↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IronShell 白き灰のアイリス —自衛隊×AI×メカオタク。人類の反撃は一滴の洗剤から始まった—  作者: 須田唯屋
偵察 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/39

011 偵察

——1時間後、仙川とカイは出発の準備を終え、偵察車両(ビークル)の前にいた。


 「ARCSV(強行偵察型支援車両)に乗れるなんて!」

カイは乗り込むなり、ぐるりと車内を舐(な)めるように見回した。


 「あの・・・あんまりジロジロ見ないでくれる?」

仙川は真っ赤になった耳を恥ずかしそうに大きなヘッドセットで隠した。


「え!?」

「いっ・・・一応機密だらけの車なんだから、変にいじらないでよ?」

計器類に手を伸ばしそうなカイに、仙川はもうひとつヘッドセットを取り出すと、計器パネルにプラグを差してカイに手渡した。


 「えー?・・・そりゃそうですよね(苦笑)」

カイはヘッドセットを受け取り、両耳に装着した。

仙川はエンジンをかけ、計器類をチェックし始めると、いくつかのパネルを操作して出発準備に入った。。


 「えっと、ではルートをおさらいするね」

ヘッドセットから仙川の声がクリアに入ってくる。

仙川は中央パネルのナビゲーション画面で地図を表示した。


 「目的地はY大学工学部の知能情報科学技術研究所。但し、ルートは私たちの指揮車両が通行できることを確認しながら向かうことになります」


「96式用多目的輸送車両は、幅も高さもあるから普通の道路じゃ通れなかったりするってことですよね」


「そう。仮に道路は通れても歩道橋や低い高架橋があると通行できないし、道路上に障害物があるかどうかも確認事項。よって、通行可能かどうかを判断しながら現地へ向かいます」


「了解です。仙川どの」

カイは右手をひょいとかざし、敬礼の真似事をした。


「それから、目的地の件だけど、安全かどうか確認する偵察行動が最優先です」


「じゃ、見に行くだけ?ってこと?」


「そうね。さっきみたいなのがまだいる可能性も高いので、索敵しながら慎重に進むことになります。大した距離ではないけど、実際はかなり時間がかかるかもしれないから、そのつもりでいて」


「・・・わかりました」

仙川は無線に手をかける。

「04より01、偵察行動、開始します」

『01了解。頼んだぞ!』


 仙川は専用のHMD《ヘッドマウントディスプレイ》付ゴーグルを被り、ゆっくりとアクセルを踏んだ。

偵察車両はゆっくりと前進し、倉庫を出て国道に出た。

偵察車両は右折して南方向、先ほどアクセル全開で爆走して逃げた道をゆっくりと進み始めた。


右手には、広大な水田が広がっているが、先程の戦闘で吹き飛んだ大きな窪(くぼ)みが出来ている。撃破したラプトルの残骸も散らばったままだ。


 偵察車両は国道を道なりにゆっくりと進んでいく。

民家やコンビニ、空き地利用の太陽光パネルがある中を進み、ナビの指示通りに進む。

水田と畑が続く道を進み、自動車専用道路のインターチェンジへ進入していく。


 ここまで人はおろか、鳥や小動物すら見掛けていない。

不気味なほど静まり返った曇り空の中を、たった1台の軍用車両がそろそろと走り続ける。


「何も反応がないね。さっきから解析できない微弱な電波は拾ってるけど、それ以外何もなし」


「ここからは山あいを通る専用道路なので、しばらくこんな感じですよ」

「ふ~ん。了解」


 偵察車両は時速40kmくらいのゆっくりとしたスピードで南へと進み続けている。

20分ほど走ったところで、山あいの道から少しずつマンションや病院などの大きな建物がちらほらと見え始めた。


「あの・・・仙川さんて何歳なんですか?」

退屈してきたカイが何気なく訊(き)いた。


「うん?僕?23」

「若っ!」

「え?何歳(いくつ)だと思ったの?」

「30手前くらい?」

「ひど・・・」

「いや、自衛隊長いのかなって」

「うーん、高卒で入隊したからそれなりに長いけど30手前はキツイな~」

「・・・すみません」

「いいよ、キミは?いくつ?」

「19です」

「わっかぁ~。彼女は?」

「・・・いません。高専は女子少ないですし」

「そのくらいの年齢(とし)なら学校じゃなくても出会いはあるでしょうに」

「それが全然・・・って、あれ!仙川さん!あれ見て!」


 カイは西側の山景(やまかげ)の向こうに見たことのない巨大な影を指差した。

その影は大きすぎて雲で霞(かす)み、全体像が判らない。

影の周りを、鳥の群れのような微かな影がゆっくりと周回するように飛んでいる。


 仙川も影を視認した。

アクセルペダルから足を離し、車両を慣性にまかせてゆるやかに減速させる。

車両はゆるゆると速度を落とし、タイヤを踏みしめる砂利の音だけが響き、静かに停車した。


 仙川は静かに計器パネルを操作しながら、巨大な影の方を見つめている。

偵察車両の天井にあるセンサードームがゆっくりと稼働し、目標を捉えた。

仙川が掛けているHMD《ヘッドマウントディスプレイ》から、様々な光が明滅しながら漏れている。


 カイの目には、黒い影は巨大なドーム状の物体に見えた。

ドームというより、歪(ゆが)んだ穴の開いた傘のようにも見える。

現在の位置からははっきり判らないが、これから向かう大学付近の上空に居るようにも思えた。

思いがけずクラスメイトや先生の顔がよぎる。

不安でカイの鼓動は早くなり、手のひらは汗ばみ、指先が微かに震えた。


「仙川さん、あの・・・」

「少し待って。もうすぐ分析が終わりそう」


 数秒ほど経った後、仙川は興奮気味にHMDを外し、目を大きく見開いた。

「あれ、おそらくエイリアンシップだよ、すごく大きい、大きすぎる・・・」


「それなんですけど、あれ、大学の真上あたりじゃありません?」

カイの声は少し震えていた。


「え・・・ちょっと待って」

仙川はHMDを掛け直し、パネル上のナビの目的地情報と照合した。

「そうね、大学のすぐ近く。正確には少し東の、湖の上?」


 湖のすぐ近くには、カイたちが住んでいる学生寮がある。

当然ながら隣接している大学の学生寮やアパートが建ち並ぶ場所でもあった。

カイの不安はさらに大きくなっていく。


「学校、大丈夫かな」

思わずカイから震えるように言葉が漏れる。

「今すぐは近付けないね。危険すぎる。でも」

「でも?」

「あれ、ゆっくり上昇しながら北の方へ移動してるの」


 山向こうに見える巨大な影は、少しずつ上昇しながら、ぼんやりとその全貌を現す。

いびつなドームの下からは、大小様々な触手のようなものが地上に向かって無数に伸びている。


 言い換えるならば、超巨大なクラゲが宙に浮いているようなものだった。

巨大で醜悪なその姿は、低く垂れこめた曇り空の中を泳ぐようにゆっくりと上昇し、はるか雲の上へと飛び去って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。