第二話
〈翌日〉
教室はいつもの喧騒に包まれていた。
弁当の匂いと机を寄せる音。隣の席のやつが突然声を落とした。
「なあ、知ってる? 二年の有名人」
「有名人?」
「めっちゃ美人の先輩。授業ほぼ来ないらしい」
箸を止める。
「問題児ですか?」
「いや、普通らしいんだけど、先生もあんまり怒らないって」
「普通なのに来ないのは普通じゃないだろ」
「ただ、昼休みは屋上にいるって話」
……屋上
昨日の光景が頭に浮かんだ。
コンクリートに寝転がる先輩。眠そうな目。『共犯や』という言葉。
「お前、興味なさそうだな」
「別に」
弁当を閉じ、チャイムが鳴るより少し早く立ち上がった。
「どこ行くんだよ」
「ちょっと」
屋上の扉を開けると、風が吹き込んだ。
フェンスの向こうに校庭が見える。
そして、いつもの場所に先輩がいた。
「……ほんまに来た」
目を閉じたまま、先輩がぼそりと言う。
「どうも」
「真面目やなぁ。授業は?」
「昼休みです」
「あ、そうか」
興味なさそうに返す。
「先輩こそ、授業は?」
「出てへん」
「いいんですか」
「よくないやろな」
「じゃあなんで」
「めんどい」
即答だった。
風が吹き、先輩の長い髪が少し揺れる。
「毎日ここにいるんですか」
「だいたい」
「もし先生が来たら?」
「逃げる」
「逃げる?」
想像してしまった。本気で階段をダッシュする先輩の姿。
似合わないのに、なぜか少し見てみたいと思った。
「……見たいですね」
「見せへんよ」
先輩は小さく笑った。
「でも、後輩くん……」
「奏多です」
「……奏多くん」
目を細める。
「サボり仲間増えるのは、ちょっと嬉しいわ」
「サボってないです」
「今おるやん」
「昼休みです」
「細か」
先輩はまた目を閉じ、面倒くさそうに手をひらひら振った。
「……ジュース」
「またですか」
「コーラ」
「断る権利あります?」
「ない」
「自販機、下やろ」
「知ってます」
「ほな、早よ」
「命令ですか」
「お願い。半々」
ため息をつく。
「先輩、自分で行った方が早いですよ」
「うち今動きたくないねん。エネルギー使い切った」
そんな燃費の悪いが人間いるか
「……わかりましたよ」
「お、優しい」
「2本頼むで」
全然嬉しそうじゃない声だった。
自販機でコーラを二本買って戻ると、先輩は同じ姿勢のままだった。
「……遅」
「並んでたんです」
「言い訳や」
コーラを渡すと、先輩は起き上がり、キャップを開けた。
炭酸の音が小さく響く。
「……うん」
満足げにうなずく。
「合格」
「何のですか」
「後輩のテスト。今作った」
「1本あげるで、ご褒美や」
「それ、僕が買ってきたやつですけど」
「バレた?」
先輩はコーラを飲みながら、空を見上げた。
「奏多くん。ここ、ええやろ」
風が吹き、フェンスが軽く鳴る。
校庭の声は遠い。
「……まあ」
「やろ」
先輩は小さく笑って、またコンクリートに寝転がった。
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