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IronShell 白き灰のアイリス —自衛隊×AI×メカオタク。人類の反撃は一滴の洗剤から始まった—  作者: 須田唯屋
偵察 編

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012 エイリアンシップ

 巨大なクラゲが雲の向こうへ見えなくなるまで、どのくらいの時間が経っただろうか。


「250m位あった・・・あんな巨大なもの、どうやって浮いてるのよ」

仙川はHMD《ヘッドマウントディスプレイ》を外して、両目を擦った。

「情報量多すぎて目が疲れた・・・」


「大丈夫、ですか?」

「あぁ、ごめん、大丈夫よ。それよりこれからどうしよう。」

「隊長さんへ連絡はとれないんですか」

「山が邪魔して電波が届かないわ。いつもなら衛星通信で・・・あれ?」

「?」

「衛星受信してる」


 仙川は慌ててHMDを装着し、操作し始める。

「こちら04、05応答せよ」


『・・・こちら05、感明良好』


「目的地付近にて母船と思しき超大型物体を視認。映像情報を送信する」

仙川はHMDを被ったまま、なにもない空間に忙しなく指先を伸ばし、動かし続けた。


『05了解。受信を開始した。完了後、01へ報告する』


「01へ以後の行動の是非を問う」


会話を聞いていたと思われる八代の声が入る。

『01より04、情報を確認する、現状待機可能か?』


『04より01、周辺に感なし。待機します』


『了解。暫く待て』


——八代は『弾薬庫』から指揮車へ走り、助手席側のタラップを掛け上った。

「仙川からの情報は?」

「いま受信終わった。解凍して再生する」

八代が助手席に乗り込んだタイミングで、指揮車内の液晶パネルに受信したての映像が表示された。


 画面の中で、巨大な影がゆっくりと上昇する。

解析情報から、影は直径約250mのドーム状であると推測され、GPSの位置情報によると目的地すぐ近くの大きな湖を示していた。


「非常識にも程がある・・・」

「葉月、基地を脱出したときにもアレと同じ物を遠巻きに見たよな」

「あぁ、形状はたぶん同じだが、大きさは全然違うと思う」


 映像は5分ほど続き、巨大な影が上昇し飛び去るまでが記録されていた。

「飛び去った方向から移動先を推測できるか」


 映像と一緒に送られた解析情報から葉月が読み上げる。

「方位350から355方向へ移動したっぽいなァ」


「ほぼ真北・・・美祢(みね)、長門方向か」

「美祢(みね)にはセメント産業のでっかい工場があったナ。あとは秋吉台?でもナンも無ぇけどなァ」

「湖の上・・・奴ら淡水が目的か?」

「淡水?」

「進路上に大きなダムやら湖やらが点々とある。それに、秋吉台の地下には広大な地下洞窟がある。そこに大量の地下水源があったはずだ」

「アイツら水を奪ってるってことですかい?」

「まだ推測にしか過ぎないがな」

「クラゲみたいな形だけに?体内に溜(た)め込んでるとか?」

「形はともかく、液体の水っていうのは珍しいんだよ。映画に出てくるエイリアンの目的は、大抵水だしな」


葉月はほう、と納得したような声を上げた後、話を切り出した。


「で、どうします?仙川たち」

「脅威がなければの話だが、研究所の状況確認だけでもしておきたい」


——仙川は偵察車両のセンサー類をすべて活性化させて、警戒態勢を取っていた。

周辺は相変わらずレーダー、赤外線、振動いずれも反応はなく、静寂に包まれている。


「蝉(せみ)の声すら聞こえないのって、異常よね?」

「そうですね」


 ただ待つしかない偵察車両の中で、二人とも時間を持て余していた。

カイは逸《はや》る気持ちと不安、畏怖が入り混じって落ち着きを失っていた。

仙川は状況が一変した現在、緊張感を維持している。


 仙川はセンサーの外気温度を見て驚いた。

「ちょっとまって、外、35度もある。曇ってるのに」

精密機器だらけの偵察車両の中はエアコンが効いているせいか、外の変化に気付かなかった。

そもそも、倉庫を出発するまでは涼しいくらいに感じていた。


「佐倉くん、はい、お水」

仙川が後部から背嚢(はいのう)を引っ張り出し、ペットボトルの水を差し出した。


「あ、ありがとうございます」

カイはペットボトルを受け取り、キャップを開けて少しだけ口に含んだ。


「あとこれ。舐(な)めといて。塩タブレット」

自衛隊支給のものだろうか、濃いオリーブ色の小さな包み。

仙川は自分用の大きな水筒を取り出し、背嚢(はいのう)を後部席へ下ろした。


「おいしくはないから、ボリボリ食べて水で流し込んで」


 カイは包みを開けて、白い丸いタブレットを口に含む。

「しょっぱい」

塩と酸味しか感じない。カイは思わず顔を大きく歪(ゆが)めて仙川の方を向いた。


「熱中症対策。我慢ね」

仙川はふふ、と笑いながら同じタブレットを口に放り込み、ボリボリと噛(か)んで水筒の水をあおった。


「学校、心配だね」

「・・・はい」


「たぶん、この後向かうことになりそうだけど」

「そうですね」


「無事だといいね」

「はい」


無事な訳ないよな、とカイは内心思っていた。

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