表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神獣の犠牲  作者: 水瀬白龍
第二章 騎士団
13/13

3

 神獣の因子を受け継いだ名誉ある者達が集まる騎士団。そこに所属する誰もが魔術を使い、聖剣を振るうのだ。それは国民を悪意から守る為であり、国民の命を救うためである。

 それが騎士というものだ。そしてルーヴェンスも、本日ついに騎士団に入団するのだ。


「では、頑張ってくださいね、ルーヴェンス様!」

「頑張って下さいませ!」


 騎士団の寮の自室にて、二人の少女にルーヴェンスは囲まれていた。特に頑張ることはないのだが、ルーヴェンスは拳をギュッと握り締めて自分を見上げる二人に微笑みかける。


「えぇ、ありがとう。私が入団式に参加している間、この部屋を整えておいてくれる? 屋敷から沢山の荷物を持ってきたから、全部取り出して部屋に設置しておいてね」

「勿論です!」

「了解しましたぁ」


 元気一杯に返事をするスバルとカナリアに、ルーヴェンスは「二人も頑張ってね」と励ましの言葉を贈った。


 ここは六分割された国の六領地のどこにも当てはまらない王族の直轄地、王家都市だ。個々人が住む場所ではないが、王族が住む城があったり、ヴェルナヴェーア貴族が出店する店がある商業地区があったり、国の中枢機関が集まる重要な場所である。そして、騎士団もまた国の中枢機関の一つであるから、ここに建物を構えている。

 その敷地面積は巨大だ。裏山に隣接するように建てられたそこは王家都市の端にあるのだが、だからといって、その荘厳さを失うことはない。煌びやかな門を潜った直後に目に入るのは巨大な騎士団本部。沢山の騎士達が仕事をする場所だ。その左右には一年生と二年生それぞれの訓練騎士のための建物が別々に集まっている。入団一年目であるルーヴェンスは一年生の訓練騎士だ。そして今から、その入団を祝う入団式が行われる。


「さぁ、スーちゃん。頑張るぞー!」

「はーい、カナちゃん。頑張るぞー!」


 特例として連れてくることが出来た二人の側近、カナリアとスバルの声を聞きながら、自身に割り当てられた寮の自室を去って第一講堂へ向かう。そこで入団式が開催されるため、周りにはゾロゾロと同じ方向へ向かう者達で溢れていた。彼等は皆、初めて足を踏み入れる騎士団の建物を興奮したように見渡し、浮足立っている。そこに階級の差などは存在しない。貴族も平民も皆、今日から始まる新たな生活に心を躍らせているようだ。そんな全員がルーヴェンスの同期であるが、ルーヴェンスだけ年齢が異なる。

 しかし、それは周りに周知されていない。つまり、ルーヴェンスは十八歳の成人女性として騎士団に入団することになったのだ。……面倒なことである。まぁ、生活する上で別に年齢等どうだっていいことだろう。ルーヴェンスは早速開き直ることにした。

 人の流れに任せて第一講堂へ向かえば、そこでは本部騎士達が訓練騎士達の誘導をしていた。どうやら貴族が手前に座り、平民がその後ろに着席する形で入団式が行われるようだ。こんな細かい所でも階級がものを言うのかと考えつつ、ルーヴェンスは最前列へと行くように促された。

 着席するように言われたのは左から三番目の席。右側には既に人が座っていたが、左にはまだ誰一人として座っていなかった。……成程、とルーヴェンスは思う。この席順は完全に階級順に対応しているらしい。つまり、後二人も自分よりも上流階級の貴族がいるということだ。

 そのようなことを思いながら待っていると、一人、そしてもう一人と自身の左側に貴族がやって来る。ルーヴェンスはそれに微笑んで小さく頭を下げておいた。

 自分の左隣は女性のようだ。そして一番左は……男かな。ルーヴェンスは若干迷った。いや、男性の礼服を纏っていることから性別は明らかなのだが、何せ成人した男性にしては大分小柄だったのだ。とにかく、彼が今期の最上位貴族らしい。

 大勢の訓練騎士達が続々と集まり、ルーヴェンスがいい加減退屈してきたところで入団式はようやく始まった。


「これより、入団式を開催いたします」

 手前の舞台に上った誰かがそう宣言した。

「騎士団団長、リア・ペリアヴェーア・リルグレイ・シオンだ。今日、こうして皆を迎え入れることが出来て――」


 よし、聞き流そう。

 ルーヴェンスは一瞬にして決意を固めた。……こういう挨拶は、大抵聞く必要がないものばかりだからだ。式典の導入部分はなくすべきという持論を彼女は持っている。そもそも、式典すらやらなくていいと思っている。恐らく、多くの者もそう思っていることだろうと彼女は考えている。

 いかにも聞いていますよと真面目な表情を取り繕いながら、ルーヴェンスは意気揚々と講堂の観察を始めた。

 正面の舞台の壁には横には六匹の神獣が立体的に彫刻されている。右側には銀のリカネシア、緑のミフォナシア、茶のダチナシアが。左側には青のオリナシス、紫のパラナシス、金のエレナシスが堂々と刻まれている。そして舞台中央の壁には、目を引くほどの美しさと正確さで、大きく赤の神獣ノーザンクロシエスが彫刻されていた。それは騎士団とクロス教には深い繋がりがあるからだろう。騎士団長の長々しい話を一切聞くことなく、ルーヴェンスはその彫刻の見事な芸術性を存分に楽しんだ。

 そうしているうちに、つまらない騎士団長の話が終わったようだ。長かった。


「それではこれより、陛下からのお言葉を賜る。心から聞くように」


 騎士団長がそう朗々と告げた瞬間、第一講堂の入り口が唐突に開かれる。そこから威風堂々と歩み入る迫力ある男の姿に、その場にいた全員が起立し、胸に手を当てて頭を下げた。

 ――あぁ、そういえば陛下が来るって連絡があったな……。

 ルーヴェンスも事前に言われていた通りに礼の姿勢をとった。床を見ていても彼の纏う見事な衣装の裾が翻る様子が良く見える。なんとまぁ、高そうな服だこと。

 そのようなどうでもいいことをルーヴェンスが考えている間にも、国の王は舞台上に上がり、そして威厳に満ちた声で呼びかけた。


「面を上げよ」


 その場にいた全員、特に礼儀作法に詳しい貴族が俊敏な動きで顔を上げる。


「こうして余が——」


 王は何かを話し始めるが、ルーヴェンスは一瞬にしてその全てを聞き流すことを決意した。聞くだけ無駄である。こいつは大抵、碌なことを言わないのだ。

 しかし、騎士団長はともかく国の王たる存在から目を逸らすのは不敬だろう。よって、ルーヴェンスは熱心に聞いている振りをしながら、見たいとも思わない男の姿を観察する。

 まず、彼の髪の色は真紅だ。それは王族のみが持つ色であり、世界で唯一の色だ。何せ、王族以外の人間の髪色と言えば、銀、緑、青、紫、そして金色しか持ち合わせていない。それは現在生存する六神獣が司る六色である。そこに赤色はない。よって、赤髪は王族クロスヴェアの特権ともいえた。

 視界の端に僅かに映る自身の髪色はくすんだ金色。ルーヴェンスは第三階級のヴェルナヴェーア貴族。王族ではない。まぁ、そういうことである。

 そうして暫く王の観察を続けたのだが、まだあの男はグダグダと話しているのか。ルーヴェンスはうんざりして、彼から視線を逸らさぬまま辺りを探った。さて、自分の敵になりそうな存在はいるだろうか。敵意を感じる視線を探す。

ルーヴェンスが一人だけ十七歳だということは副団長より下には隠されているらしいが、側近を二人も連れているのは自分だけだ。これは目立つだろう。人と違うところがあればある程、敵が増えるというのは、政治会議でも散々学んだことだ。人間社会での真理でもある。

 そんな中、彼女は一人の強い視線を感じた。丁度、それは自身の視界に映る範囲にいる男からだったため、彼女もそれとなく視線の主を観察してみる。

 ——成程、あれがお師匠様の言っていたクローザっていう人かな。

 若草色の長い髪。容姿からして間違いないだろう。彼こそ、この騎士団の第三副団長に違いない。ギルフェリノから、彼は自身の味方であると聞かされている。確かに彼からの視線には敵意が一切感じられず、むしろ興味ばかりが読み取ることが出来た。そんな中、彼の視線がルーヴェンスから明らかにずれる。

 ——うん?

 ルーヴェンスがそちらに視線を向けると、丁度、誰かが舞台の真下へと進んで行っているところだった。どうやら、ルーヴェンスが意識を飛ばしている間に、状況が変化していたらしい。

 立ち位置的に顔は全く見えないが、後姿を見るに、あれは訓練生達の中で最上位階級の男だろう。ルーヴェンスが一瞬性別に迷った、小柄な彼だ。その証拠に一番端の席が空席になっている。

 礼服に身を包んだ彼は、胸に手を当てて凛とした声を発した。


「一年生訓練騎士代表、リア・ペリアヴェーア・ツァイティエ・ティア。今ここに誓いの言葉を申し上げます」


 その身長から想像出来る通りの少々高い声だった。


「この世界を見守っておられる六神獣、雷を司る銀の神獣リカネシア、自然を司る緑の神獣ミフォナシア、地を司る茶の神獣ダチナシア、水を司る青の神獣オリナシス、風を司る紫の神獣パラナシス、光を司る金の神獣エレナシスよ。そして始祖である火の神獣ノーザンクロシエスよ。我々がこうしてここに立つことが出来ることを心より感謝いたします」


 彼の透明感のある声が、講堂中に響き渡った。


「神獣の因子を身に宿す我々は、神々の意思を継ぐ騎士を目指す訓練騎士として励むことを、ここに誓います」


 そして、会場に控えていた騎士達の間から拍手が沸き、こうして入団式は終了した。


 誓の言葉を代表で宣言した彼が席へ戻ろうと振り向いた瞬間、ルーヴェンスは彼と目が合った。彼はフワフワと柔らかく波打つ白銀の髪に、透き通った薄い紫の瞳をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ