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彼の頼みごとが終われば、後はいつも通りの世間話に転じて行く。
「そういえば、君ってお嬢様のどういう立ち位置なの? 君がただの側近に 収まっているって信じられないんだけど」
「何だよ、その言い方。別に他のリエリヴェーア貴族と同じ、ただの側近だぞ。ついでに仕事の助手と護衛と家庭教師と師匠も兼任してるけどな」
「多い。色々多いよ」
だから彼と付き合うのは疲れるんだ。退屈はしないのだが。
「それ、どういう立場なの?」
「だから側近だろ? 普通に屋敷の掃除したりとかする奴。それと仕事の助手もやってる。お嬢様はヴェルナヴェーア貴族として政治に関わる義務があるが、まだ幼いからな。そこで、そのあたりの分野を猛勉強した俺の出番って訳だ」
「お前はリエリヴェーア貴族なのに、ご苦労様。大変そうだな」
「黙ってろ、ペリアヴェーア貴族。……それで、護衛と家庭教師もやってる。まぁ、妥当なところだろ。後は剣術の師匠としてお嬢様を鍛えてるくらいか」
「うーわ、ギルフェリノに鍛えてもらってんの……?」
若干引いたように尋ねるクローザに、ギルフェリノは「当たり前だろ」と答える。
「別に騎士が剣の稽古をつけるなんて普通だろうが」
「今では伝説とまで言われている騎士に稽古をつけてもらうのが普通だって? 政治の勉強する前に常識を勉強しておいで、ギル」
「そんなもん関係ないだろ。それより、未だに俺を超える成績を叩き出した奴はいないのか?」
「もしもいたら、とっくに大騒ぎになってるよ」
魔術と剣術、両方の分野において抜きんでた才能を発揮した彼よりも優秀な者は、クローザも一度も見たことがない。――それ程、ギルフェリノという騎士は天才だったのだ。
クローザは肩を竦めた。
「まぁ、因子量だけで言ったら、今度二年生になる子に際立ってる子がいるけどね。ほら、君のとこの子」
「あぁ、リーシャのことか? あいつもまだまだだよ。前にうちの屋敷に顔を出しに来た時に軽く手合わせしたけどな。剣術だけでいったら、お嬢様の方が一枚上手。お嬢様の魔術の腕前は未知数だが、純粋な剣術だけだったらお嬢様の方が、普通の騎士よりもずっと強いと思うぞ」
「君のお嬢様ってそんなに強いの? 具体的にはどのぐらい?」
あのギルフェリノを身内の贔屓目があったとしても、ここまで絶賛させるとは。単なる興味本位で聞いた問いだったが、返ってきた答えはとんでもないものだった。
「俺自身の鍛錬にも付き合える程には」
「……冗談かな?」
「事実だ。まぁ、模擬戦したら俺の圧勝だけど」
キッパリと言い切るギルフェリノ。クローザはなんだかうんざりしてしまう。
「……なんだか、ここに入ったら目立ちそうだね」
「あのお嬢様が、そんな簡単に手の内を晒す訳ないさ」
「君は一体、自分の主にどういう教育を施してるんだよ。手の内を晒さないとか、そもそもの発想がおかしいだろ。ここがどこだと思ってるの? 由緒正しい騎士団だよ?」
「んー、別に俺の教育っていうか……何ていうか……」
クローザの指摘にギルフェリノは何故かもごもごと言い淀んでいる。自分の話に戸惑う箇所なんてなかっただろうと言い返したいところだったが、もう疲れてしまった。この男の面倒な要求のせいで仕事も増えたのだ。
「……もういい。本当にもういいや」
そう言って、クローザは机に突っ伏して目を瞑った。
癒しが欲しい。妻に会いたい。彼女の頭を撫でまわしたい。ちなみに、彼女は現在妊娠中である。あぁ、生まれてくる我が子が楽しみだ――こうして、クローザは現実逃避を始めたのだった。




