。
「はい、じゃちょっと行ってくるから。えーと、10分後に東門のスピーカーで音楽を鳴らして。決して途切れないようにね。で、私たちが門を出てからも暫く流し続けてくれたまえ」
「わかりました・・・って先生、帰りはどうするんですか?」
「大丈夫だよ、様子を見ながら戻ってくるし、それにでっかいトレーラーに護衛の2足歩行ロボを引き連れて戻ってくるんだよ?見てれば判るよ、期待してて」
バックパックを背負って興奮気味の博士の様子に、学生たちの間にどっと笑いが起きた。
「了解っす!先生、気を付けて!」
博士は遠足に行く子供のように学生たちにピースサインを見せると、仙川たちを連れてセンターを飛び出して行った。
——10分後、作戦は実行された。
仙川たちの居る工学部正面入り口から直線距離で400mほど東の「東門」に設置されている防犯カメラシステムのスピーカーから、激しいハードロックが大音量で再生された。
ちょうどその前をゆっくりと進んでいたラプトルが、反応して赤い首を上げ、音の方向を確認すると、東門にある駐車場の入口にあるポールへ向かって突進した。
進行方向にある駐車場前のコンビニに激突し、方向を変えてさらに突進。
駐車場やフェンス、車などにぶつかりながら激しく暴れまわった。
遠くで音楽が流れ始めたのを聞きつけ、仙川、カイ、久永博士を乗せた偵察車両は、正面入口のゲートを超えて国道に出ると、一気にスピードを上げてその場を離れた。
仙川たちの位置からは、東門で暴れるラプトルの様子は判らなかった。
遠くで流れる激しいハードロックのビートを聞きながら、仙川はアクセルを踏み込む。
「仙川さん!その先の交差点をこっちに進んでください!」
カイの指差す方向に従い、仙川は元来た道を駆け抜ける。
そして、ラプトルに気付かれることなく無事にキャンパス前を通過し、湖沿いの静かな道まで走り抜けた。
「ハハハ。思いの外うまく行きましたね」
興奮気味の博士が、後ろを振り返りながらつぶやいた。
「しかし、あの巨大な船は本当に湖の水を根こそぎ吸い上げていったんですね」
本来ならば窓の外に広がっているはずの湖は、湖面が消え、むき出しの黒い渓谷に変わり果てている。
「博士はあの巨大なエイリアンシップの様子を見ておられたのですか?」
仙川がハンドルを握りながら、後部席に居る博士に問いかけた。
「ええ、それこそあれが上空に現れてから去っていくまでの一部始終を、構内のカメラ、公園内に設置されている定点カメラで観察していました。あれは何というか・・・巨大な輸送船で、まるで生き物のようでした」
そして博士は、昨日起きた出来事の観察初見をゆっくりと述べ始めた。




